黄金きん)” の例文
まるでお伽噺とぎばなしにあるばかな漁師に黄金きんの魚が手にはいったように、わたくしと出会わしてくだすったことをほんとに感謝いたします。
宏大な美しい声と、幅の広い柔かな表現を持った人だ。ほかに望みのある人は『ファウスト』の「黄金きんこうしの歌」などが面白かろう。
それから第二のオービユルンが来て、又掘りに掘つた。とう/\ひつを見つけたので、蓋を擡げて中の黄金きんが光つてゐるのまで見た。
そこはうつくしい黄金きんいろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、まはりは立派なオリーヴいろのかやの木のもりでかこまれてありました。
どんぐりと山猫 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あゝ、鍵は海へ沈みたるなり、鳴りひゞく洞窟いはやにいたり、とざせし扉の上に、ひとたびは黄金きんの鍵を見出でぬ、かくて開き得もせず
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
天上の最もあきらかなる星は我手わがてに在りと言はまほしげに、紳士は彼等のいまかつて見ざりしおほきさの金剛石ダイアモンドを飾れる黄金きんの指環を穿めたるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まづ四隅よすみの柱と横の桟とは黄金きんで作り、彫刻ほりものをして、紅宝石、碧玉へきぎよく、紫水晶などをはめそれに細い銀の格子が出来てをりました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
黄金きん角笛つのぶえ」と云う宿屋の酒場。酒場のすみには王子がパンをじっている。王子のほかにも客が七八人、——これは皆村の農夫らしい。
三つの宝 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いえいえ、」ととりった。「ただじゃア、二は、うたいません。それとも、その黄金きんくさりくださるなら、もう一うたいましょう。」
しかも、涼霄りょうしょうの花も恥ずらん色なまめかしいよそおいだった。かみにおやかに、黄金きん兜巾簪ときんかんざしでくくり締め、びんには一つい翡翠ひすいせみを止めている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枕元には人間の大きさ位の青蛙の看護婦が二人、黄金きん色の眼を光らして、白い咽喉のどをヒクヒクさせながら腰をかけています。
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
彼は椅子の手擦てすりもたせた隻手かたての甲の上に、口元に黄金きんを光らしたほおななめに凭せるようにしていた。と、時計が九時を打った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お前がその意地なら腕にりをかけてやってみろ、幸い、あの遊行上人は、天竺てんじくから来たという黄金きん曼陀羅まんだら香盒こうごうというものを持っている
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お珊は帯留おびどめ黄金きん金具、緑の照々きらきらと輝く玉を、烏羽玉うばたまの夜の帯から星を手に取るよ、と自魚の指に外ずして、見得もなく、友染ゆうぜんやわらかな膝なりに
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それよりも其處に持つてゐらつしやる無地むぢのハンケチのまはりに黄金きんのレースで縁取ふちどりをなすつた方がいゝかも知れませんわ。
私は前述のように黄金きんウシベココの口碑というのが、いかなものかということについてはほぼ言い尽くしたように思います。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
『寡人の名はガスパアと云ふ。ユダヤのベツレヘムに生れようとしてゐる小児へ贈物の黄金きんを持つて行く所なのだ。』
バルタザアル (新字旧仮名) / アナトール・フランス(著)
偽だ偽だとあざ笑っていた掌中の石塊いしくれが、あに図らんや小粒ながらもほんとの黄金きんだと分ったような大いなる驚異を感じないわけにはゆかなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
薄暗い穹窿きゆうりゆうもとに蝋燭の火と薫香の煙と白と黄金きんの僧衣の光とが神秘な色を呈して入交いりまじり、静かな読経どくきやうの声が洞窟の奥にこだまする微風そよかぜの様に吹いて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
また近頃ちかごろ發掘はつくつされたツタンカーメンといふ王樣おうさまのおはかから黄金きんづくめのすてきな品物しなものやまのように陳列ちんれつせられて、ひとをびっくりさせてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「あゝ、此処に居つたな、悪魔めが、不浄な売婦ばいためが、黄金きんと血とを吸ふ奴めが。」彼は聖水を屍と柩の上に注ぎかけて、其上に水刷毛みずはけで十字を切つた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
彼は、黄金メダルを手にとってでてみた。なかなか美しい。そして重い。やっぱり黄金きんのように見える。黄金なら、これだけ売っても大した金になる。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
芳子は女学生としては身装みなりが派手過ぎた。黄金きんの指環をはめて、流行をった美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、路傍の人目をくに十分であった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
女博士をんなはかせは静かな眉尻に一寸皺を寄せた。そして天国の黄金きん梯子はしごでも下りるやうな足つきをしてかたことと廊下をあゆんで、騒ぎの聞える一室の前に立つた。
まず黄金きんでがすなあ! わしなんざあ、馬車大工のミヘーエフさえこの人に売っちまったでがすからなあ。
玄関の石畳には、水木の生活とは凡そ不釣合な地下足袋が投出されるように、脱がれて、黄金きん色のコハゼが、薄暗い玄関の中に、ずるそうに並んで光っていた。
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
と御機嫌を直しながら、旦那様は紫袱紗をほどいて桐の小箱の蓋を取りました。白絹にくるんだのを大事そうに取除とりのけて、畳の上に置いたは目も覚めるような黄金きんの御盃。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お霜はうやうやしく千曲の手を取って上座に据え、眼醒めざめるばかりに美しい金襴きんらん袱紗ふくさを押し開き、黄金きんこしらえた十字架を、彼女の前へ持ち出しながら、彼女にとっては寝耳に水の
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
スリーマン大佐の経験譚によればその辺で年々小児が狼に食わるる数多きは狼窟の辺で啖われた小児の体に親が付け置いた黄金きんの飾具をあつめて渡世とする人があるので知れる
外に、金襴きんらんの帯——師匠菊之丞へは、黄金きん彫りの金具、黄金ぎせるの、南蛮更紗なんばんさらさ莨入たばこいれ——ほかに、幕の内外、座中一たいに、一人残らず目録の祝儀という、豪勢な行き渡りだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
殊に黄金きんの鎖が目立った。しかも彼女はそれを往来で拾ったといっていたのだ。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
夫人の頬は、新鮮な果物のように、艶々つやつやしく、黄金きん色の生毛うぶげが、微かに光っているし、その腰は、典雅な線で、その豊満さを現しているし、それから、その下肢は、張切って、滑かだった。
ロボットとベッドの重量 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
羽二重はぶたへ小袖羽織こそでばおり茶宇ちやうはかま、それはまだおどろくにりないとして、細身ほそみ大小だいせうは、こしらへだけに四百兩ひやくりやうからもかけたのをしてゐた。こじりめたあつ黄金きん燦然さんぜんとして、ふゆかゞやいた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
つめどもつめどもけだものどもは黄金きんを足ることしらずけふも摘みをり
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
この時に出て来た明星は自分の文章に黄金きん色の句点を打つたと云ふ歌。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「あたし、」とファヴォリットは言った、「黄金きんのものがいいわ。」
そこには午前ひるまへの赤い日、黄金きんの高屋根越しに照らすけれど
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「老爺さんの黄金きんの像を建ててあげましょう。」
ああ 黄金きんのほそいいとにひかつて
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
黄金きんのかみの毛 まっなほぺた
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
一めん黄金きんいろに麥は熟れ
黄金きんのランプのやうに
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
黄金きんのお城の
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
そこはうつくしい黄金きんいろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、まわりは立派なオリーブいろのかやの木のもりでかこまれてありました。
どんぐりと山猫 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
金工かざりや仕事場しごとばすわって、黄金きんくさりつくっていましたが、家根やねうえうたっているとりこえくと、いいこえだとおもって、立上たちあがってました。
東の方の壁に並んでいる蜘蛛はみんな黄金きん色で、西の方のはすっかり白銀ぎん色なのです。そのピカピカ光って美しいこと。
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
かざせばその手に、山も峰も映りそう。遠い樹立は花かと散り、頬に影さす緑の葉は、一枚ごとに黄金きん覆輪ふくりんをかけたる色して、草の露と相照らす。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出立しゅったつの際、老先生に言われた言葉を思い出して、彼は、一日の日も、一刻の時間も、黄金きんつかうように惜しんで歩いた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
形は一握いちあくの中に隠るるばかりなれど、く遠くを望み得る力はほとほと神助と疑ふべく、筒は乳白色のぎよくもて造られ、わづか黄金きん細工の金具を施したるのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「知らなけりゃ教えてやろう、こりゃ黄金きんというものだよ。黄金というものは、この世でいちばん大したものなんだ、鮪や鯨より、もっと大きなものなんだ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)