たぼ)” の例文
ああ、うつくしい白い指、結立ゆいたての品のいい円髷まるまげの、なさけらしい柔順すなおたぼ耳朶みみたぶかけて、雪なすうなじが優しく清らかに俯向うつむいたのです。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折々ぐっと俯向うつむく時に、びっしょり水に濡れたような美しいたぼの毛と、その毛を押えている笠の緒の間から、耳朶の肉の裏側が見える。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鬢盥びんだらいに、濡れ手拭を持ち添えたいろは茶屋のお品は、思いきりの衣紋えもんにも、まださわりそうなたぼを気にして、お米の側へ腰をかける。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しいたけたぼの侍女数十人をあごで使い、剛腹老獪ごうふくろうかいな峰丹波をはじめ、多勢のあらくれた剣士を、びっしりおさえてきたお蓮様だったが。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つづいて刷毛はけを使ってみたりたぼをいじってみたり、どこまで行ってこの奥方ごっこに飽きるのだか、ほとほと留度とめどがわからないのであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大奥のこってり化粧づくりにも、何かたらし込みをしている容子ようす——あれほどの男を、しいたけたぼなんぞだけに、せしめさせて置くってわけはねえよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あるひは両肱りょうひじを膝の上につき書物の上にその顔を近寄せ物読みふけりたる、あるひは片手に小さき鏡をかかげの手を後に廻してたぼの毛をき上げたる
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
風呂場の隣の小さい座敷をちょいとのぞくと、嫂は今まげができたところで、合せ鏡をしてびんだのたぼだのをでていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人の頭髪は白金はくきんの様に白い。両鬢びんたぼを大きく縮らせたまま別別べつべつに放して置いて、真中まんなかの毛を高く巻いてある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その立居、物腰ばかりではなく、以前はひっつめて後ろに小さく束ねていた髪もこの節では母のように前髪をとりたぼを出してお品よく結っているのだった。
(新字新仮名) / 矢田津世子(著)
すっかりたぼや何かを櫛で掻上げて置いて、領白粉えりおしろいを少し濃めに附け、顔白粉を附けてから、濡れた手拭で拭い取ってしまいます。誠に無駄な事を致します。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おしょさんがたぼをかきつけているうまさ——合せ鏡で、毛筋棒けすじのさきで丸髷の根元をなでている時かつらのように格好のいい頭を、あんぽんたんはじっと見つめていた。
「小さい方の曲者は、女だったかも知れません。縛られる時、ひどく手が柔らかだと思いました。——それに頬被りの下から、大きいたぼがはみ出して居たようで」
かれは湯帷子ゆかたにさえ領垢えりあかの附くのをいとって、鬢やたぼの障る襟の所へ、手拭てぬぐいを折り掛けて置く位である。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
寒そうにたぼがそそけ立っていた。巨大な建物の前を過ぎた。明治銀行に相違なかった。地下室へ下りて行く夫婦連があった。食堂で珈琲コーヒーを啜るのだろう。また巨大な建物があった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
呼吸をしているのか、どうかすら判然わからない位凝然じっと静まり返っていた。初枝も天鵞絨びろうどの夜具のえりをソット引上げて、水々しい高島田のたぼを気にしいしい白い額と、青い眉を蔽うた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
兩鬢りやうびんたぼを大きく縮らせたまま別別に放して置いて、眞中の毛を高く卷いてある。
巴里の旅窓より (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
指を旧式な「まげなし」という洋髪のびんたぼの間へ突込んで、ごしごしきながら、しとやかな夫人を取り戻す心の沈静に努める様子だったが、額の小鬢にはかんの筋がぴくりぴくり動いた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おつぎはみゝひゞ太鼓たいこおときながら、まだほつれぬかみすこくびかたむけつゝ兩方りやうはう拇指おやゆびまたかはがはりにたぼかるうしろいた。おつぎはあせぬぐつてさつぱりとした身體からだ浴衣ゆかたた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひっつめびんの昔も子供臭く、たぼは出し、前髪は幅広にとり、鏡も暇々に眺め、剃刀かみそりも内証でて、長湯をしても叱られず、思うさまみがき、爪のあかも奇麗に取って、すこしは見よげに成ました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
冬など蒼白いほど白い顔の色が一層さびしく沈んで、いつも銀杏いちょうがえしに結った房々とした鬢の毛が細おもての両頬りょうほおをおおうて、長く取ったたぼつるのような頸筋くびすじから半襟はんえりおおいかぶさっていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そのたぼえりのあいだには白い頸筋くびすじびんのしたにはふっくらした頬がみえて、帯の模様は青柳につばめである。またスペードの2の裏にその夜の踊り子のなかのたてものの写真のついたトランプもある。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
駕屋は、御殿風のしいたけたぼの深雪と、小藤次とを見較べて
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
たぼ
野口雨情民謡叢書 第一篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
面と姿が人形のようにくて、それで色気がたんまりあろうてえたぼが一枚入り用なのだ。ちょうどおめえのような——
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
姿すがたをつきました。あゝ、うつくしいしろゆび結立ゆひたてのひんのいゝ圓髷まるまげの、なさけらしい柔順すなほたぼ耳朶みゝたぶかけて、ゆきなすうなじやさしくきよらかに俯向うつむいたのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二人はいよいよ身を斜にして道を譲りながら、ふと見れば、乱れた島田のたぼあやくせのついたのもかまわず、歩くのさえ退儀たいぎらしい女の様子。矢田は勿論もちろんの事。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お粂は掻卷かいまきを抱くやうに、枕に顏を埋めるのでした。首筋が伸びて、びんからたぼへの、線の美しさ。え際が青くて、桃色の耳朶みゝたぼ、これはまことに非凡の可愛らしさです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
がんりきは片手を後ろへ廻して、侍のたぼを掴んで力任せに小手投げを打とうとしました。侍はその手を抑えて、がんりきが差置いた青地錦の袋入りの刀を取ろうとしました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しっとりと油にしめって居るたぼの下から耳を掠めておとがいのあたりをぐる/\と二た廻り程巻きつけた上、力の限り引き絞ったから縮緬はぐい/\と下脹しもぶくれのした頬の肉へ喰い入り
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と呑みこんで、唐人髷とうじんまげに色ざんざらをたッぷりと掛け、たぼをねり油で仕上げました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白手柄しろてがらの大きな丸髷まるまげと、長いたぼと、雪のように青白い襟筋をガックリとうなだれて、見るも哀れな位しおれ込んでいるのを見下した支配人はイヨイヨ勢付いて、ここまでノシかかるように云って来ると
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
濃いおしろい、前髪のしまった、たぼの長く出た片はずし……玉虫いろのおちょぼ口で、めいめい手に手に、満々と水のはいった硝子の鉢を捧げている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しからぬ円髷まじり、次第にたぼの出た、襟脚のいのが揃って、派手に美しくにぎわうのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あっしの真物ほんものの髷はたぼの中へ突っ込んで、叔母さんからかつらの古いのを貰って、付け髷を拵えて頭の上へ載っけて行きましたよ、——さすがに曲者も偽物にせものの髷とは気が付かなかった」
思いきってたっぷりした島田くずしのたぼで埋めて、蒲団をかき上げるようにして、ちょうど兵馬の坐っている方とは後向きに寝相を換えたのですが、その時、肩から背筋までが
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
支那しな金魚の感じがする円顔の出眼の婦人で、髪の毛を割らずに、額の生えぎわから頭の頂辺てっぺんへはりねずみの臀部でんぶごとく次第に高く膨らがして、たぼの所へ非常に大きな白鼈甲しろべっこうかんざしを挿して
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長襦袢の袖口そでぐちはこの時下へと滑ってその二の腕の奥にもし入黒子いれぼくろあらば見えもやすると思われるまで、両肱りょうひじひしの字なりに張出してうしろたぼを直し、さてまた最後にはさなが糸瓜へちま取手とってでもつまむがように
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しいたけたぼにお掻取かいとり、玉虫色の口紅くちべにで、すっかり対馬守おそばつきの奥女中の服装なりをしているが、言語ことばつきや態度は、持ってうまれた尺取り横町のお藤姐御あねごだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と顔をそらしながら、若い女房の、犠牲いけにえらしいあわれなこびで、わざと濡色のたぼを見せる。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あつしの眞物ほんものの髷はたぼの中へ突つ込んで、叔母さんからかつらの古いのを貰つて、附け髷を拵へて頭の上へ載つけて行きましたよ、——さすがに曲者も僞物にせものの髷とは氣が付かなかつた」
恐怖というのは途端場どたんばでの命のやり取りをさすものだが、伊兵衛を誰が襲ったとも考えられない。嫉妬と言ったところで、これにはたぼがなければ話にもならない。
雪のようでしょう、ちょっと片膝立てた処なんざ、千年ものだわね、……染ちゃん大分御念入だねなんて、いつもはもっと塗れ、もっとたぼを出せと云う女房おかみさんが云うんだもの。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立て膝してたぼをなでつける婀娜女あだもの、隅っこの羽目板へへばりついている娘、小おけを占領して七つ道具を並べ立てた大年増、ちょっとのすきにはいだして洗い粉をなめている赤ん坊
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つかたぼがざわ/\と動いたと見ると、障子の外。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「引っこ抜きと井戸の鬼火か、へん、衣裳を付けりゃあ、われだってたぼだあな。それより、御両所、切れ物にお気をつけ召されい——とね、はっはっは、俺の玄内はどんなもんでえ。」
なんともはや、その言葉一つが頼みなんで——ま、ま、一ぱい! 酒はかん、さかなはきどり、酌はたぼなアンてことを申しながら、野郎のおしゃくで恐れ入りますが、どうぞお熱いところを
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「えっ、何だって?——おう、宗七、なんでえ、このたぼあ。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たぼと肩が、こまかくふるえている。泣いているらしい。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「自害か、面白くもねえ。して——たぼか、野郎か?」