)” の例文
四五日しごんちすると夫人が来る。そこで今度は二人してまた東西南北をけ廻った揚句のはてやはりチェイン・ローがいという事になった。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然し人一倍義侠心の強い彼は、し京太郎にとって悪い奴なら、自分がなんとかあしらってやろうと考え、そのまま浜の方へけだした。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は怒りにふるえながら、二階からけ降りると広場を横切って走って行きました。この事件をきれいに解決してやろうと決心して。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
それもその筈、すでに魏兵のうしろには、いたるところ、蜀軍がけ迫って、烈しくその隊尾から撃滅の猛威を加えていたのである。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は、部屋をけ出そうとしたとき、咄嗟とっさに兄のことを考えた。兄は、白痴の身を、監禁同様に葉山の別荘に閉じ込められている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
笏はすぐけつけたが、いたずらに澄みかがやいた水田には、その波紋の拡がってゆくばかりを見るだけで、童子の姿はなかった。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
女たちのけまわる範囲が、野か、山の中に限られて、里つづきの野道・田のあぜなどを廻らぬところから、伝えなかったまでであろう。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ふうとけて行って十ぺんばかりまわったと思うと、もうずっと上の方へのぼって行って、みんなゆっくり歩きながら笑っているんだ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
だから時としてはなお幾声か吶喊とっかんの声を上げて、あの寂寞の中にけ廻る猛士を慰め、彼等をして思いのままに前進せしめたい。
「吶喊」原序 (新字新仮名) / 魯迅(著)
け降りるあとからわたくしも続いて下り、暫く便所の中に姿をかくし客の上ってしまうのを待って、音のしないように外へ出た。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
愛情はまだ参木の後姿にからまったまま、沈み出した。すると、お杉は通りかかった黄包車ワンポウツを呼びとめて、参木の面前をけ抜いた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それで彼らのヴィジョンが破れ、悠々ゆうゆうたる無限の時間が、非東洋的な現実意識で、俗悪にも不調和に破れてしまった。支那人はけ廻った。
そうして困ったまま立ちすくんでいるとおりよくZ君たちが俥でけつけて来た。一同ほっとして、何食わぬ顔をして玄関をはいって行く。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
終業のボーが鳴ると、皆は仕事場から一散に洗面所へけ出した。狭いコンクリートの壁が、女湯のような喧ましさをグヮン/\響きかえした。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
顔のどの部分と言わずかゆい吹出ものがして、み、れあがり、そこから血が流れて来た。おさえがたく若々しい青春のうしおは身体中をけめぐった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つまり何者かが、コッソリ呉青秀の跡をけて来て、画房を発見した結果、こんなに人数をり催して、火攻めにして追い出しにかかった訳だね。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今はもう気も顛倒してしまった彼は、我が子の名を呼びつづけながら、闇の中をかき分けるようにしてけて行った。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
五組も十組もの陣取りが、それぞれ好みの柱の群を占領して、縦横にけ廻るので、呼び声叫び声が、薄暗いこの体操場に一杯に満ちあふれていた。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
けれどもやがて女は、ものも云わずに、扉口とぐちのほうへけだして行った。人々もその後から雪崩なだれを打って押しかけた。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「おれは——お前を信用していない。お前は司令部へけて行って、そして俺のことを言わないとも限らんから、な」
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
残りの三人宙を飛んでけつけた。岩にせばまれたる一条の水路、懸崖百尺の九天よりすさまじき音響を立て、落下する。いわに飛び散る霧は雨のよう。
そして見た状勢を、あしで、うしろへ引っかえして報告した。報告がすむと、また前に出て行くことを命じられた。雪は深く、そしてまぶしかった。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
配達夫は、御用聞の小僧のやうなせた口調で、勢よく云つた後、逃げ出すやうに垣つゞきの路をけて行つた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
そうおしえたものでしたら、みんなは大喜おおよろこびで、おとうさんやおかあさんのところへ、雀躍こおどりしながらけてきました。
人の子を死へりたてることはおそるべき罪悪であるが、これも戦争である以上は、死ぬるは同じ、やむを得ぬ。
特攻隊に捧ぐ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そう云い捨つると、彼の挨拶を聞き流して私はとっとと掌を立てた様な急坂を湯元温泉の方へけ降り始めた。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
お涌が、自宅の煉瓦塀れんがべいのところまで来ると、あとから息せき切つてけて来た日比野の家の女中が声をかけて
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
熊笹の中をけ下ると、つがもみなどの林に這入はいる。いかにおおきな樹でも一抱ひとかかえぐらいに過ぎないが、幹という幹には苔が蒸して、枝には兎糸としが垂れ下っている。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
昨夜の妖怪変化えうくわいへんげ雲散霧消うんさんむせうしてしまつたのだ。大判のタオルにくるまり、急いで二階へけ上る元気が出た。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
ところが、家に帰つて来ると、実にキビキビとして、一階から三階の間をけ廻り、部屋々々の様子をうかがつて、逢ふ人ごとに如才なく弁舌を振ふのである。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
韋駄天いだてんを叱する勢いよくまつはなけ付くれば旅立つ人見送る人人足にんそく船頭ののゝしる声々。車の音。端艇きしをはなるれば水棹みさおのしずく屋根板にはら/\と音する。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
所へひとり、多くの人を押しわけて、けつけて参つたは、あの「いるまん」の「しめおん」でござる。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
退院者の後を追って、彼女達は陽に輝いた坂道を白いマントのようにけて来た。彼女達は薔薇の花壇の中を旋回すると、門の広場で一輪の花のような輪を造った。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
不敵の男なればただちつつを差し向けて打ち放せしにたまに応じて倒れたり。そこにけつけて見れば、身のたけ高き女にて、解きたる黒髪はまたそのたけよりも長かりき。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
暫くはその怪光が海上に探照灯のような尾を引いて東にけりゆくのがうつったのであった……。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八人一時に四階にけ上った。しかし、ルパンの部屋は開け放されて、同じく人影もなかった。
學校がくかうきにもきにもひに世話せわをやかしたることなく、あさめしべるとして三退校ひけ道草みちくさのいたづらしたことなく、自慢じまんではけれど先生せんせいさまにももの
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けてゆく労働者の背広の後姿、イーストエンドの公園じゅうに漂っていた不潔でしめっぽい変な臭いなどが、伸子の方から、その眼つきそのもので、その体つきそのもので
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さあ、わたしは、たいていこのあたりのうみうえは、一通ひととおりくまなくけてみたのですが、あざらしの子供こどもませんでした。こおりかげにでもかくれていているのかもしれませんが……。
月とあざらし (新字新仮名) / 小川未明(著)
木村へけつけた時分には、よくそんな病人にある奇蹟が起つてゐて、駄目だと医者に宣告された姉が危篤の状態からのがれてゐる、と云ふ風なことになつてくれさうなものだと
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
うららかな春の昼は、勢いよく坂をけ下って行くくるまの輪があげる軽塵けいじんにも知られた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ひやりと頸筋くびすじに触れたものがある、また来たかとゾーッとしながら、夢中に手で払ってみると、はたせるかな、その蝶だ、もう私もねたので、三ちょうばかり、むこずにけ出して
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
山の手一円の火の海で避難者の気違い染みた奔流が、あらゆる道という道を封じているので、これを押し切って、半蔵門外の上屋敷にけ付けることなどは思いも寄らなかったのです。
遂にたまりかねて軽い会釈をすると、あたふたと奥へけて行った。そして、主人を伴ってかえって来た。主人も、二つの入れ物をかわるがわるあらためたが、ひどく困惑した様子だった。
そうおもながら、不図ふとむかうの野原のはらながめますと、一とう白馬はくばむれれをはなれて、ぶがごとくに私達わたくしたちほうってまいりました。それはいうまでもなく、わたくしなつかかしい、愛馬あいばでございました。
若者蛇王の前の乳皿に麪麭パンを浸し、速やかに口に含んでけ出した。
それは精神的の悦びのように彼自身の躯のなかをめぐった。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
半日山のなかをけあるいて、ようやく下りて見たら元の所だなんて、全体何てえ間抜まぬけだろう。これからもう君の天祐てんゆうは信用しないよ
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その処を赤い瓢箪ひょうたんの上に小熊を附けた馬印を押し立て、兵五百に先頭して、け抜ける若武者がある。重昌の子主水佐重矩もんどのすけしげのりである。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ヒラリとたまりへかえった加藤孫一、使番目印つかいばんめじるし黄幌きほろに赤の差旗さしものにつッたて、馬をあおって、右陣うじん福島市松ふくしまいちまつのところへけとばした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)