たたか)” の例文
幾年も幾年も貧窮とたたかって、彼女は生れ故郷を去って都へと行った。そこでは生存競争が激しいと云う事も、彼女はよく知っていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ワグナーの戦いは、その芸術に対する世の無理解への戦いであり、伝統主義者達へのたたかいであり、同時に営業劇場への闘いであった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「じつは、わたしのところにつよ闘鶏とうけいが一いる。かつてけたことがないのだから、ひとつおまえさんのこのとりたたかわしてみましょう。」
金持ちと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
上らぬとなるとます/\意地になって、片手は錨、片手は井筒いづつの縁をつかみ、井の上にしかゝって不可見水底の柄杓とたたかって居ると
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それでも、彼はなおたたかいつづけた。彼がもどって来た晩、二人は口実を設けて顔を合わせもせず、食事もいっしょにしなかった。
だれ戦争せんそうまうけ、だれなんうらみもない俺達おれたちころひをさせるか、だれして俺達おれたちのためにたたかひ、なに俺達おれたち解放かいほうするかを
鷲王しゅうおう龍王りゅうおうとのあいたたかうが如き凄惨狠毒せいさんこんどくの光景を生ぜんことを想察してあらかじめ之を防遏ぼうあつせんとせるか、今皆確知するあたわざるなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
民族は抑圧に対抗するとき最も強靭きょうじんであり、民族的英雄や民族の伝説は、多くは民族の繁栄よりも、相共にめた苦しみとたたかいの記念である。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
なお彼は驚くべき話をつづけて、今までの冒険のうちで一番変っていたのは、六本足の男ヂェリオンとたたかった時のことだと娘達に話しました。
昔は芥川あくたがわ君と芭蕉論をたたかわし、一も二もなくやッつけてしまったのだが、今では僕も芭蕉ファンの一人であり、或る点で蕪村よりも好きである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
たたかハスニ/柳橋妓ニ命ズルハ少年ノ興/駒野禅ニ参ズルハ前世ノ因/廿歳旧游游ビテ未ダヘズ/又台麓酔吟ノ人ト為ル〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
尋常よのつねの犬なりせば、その場に腰をもぬかすべきに。月丸は原来心たけき犬なれば、そのまま虎にくってかかり、おめき叫んで暫時しばしがほどは、力の限りたたかひしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
これは彼の苦心の中でも比較的楽なほうだったかも知れない。が、彼の日記によれば、やはりいつも多少の危険とたたかわなければならなかったようである。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、身の落目をとりかえすため奮然としてたたかうてだてが今あるのだろうか。彼は妻の言葉を聞きながら、薄暗くなってゆく窓の外をぼんやりながめていた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
慎重に意見をたたかわせたすえ、これから一年間、研究室のレトルトや電離函から離れ、四人の努力で一つでも多くの廃棄金山を復活させようと申しあわせた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
沼南は廃娼はいしょうを最後の使命としてたたかった。が、若い時には相応に折花攀柳せっかはんりゅうの風流に遊んだものだ。その時代の沼南の消息は易簀えきさく当時多くの新聞に伝えられた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかし、沙弥とは言え、寺門に属する自分を誘惑した罪科として、あのかよわい姫まで罰せられるとも知れない。これは一つたたかおう。その勇気でありました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
前よりも真面目まじめな態度で、文学論をたたかわしに来たが、葉子はそれを一手に引き受けて、にやにや笑っている庸三をそっち退けに、綺麗きれいな手にまで表情をして
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
互いにたたかいなお抵抗しながら、その血潮をすべて失いつつある。両者のいずれが第一に倒れるであろうか。
たたかい去り闘い来り、思いのこすところはない。面々も、よい敵を選んで、華やかに名を遂げ給え。まず、勝助より御名代の討死を遂げん。いやしくも、御馬印を
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その光の輪の中で、どちらが上とも下ともわからない二人が、今はもう衰えきったからだの、声も立てないで、たたかっている。その互いになぐり合う鈍い音と唸り声
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
それに現在の李陵は、他人の不幸を実感するには、あまりに自分一個の苦しみとたたかうのに懸命であった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
附言 角力戯すもうぎは邦人の多く好むところなれども、野蛮の醜風をまぬかれざるものとす。それ人たるものは、智をこそたたかわしむべけれ。力を闘わしむるは獣類の所業なり。
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
これによって慰安を得、心のかてを得、もっ貧賤ひんせんたたかい、病苦と闘う勇気を養う事が出来るのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
幼時犬をたたかわしむることを好んで、学業を事としなかったが、人が父兄にかずというを以て責めると、「今に見ろ、立派な医者になって見せるから」といっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その機械は、やがて送信所にえつけられ、全世界へ向って電波を出し始めるであろう。大東亜戦争だいとうあせんそうたたかっている雄々おおしい日本の叫びが、世界中にらされるのだ。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
私情から申してもうらみがござる。公情から申せば主義の敵でござる。貴殿にたたかいを宣するしだい、ご用心あってしかるべくそうろう。——もも久馬きゅうまそく兵馬ひょうまより山県紋也やまがたもんや殿へ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
苛酷かこくな現実の前にたたかいの意力をさえ失い、へなへなと崩折れてしまい——自分が今までその上に立っていた知識なり信念なりが、少しも自分の血肉と溶け合っていない
(新字新仮名) / 島木健作(著)
まことに集中の手紙にある久保謙君の処女習作「朝」の中の「乳母車にのせられた嬰児」が今はこごしく障害と汚染にみちた社会的現実に立向かい、たたかいつつあるのである。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
で、ぼくは、あなたとレエスのことばかり、空想していました。ボオトは、勝負はとにかく、全力を出し切らねばならない。全力を出し、クルウが遺憾いかんなく、たたかえたとします。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わがきみをはじめ、一どうはしきりに舟子達かこたちはげまして、くる風浪ふうろうたたかいましたが、やがてりょうにんなみまれ、残余のこりちからつきて船底ふなぞこたおれ、ふねはいつくつがえるかわからなくなりました。
良心と悪意とは白糸のたのむべからざるを知りて、ついにたがいにたたかいたりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いかな猛獣とでもたたかうというような風采と体格とを持っているのに……。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
発矢はっしの二三十もならべてたたかいたれどその間に足は記憶おぼえある二階へあがり花明らかに鳥何とやら書いた額の下へついに落ち着くこととなれば六十四条の解釈もほぼ定まり同伴つれの男が隣座敷へ出ている小春を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
今しがた牛たたかひてその一つつの折れたるがみちのうへに立つ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
その時彼は先夜西山とたたかわした議論のことを思った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
われらのつ読み、且つ議論をたたかはすこと
呼子と口笛 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
二度必死の病に倒れ、新聞記者と三文文士と、音楽批評家と貴婦人とを相手に二十余年間の戦いをたたかい続けなければならなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
巨人や怪物とたたかうことが彼の一生の仕事だけに、心は彼等のことで一杯だから、おそらく大きな木までが巨人や怪物のように見えたのでしょう。
きずつつみ歯をくいしばってたたかうが如き経験は、いまかつて積まざりしなれば、燕王の笑って評せしもの、実にその真を得たりしなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
流れのままに押し流され、たたかうにはあまりに弱く、そして空しく失った生涯を嘆いている、その不幸な魂の声を、彼は耳に聞くような気がした。
二人はこう云う力競ちからくらべを何回となくたたかわせた。その内に追い追い二人とも、疲労の気色けしきを現して来た。彼等の顔や手足には、玉のような汗がしたたっていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれどそれを、心のなかでたたかったとき、そして必死に実行へかかったとき。かれの影は、高い築土の上にあったが、かれの中の妄想は、かえって燃焼されていた。
六年間肺病とたたかっていた父の生涯、初めて秋田の女学校へ入るために、町から乗って行った古風な馬車の喇叭ラッパの音、同性愛で教育界に一騒動おこったそのころの学窓気分
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大は世界の形勢より小は折花攀柳はんりゅうの韻事まで高談放論珍説贅議ぜいぎたたかわすに日も足らずであった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
去るほどに三匹の獣は、互ひに尽す秘術剽挑はやわざ、右にき左に躍り、縦横無礙むげれまはりて、半時はんときばかりもたたかひしが。金眸は先刻さきより飲みし酒に、四足の働き心にまかせず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
形式主義への・この本能的忌避きひたたかってこの男に礼楽を教えるのは、孔子にとってもなかなかの難事であった。が、それ以上に、これを習うことが子路にとっての難事業であった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私は守旧派と自ら呼び、伝統派と自ら名づけて、四十年間たたかって今日に来て居るのである。伝統派と言ったところで、陳腐を礼讃するものではない、常に新を志しているものである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
くるともだちは闘鶏とうけいをつれてきました。そして、金持かねもちのとりたたかわしました。
金持ちと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大抵たいていのひとが暑さにかまけて、昼寝ひるねでもしているか、すずしい船室を選んで麻雀マアジャンでもたたかわしているのに、ぼくは炎熱えんねつけるような甲板の上ででも、あなたや内田さんと、デッキ・ゴルフや
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)