蹌踉よろ)” の例文
おいら可厭いやだぜ。」と押殺した低声こごえ独言ひとりごとを云ったと思うと、ばさりと幕摺まくずれに、ふらついて、隅から蹌踉よろけ込んで見えなくなった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勘次は怒りのためにふるえ出した。と、彼は黙って秋三の顔を横から殴打った。秋三は蹌踉よろめいた。が、背面の藁戸を掴んで踏み停ると
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
片手を幽霊のようにブラ下げたままフラフラとパーポン氏の前に蹌踉よろめき寄って来て、心持ちだけお辞儀をするようにグラグラと頭を下げた。
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やがて蹌踉よろめく足に階段を踏み締めたのであったが、ただ耳鳴りがして頭がかっかとして何を思考する力とてもなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして蹌踉よろけ出した。年老いたる二三の漁夫は心配さうに小走りに走つて往つて、この暴れる神體を宥めようとした。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
余は飛んで行って横手から長三を突き飛ばした、自分ながら我が力に驚いた、長三は倒れんとするほどに蹌踉よろめいた。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ボートルレは思いがけない発見に蹌踉よろめきながら外へ出た。彼が伯爵邸へ帰ってくると、彼へ手紙が来ていた。見ると次のようなことが書いてあった。
ちながらはかますそんで蹌踉よろけてはおどろいた容子ようすをして周圍あたりるのもあつた。ういふ作法さはふをも見物けんぶつすべては熱心ねつしんらしい態度たいど拜殿はいでんせまつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
全身の弾力を一時に失って椅子の中へ蹌踉よろめき倒れ、しばらくあらぬ方をキョトンとみはっていた。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
廊下で何だか蹌踉よろけるような跫音あしおとがして、間もなく『戸を開けて、戸を開けて』という声がするものですから、きっと貴郎あなたが御気分でもおわるいかと思って、戸を開けますと
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼は雪のなかを蹌踉よろめきながら進み行く人のように、その荷車の後ろへいて行った。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
彼はいきなり男の腰を力かせに突いた。男の身体はゆらゆらと蹌踉よろめいたと思ったら、そのまま欄干を越えて、どさりと一階の客席の真中に墜落してしまった。わーっ! という叫び声。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
藤沢はうなって、蹌踉よろめいて、ばたりと倒れた。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
蹌踉よろめくままに静もりを保ち
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
しかし、彼の身体は左右に二足三足蹌踉よろめくと、滴る血の重みに倒れるかのようにばったりと地に倒れた。彼は再び起き上った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
(畜生さあ、鳴かねえ鶯なら絞殺して附焼だ。)と愛吉はちらつくまなこ、二三度なぐりはずして、ひとり蹌踉よろけざまにまた揮上ふりあげた。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
病み疲れてヘトヘトになりかけている彼にとっては、その把手にすがって押して歩く方が、手ぶらで蹌踉よろめき歩くよりもはるかに楽な気持ちがした。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二足三足蹌踉よろけた途端、女なぞの見るものではないと思ったのであろう、誰か嬢の前に立ちふさがったものがある。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
吾亮は蹌踉よろめいてばたりと倒れた。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
怪飛けしとんだようになって、蹌踉よろけて土砂降どしゃぶりの中を飛出とびだすと、くるりと合羽かっぱに包まれて、見えるは脚ばかりじゃありませんか。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
屈曲し、弾みがあり、転転としていく自分らのバスは、相当に危険な崖の上を風に吹かれて蹌踉よろめいているらしい。
蹌踉よろめきながら起ち上って、そして眼をつぶって差し出した私の手を探偵もしっかりと握ってくれた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
と取って引いた外套がいとうの脇を離すと、トンと突いて、ひらりと退くや、不意に蹌踉よろめく葛木を、すっと立って、莞爾にっこり見て
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若者の呼び声は、長羅の部屋の前を通り越して、八尋殿やつひろでんへ突きあたり、そうして、再び彼の方へ戻って来た。長羅は蹌踉よろめきながら杉戸の方へ近寄った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
と言うより早くこぶしをあげて、その胸のあたりをハタとちぬ。背後うしろ蹌踉よろけて渋面せしが、たちまち笑顔になりて
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
農夫にしては稀に鋭い頭脳で、着眼の非凡さは、およそ他の者など絶えず蹌踉よろめかせられて来つづけたことも、想像してあまりある。しかし、そんなことも知れたものだ。
わめくが、しかし、一騎いつき朝蒐あさがけで、てきのゝしいさましい様子やうすはなく、横歩行よこあるきに、ふら/\して、まへたり、退すさつたり、蹌踉よろめき、独言ひとりごとするのである。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大夫は妻の髪を掴んで引き伏せようとしたときに、再び新しい一人の足音が、蹌踉よろめきながら三人の方へ馳けて来た。それは酒盞うくはを片手に持った長羅の父の君長であった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
其時そのときくるま真中まんなかに、案山子かゝしれつはしにかゝつた。……おと横切よこぎつて、たけあしを、蹌踉よろめくくせに、小賢こざかしくも案山子かゝし同勢どうぜい橋板はしいたを、どゞろ/\とゞろとらす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
膝にからんだもすそが落ちて、蹌踉よろめく袖が、はらりと、茶棚のわきふすまに当った。肩を引いて、胸をらして、おっくらしく、身体からだで開けるようにして、次室つぎへ入る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伸過ぎた身の発奮はずみに、蹌踉よろけて、片膝をいたなり、口を開けて、垂々たらたらそそぐと——水薬の色が光って、守宮の頭をもたげてにらむがごとき目をかけて、滴るや否や
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不意なれば蹌踉よろめきながら、おされて、人の軒に仰ぎ依りつつ、何事ぞと存じ候に、黒き、長き物ずるずると来て、町の中央なかを一文字に貫きながら矢の如くけ抜け候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
握拳にぎりこぶしで、おのひざはたつたが、ちからあまつて背後うしろ蹌踉よろける、と石垣いしがき天守てんしゆかすみれる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
脱いで提げたる道中笠、一寸ちょっと左手に持換えて、紺の風呂敷、桐油包とうゆづつみ、振分けの荷を両方、蝙蝠こうもりの憑物めかいて、振落しそうに掛けた肩を、自棄やけに前に突いて最一もひと蹌踉よろける。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝶吉はつまずくように駒下駄を脱いで、俯向うつむけに蹌踉よろけ込んで、障子に打撞ぶつかろうとして、肩をかわし、退すさって、電燈を仰いで、ふみしめて立った。ほッという酒の息、威勢よく笑って
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
医師せんせいは、蹌踉よろけたように、雨戸をうしろに、此方こなたを向き替え、斜めに隣室となりの蚊帳をのぞいた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
泥々に酔って二階へ押上って、つい蹌踉よろけなりに梯子段はしごだんの欄干へつかまると、ぐらぐらします。屋台根こそぎ波を打って、下土間へ真逆まっさかに落ちようとしました……と云ったうちで。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くびすめぐらすのを見も返らず、女は身をななめにまた蹌踉よろけて、柳の下を抜けようとした。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不可いけませんよ。」と半纏の襟をしごきながら、お蔦がふすまから、すっと出て、英吉の肩へ手を載せると、蹌踉よろけるように振向く処を、入違いに床の間を背負しょって、花をかばって膝をついて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早や柵の上を蹌踉よろめき越えて、虚空をつかんで探したのが、立直って、と寄った。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どれも抱着だきつきもせず、足へもすがらぬ。絶叫して目を覚ます……まだそれにも及ぶまい、と見い見い後退あとじさりになって、ドンと突当ったまま、蹌踉よろけなりに投出されたように浅茅生あさぢうへ出た。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時に大浪が、ひとあて推寄おしよせたのに足を打たれて、気もうわずって蹌踉よろけかかった。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とき大浪おほなみが、ひとあて推寄おしよせたのにあしたれて、うはずつて蹌踉よろけかゝつた。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蹌踉よろけるやら、目も口も開かねえんで、何でえ! 田舎ものが神田の祭にはぐれやしめえし、人ごみにまごまごする事あねえ、火事に逃げるたあ何の事だと、おされて剣突を食う癇癪かんしゃくまぎれに
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今時いまどきバアで醉拂よつぱらつて、タクシイに蹌踉よろんで、いや、どツこいとこしれると、がた、がたんとれるから、あしひきがへるごと踏張ふんばつて——上等じやうとうのはらない——屋根やねひくいからかゞごしまなこゑて
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、幹事が今は蹌踉よろけながら手探りで立とうとする。子爵が留めて
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不可いけません、不可いけない、不可いよ、」と蹌踉よろける足を引摺ひきずって
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)