トップ
>
訝
>
いぶか
ふりがな文庫
“
訝
(
いぶか
)” の例文
訝
(
いぶか
)
しそうな眼を向けたが、孝之助は
頷
(
うなず
)
いた。北畠の叔母に関する限り、できるだけ話を簡単にするのが、長いあいだの習慣であった。
竹柏記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
たしかに兄は起きているのにと
訝
(
いぶか
)
りながら、勝代は
手索
(
てさぐ
)
りでマッチを捜して、ランプを
点
(
つ
)
けてみると、兄は例の処に寝ていなかった。
入江のほとり
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
魔術は現実に行われており、彼自らがその魔術の助手でありながら、その行われる魔術の結果に常に
訝
(
いぶか
)
りそして嘆賞するのでした。
桜の森の満開の下
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
後
(
おく
)
れ馳せの老女
訝
(
いぶか
)
しげに己れが
容子
(
ようす
)
を打ち
睜
(
みまも
)
り居るに心付き、急ぎ立去らんとせしが、何思ひけん、つと
振向
(
ふりむき
)
て、件の老女を呼止めぬ。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
どうして此の女はいつもこんな目つきでしか俺を見られないんだろうと
訝
(
いぶか
)
りながら、雨のふきつけている窓の方へ近づいて行った。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
▼ もっと見る
相手は誰であるかわからぬ、御辞儀をするから此方でも御辞儀をしたものの、
訝
(
いぶか
)
しいような気がして振返ったものとも解せられる。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
汁粉屋の看板を掛けた店へ来て支那
蕎麦
(
そば
)
があるかときき、蕎麦屋に入って
天麩羅
(
てんぷら
)
を
誂
(
あつら
)
え断られて
訝
(
いぶか
)
し気な顔をするものも少くない。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
と、私は彼の視線が前の
卓子
(
テエブル
)
に重ねた私の手を射たのに氣が附いた。一體何を見られたのか知らと
訝
(
いぶか
)
る間もなく、彼の言葉が説明した。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
はじめての人だが誰だろうと
訝
(
いぶか
)
る妹のよしには、専売局の友達が惣吉の行先を訊いてきたのだと、それでも
咄嗟
(
とっさ
)
に誤魔化すことが出来た。
和紙
(新字新仮名)
/
東野辺薫
(著)
今もそれをまことに
訝
(
いぶか
)
しく思っている。どうしたわけで、あの
年端
(
としは
)
もゆかぬはらからをいつも暗い座敷牢のなかに入れ置いたのであろう。
三人の双生児
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
珍しいことがあるものだと
訝
(
いぶか
)
りつつ、野口、庭田ほか数名の在京委員が出頭すると、大石次官が面会するということで応接室へ通された。
渡良瀬川
(新字新仮名)
/
大鹿卓
(著)
物おほくいはぬ人の
習
(
ならい
)
とて、
遽
(
にわか
)
に
出
(
いだ
)
ししこと葉と共に、顔さと
赤
(
あか
)
めしが、はや先に立ちて
誘
(
いざな
)
ふに、われは
訝
(
いぶか
)
りつつも随ひ行きぬ。
文づかひ
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
忘
(
わす
)
るゝ
人
(
ひと
)
ありとか
聞
(
き
)
きしがこれは
又
(
また
)
いかに
歸
(
かへ
)
るべき
家
(
いへ
)
を
忘
(
わす
)
れたるか
歳
(
とし
)
もまだ
若
(
わか
)
かるを
笑止
(
せうし
)
といはゞ
笑止
(
せうし
)
思
(
おも
)
へば
扨
(
さて
)
も
訝
(
いぶか
)
しき
事
(
こと
)
なり
別れ霜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
しかるに人が一たび何ゆえにかくのごとくであるかを
訝
(
いぶか
)
り問わんとするに及んで、学問それ自身がかなり
煩悶
(
はんもん
)
をしたようである。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
不興気な呉羽之介の
声音
(
こわね
)
をきいて、お春は
訝
(
いぶか
)
しそうに恋人の顔を眺めたが、
然
(
しか
)
し何の疑いも抱かぬように大人しく座を立ちます。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
ジェルテルスキーは長い椅子からたちながら、金髪をかき上げ、水のような
碧
(
あお
)
い眼を
訝
(
いぶか
)
しげに動かした。柱時計は二時十五分を示している。
街
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
薄暗い二間には、
襤褸布団
(
ぼろぶとん
)
に
裹
(
くるま
)
って十人近くも寝ているようだ。まだ
睡
(
ね
)
つかぬ者は、頭を挙げて
新入
(
しんいり
)
の私を
訝
(
いぶか
)
しそうに眺めた。
世間師
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
……しかし、少女は伊曾の沈黙を
訝
(
いぶか
)
るやうな眼の色を見せてこの時彼を見上げてゐた。彼は何か言はなければならなくなつた。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
更
(
さら
)
に
其
(
その
)
葉
(
は
)
は
何處
(
どこ
)
にも
感
(
かん
)
じない
微風
(
びふう
)
に
動搖
(
どうえう
)
して
自分
(
じぶん
)
のみが
怖
(
おぢ
)
たやうに
騷
(
さわ
)
いで
居
(
ゐ
)
る。
穗
(
ほ
)
は
何
(
なに
)
を
騷
(
さわ
)
ぐのかと
訝
(
いぶか
)
るやうに
少
(
すこ
)
し
俯目
(
ふしめ
)
に
見
(
み
)
おろして
居
(
ゐ
)
る。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
お嬢様は手を握られ
真赤
(
まっか
)
に成って、又その手を握り返している。
此方
(
こちら
)
は山本志丈が新三郎が便所へ
行
(
ゆ
)
き、余り手間取るを
訝
(
いぶか
)
り
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
夫人は
訝
(
いぶか
)
り、「これこれ、
其方
(
そち
)
は血迷うていやるようじゃ、落着いて申すが可い、死んだといやる、何がどうしたのじゃ。」
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「隠すより現わるる。下男の久作が
行方
(
ゆくえ
)
と言い、その夜のそなたが
素振
(
そぶり
)
、
訝
(
いぶか
)
しい限りと思うていたが、人の
噂
(
うわさ
)
で思い当った」
大菩薩峠:01 甲源一刀流の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
と車を置いてついて来ながらも、運転手はまだ
訝
(
いぶか
)
しそうに置いて来た車の方を振り返って見たりまたその辺の
闇
(
くら
)
がりを透して見たりしていた。
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
牧野はそろそろ
訝
(
いぶか
)
るよりも、不安になって来たらしかった。それがお蓮には何とも云えない、愉快な心もちを
唆
(
そそ
)
るのだった。
奇怪な再会
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
訝
(
いぶか
)
しそうにわたくしの表情を、と見こう見していた母親は、やがて
莞爾
(
かんじ
)
と笑みかけたいのを、ぐいと唇の両角を引締め、それから言いました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
怪しい気配を
訝
(
いぶか
)
しがった城入道その他の人々が、廊を踏鳴らして近寄ると、天狗たちはばらばらと柱をよじ上り、
鴨居
(
かもい
)
を伝わって逃散ります。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
こはそも怎麼なる処ぞと、
四辺
(
あたり
)
を見廻はせば、此処は
大
(
おおい
)
なる寺の門前なり。
訝
(
いぶか
)
しと思ふものから、門の
中
(
うち
)
に入りて見れば。
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
そしてただ
訝
(
いぶか
)
っていた。鴎外の文と他の諸家の文とを較べるまでもなく、その差異の主要な部分はその香気の有無にある。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
しばらく計量器を仰いでいた暮松は、ほッと長い溜息とともに警部を振返って、
訝
(
いぶか
)
しげに眉をひそめて云うのであった。
凍るアラベスク
(新字新仮名)
/
妹尾アキ夫
(著)
兄弟子は、いつもおつとりしてゐる良寛さんの、
何処
(
どこ
)
にこんな
烈
(
はげ
)
しい心がひそんでゐたのか
訝
(
いぶか
)
りながら、しばらくその顔を見てゐるばかりだつた。
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
彼はふらふらの気分で、しかしまっすぐ歩ける自分を
訝
(
いぶか
)
りながら鋪道を歩いていた。友人と別れた後の鋪道にはまたぼんやりと魔の影が
漾
(
ただよ
)
っていた。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
N氏も
勿論
(
もちろん
)
同感してくれた。そして色々の学校の
窯業科
(
ようぎょうか
)
などを出た人が、
何故
(
なぜ
)
もっと組織的に、科学的に研究をしないのだろうといって
訝
(
いぶか
)
っていた。
九谷焼
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
一葉は、ふとその日の
訝
(
いぶか
)
しい友の言葉を思い出したので、歌子によってその惑いを解いてもらおうとしたのであった。
樋口一葉
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
俯して我面を見るものは、フラア・マルチノなりき。わが色蒼ざめてこゝにあるを
訝
(
いぶか
)
りて、何事のありしぞと問ひぬ。われはいかに答へしか知らず。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
何事かと
訝
(
いぶか
)
りつつも行きて見れば、同志ら今や
酒宴
(
しゅえん
)
の
半
(
なか
)
ばにて、
酌
(
しゃく
)
に
侍
(
じ
)
せる
妓
(
ひと
)
のいと
艶
(
なま
)
めかしうそうどき立ちたり。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
で、
宣
(
なの
)
ろうとはしなかった。そういう浪人の困惑した態度を、相手の武士は
訝
(
いぶか
)
しそうに、しばらくの間見守っていたが、にわかに笑声をほころばせた。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
またも中川様の来たまへしかば、これに少しは人心地つきたれど。見れば
曩
(
さき
)
の日には似ぬ力なきお顔色
訝
(
いぶか
)
しきに。
葛のうら葉
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
久兵衛のごとき堂々たる人間が必ずしもどぎった寿司を作らないという点を、われわれは
訝
(
いぶか
)
しく考えるのである。
握り寿司の名人
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
鼠
(
ねずみ
)
は
些
(
や
)
や
訝
(
いぶか
)
しげに
愛
(
あい
)
ちやんの
方
(
はう
)
を
見
(
み
)
て、
其
(
その
)
小
(
ちひ
)
さい
片方
(
かたはう
)
の
眼
(
め
)
を
瞬
(
またゝ
)
くやうに
見
(
み
)
えましたが、
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
ひませんでした。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
『類函』四三八に、王趙
方
(
かた
)
へ一僧来り食を乞い、食
訖
(
おわ
)
って
仮寝
(
うたたね
)
する鼾声夥しきを
訝
(
いぶか
)
り、王出て見れば竜睡りいた。
十二支考:03 田原藤太竜宮入りの話
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
どうした理由かそれを云い直した時に
With
(
ウイズ
)
Hecates
(
ヘキッツ
)
を一節にして、Ban と thrice とを合わせ、しかもまた
訝
(
いぶか
)
しいことには
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
で、私は
訝
(
いぶか
)
つた、何人が
此
(
こ
)
の静かな土の中に眠る人々に安らかでない睡眠のあるといふことを想像しえたかと
愛は、力は土より
(新字旧仮名)
/
中沢臨川
(著)
二人は
家内
(
かない
)
の紳士を
遇
(
あつか
)
ふことの
極
(
きは
)
めて
鄭重
(
ていちよう
)
なるを
訝
(
いぶか
)
りて、彼の行くより坐るまで一挙一動も
見脱
(
みのが
)
さざりけり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
娘は自分のすぐ顔のちかくに、父と母との顔をこんなにまで近く、しかも
訝
(
いぶか
)
しく眺めたことがなかった。
みずうみ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
正勝は
訝
(
いぶか
)
しそうにして
躊躇
(
ちゅうちょ
)
していた。喜平は後ろを振り返って、またぴゅっぴゅっと鞭を振り鳴らした。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
セエラは寝てしまったのかしら、と
訝
(
いぶか
)
っているところへ、ふいにセエラの低い笑い声が聞えて来ました。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
押
(
おさ
)
へたりと云ふに左京は是を
聞
(
きい
)
て大いに
訝
(
いぶか
)
り我々は大雪を
踏分
(
ふみわけ
)
寒
(
さむ
)
さを
厭
(
いと
)
はず
麓
(
ふもと
)
へ出て
網
(
あみ
)
を
張
(
はつ
)
ても
骨折損
(
ほねをりぞん
)
して歸へりしに貴殿は内に居て
爐
(
ろ
)
に
煖
(
あた
)
り乍ら千兩程の大鳥を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
なよたけ (ふと、
訝
(
いぶか
)
しげに)文麻呂! なぜなの?……なぜ、あたしをそんなにきつく抱き締めるの?
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
ますます
訝
(
いぶか
)
しげに、ますます呆れたように、おれを見つめるようになるし、また彼等の人生観はあまりに偏頗で、おれはそれに順応する気になれなかったのである。
道化者
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
高重は突き出た淡い口髭の周囲をとがらせながら、黒い顔の中で、一層
訝
(
いぶか
)
しそうに眉を
顰
(
ひそ
)
めていった。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
訝
漢検1級
部首:⾔
12画
“訝”を含む語句
怪訝
可訝
怪訝顔
怪訝相
驚訝