見世みせ)” の例文
今もいま、師匠のかけがえのないい芸を、心の中で惜んでいたのに、このおじいさんは見世みせものの中へ出すのか——と思ったからだ。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「あつしは北の國で、歌舞の菩薩の見世みせを一と廻り拜んで、向柳原へ歸つて寢てしまひましたよ。月待ちと洒落しやれるほどは金がねえ」
若旦那わかだんな鯱鉾立しゃっちょこだちしてよろこはなしだと、見世みせであんなに、おおきなせりふでいったじゃないか。あたしゃ口惜くやしいけれどいてるんだよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
一度は村の見知みししの若者の横顔を見世みせの前でちらと見た。一度は大高島の渡船とせんの中で村の学務委員といっしょになった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
心が外へ見世みせを出しているところを描くんだから、見世さえ手落ちなく観察すれば、身代はおのずからわかるものと、まあ、そうしておくんだね。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今だから、何もかもいえるのだが、その頃このわしは、広海屋さんと同業の、手がたい見世みせの奉公人でありましたのさ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
呼出し取調とりしらありしに一かう右體の怪我人けがにん見當らざるよしを申により又外々の名主へ掛り尋けるに下谷したや廣小路ひろこうぢ道達だうたつとて表へは賣藥ばいやく見世みせを出しおき外療醫ぐわいれうい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
無蓋車を降りて、車掌に暇乞いとまごひして、きよろ/\と見廻して、それから向ふの酒瓶さかびんの絵看板の出てゐる見世みせの方へ行つた。もとより酒を飲みにぢやない。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
また夢のようだけれども、今見れば麺麭パン屋になった、ちょうどその硝子がらす窓のあるあたりへ、幕を絞って——暑くなると夜店の中へ、見世みせものの小屋がかかった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏道傳うらみちづた二町にちやう三町さんちやう町名ちやうめいなにれねどすこりし二階建にかいだて掛行燈かけあんどんひか朧々ろう/\としてぬしはありやなしや入口いりぐちならべし下駄げた二三足にさんぞく料理番れうりばん欠伸あくびもよすべき見世みせがゝりの割烹店かつぽうてんあり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたしの家と申しましても、三度目の火事に遇つた後は普請ふしんもほんたうには参りません。焼け残つた土蔵を一家の住居すまひに、それへさしかけて仮普請を見世みせにしてゐたのでございます。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
帰って来るとその翌日指環の真珠がぐ抜けて落ちましたからその見世みせへ行って小言こごとを申しますと今度は主人が出て来て、日本製の品はドウも足が弱くって中の石が抜けたがります
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
料理茶屋の物を盗む前にう通り御霊ごりょうの植木見世みせで万引と疑われたが、疑われるはずだ、緒方の書生は本当に万引をして居たその万引と云うは、呉服店ごふくや反物たんものなんど云う念のいった事ではない
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
初めはいきた亀ノ子となど売りしが、いつか張子の亀を製し、首、手足を動かす物を棒につけ売りし由。総じて人出ひとで群集ぐんしゅうする所には皆玩具類を売る見世みせありて、何か思付おもいつきし物をうりしにや。
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
すもも盛る見世みせのほこりの暑かな 万乎まんこ
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「そうだ、おせんちゃん。けえときにゃ、みんなでおくってッてやろうから、きょういち見世みせはなしでも、かしてくんねえよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その頃、村の尽頭はづれに老婆と一緒に駄菓子の見世みせを出して、子供等を相手に、亀の子焼などをあきなつて、辛うじて其日の生活を立てて行く女があつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
する桝屋ますや久藏と云者と尋ねしに其頃新店なれども評判ひやうばんよきにや直に知ければ吾助は大いによろこまづ見世みせに行て樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
画工ゑかきはね、こゝろくんぢやない。こゝろそと見世みせしてゐるところくんだから、見世みせさへ手落ておちなく観察すれば、身代しんだいおのづからわかるものと、まあ、さうして置くんだね。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
父親の見世みせの、子飼いの手代の癖に、当の主人を死地におとしいれた、長崎屋三郎兵衛はどうだ?
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
やがて、十八九年もったろう。小児こどもがちと毛を伸ばした中僧の頃である。……秋の招魂祭の、それも真昼間まっぴるま。両側に小屋を並べた見世みせものの中に、一ヶ所目覚しい看板を見た。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中番頭ちゅうばんとうから小僧達こぞうたちまで、一どうかおが一せいまつろうほうなおった。が、徳太郎とくたろう暖簾口のれんぐちから見世みせほうにらみつけたまま、返事へんじもしなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
で、今度は通りのまん中を自分はひやかしに来た客ではないというようにわざと大跨おおまたに歩いて通った。そのくせ、気にいった女のいる見世みせの前は注意した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
中は勧工場かんこうばのように真中を往来にして、おなじく勧工場の見世みせに当る所を長屋の上り口にしてある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
孫一まごいち一人ひとりだつたの……ひとはね、ちゝなみだみなぎちる黒女くろめ俘囚とりこ一所いつしよに、島々しま/″\目見得めみえ𢌞まはつて、あひだには、日本につぽん日本につぽんで、見世みせものの小屋こやかれたこともあつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夷子棚えびすだな上置あげおき其夜そのよは長兵衞方へれいゆきたりしが此加賀屋長兵衞このかがやちやうべゑいふもと同町どうちやうの加賀屋彌兵衞方やへゑかたへ十さいの時奉公ほうこうに來りて十年の年季ねんきつとなほ禮奉公れいぼうこう十五年をつとあげ都合つがふ廿五ねんあひだ見世みせの事に心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見世みせの手代、小僧、みんな逃げて行って、誰も防ぐものはない——ああ、滅茶滅茶だ! これというのも、みんな、あの広海屋の畜生のなせるわざ——あいつを、取り殺す! 食い殺す! さあ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
十分のちには、清三の姿は見世みせにごてごてと白粉おしろいをつけて、赤いものずくめの衣服で飾りたてた女の格子の前に立っていた。こちらの軒からあちらの軒に歩いて行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
世を避けた仙人がを打つ響きでもなく、薄隠すすきがくれの女郎花おみなえしに露の音信おとずるる声でもない……音色ねいろこそ違うが、見世みせものの囃子と同じく、気をそそって人を寄せる、鳴ものらしく思うから
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし自分の見世みせけ放しても苦にならないと見えるところが、少し都とは違っている。返事がないのに床几に腰をかけて、いつまでも待ってるのも少し二十世紀とは受け取れない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
釣り廊下を渡って正面の座敷をのぞくと、骨董こっとうがいっぱい並べてあったので、何事かと思ったら、北京ペキンへ買出しに行った道具屋が、帰り途にここで逗留とうりゅう中の見世みせを張ったのだと分ったから
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見世みせものではない。こりゃ牛鋪ぎゅうやじゃ。が、店を開くは、さてめでたいぞ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
井深いぶかは日曜になると、襟巻えりまき懐手ふところでで、そこいらの古道具屋をのぞき込んで歩るく。そのうちでもっともきたならしい、前代の廃物ばかり並んでいそうな見世みせっては、あれの、これのとひねくりまわす。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今度だって、珍らしい処を見世みせものの気で呼んだんだからね。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見世みせものにをんなぢやないか。」
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)