かむ)” の例文
かく判明せる原因は、がい要保護人を署内(目白署)に収容せる後に至りて、該人物が巧妙なるかつらかむり居たることを発見せるにる。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実は少し面喰めんくらったのです。どういうわけだかあなたはきっとヴェエルをかむっていらっしゃるはずのように思っていたもんですから。
そう思って知らずらず、頑冥がんめいな人物や、仮面をかむった思想家と同じ穴に陥いっていられるのではあるまいかと、秀麿は思った。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
高祖頭巾こそずきんかむり、庭下駄を履いたなりで家を抜け出し、上野の三橋さんはしの側まで来ると、夜明よあかしの茶飯屋が出ていたから、お梅はそれへ来て
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……ばかりじゃ無い、……かりがねつばめきかえり、軒なり、空なり、行交ゆきかう目を、ちょっとは紛らす事もあろうと、昼間は白髪の仮髪かつらかむる。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二階の手摺てすりに湯上りの手拭てぬぐいけて、日の目の多い春の町を見下みおろすと、頭巾ずきんかむって、白いひげまばらにやした下駄げたの歯入が垣の外を通る。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さっきのしろ帽子ぼうしかむったが、ランドセルのなか筆入ふでいれをらしながら、片側かたがわにあるみせほうかってはしりました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
法師丸はそのしーんとした闇の中で、夜着をかむって、まんじりとせずに息を凝らしていると、やがて老女の足音がして、衝立の戸をほと/\とたゝいた。
式が済むと、円太郎馬車は送られて火葬場くわさうぢやうへ往つた。二里余りの道中を絹帽シルクハツトかむつた会葬者はぞろぞろと続いた。
ガラツ八は此處へ飛込むときチラリと目に留つた、姐さんかむりの甲斐々々しいお靜の姿を思ひ出したのです。
いつか詞かこなしで、女が薄情な根性を曝露ばくろしたら、その時面と向ってそう云ってりたい。もううからお前が面をかむっているという事は知っていた。おれは胸が悪かった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
晩香坡バンクーバとは全然方角違いのアドミラルチー湾に深入りして雪をかむったセントエリアスの岩山と、フェア・ウェザー山の中間にガッチリと船首を固定さしているのにはあきれ返った。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
壕水ほりみづつる星影寒くして、松のこずゑに風音すごく、夜も早や十時になんなんたり、立番の巡査さへ今は欠伸あくびながらに、炉を股にして身を縮むる鍛冶橋畔かぢけうはんの暗路を、外套ぐわいたうスツポリと頭からかむりて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それで民子は、例のたすきに前掛姿で麻裏草履という支度。二人が一斗笊一個宛ひとつずつを持ち、僕が別にばんニョ片籠かたかご天秤てんびんとを肩にして出掛ける。民子が跡から菅笠すげがさかむって出ると、母が笑声で呼びかける。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
仮面をかむって書いたのである。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれども、ふゆ鳥打帽とりうちばうかむつた久留米絣くるめがすり小僧こぞうの、四顧しこ人影ひとかげなき日盛ひざかりを、一人ひとりくもみねかうして勇氣ゆうきは、いまあいする。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と云いながらずっと出た男の姿なりを見ると、紋羽もんぱの綿頭巾をかむり、裾短すそみじか筒袖つゝそでちゃくし、白木しろき二重廻ふたえまわりの三尺さんじゃくを締め、盲縞めくらじまの股引腹掛と云う風体ふうてい
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先生の家は先生のフラネルの襯衣シャツと先生の帽子——先生はくしゃくしゃになった中折帽なかおれぼうに自分勝手に変な鉢巻はちまきを巻き付けてかむっていた事があった。
「ああ、わたしくたびれたわ。先生せんせい、おんぶしてちょうだい。」と、しろ帽子ぼうしかむった、一人ひとりおんなが、おねえさんにでもねだるように、保姆ほぼさんに、いいました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
(モデル娘のかたを顔にて示す。娘は上着を着、帽をかむり、何か用あり気に戸の近くに立ち留りいる。)
かむりしきれを洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。我足音に驚かされてかへりみたるおもて、余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「じゃ、こうしとこうかな。手拭てぬぐいを、ねえさんかむりにさせて」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大分日焼けのした顔色で、帽子をかむらず、手拭てぬぐいを畳んで頭にせ、半開きの白扇を額にかざした……一方雑樹交りに干潟ひがたのような広々としたはたがある。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼をさます刺激の底に何所か沈んだ調子のあるのをうれしく思いながら、鳥打帽をかむって、銘仙の不断着のまま門を出た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男はずっとかむりし手拭をり、小火鉢の向うへ坐した様子を見ると、何うも見覚みおぼえのある菅野すがの伊之助らしい。
奥の壁は全く窓にて占領せられおる。左手の壁に押付けて黒き箪笥を据えあり。その上に髑髏どくろに柔かき帽子をかむせたるを載せあり。また小さき素焼の人形、鉢、かんむりを置きあり。
さます刺激のそこ何所どこしづんだ調子のあるのを嬉しく思ひながら、鳥打とりうち帽をかむつて、銘仙めいせんの不断の儘もんた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その時も今かむっている、高い帽子を持っていたが、何だってまたあんな度はずれの帽子を着たがるんだろう。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みがき上げた山羊やぎの皮にかむほこりさえ目につかぬほどの奇麗きれいな靴を、刻み足に運ばして甲野家の門に近づいて来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其時そのときいまかむつてる、たか帽子ばうしつてたが、なんだつてまたあんなはづれの帽子ばうしたがるんだらう。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こなたへのさのさと来掛った、と見ると、ふと頬かむりのうちの目ばかり、……そこに立留まった清葉たちを見るや否や、ばねで弾かれたかと思う、くるりと背後向うしろむき
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うん。さっきから見えている」と甲野さんは駱駝らくだ毛布けっとを頭からかむったまま、存外冷淡である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あか着物きものる、みいちやんの紅雀べにすゞめだの、あを羽織はおり吉公きちこう目白めじろだの、それからおやしきのかなりやの姫様ひいさまなんぞが、みんなで、からかいにつては、はなたせる、手拭てぬぐひかむせる
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
舞台ぶたいではもうはじまつてゐる。る人物が、みんなかんむりかむつて、くつ穿いて居た。そこへ長い輿こしかついでた。それを舞台の真中まんなかめたものがある。輿こしを卸すと、なかから又一人ひとりあらはれた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
家主は、かたいやつを、誇らしげにスポンとかむって、腕組をずばりとしながら
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)