致方いたしかた)” の例文
このオクシガ岳は初め御飯岳の間違ではないかと思ったのであるが、信州にて黒湯山と呼ぶ由が断ってあるので、何とも致方いたしかたがない。
上州の古図と山名 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しか非難せられても致方いたしかたはない。しかしこの書を書いた時代においても、私の考の奥底に潜むものは単にそれだけのものでなかったと思う。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
岩田京四郎を除いてほかの誰もが出来そうにないことから当然、二回にわたる電気殺人の犯人として彼がにらまれたのも致方いたしかたないことであった。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
現世げんせかたかられば一ぺん夢物語ゆめものがたりのようにきこえるでございましょうが、そこが現世げんせ幽界ゆうかいとの相違そういなのだからなんとも致方いたしかたがございませぬ。
私は今度からだ腫物できものが出来たので、これは是非共ぜひとも、入院して切開をしなければ、いけないと云うから、致方いたしかたなく、京都きょうとの某病院へりました。
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
髪も櫛巻くしまき透切すきぎれのした繻子の帯、この段何とも致方いたしかたがない。亭主、号が春狐であるから、名だけは蘭菊らんぎくとでもおごっておけ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其方儀主人しゆじんつま何程なにほど申付候共又七も主人のつき致方いたしかた有之これあるべき處主人又七にきずつけあまつさへ不義ふぎの申かけを致さんとせし段不屆至極ふとゞきしごくに付死罪しざいつく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
のくらい御立腹になるか知れませんが、どうも私には致方いたしかたはございません、その代り私が死にましてもお刀の処は私が幽霊になって尋ね探し
女は己を愛する者のためにかたちづくるという語も有る如く、女子はただ男子を慰藉いしゃするためにのみこの世に存在するものと認められていたから致方いたしかたない。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
それに私は世人せじんに向って家屋の不完全を攻撃しながらこの家は御覧の通り何事も不完全だらけです。これも借りている家ですから致方いたしかたがありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
運転手にちりよけのロイド眼鏡はあり勝ちのことだし、定紋の方は明智はまるで知らなかったのだから致方いたしかたもない。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どうもコンナに御馳走になったり、勝手なお惚気のろけを聞かしたりしちゃ申訳もうしわけ御座んせんが、ここんところが一番恐ろしい話の本筋なんで致方いたしかたが御座んせん。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
此者儀主人庄三郎妻つね何程申付候うとも、主人のことに候えば致方いたしかた可有之これあるべくの処、又四郎に疵付候段不届至極に付、死罪に申付。但し引廻しに及ばず候。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし後進国の悲しさには、どうしてもその研究態度が、木を見るというよりも、皮か葉の一部を見るような傾向に走りやすかったのは致方いたしかたないことであった。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
取り万事はなはだものうく去年彩牋堂竣成しゅんせい祝宴の折御話有之候薗八節そのはちぶし新曲の文章も今以てそのまゝ筆つくることあたはず折角の御厚意無にいたし候不才の罪御詫おわび致方いたしかた無御座ござなく候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何んといっても天上陰気がぐって来たのだから致方いたしかたがない、結局死骸となってよこたわってしまう。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
究竟つまり貴方と私とは性が合はんので御座いませうから、それはもう致方いたしかたも有りませんが、そんなにれてまでもやつぱりかうして慕つてゐるとは、如何いかにも不敏ふびんな者だと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かく申さば、讒謗ざんぼう罵詈ばり礼を知らぬしれ者と思ふ人もあるべけれど、実際なれば致方いたしかた無之候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかし表現の仕方がまづいから、寓言にしかなつてゐないと言ふなら、それも致方いたしかたがない。
或新年の小説評 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
これは気の毒だがまず致方いたしかたないとしても、茂助は、事実世評のごとくおとめちゃんを助けに這入って死んだものなら、恋仲だろうが何だろうが消防夫として火事で死んだ以上は
舞馬 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
けれども、無い以上、熱は失ったまゝでも、その束縛に向って捉われ入るより致方いたしかたがない
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
致方いたしかたがないので、その近くの歯科をたづねると、いづれも休院か廃院の有様であつた。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ある時父兄の前に言出いいいでて、自分は一代法華いちだいほっけをして、諸国を経廻へめぐろうと思うから、何卒どうか家を出してくれと決心の色をあらわしたので、父も兄も致方いたしかたなく、これを許したから、娘は大変喜んで
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
(中略)仰せの通り世間のとかくのうわさの中にはずい分、いやなと思う事もないでも御座いませんけど、これも致方いたしかたがないなり行きだと、今までもあまり気にかけたことも御座いません。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しにく我心にとって誠に心よくないから、実はわたしにとっては何とも心もとないことだが時節なれば致方いたしかたないと諦めて過日すぐるひは日頃愛玩あいがんの琴二面を人手に渡して、ここに金が六十円出来た
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
はじめて奧樣おくさま日出雄樣ひでをさまが、日本にほんへおかへりになるとうけたまはつたとき本當ほんたう魂消たまぎえましたよ、しかしそれは致方いたしかたもありませんが、其後そのゝちよくうけたまはると、御出帆ごしゆつぱん時日じじつときもあらうに、今夜こんやの十一はん……。
「外に場所はないのかねえ」「何だか勿体もったいないような気がする」などと話合いましたが、土地がらだけに、何かある時に勢力があって、指折られるのは妓楼なので、致方いたしかたなかったのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ところがこの事に当初から関係しておられる諸君は、しきりにこのことを余に責められるので、今更何とも致方いたしかたがない、それで幸いに山岳会の雑誌に大略のことを載せてもろうて、自分の責をふさ
利尻山とその植物 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
借越かりこしのパンを差し上げるのも致方いたしかたがございません。4875
そなたもわかいのに歿なくなって、まことにどくなことであるが、なかはすべて老少不定ろうしょうふじょう寿命じゅみょうばかりはんとも致方いたしかたがない。
これは、軍規ぐんきに定めがある致方いたしかたのない殺人ですが、それを見ていた分隊中の或る者が、本国へ凱旋後がいせんご柵山二等兵の未亡人にうっかりしゃべったのです。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丈「こう云う訳になって致方いたしかたがない、前橋の方も尋ねたいと思って居たが、何分貧乏暇なしで御無沙汰になった、よく来た、どうして出て来たのだ」
集めて相談さうだんしける中長兵衞心付こゝろづき彼のくすりを猫にくはせてためしけるに何の事もなければ是には何か樣子やうすあるべし我又致方いたしかたあれ隨分ずゐぶん油斷ゆだんあるべからずとて又七を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
好しや仮りに女子が男子に代るの能力ありと仮定するも、男子にして、今日女子の当る天職に代り得る素質の無い以上は致方いたしかたない。男子には妊娠出来ぬ。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ロスコーの若旦那がお亡くなりになりましたのは、やっぱりまったくなんで……ヘエ……それなら致方いたしかたござりません。何もかも白状致します。ヘエイ……。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ハハハハ……、君もつまらない苦労をする男だね。僕が人見廣介だって? ナニ人見廣介だって一向構いはしないが、どうも僕は菰田源三郎に相違ないのだから、致方いたしかたがないね」
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ああ、みんな居るとも。妙も居るよ。大勢居るから気を丈夫に持て! ただ早瀬が見えん、残念だろう、己も残念だ。病気で入院をしていると云うから、致方いたしかたが無い。断念あきらめなよ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は額縁屋へかましくいって造らせたりしますが、どうもいう事を聞かないのでしゃくだから致方いたしかたなく、私は場末の古道具屋をあさって、常に昔しの舶来縁の、古いのを探しまわるのです
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
又私はその引負ひきおひの為に、主人から告訴致されまして、きてをりますれば、その筋の手に掛りますので、如何いかにとも致方いたしかたが御座いませんゆゑ、無分別むふんべつとは知りつつも、つい突迫つきつめまして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かく申さば讒謗罵詈ざんぼうばり礼を知らぬしれ者と思う人もあるべけれど、実際なれば致方いたしかた無之候。もしせいげんが誤れりとおぼさばいわゆる歌よみの中よりただの一人にても俳句を解する人を御指名可被下くださるべく候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
来会者の一人進みで「なるほどおっしゃる通り鳥屋でかった肉はどうしても味がありません。肉がこわいばかりでなく肉に味がありません。あれはどういう訳でしょう」中川「それは致方いたしかたもありません。 ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
どうも致方いたしかたがございますまい。
まあ致方いたしかたがございませぬ、せいぜいをつけて、わたくし実地じっちたまま、かんじたままをそっくり申上もうしあげることにいたしましょう。
母親が甘う育てたからお前が左様なる身持になり、親分とか勇肌いさみはだの人と交際つきあいをして喧嘩の中へ入り、男達おとこだてとかなんとか実にどうもしからん致方いたしかた、不埓者め
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其方儀先代せんだい嘉川平助におんも有之り候由にて藤五郎藤三郎建部たてべ郷右衞門ばんすけ十郎右四人かくまひ候だん深切しんせつ致方いたしかたに候得共えども身分不相應さうおうなる儀につき以後法外之なき樣心掛べし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
劣敗者の死屍しかばねは土足にかけられ、つばきせられても致方いたしかたがないように考えられているようであるが、しかし斯様かような人情の反覆の流行している現代は恥ずべき現代ではあるまいか。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
理性力で此処まで漕ぎ付けたが、しかし勃々ぼつぼつたる人間の欲情は致方いたしかたなく、内密でなお外に蓄妾する。なかなか理想通りにはいかぬが、表面だけでも粛清されたのは結構である。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
突然、ゴリラ男の傍若無人ぼうじゃくぶじんな笑声が爆発した。だが、笑われても致方いたしかたがない。飾り人形を本物の女の死体と思い込んで、目の色変えて追駈けたんだから、どうにも引込みがつかない。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
○幕府以来の名家もとより相当の産あり、而してその朝飯は味噌汁と香の物のほか、また一物を加へず。これを主人にただせば、主人曰く、我も余りまづい朝飯とは思へど、古来の習慣今更致方いたしかたもなしと。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
というと、お隅も母も残念がって歎きますけれども致方いたしかたがない。翌月よくげつの十月の声を聞くと、花車は江戸へ参らなければならぬから、花車重吉が暇乞いとまごいに来て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)