肥料こやし)” の例文
どうやらこの方が、ずっと肥料こやしがよくきいたものらしい。役員連はそろそろ好い景気になって、めいめい家庭を営んだりし始めた。
人もその通りで、い智恵を出させようとするにはそれだけの食物を与えなければなりますまい。野菜を作っても肥料こやしが大切です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
つち土用が過ぎて、肥料こやしつけの馬の手綱を執る樣になると、もう自づと男羞しい少女心が萠して來て、盆の踊に夜を明すのが何より樂しい。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「親方、私はもう今迄のような臆病な心を、さらりと捨てゝしまいました。———お前さんは真先に私の肥料こやしになったんだねえ」
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また時には先生は極めて抽象的な言葉を用いられることもあった。その時にも「それから時々根に肥料こやしをやる事も忘れないで」
指導者としての寺田先生 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
甲「なに肥料こやしをしないものはないが、直接じかに肥料を喰物くいものぶっかけて喰う奴があるか、しからん理由わけの分らん奴じゃアないか」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「理由があるもんか。なぜ肥料こやしが臭いかには、議論の余地はない。肥料は臭い、ただそれっきりだ。僕は鼻をつまんで逃げ出すばかりさ。」
笑うと出っ歯のはぐきの露出するのも気になったが、お品が悪くはないながらに口の利き方や気分に、どこか肥料こやしくさいようなところがあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あの竹藪たけやぶは大変みごとだね。何だか死人しびとあぶら肥料こやしになって、ああ生々いきいき延びるような気がするじゃないか。ここにできるたけのこはきっとうまいよ」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
初雄 えへん、君はこの村において、肥料こやしかすにもならない、更に、あえて、しかしてその、いささかも用のない人です。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「僕は人間としては北海道の方が肥料こやしが利いていると答えた。学業成績のことは前に話してあるから、今更嘘がつけない」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
草をとつて生のまゝ土に埋め、或は烈日に乾燥させ、焼いて灰にし、積んで腐らし、いづれにしても土の肥料こやしにしてしまふ。馴付なつけた敵は、味方である。
草とり (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
草をとって生のまゝ土に埋め、或は烈日に乾燥させ、焼いて灰にし、積んで腐らし、いずれにしても土の肥料こやしにしてしまう。馴付なつけた敵は、味方である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その上に肥料こやしの化学的成分とやらもすつかり頭に入れておかなくつちやなりましねえのだからな。何だつてお前様、それにはみんなぜにがかゝりまするだよ。
鶏の糞をかき集めると、畑の肥料こやしになるのである。すると、そこへ紺絣の筒っぽに、板裏の草履ぞうりをはいた三太がやって来た。三太は牧の旦那のひとり息子である。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
彦太郎が卯平の所に寄ったのも、四荷ほど肥料こやしを廻してくれるようにと頼まれていたからであったのに、商売も忘れてしまって彦太郎は逃げ出して行くのである。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「いいとも、いいとも。役につかないがいい。そうすりゃ、働く時間がたくさんになる。役人たちに肥料こやしを運ばせるがいい。それにごみはたくさんたまっている。」
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
新宿の數多いビルヂングは、何かの張子細工のやうに見えるし、アスハルトの街路の上を無限に續く肥料こやし車が行列して居る。歩いてる人間まで田舍臭く薄ぎたない。
悲しい新宿 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
そのくせその本から得た知識がへんにインテリがかったものとなって噺のニュアンスを壊すなんてこともなく、きわめて彼の場合にはいい肥料こやしとなっているらしい。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
折角油の異臭においに慣れたところに、肥料こやしのにおいなんか押し付けられちゃ、たまらない……なぞと我儘を突張つっぱった。無理にも亭主に運転手稼業を止めさせまいとした。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ぎに草原くさはら濕地しつちは『腐植土ふしよくど』といつて、植物しよくぶつれて、えだくさつた肥料こやしになつてゐるようなつちみ、水分すいぶんおほいので、植物しよくぶつ生育せいいくには大變たいへん都合つごうがよいため
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
蒔絵まきえの金銀のくもりを拭清ふききよむるには如何にせばよきや。堆朱ついしゅの盆香合こうごうなどそのほりの間の塵を取るには如何にすべきや。盆栽の梅は土用どよううち肥料こやしやらねば来春花多からず。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
茴香ういきょうの花が咲いているのだ。そうしてもしも俺が死んだら、その茴香の肥料こやしになるのだ。……死! 肥料! 恐ろしいことだ! これはどうしても逃げなければならない。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
菊の鉢に肥料こやしをやるよりはまだ造作ない返事であった。今日はこれから出掛けて行ってももう会社は退けているじゃろから、明日一緒に行って上げようということになった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
越水 畑に肥料こやしをやるのはいゝが、臭くつてやりきれない。あれをなんとかして貰へんですか。僕んとこは、前うしろに畑があるんだから閉口なんだ。なあ、おいクマソ……。
犬は鎖に繋ぐべからず (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
おじいさんは、肥料こやしをやったり、つるをのばしたりして、毎日まいにちのように、はたけては
初夏の不思議 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大丈夫だいぢやうぶだとも、馬鈴薯じやがいもかくやうぢやその肥料こやしくはふから、いやくはとほくへすんぢや魂消たまげたもんだから、りもしねえのに肥料こやしはう眞直まつすぐにずうつとつかんな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
寄生木になつて栄えるはきらひぢや、矮小けち下草したぐさになつて枯れもせう大樹おほきを頼まば肥料こやしにもならうが、たゞ寄生木になつて高く止まる奴等を日頃いくらも見ては卑い奴めと心中で蔑視みさげて居たに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ハト麦は、世間並みの大麦や小麦と違って、肥料こやしがいりません。そうして、いて僅かの間に取入れができます。その上に取穀とりこくが多いし、味がよろしいし、食べて薬用にもなるものでございます。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
引いて頂けゃ、水はそれで十分以上でごわすもの、そしたら、肥料こやしもどっさり入れて、田の草取りなんかわらわらと、俺等は鬼のように稼いで、来年こそは、立派な稲にしてお目にかけしてごわす。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
眼に見えて肥料こやしききゆく夏の日の園の草花咲きそめにけり
田の草をそのまま田への肥料こやしかな
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この血を愛の肥料こやしにしようと思ふ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
水もよくきく、肥料こやしもよくきく
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
骨身を肥料こやしに働いて来たに
百姓仁平 (新字新仮名) / 今野大力(著)
木の芽生えの肥料こやしに——
胚胎 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ねぢ鉢卷はちまき肥料こやしやる
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
勿論もちろん、根を抜かれた、肥料こやしになる、青々あおあおこなを吹いたそら豆の芽生めばえまじって、紫雲英れんげそうもちらほら見えたけれども。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沖へ行つて肥料こやしを釣つたり、ゴルキが露西亜の文学者だつたり、馴染の芸者が松の木の下に立つたり、古池へ蛙が飛び込んだりするのが精神的娯楽なら
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
喜「誠に御道理ごもっとも……しかし屎草履と仰しゃるが、米でも麦でも大概たいげえ土から出来ねえものはねえ、それには肥料こやしいしねえものは有りますめえ、あ痛い、又打ったね」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うち込んだのだ、もう今からは日本国中に、お前にまさる女は居ない。お前はもう今迄のような臆病な心は持って居ないのだ。男と云う男は、皆なお前の肥料こやしになるのだ。………
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「どうせそれは兄貴の肥料こやしになるのさ。狂人きちがいが何を知るものか。」浅井は苦笑していた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
屋根一面に南瓜かぼちゃつるを這わしたりして肥料こやし異臭においを着物までみ込まして喜んでいた。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
木賃宿きちんやど、其れ等に雨雪をしのぐのは、乞食仲間でも威張いばった手合で、其様な栄耀えいようが出来ぬやからは、村の堂宮どうみや、畑の中の肥料こやし小屋、止むなければ北をよけたがけの下、雑木林の落葉の中に
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
陸稻をかぼめづらしいうち出來できるもんだわ、わりにやけねえが、そんでも開墾おこしたばかしにやくさねえから手間てまらねえしな、それに肥料こやしつちやなんぼもしねえんだから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
金持かねもちは、みずをやったり、肥料こやしをやったり、てたりしましたが、はなは、ちいさなときから、したしく、れた、おじいさんのはなれてしまったので、万事ばんじ調子ちょうしわったとみえて、しだいに
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
寄生木になって栄えるは嫌いじゃ、矮小けちな下草になって枯れもしょう大樹おおきを頼まば肥料こやしにもなろうが、ただ寄生木になって高く止まる奴らを日ごろいくらも見ては卑しい奴めと心中で蔑視みさげていたに
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おきへ行って肥料こやしを釣ったり、ゴルキが露西亜ロシアの文学者だったり、馴染なじみの芸者がまつの木の下に立ったり、古池へかわずが飛び込んだりするのが精神的娯楽なら
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人形使 これというも、酒の一杯や二杯ぐれえ、時たま肥料こやしにお施しなされるで、弘法様の御利益だ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折々、田圃たんぼ肥料こやしにおいのようなものが何処からともなくにおって来るのが感ぜられた。過ぎて来た路を振り返ると、やはり行く手と同じような松の縄手なわてが果てしもなくつづいて居る。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)