耳目じもく)” の例文
西蔵へ潜入する異邦人を監視する耳目じもくなので、托鉢や説法に出たついでにそこここで情報を集め、毎日、駅伝でラッサへ報告を出す。
新西遊記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小牧の凝滞ぎょうたいを見て、天下の耳目じもくは、あわや図に乗りすぎた秀吉が、ここで大つまずきをやるのではないかと危ぶんでいたが、それも
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自暴半分に唯だ奇兵を用いて国民の耳目じもくこうとし、この度の不信任案提出は実にその奇兵の功を奏したものに外ならないのですが
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
右ダニエルの上述の犯罪にたいする懲罰は、これを単に公衆の耳目じもくに供うるにとどめず、またもってしかと今後のみせしめとなすを要す。
せいばい (新字新仮名) / 服部之総(著)
かゝる誤りは萬朝報よろづてうはうに最もすくなかつたのだが、先頃さきごろほかならぬ言論欄に辻待つぢまち車夫しやふ一切いつせつ朧朧もうろうせうするなど、大分だいぶ耳目じもくに遠いのがあらはれて来た。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
五年ぜんに禁獄三年、罰金九百円に処せられて、世の耳目じもくおどろかした人で、天保六年のうまれであるから、五十三歳になっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かくて両人ともからふじて世の耳目じもくまぬかれ、死よりもつらしと思へる難関なんくわんを打越えて、ヤレ嬉しやと思ふ間もなく、郷里より母上危篤きとくの電報はきたりぬ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
磐梯山ばんだいざんたか千八百十九米せんはつぴやくじゆうくめーとる)の明治二十一年めいじにじゆういちねん六月十五日ろくがつじゆうごにちける大爆發だいばくはつは、當時とうじ天下てんか耳目じもく聳動しようどうせしめたものであつたが、クラカトアには比較ひかくすべくもない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
如何いかに家庭にとぢ込めて置けばとてそれ等の悪風がまつたく若い女子の耳目じもくに触れないとは定められないでせう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
国民の耳目じもく一に露西亜ロシヤ問題に傾きて、只管ひたすら開戦のすみやかならんことにのみ熱中する一月の中旬、社会の半面をかへりみれば下層劣等の種族として度外視されたる労働者が
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
やはり灰色の丸い顔をしていて、髪を背中へ長く垂らし、なかなか耳目じもくもととのっていた。そして私に御馳走をするのだといって、名香めいこうのようなものをいてくれた。
彼は法便を使用し民の耳目じもくを驚かして世を救わざるべし、しかれども彼一日高き山に登り、眼下に都府村落の散布せるを見、国土を神の楽園と為し得べきを思いしや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
偶然ぐうぜんおこつたかれ破廉耻はれんち行爲かうゐにはか村落むら耳目じもく聳動しようどうしても、にもかくにも一處理しよりしてかねばならぬすべてのものは、彼等かれら共通きようつうきたがりりたがる性情せいじやうられつゝも
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ところが、その探検が難渋なんじゅうをきわめ、やっと一年後に「蕨の切り株」の南隅に立つことができた。そのとき、じつに世界の耳目じもくをふるい戦かせたほどの、怪異な出来事が起ったのだ。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
したがって執政者の権力も重きを成して、おのずから威福の行われるようになると同時に、天下の耳目じもくは政府の一方に集り、私の不平も公衆の苦情も何ももその原因を政府の当局者に帰して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ゆえにその耳目じもくの触るるところのもの、善となく悪となく、深く脳に印象して、終身消滅することなし。これもってその性情を薫陶くんとうし、品行を養成する、このときをもって最上の期とす。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
名士の家族であっただけにそのニュースは郷里の狭い世界の耳目じもく聳動しょうどうした。現代の海水浴場のように浜辺の人目が多かったら、こんな間違いはめったに起らなかったであろうと思われる。
海水浴 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ここに本町一丁目の金港堂きんこうどう明治三十五年の頃突然文学婦人少年等の諸雑誌ならびに小説書類の出版を広告して世の耳目じもくを驚かせしことあり。金港堂といへば人に知られし教科書々類の版元はんもとなり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
古い頃の自由党副総理中島信行なかじまのぶゆき男の夫人湘煙しょうえん女史は、長く肺患のため大磯にかくれすんで、世の耳目じもくに遠ざかり、信行男にもおくれて死なれたために、あまりその晩年は知られなかったが
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
はじめには越後の諸勝しよしようつくさんと思ひしが、越地ゑつちに入しのちとしやゝしんして穀価こくか貴踊きようし人心おだやかならず、ゆゑに越地をふむことわづかに十が一なり。しかれども旅中りよちゆうに於て耳目じもくあらたにせし事をあげて此書に増修そうしうす。
かるがゆえにわれは今なお牧場、森林、山岳を愛す、緑地の上、窮天の間、耳目じもくの触るる所の者を愛す、これらはみなわが最純なる思想のいかり、わが心わが霊及びわが徳性の乳母うば、導者、衛士えいしたり。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あたかも日本にも今一大疑獄が起り醜穢しゅうかい耳目じもくおおわしむるものがあるが、支那はこれが昔からで、他人がそのために如何どうなろうとも、国家がそのために如何様いかような運命に陥ろうとも関知せぬのだ。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
はじめには越後の諸勝しよしようつくさんと思ひしが、越地ゑつちに入しのちとしやゝしんして穀価こくか貴踊きようし人心おだやかならず、ゆゑに越地をふむことわづかに十が一なり。しかれども旅中りよちゆうに於て耳目じもくあらたにせし事をあげて此書に増修そうしうす。
その風物習俗の奇異、耳目じもく聳動しょうどうせしむるに足るものなきにあらず。童幼聞きて楽しむべく、学者学びて蘊蓄うんちくを深からしむべし。これそもそも世界の冒険家が幾多の蹉跌さてつに屈せず、奮進する所以ゆえんなるか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
大岡忠相たゞすけぬしが勤役きんやく中のさばきにて人の耳目じもく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
世界の耳目じもくを集中さした共和党の大会
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大陸のかすみびょうとして果てなく、空ゆく飛鴻ひこうはこれを知らなくても、何で梁山泊の油断なき耳目じもくがこの情報をつかまずにいようやである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名はいはざるべし、くいある堕落の化身けしんを母として、あからさまに世の耳目じもくかせんは、子の行末の為め、決してき事にはあらざるべきを思うてなり。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
眼をあげて、そこを通りゆく奇妙な荷物を積んだ自動車をもう一度仔細しさいに観察した。エンジンベッドの低いオープン自動車を操縦するのは、耳目じもくの整ったわりに若く見える三十前の女だった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
一切いっさい万事ばんじ控目ひかえめにして世間の耳目じもくれざるの覚悟かくごこそ本意なれ。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
とりわけて、この後、浅野家の遺臣が、どうするか、赤穂城が、どうなるか、世間の耳目じもくは、挙げてその動向にそそがれていた。
名はいわざるべし、くいある堕落の化身けしんを母として、あからさまに世の耳目じもくかせんは、子の行末ゆくすえのため、決してき事にはあらざるべきを思うてなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その時に千両の紙とうものは実に人の耳目じもくを驚かす。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
衆智しゅうちをあつめて衆智を越え、東山様式の因習いんしゅうを破り、大がかりなこと、豪壮ごうそう華麗かれいなこと、天下の耳目じもくをあつめるに足りた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくて両人ともかろうじて世の耳目じもくを免かれ、死よりもつらしと思える難関を打ち越えて、ヤレ嬉しやと思う間もなく、郷里より母上危篤きとくの電報は来りぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
機微きびの謀は、秘し得ても、万人か万人とも感ずるところのものは、滔々とうとうたる潮の勢いにひとしく、これを世人の耳目じもくからおおうことはできなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞く大阪市民は由来ゆらい政治の何物たるを解せざりしに、この事件ありてより、ようやく政治思想を開発するに至れりとか、また以てしょうらの公判が如何いかに市民の耳目じもくを動かしたるかを知るに足るべし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
さすが宮廷内に自己の耳目じもくをたくさん持っている彼だけに、かなりくわしく、かつ真相にふれているらしくもあった。
彼等かれらが気づいた時は、世間一般も同時に知っていた。それは青天せいてん霹靂へきれきにも似て世の耳目じもくおどろかしたからである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大河の水にまかせた一葉の小舟は、かなり長時間、世の耳目じもくから遠ざかって、明媚めいびな風光のうちにただよっていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しも疑心暗鬼に見らるるにおいては、なんぞ御当家には、それまでも世の耳目じもくをおそれる秘密がおありとみえる
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ずや、許都の府は栄え、曹操の威は振い、かの銅雀台どうじゃくだいの春の遊びなど、世の耳目じもくうらやますほどのものは聞くが、ここ漢朝の宮廷はさながら百年の氷室ひむろのようだ。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
影のように離れたことなく、耳目じもくとなり手足となって、老人の信頼あつい次郎とよぶ若者であった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とくに道誉は、軍目付といわれており、鎌倉の北条高時に代って、耳目じもくの役を果たしていたので
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これもまた山東梁山泊の耳目じもくとして、ここに仮の生業なりわいをしている手下てかの一員には相違あるまい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畏敬いけいする友であり先輩である。数正の不為ふためを意に介さないならば、事はかんたんだといえるが——極秘を前提として、四隣の耳目じもくはばかると、数正に会うことだけでも容易ではない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪華なにわの地をきりひらいて、大坂築城の大工事にかからせ、その規模、その結構の雄大なること、前古にないと、天下の耳目じもくをおどろかせているものの、かれ自身の、人間的な愉楽ゆらく
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このことは、さかい、大坂の耳目じもく震駭しんがいさせた。信長の勢威を知っても、なお毛利の富力と強大をずっと高く評価している一般民も、これはと、それまでの常識と観念の訂正にまごついた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長の京都進出以来、天下の耳目じもくは、彼の行動にばかり気をとられていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実は姜維きょうい魏延ぎえんなどの一軍で、その本軍はくひそかに漢中を発し、間道をとって、世上の耳目じもくも気づかぬうちに、陳倉城の搦手からめてに迫り、夜中、乱波らっぱを放って、城内に火をかけ、混乱に乗じて
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)