うる)” の例文
身振りや音調のあらゆる誇張は、それがたとい無意識的なものであっても、単純でなくうるわしくない何かのように彼女の気を害した。
いかに時頼、人若ひとわかき間は皆あやまちはあるものぞ、萌えづる時のうるはしさに、霜枯しもがれの哀れは見えねども、いづれか秋にはでつべき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
英雄志を抱いて黄泉に入る悲涼ひりょう愴凄そうせいの威を如何にもうるわしく詠じ出したもので、三百年後の人をしてなお涙珠るいじゅを弾ぜしむるに足るものだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それで日本人の書は非常にうるわしく、親しみがあるので、結局、日本人にとって、日本の書が一番相応ふさわしいものということになります。
冗談じゃない。どうしてあの虹が、そんな蓋然性に乏しいものなもんか。偶然か……それとも、レヴェズのうるわしい夢想イマージュだ。ことば
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わが青年わかものの名を田宮峰二郎たみやみねじろうと呼び、かれが住む茅屋くさやは丘の半腹にたちてうるわしき庭これを囲み細き流れの北のかたより走り来て庭を貫きたり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その一々の叙述について述べる時なきを遺憾いかんとするが、十九—二十五節の馬(軍馬)の描写の如きは最もうるわしきものである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
『あゝ、柳川やながはさん、わたくしは、貴方あなた此世このよ御目おめからうとは——。』とつたまゝ、そのうるはしきかほわたくし身邊しんぺん見廻みまはした。
博士 ……この女思込みし事なれば、身のやつるる事なくて、毎日ありし昔のごとく、黒髪を結わせてうるわしき風情。……
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人はますます団結的な気持になり、うちそろって銭湯に行き、野呂は僕の背中を、僕は野呂の背中を流してやりました。げにうるわしきは友情です。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
同情はもちろんうるわしい心のあらわれであります。同情なくては真の解放は、到底できうべきものではありません。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
私は踊りに関しては門外漢だから論じられぬが、うるわしき舞子が、美わしく装うて、美わしき背景の前に、美わしく舞うたのはさすがに美わしかった。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
秋の夕日に清の乗つたくるまの輪がきら/\と輝いて、希望に充ちた清の眼には確かにうるはしいものゝ一つであつた。
若芽 (新字旧仮名) / 島田清次郎(著)
彼らは相見互あいみたがいたすけあい、心と心とのやりとりをもって、より強くうるわしく、生きる道を知っていたからだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
農鳥山の鳥形のうるわしいことを、自分に説いてくれたのは、前に引合に出した友人N君である、N君は早稲田文科の出身で、創作に俊秀の才を抱きながら
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
緯度三十度にわたる海岸、世界で最もうるわしい最も豊饒なそれでいてこれまで無人の境と選ぶところがなかったこの海岸が、みるみる富裕な文明国と化した。
そういう燦然さんぜんたる現象を、おそらく人間の内部の最もうるわしい不可思議を、ジャヴェルは知ったであろうか。
竹の柵に押し並んだ見物の頭の上から、花婿人形と花嫁人形の、うるわしく着飾った胸から上が見えていた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何故といふに、それらの行ひの最もうるはしいところは、その行ひを隱さうと欲するところにあるからだ。
パスカルの言葉 (旧字旧仮名) / ブレーズ・パスカル(著)
また、捲毛のうるわしい少女は泣きくずれながら、父の腕にすがって、声を惜しまずかきくどくのでした。
もとよりその生長は、いつでも正しさや深さやうるわしさを目標として進むべきなのは言うをちません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そのそばに小さくなってシクシクと泣いているのは、十六七の小娘で、眉目みめうるわしさや、抜群ばつぐんの可愛らしさからみても、それはお君の妹のお吉でなければなりません。
機縁きえんは熟して、その年十月十七日神甞祭かんなめさいの日に、玉の如くうるわしくはないが、玉の如く丸い男の子が出生した。日どりの関係かんけいは、神さまがよくさばいていたのである。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
……新しいブリキ鑵の快よい光! 山本山と銘打った紅いレッテルのうるわしさ! 彼はその刹那に、非常な珍宝にでも接した時のように、軽い眩暈めまいすら感じたのであった。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
あの初冬の若葉は一年を通して樹木の世界を見る最もうるわしいものの一つだ。「冬」はその年も槇の緑葉だの、紅い実を垂れた万両なぞを私に指して見せた。万両の実には白もある。
三人の訪問者 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ナニ此奴こやつら、服装なりこそうるわしけれ、金持ちでこそあれ、たかの知れたもののみである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さては五色まばゆき蜀錦しょくきんのいろなるなど、蔭になりたる壁より浮きいでてうるわし。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
最早こゝでペンをさしおかねばなりません。願わくば神あなたの寂寥せきりょうを慰めて力を与え玉わんことを。願わくばあなたの晩年が、彼露西亜ろしあうるわしい夏のゆうべの様に穏に美しくあらんことを。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
阿古屋の珠は年古りて其うるみいよいよ深くその色ますますうるはしといへり。わがうた詞拙くふしおどろおどろしく、十年とゝせ經て光失せ、二十年はたとせすぎてにほひ去り、今はたその姿大方散りぼひたり。
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
うるわしい天上の夢から、汚ないどぶの中へ叩き落されたような幻滅げんめつである。
見よ、彼等の夫婦手を執り合って外出する時の有様などは、如何にもむつまじげにうるわしく、楚々衣にもえぬらしい妻を良人おっとたすけて、喃々なんなん私語して歩いているところを見ては殊勝であることを。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
自然そのままのけがれのない清純な女性の形象かたちをとってこの現世おつつよに存在している、いわばそれは若竹の精霊だ。微塵みじんの悪徳もなく、うるわしい天然の姿のままで。それはあの竹林の中に生きている。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「木製の人形」が引込むと、次はプログラムにしたがって、「シャンソン 朝顔の歌」それから「ダンス うるわしのよい」いずれも彼女は出ない。「シャンソン 遥かなるサンタ・ルチア」も出ない。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丁度今しも手なし美人はうるはしい哀れげな声で御詠歌を唄つてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
純潔にして生氣せいきあり、はたうるはしき「けふ」の日よ
白鳥 (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
草うるはしき岸のうへに、いとうるはしき君がおも
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
見おこせたまへさかづきを、げにうるはしき
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
かつてうるわしくおおいなる宮殿みやい——
神にませばまことうるはし那智なちの滝
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
うるわしくもおそろしきは浮世なれ
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
うるはしの 髪切虫よ
髪切虫 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
正直や良心や真実や静かな仕事や静かな喜び、それでもなお詩的たるを失わないそれらの、うるわしい中流人士的魂の朗らかな凡庸さ。
ぼく先生せんせい對座たいざして四方山よもやま物語ものがたりをしてながら、熟々つく/″\おもひました、うるはしき生活せいくわつがあるならば、先生せんせい生活せいくわつごときはじつにそれであると
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いまそのうるはしく殊勝けなげなる夫人ふじんが、印度洋インドやう波間なみまえずなつたといては、他事ひとごとおもはれぬと、そゞろにあわれもようしたる大佐たいさは、暫時しばらくしてくちひらいた。
頬をペタペタたたかれるような気持をしながらも、ここまで来ると、岩石のうるわしき衰頽と壊滅は、古城の廃趾のように、寂びを伴って、その石なだれの尖端は
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
この語の前半はまことにうるわしき心情を示した語として有名であるが、実はそれは誤訳である。「彼れ我を殺すとも我は彼を待ち望まず」と改訳すべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
信長は、椅子をさして、床几とんだ。うるわしい天鵞絨びろうど密陀塗みつだぬりのような塗料をもって造られてある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幼君えうくん御機嫌ごきげんうるはしく、「よくぞ心附こゝろづけたる。かねてよりおもはぬにはあらねど、べつしかるべきたはむれもなくてやみぬ。なんぢなんなりとも思附おもひつきあらばまをしてよ。」と打解うちとけてまをさるゝ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天は何ぜなれば揃いも揃った極重悪人に、かくもうるわしき肉体を附与し給うたのであろう。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
倫理學説が其の價値を認めずとするも、忠臣義士は長へに忠臣義士たり、孝子烈婦は長へに孝子烈婦たり、人間の最もうるはしく貴むべき現象たることに於ては毫も渝るところ無き也。
美的生活を論ず (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)