ますます)” の例文
日本の教育=忠孝仁義を説きながら、実は物質万能、智識万能を教える日本の教育当局の方針も、この思想をますます底深く養い上げた。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
よし子は顔を画に向けた儘、尻眼しりめに三四郎を見た。大きなうるほひのあるである。三四郎はますます気の毒になつた。すると女が急に笑ひ出した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
朝起きると、父はあおざめながらも、まなこだけますます鋭くなった顔を、曇らせながら、黙々として出て行った。玄関へ送って出る瑠璃子るりこ
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三四年ぜんよりは別居も同じ有様に暮し居候始末にて、私事一旦の身のけがれやうやく今はきよく相成、ますます堅く心のみさをを守り居りまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
(トルストイは先生へ手紙をよこしたよし。)論じ来り、論じ去って、先生の意気大いに昂るや、眼はいよいよきょの如く、顔はますます蝙蝠に似たり。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
子寧しねい手をもて舌血ぜっけつを探り、地上に、成王せいおう安在いずくにあるの四字を大書たいしょす。帝ますます怒りて之を磔殺たくさつし、宗族そうぞく棄市きしせらるゝ者、一百五十一人なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
水量はますます多くなるが反対に勾配はいよいよ緩くなって、大淵に至る迄の六、七里の間に於て二百余米の落差あるのみであるから
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
PからFへ、FからHへと国語がこの二千年間に進んだものが、現在南島に縮写されていることは、伊波君の記述によってもますますあきらかになり来った。
新古今と後鳥羽院の作物が、愈進んでますます廃頽趣味に近づいた理由は、今までの長談義の中心にしてゐるものであつた。
画工俳優音曲の諸芸家例によつて例の如くなればますますよし。小説家例によつて例の如くなれば文運ここに尽く。小説家を以て世に立たんことまことにかたし。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
剉焼舂磨ざしょうしょうまの獄を立て、輪廻報応りんえほうおうの科をそなう。善をなす者をして勧んでますます勤め、悪をなす者をして懲りて戒めを知らしむ。法の至密、道の至公しこうと謂うべし。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
下村海南という御老人の老いてもますますなるジャーナリストとしての注意力のあらわれ方を興味をもって眺めました。
ことに晩年にのぞみて、教法の形式、制限を脱却することますます著るしく、全人類にわたれる博愛同情の精神いよいよ盛なりしかど、一生の確信は終始ごうかはること無かりき。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
不思議に思ってますます耳を澄ましていると、合の手のキャンキャンが次第に大きく、高くなって、遂にはいびきの中を脱け出し、其とは離ればなれに、確に門前もんぜんに聞える。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これに反して私費を以て東京に往こうとするものがあると、藩はすでにその人の脱藩を疑った。いわんや家族をさえ伴おうとすると、この疑はますます深くなるのであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今は平和にかへり、機関もますます整頓せられた。自分は此処でも佇立してややしばらく感慨にふけつた。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかして其由来する所をたずぬれば、多くは自ら招くものなれど、事ここに至りては自ら其非をさとるといえども、其非を改むる力なく、或は自暴自棄となりてますます悪事を為すあり
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
文学家の方にはますます知人が無い。佐藤春夫氏は彼の無名時代に肖像を画いたのがあるので知っている。彼の首には秀抜な組立がある。彼を彫刻で作らなかったのが心残だ。
人の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
今後こんごするところは士族に固有こゆうする品行のなるものを存してますますこれを養い、物をついやすの古吾こごを変じて物を造るの今吾こんごとなし、あたかも商工のはたらきとって士族の精神に配合し
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
遺書を見るに及びてますます復讐ふくしゅうの志を固うす。偶々たまたま久吉順礼姿となりて楼門下に来り、五右衛門と顔を見合すを幕切まくぎれとす。これを読まばこの筋の評するねうちなきこと自らあきらかならん。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
「貴様は他人ひとの秘密をうかがっていと思いますか。」と彼はますます怪げな笑味えみを深くする。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
予は起って庭から空模様を眺めた。風は昨日に増すとも静まる様子はさらに無い。土色雲の悪魔はますます数を加えて飛びかけって居る。どう見ても一荒ひとあれ荒れねば天気は直りそうもなく思われる。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
購読者はますます喜んで見る事になったので兼て日本新聞やその他の各新聞で子規氏の俳風を広めていたが上に、この機関雑誌の広く行わるると共に益々我々が俳風は世間に普及する事になった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
自分は「二銭銅貨」の作者がますます自重して、多くの立派な作品を提供せられんことを切望し、それと同時にこの作が他の多くの立派な探偵小説家の輩出する導火線とならんことを祈るのである。
「二銭銅貨」を読む (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
東亜の風雲ますます急なるよしを告げ、この時この際、婦人の身また如何いかむなしく過すべきやといいけるに、女史も我が当局者の優柔不断をなげき、心ひそかに決する処あり、いざさらば地方に遊説して
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
書籍ヲあがなフ財ヲ要スルナリ器械ヲ求ムル財ヲ要スルナリいやしくモ此学ノ考証ニ備ヘ此学ヲシテますます明ナラシムル所以ノモノハ皆一トシテ財ヲ要セザルナシ財ヲ投ゼザレバ書籍器械等一切求ムル所ナシ故ニ曰ク財ヲおしム者ハ植学者タルヲ得ズト
しかし細君の肩を持つという事は、或場合において、健三を敵とするという意味に外ならなかった。二人はますます離れるだけであった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何しにその幸なものを、人間の手に罰しようぞ。これよりますます、『でうす』の御戒おんいましめを身にしめて、心静に末期まつご御裁判おんさばきの日を待つたがよい。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
悪魔式鼻の表現はこの間に活躍して縦横無礙むげにその効果を挙げるので、鼻の表現研究の必要もここに到って又ますます甚だしくなるのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
子を生みし後も宮が色香はつゆうつろはずして、おのづか可悩なやまし風情ふぜいそはりたるに、つまが愛護の念はますます深く、ちようは人目の見苦みぐるしきばかりいよいくははるのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
広い河原はますます広くなって、水の流れた跡が箒目のように残っている細かい砂の上には、無数の羚羊かもしかの足痕が印してある。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
其につれて呪言の本来の部分は、次第に「の文」化して、叙事気分はいよいよ深くなり、三人称発想はますます加つて行く。
滔々とうとう数千言すせんげんつぶさに其の人となりを尽す。うちに記す、晩年ますます畏慎いしんを加え、昼のす所の事、夜はすなわち天にもうすと。愚庵はたゞに循吏じゅんりたるのみならざるなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼等はしばしば夜を徹して無用なる文字の遊戯に耽ったが、人の子をそこなうものとしてその会合は禁止せられずその門徒は解散せられず時勢と共にますますさかんになった。
冬日の窓 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
之を近づくれば固より相引き之を遠ざけてもますます相引かんとするは夫婦の間なれども、之を近づくれば常に相き之を遠ざくれば却て相引かんとするは舅姑と嫁との間なり。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
日が、トップリ暮れてしまった頃から、あらしますます吹きつのった。海はしきりに轟々ごうごうえ狂った。波は岸を超え、常には干乾ひからびた砂地を走って、別荘の土堤どての根元まで押し寄せた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
斯ういう順序で私の想像で堕落するやまいますます膏肓こうこうって、ついには西洋へ迄手を出して、ヂッケンスだ、サッカレーだ、ゾラだ、ユゴーだ、ツルゲーネフだ、トルストイだ、という人達の手をりて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
以テ正確ニシテ従フベキト為サズ反覆討尋其正ヲ得テ以テ時ニ或ハ書説ニ与シ時ニ或ハ心ニ従フ故ヲ以テ正ハいよいヨ正ニ誤ハますます遠カル正ナレバ之ヲ発揚シテ著ナラシメ誤ナレバ之ヲしりぞけテ隠ナラシム故ニ身ヲ終ルト雖ドモ後世ニ益アリ是レ書ヲ以テ家屋トズシテ書ヲ友トナスノ益ニシテ又植学ヲ修ムルノ主旨ハ則チ何ニ在ルナリ
いや、そう云う内にも水嵩みずかさますます高くなって、今ではとうとう両脛りょうはぎさえも、川波の下に没してしまった。が、女は未だに来ない。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
殊に「女は不正なるべし、ただし処女に限る」とか、「不良病ますますおもる」とかいうあたり、冗談かも知れぬが舌を捲かざるを得ない。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
もしやと聞着けし車の音はやうやちかづきて、ますますとどろきて、つひ我門わがかどとどまりぬ。宮は疑無うたがひなしと思ひて起たんとする時、客はいとひたる声して物言へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しまいにわが住宅を挙げて人手に渡した頃は、もうどうする事も出来なかった。日を重ね月を追ってますます悲境に沈んで行った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一図のあやまりは必ず他図にありても常に之を繰返し、加之しかのみならず必然の結果として誤読と誤写とはますます増加せるものの如し。
古図の信じ得可き程度 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
雨降れば泥濘の帝都ますます其の特徴を発揮し自動車の泥よけ乾く間もなく待てども来らず来れども乗れぬ電車を見送って四辻の風に睾丸も縮み上る冬は正に来れり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其に大和宮廷の伝承では、丹生神を、後入のみぬま神と習合して、みつはのめとしたらしいのを見ると、ますます湯坐・湯母の水に関した為事を持つた事も考へられる。
水の女 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
即ち新夫婦相引く者をしてますます引かしめ、新旧相衝くのうれいを避けて遠く相引かしむるの法なり。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
学を好みけいを治め、の家居するや恂々じゅんじゅんとして儒者の如く、しかも甲をき馬にほこを横たえて陣に臨むや、踔厲たくれい風発、大敵にいてますますさかんに、年十九より軍に従いて数々しばしば偉功を立て
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
勝彦の名が瑠璃子の唇をれると、勝平のおおきい顔は、ますます苦り切ってしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こは予にして若し彼等に幸福なる夫妻を見出さんか、予の慰安のますます大にして、念頭いささかの苦悶なきに至る可しと、早計にも信じたるが故のみ。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
少年の言葉はますます出でて益異様である。しかしこのような余り人の知らない内情を知っているからには作り事ではないらしい。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)