獅子しし)” の例文
その大男が、獅子ししえるような声でしゃべっているのですが、何を言っているのかサッパリわかりません。日本語ではないのです。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
恐ろしき六月十八日の様はよみがえってき、人工の記念の丘は消え、何かのその獅子ししの像も消散し、戦場はまざまざと現われて来る。
鬼子の最も怖ろしい例としては、明応七年の昔、京の東山の獅子ししたにという村の話が、『奇異雑談集きいぞうだんしゅう』の中に詳しく報ぜられている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
幾頭の獅子ししける車の上に、いきおいよく突立ちたる、女神にょしんバワリアの像は、先王ルウドヰヒ第一世がこの凱旋門がいせんもんゑさせしなりといふ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼は純金の獅子ししを立てた、大きい象牙の玉座の上に度々太い息をらした。その息は又何かの拍子に一篇の抒情詩に変ることもあった。
三つのなぜ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お前は何歳で獅子ししに救われ、何歳で強敵にい、何歳で乞食こじきになり、などという予言を受けて、ちっともそれを信じなかったけれども
苦悩の年鑑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こは大なる母衣ほろの上に書いたるにて、片端には彫刻したる獅子ししかしらひつけ、片端には糸をつかねてふつさりと揃へたるを結び着け候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……怎麼いかかれ獅子しし(畑時能が飼ひし犬の名)の智勇ありとも、わが大王に牙向はむかはんこと蜀犬しょっけんの日をゆる、愚を極めしわざなれども。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
が、憤怒に心の狂いかけていた勝平にとっては、最後の通牒つうちょうだった。彼は、寝そべっていた獅子ししのように、猛然と腰掛から離れた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
アフリカの天国ではおそらくゴリラや獅子ししが温順で、南洋の天国では多分空いっぱいにバナナがぶら下がっていることであろう。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
もっとも石屋の方ではおもに石塔のようなものを彫っているが、時には獅子しし、狐、どうかすると観音などを彫っていることもある。
「牛や象を見たまえ、皆菜食党だ。体格からいったら獅子ししとらよりも優秀だ。肉食でなければ営養が取れないナゾというのは愚論だよ。」
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
どうでえ、手前てめえできのいい女郎に、子供を生ませて——とこう眺めていると、鼻は獅子しし鼻、歯は乱杭らんぐい、親の因果が、子に報いってつらだなあ
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
女は例のごとく過去の権化ごんげと云うべきほどのきっとした口調くちょうで「犬ではありません。左りが熊、右が獅子ししでこれはダッドレーの紋章です」
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
立ちなおろうとしたが、もがけばいっそうからみつくばかり。あわてた与吉が、自分の半纒をかぶって獅子しし舞いをはじめると……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
吠えるように雑兵はののしる。それはただ逃げたがっている焦躁しょうそうにすぎないが、獅子しし乳児あかごには敵の心をはかることなどできなかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水夫たちは、みを浮かべて、火夫たちに挨拶あいさつしながら通った。それは、まるで、目をさました獅子ししの第一声のようでもあった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「はてな。あの穴は何だらう。獅子ししのほらあなかも知れない。少くとも竜のいはやだね。」と先生はひとりごとを言ひました。
鳥箱先生とフウねずみ (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
老博士の卓子テーブル(そのあしには、本物の獅子ししの足が、つめさえそのままに使われている)の上には、毎日、累々るいるいたる瓦の山がうずたかく積まれた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
絢爛けんらんな色彩の古画の諸仏、羅漢らかん比丘びく比丘尼びくに優婆塞うばそく優婆夷うばい、象、獅子しし麒麟きりんなどが四壁の紙幅の内から、ゆたかな光の中に泳ぎ出す。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なんだ、獅子ししさん、たいそういばったが、それだけのことか。ごみのようにばされるどころか、このとおり貧乏びんぼうゆるぎもしないよ。」
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しそこに越えることの出来ない溝渠こうきょがあるというならば、私はむしろ社会生活を破壊して、かの孤棲こせい生活を営む獅子しし禿鷹はげたかの習性に依ろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
子分の獅子ししぱなの竹造を連れて、一夜をここに明かしたのであったが、今も今、帰ろうと立ちかけた矢先に、聞き捨てならぬ珍しい話だった。
話さないでもお前は大底しつてゐるだらうけれど今の傘屋に奉公する前はやつぱり己れは角兵衛の獅子ししを冠つて歩いたのだからと打しをれて
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
愚かなるわれら杞人きひと後裔こうえいから見れば、ひそかに垣根かきねの外に忍び寄るとら獅子ししの大群を忘れて油虫やねずみを追い駆け回し
時事雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私に獅子ししの役をやらしてください。ひなをやる女鳩めばとのように、私はやさしくえてみせます。うぐいすかと思われるように、私は吼えてみせます。
広太郎にとっては一生懸命、相手の右手めての膝のあたりへ、太刀先をつけて構え込んだ。いわゆる、「獅子ししのほらいで」である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この自分は街にやって来る獅子ししの笛を遠方からきいただけでも真青になって逃げて行ったが、あの頃の恐怖の純粋さと、この今の恐怖とでは
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
きつね獅子しし。一四八四年版。William Caxton 印行本、第四巻。原寸大。British Museum 蔵。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ばあちゃんは歯がお神楽かぐら獅子ししを見るようにずらりと金歯であった。私はいまでも金歯の目立つ人を見ると、このばあちゃんのことを思い出す。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
わに駝鳥だちょう山羊やぎ鹿しか斑馬しまうま、象、獅子しし、その他どれ程の種類のあるかも知れないような毒蛇や毒虫の実際に棲息せいそくする地方のことを話し聞かせた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
友次郎は少し獅子ししぱなをうごめかし気味に、下水の端っこにしゃがんだ八五郎の、あまり賢くなさそうな顔を見上げました。
湯呑ゆのみ獅子ししの尾にこの赤を使ってあったが、余り立派なので、買いたくてたまらなかったが、五円いくらというので、して帰ったのを覚えている。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
牢屋のまわりの森のなかは、鳥やけものでいっぱいでした。わしおおかみ獅子ししのようなおそろしいのもまじっています。馬はおどろいてはねあがりました。
銀の笛と金の毛皮 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
 熱帯地方の砂漠さばくの中で、一疋の獅子ししが昼寝をして居た。肢体したいをできるだけ長く延ばして、さもだるさうに疲れきつて。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
山野における猛獣はすべて攻める獣であって、もし獅子ししを攻める獣の王とすれば、守る獣の王はまさしく犬であります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
同じ獅子ししあなに入るにしても、相手がおのれを食らうなど思えばおそろしくなるが、この獅子ししみだりに人をわぬことが分かれば、恐怖の念が去る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それはすべてのものがそこへ入って行くが何ものもそこから出て来ないところの「獅子ししの住む洞穴」ででもあるのか。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
どんな事でも後には引かぬという性格をあらわしているようで、その切れ目の長い眼の底には、獅子ししでも睨み殺す光りが籠もっているように見える。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その頃祭日に国旗を出さぬと獅子ししならぬ志士があばれに来ると聞いて下町の横町などでは驚いて三越へ旗を買いに行ったという話をきいた事もあった。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
笑ひたくなるは無理はなし、されど其処そこを堪へるもたしなみなり、親父が猿を使ふからは、今に奮発して獅子ししを使つて見せてやると気に張を持て、ほい違つた
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
例えていえば、ねずみのように弱そうなのには、獅子ししのように強そうな名、瓦や土くれのような女の子にはルリやハリのような名をつけるというたぐいである。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
あなたがたはこの命令の発布はっぷ者がどんな性格の人であるかを忘れはすまい。獅子ししの意志はねずみにはわからない。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「林をいでかえってまた林中に入る。便すなわち是れ娑羅仏廟さらぶつびょうの東、獅子ししゆる時芳草ほうそうみどり、象王めぐところ落花くれないなりし」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
彼は高価な寝台の彫刻に腹を当てて、打ちひしがれた獅子ししのように腹這はらばいながら、奇怪な哄笑をもらすのだ。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
たとえばやみの底にうずくまってかすかに息づいている獅子しし、或は猛虎もうこの発散するエネルギーと香りを感じさせる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
十節、十一節は獅子ししたけきも亡ぶることあれば、不義者の亡ぶる如き当然のみとの意を表わしたのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
昨年『大阪新報』に、動物園の象と獅子しし等に関する記事を掲げてあった。これ、もとより迷信療法である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
牡鹿おじか獅子ししのそばにねているところや、殺されたものがむくむくと起き上がって、自分を殺したものを抱擁ほうようするところを、ちゃんと自分の眼で見届けたいのだ。
その白と黒の毛色が、木々の中に際立きはだつて鮮やかに見えた。これこそベシーの Gytrashガイトラッシュ ——長い毛と大きな頭とを持つた獅子ししのやうな動物の姿だつた。