猟師りょうし)” の例文
旧字:獵師
青笹村大字糠前ぬかのまえの長者の娘、ふと物に取り隠されて年久しくなりしに、同じ村の何某という猟師りょうしる日山に入りて一人の女にう。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「こんなかわに、なにがいるもんか。もっとみずふかい、日当ひあたりのいいところでなくては、さかなってきはしない。」と、猟師りょうしはいいました。
北の国のはなし (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ハハハ……、そんなもんで商売にゃならねえよ。あれを見な。ほらあすこに鉄砲がかけてある。あれがおらの本職だ。おらは猟師りょうしだよ。」
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのために、彼は常に往来する要処要処に、「馬継うまつぎ」をする小屋をもっている。多くは猟師りょうしの小屋か、木挽こびき小屋などであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猟師りょうしのように髪をつかみ乱して荒繩で束ね、垢づいた布子を着て、すさまじい男の恰好になっているが、顔を見れば、まぎれもなく年若いむすめだった。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その男は、背中にけものの毛皮をつけ、足にわらじをはき、こしに大きな山刀さんとうをさして、猟師りょうしのようにも見えましたが、なんだか、ひとくせありげなようすでした。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
東京では蜜柑の皮でさえ薬種屋やくしゅやへ買いに行かねばならぬのにと思った。夜になると、しきりにつつの音がする。何だと聞いたら、猟師りょうしかもをとるんだと教えてくれた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この猟師りょうしなんぞはなんでもない。いまおれがいきをひとつすればどくにあたってすぐんでしまう。
手紙 一 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
 まぶしとは猟師りょうしが木の枝などを地に刺し、そのかげに隠れて鉄砲を放つものなりとぞ。一のまぶしとはまぶしいくつもあるうちに第一に射撃すべき処をいふにやあらん。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ところが、ここでニールスはガチョウのせなかからっこちて、猟師りょうしにつかまってしまいました。
武は夢がめて不思議に思い、朝になって友人に逢って、田七郎という者はないかと訊いてみた。友人の一人に知っている者があって、それは東の村の猟師りょうしであるといった。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
鳥が逃げ場を失くして懐中ふところへ飛び込んで来れば、猟師りょうしもその鳥を殺さないとかいうではありませんか。お父つぁん、しっかりして下さいよッ! 耄碌もうろくなさらないで下さいよ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
背後うしろ一帯いったいの山つづきで、ちょうどその峰通みねどおりは西山梨との郡堺こおりざかいになっているほどであるから、もちろん樵夫きこり猟師りょうしでさえさぬ位の仕方の無い勾配こうばいの急な地で、さて前はというと
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「文字ノ害タル、人間ノ頭脳ヲ犯シ、精神ヲ痲痺まひセシムルニ至ッテ、スナワチ極マル。」文字を覚える以前に比べて、職人はうでにぶり、戦士は臆病おくびょうになり、猟師りょうしは獅子を射損うことが多くなった。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
康頼 窮鳥きゅうちょうがふところに入る時は猟師りょうしもこれを殺さないと申しますが。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
おまえさん、ひとちで七つもやっつけた男に、こんなことがものの数にはいるとでも思ってるのかい。おれはな、下で猟師りょうしがやぶんなかへ鉄砲てっぽうをうってるから、ちょいと木をとびこえただけなのさ。
農民たちや炭焼きや猟師りょうしたちが喜んだことは、いうまでもない。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
村にはみんなのきらいな猟師りょうしと犬がいたからであります。
狐のつかい (新字新仮名) / 新美南吉(著)
すると途中とちゅうで、なんでもこのあいだのこと、猟師りょうしやまでくまをちそこねて、くまのためにおおけがをしてやまくだったというはなしをききました。
猟師と薬屋の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「さっきもいった通り、時節の来るまで、世から隠れて、薬草採りをしたり、猟師りょうしわざをまねたりして、あの者たちと三人して暮しているのじゃ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山の猟師りょうしにとっても重大な問題で、毎度おそらくは声を立てずに、こうして指を出して相手に知らせ、またはうわさをしていたことがあったろうかと思う。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
次郎七じろしち五郎八ごろはちという村の猟師りょうしでありまして、その日遠くまで猟に行って、帰りが遅くなったのでした。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
卓の上には地球儀ちきゅうぎがおいてありましたしうしろのガラス戸棚とだなにはにわとりの骨格やそれからいろいろのわなの標本、剥製はくせいおおかみや、さまざまの鉄砲てっぽうの上手にどろでこしらえた模型、猟師りょうしのかぶるみの帽子ぼうし
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
猟師りょうしが傷ついたけものを追っかけているのと同じですからね。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
猟師りょうしたちはうたをうたいながら、をこいだり、あみげたりしていますと、きゅうくもおもてをさえぎったように、太陽たいようひかりをかげらしました。
黒い人と赤いそり (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれどまた、迂眼うがん者の強味は、相手を知らぬところにある。鹿を追う猟師りょうしの山を見ずだ。信雄もその例に洩れない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
簔帽子みのぼうしをかぶった専門の猟師りょうしが、草をざわざわ分けてやってきました。
注文の多い料理店 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「よし、おれが、今日きょうはしとめてくれるぞ。」とりきんで、猟師りょうし足音あしおとしのんで、ちかよって、そのようすをうかがいました。ところがどうでしょう。
猟師と薬屋の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ここに住む猟師りょうしの夫婦も、こちらの尋ね事については、さっぱり要領を得ないが、ただ内儀かみさんが夕方、買物に出た帰りみち、街道で見かけたという話は
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしどもは貧乏びんぼうで、おきゃくさまにおきせする夜具やぐもふとんもないのでございますが、せがれが猟師りょうしなもので、今夜こんやは、どこかやま小舎こやまりますから
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
兵を派して、猟師りょうし小屋を探させ、道をただしてみると——ここ二日間の彷徨ほうこうは、まったく目的地とは反対な方角へ向いて、うろついていたことがわかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとで、このはなしきいたむらひとたちは、猟師りょうしをほめれば、また薬屋くすりやさんを感心かんしんな人ひとといって、ほめたのであります。
猟師と薬屋の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「なあに、お山はあのとおり、いつもと変ったところはない、きっと猟師りょうしが、野火のびでもだしたんだろうよ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なるほど、猟師りょうしおおきな灰色はいいろをしたわしをっていました。青年せいねんは、毎日まいにちのように大空おおぞらたかんでいったとりは、このわしであったかとおもいました。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そいつをまた、猟師りょうしいのししでもしょッ曳くように、大勢して、わいわい山まで持ってきたわけでござんす。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多くは土民の姿で、武士もじっているが、樵夫きこり猟師りょうしかと見えるのが多い。山法師ていの男もいる。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下男げなんは、そうかとおもいました。そこでいといて猟師りょうしおしえてくれたようなかわさがしてあるきました。
北の国のはなし (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるのこと、猟師りょうしたちが、いくそうかの小舟こぶねっておきていきました。さお北海ほっかい水色みずいろは、ちょうどあいながしたように、つめたくて、うつくしかったのであります。
黒い人と赤いそり (新字新仮名) / 小川未明(著)
その老母はまた、わしが家へ帰ってから程なく床につき、わしは猟師りょうしや百姓仕事をして食っていた。どんなに飢えても、ふしぎな程、以前の悪心はもう起らなかった。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やっと、善光寺平ぜんこうじだいらへ出て、人々はややほっとした。しかし、あれから松本の里へ出て、木曾路の通路かよいじをたずねると、今はまだ、猟師りょうしさえ通れない雪だというのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、やまから一人ひとり猟師りょうし鉄砲てっぽうをかついで、むねにぴかぴかひかるものをげてりてきました。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしに、そのぴかぴかひかるかぎをゆずってくださいませんか。」と、青年せいねんは、猟師りょうしたのみました。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
遠方から猟師りょうしが見つけたら狙いそうな恰好である。半兵衛は牛を降りて、つかつかとそこへ近づいて行った。そして藤吉郎の前へ自分も坐った。慇懃いんぎんに頭を下げていった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれを捕れ、あれを射よ、と猟師りょうしの如く追いまくった。しかしようやく彼は一命を拾った。それは突として、山の一方から馳け降ってきたふしぎな一軍が助けたのである。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やっと、おじいさんは、むらのはずれにきました。そこには、猟師りょうし平作へいさくんでいました。
鉄砲を持っている男は猟師りょうしらしいし、野差刀のざしを横たえているのは木樵きこりと見てさしつかえない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いまごろ、おまえさんは、なにをっていなさるんだい。」と、猟師りょうしはききまました。
北の国のはなし (新字新仮名) / 小川未明(著)
人の知らぬ小太郎山こたろうざんの峡をぬけて、おくへ奥へと二ほどはいった裏山うらやま、ちょうど、白姫しらひめみね神仙しんせんたけとの三ざんにいだかれた谷間たにまで、その渓流にそった盆地ぼんちの一かくそま猟師りょうし
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで暫くの間は、あなたの空に立っている煙が、ひとつのたのしみとなって、部落があるのか、それとも炭焼のたむろか、猟師りょうしの小屋か、などとしきりに皆の空想の目標になる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「返辞はない。ふところにはいった窮鳥きゅうちょうをむごい猟師りょうしの手にわたすわけにはゆかぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)