ほん)” の例文
いくさだけは一命仕事、いのちをほうりだして、してみること以外には、ひとのはなしや、もののほんからも楽に学ぶことはできません」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日は折柄の日曜日、読了へたのを返して何か別のほんを借りようと思つて、まだ暑くならぬ午前の八時頃に小川家を訪ねたのだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
余りの不思議さに自分は様子を見てやる気になって、ある小蔭こかげに枯草を敷ていつくばい、ほんを見ながら、折々頭を挙げての男をうかがってた。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
地獄ぢごく夜叉やしゃ肉體からだには何者なにものませうとや? あんな内容なかみにあのやうな表紙へうしけたほんがあらうか? あんな華麗りっぱ宮殿きゅうでん虚僞うそ譎詐いつはりすまはうとは!
清三は一円五十銭で、一人寝の綿蚊帳がやを買って来て、机をその中に入れて、ランプを台の上にのせて外に出して、その中で毎夜遅くまでほんを読んだ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
博士はどんなほんでも読む事を知つてゐる。読む事を知つてゐる人は手許に読物を置いてゐないのが一番気楽なものだ。
こう妙に胸に響くような心地こころもちがしましてね——それはこのほんにも符号しるしをつけて置きましたが——それから知己しるべうちに越しましても、時々読んでいました。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
何という汚れたほんだろう。そう考えた彼は「一代女」を引割いて捨てた話をして、ひどく足立には笑われた。それらのことが一緒に成って胸の中を往来した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
紙片しへんと鉛筆を出して姓名を請うたら、斗満大谷派説教場創立係世並よなみ信常しんじょう、と書いてくれた。朝露のは子供にほんを教え、それから日々夫婦で労働して居るそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから自分がほんを読んだり、他の童子こどもほんを読んだり、唱歌をしたり、嬉しがって笑ったり、怒って怒鳴どなったり、キャアキャアガンガンブンブングズグズシクシク
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
知らずに、どうして親類が見舞われるのだよ。お前さんはほんばかり読んでいる人だね。私の家へお出でよ、御飯でもあげよう。汚い寝台もあるから、明日の朝帰って、苗字を
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
誰れも知らぬことに顔赭らめ、イヤこれだとその下にあった樺色の表紙を、あわてゝ何のほんとも知らず指さすと、本屋は難有うと云って、二銭の剰銭つりとそのほんとを取って渡した。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
物のほんで見た鬼界ヶ島の俊寛しゅんかん! それさながらの人間が、そこに群れているのである。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あるいは後年にいたって大老井伊掃部頭いいかもんのかみは開国論を唱えた人であるとか開国主義であったとか云うような事を、世間で吹聴ふいちょうする人もあればほんあらわした者もあるが、開国主義なんて大嘘だいうそかわ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして家へ歸ると直に、澤山の原書を取ツ散かした書齋に引籠ひきこもツて、ほんを讀むとか、思索に耽るとか、よし五分の時間でもむだに費やすといふことが無い。ひとから見れば、淋しい、單調な生活である。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ほんを読んだりしましたので。一通りは私も姉からおそわりました。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
こだはれるさびしさありてほん読むにしきりにも啼く篭の鳥かも
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
「いや、こんどは、百姓はせぬ。毎日、坐禅でもするかな。——伊織、おまえはほんを読め、そしてみっしり太刀の稽古をつけてやろう」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きいろい本の表紙には、“Trueツルー Loveラヴ”と書かれた。文科の学生などの間に流行はやつてゐる密輸入のアメリカ版の怪しいほんだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
下人 はて、そのやうことほんくてもれましょ。いや、まなこむものをばまッしゃりますかときますのぢゃ。
前に話した松の根で老人がほんを見ているひまに、僕と愛子は丘のいただきの岩に腰をかけて夕日を見送った事も幾度だろう。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その先達に初歩ふみはじめおそわってこの道に入りましてから、今年でもう十六年になりますが、つえとも思うは実にこのほんで、一日もそばを放さないのでございますよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それに、一人でほんばかり読んでいるのは、若い者にはしですよ、神経衰弱になったり、華厳けごんに飛び込んだりするのはそのためだと言うじゃありませんか。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
死んだ棄児すてごの稲次郎が古巣に、大工の妾と入れ代りに東京からほんを読む夫婦の者が越して来た。地面は久さんの義兄のであったが、久さんの家で小作をやって居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
色男の秘訣と題したほんがふと目に留り、表紙に細々と載てある目録を、見るように見ぬように、むしろ見ぬように見ぬように、横目で読むにその初めが娼妓買じょろうかいの秘訣芸妓買の秘訣
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ひどい歴史好きで、自分でもほんこしらへたが、菅原道真の伝記を書く段になつて、この人に廿四人子供が居て、そのなかで名前が知れてゐるのは五人しか無いのをひどく気苦労に病んだ。
その頃の小父さんはいかめしい立派な髯をはやした人で、何度も何度も受けてはうまく行かなかった代言人の試験にもう一度応じて見ると言って、捨吉の机の前へ法律のほんなぞを持って来たものだ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分の生れた時に初めて拳げたオギャア/\の声も他人の㘞地ぎやつと云つた一声も、それから自分がほんを読んだり、他の童子こどもが書を読んだり、唱歌をしたり、嬉しがつて笑つたり、怒つて怒鳴つたり
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
枯草の上に腰かけながら一人の今道心いまどうしんほんを読んでいる。
崖の肌やら、草叢くさむらやら、あちこちに、ベトベトになって散らばっているほんの残骸をながめて、伊織は、何より未練そうにつぶやいた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其麽そんな事から、この町に唯一軒の小川家の親籍といふ、立花といふうちに半自炊の様にして泊つてゐるのだ。服装みなりを飾るでもなくほんを読むでもない。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いつでしたか箪笥たんすを明けますとね、亡くなりました悴のあわせの下からほんが出てまいりましてね、ふと見ますと先年外国公使の夫人がくれましたその聖書でございますよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕の足音を聞いて娘はふとこの方へ向いたが、僕を見てにっこり笑った。続いて先生も僕を見たがいつもの通りこわい顔をして見せて持っていたほんふところへ入れてしまった。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ほん沢山たくさんあるうち、学を読む家、植木が好きな家、もとは近在の人達が斯く儂の家の事を云うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
大助は残りの十九人の名前を調べ出さなければ、天神様に済まぬとでも思つたものか、色々なほん渉猟あさつてみた。だが、多くの大事な事を捜す場合と同じやうにほんには何一つ書いてなかつた。
されば学資はありあまる、ほんは自由に買い込む、それで読む読まぬにかかわらず机の前を離れたことがないので、目賀田は遂に字引になるのだとの評が、同窓の学友の口から往々れることがあった。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ほんを売るか、蚊帳かやでも質に入れたくらいな小遣いで、泳ぎに来た連中である。庄次郎が、無一文だと聞くと、おぞ気をふるッて、逃げだした。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほんを讀んでも何が書いてあるやら解らず。これや不可いかんと思つて、聲を立てて讀むと何時しか御經の眞似をしたくなつたり、薩摩琵琶の聲色になつたりする。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分が一度犬をつれ、近処の林をおとない、切株に腰をかけてほんを読んでいると、突然林の奥で物の落ちたような音がした。足もとにていた犬が耳を立ててきっとそのほうを見つめた。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
狂人きちがひほん12・22(夕)
めいめいが一冊ずつのほんをかかえて、禰宜ねぎの荒木田様の学問所へ、国語や和歌のお稽古にゆくことが日課であった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奈何どうしたといふのだらう?」と自分の心が疑はれる。莫迦な! と叱つても矢張り氣が氣でない。強ひてほんを讀んで見ても、何が書いてあつたか全然心に留らない。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
空気洋燈らんぷ煌々くわう/\かゞやいて書棚の角々かど/\や、金文字入りのほんや、置時計や、水彩画の金縁きんぶちや、とうのソハにしいてある白狐びやくこ銀毛ぎんまうなどに反射して部屋は綺麗きれいで陽気である、銀之助はこれがすきである。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
だが、被害は、ほんどころではない。彼と武蔵の住む家さえ、跡形もなくひしがれて、手のつけようもない有様。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
靜子は、氣がさした樣に、俄かにそれを閉ぢて以前のほんの間に重ねた。そして、逃げる樣に室を出た。心はそこはかとなく動いて、若々しい皷動が頻りに胸を打つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
或日あるひ自分は何時いつものように滑川なめりがわほとりまで散歩して、さて砂山に登ると、おもいの外、北風が身にしむのでふもとおり其処そこら日あたりのい所、身体からだのばして楽にほんの読めそうな所と四辺あたり見廻みまわしたが
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さうほんばかり入れられては蒲團の入れ場所がなくなつてしまふと女共の抗議がくる始末なので、屏風もここへ引つ越して來た際に、その押入の奧へ横に突つこみ
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
初めての土地で、友人と云つては一人も無し、う寒くてはほんを讀む氣も出ぬもので、私は毎晩、唯モウ手の甲をひつくり返しおつくり返し火にあぶつて、火鉢に抱付く樣にして過した。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ごろりところげてだいなり、坐團布ざぶとん引寄ひきよせてふたつにをつまくらにしてまた手當次第てあたりしだいほんはじめる。陶淵明たうえんめい所謂いはゆる「不甚解くらゐいがときに一ページむに一時間じかんもかゝることがある。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
寝転んで、ほんを読んでいる間もふと、ニタリと、悪魔的な微笑ほほえみがひとりでにくちの辺へのぼってくる——
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)