せい)” の例文
達子が自分を急き立ててるのはそのせいだなと、昌作はふと考えついた。けれど、禎輔のそうした様子の方へ、彼の心は惹かされた。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
次第に短気のまさりて我意わがままつよく、これ一つは年のせいには御座候はんなれど、随分あたりの者御機げんの取りにくく、おほ心配を致すよし
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
にせ文明の悪風ようやく日本の奥までも吹き込んで、時々この辺に来る高慢な洋人輩ようじんはいや、軽薄な都人士等とじんしらの悪感化を受けたせいもあろう。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
同じメリケン粉でも伊太利いたりー仏蘭西ふらんすの南部の方から出るのは気候風土が日本に似ているせいか大層粘着力が多くって饂飩には極く上等です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「でしょう。一体にこの辺の人は強酒ごうしゅです。どうしても寒い国のせいでしょうネ。これで塾では誰が強いか。正木さんも強いナ」
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
剛愎ごうふくな忠次も、打ち続く艱難かんなんで、少しは気が弱くなっているせいもあったのだろう。別れるのなら、いっそ皆と同じように、別れようと思った。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
また好きな初冬はつふゆが来た。今年は雨が多いので、勤めに出かける人などは困つたらうと思ふ。しかしその雨のせいか、今年の紅葉の色は非常に好い。
初冬の記事 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
少し言い草は乱暴ですが八五郎の半間な調子にごうを煮やしたせいもあったでしょう。佐吉は忌々いまいましそうに舌打ちをしました。
上品ではあツたが、口の利方ききかたせた方で、何んでもツベコベと僥舌しやべツたけれども、調子の好かツたせいか、ひとに嫌はれるやうなことはなかった。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
新「それは誠にお気の毒様で、う見えたので……気のせいで見えたのだね……眼に付いて居て眼の前に見えたのだナあれは……んな綺麗な顔を」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あるひはラブがなかつたせいかもれぬ。つましんからわたしれてるほど、夫婦ふうふ愛情あいじやうあぶらつてないせいかもれぬ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
つい広小路から近いので度々お邪魔にくる馬春堂のせいみたいに思われて、飛んだ飛ばッちりを食うという易のお言葉だ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三十ねんもうすと現世げんせではなかなかなが歳月つきひでございますが、こちらではときはか標準めあてせいか、一こうそれほどにもかんじないのでございまして……。
(私は、春の日光には耐えられないから、眼の弱いせい。床の間をつぶして北に窓をあけようかと思って居ります。)
ことに又ぞろ母からの無理な申込で頭を痛めたせいか、その夜は寝ぐるしく、怪しい夢ばかり見て我ながら眠っているのか、覚めているのか判然わからぬ位であった。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
急に安心をしたせいか、この時初めて恐ろしい風だということに気が附きました。それまでは全く夢中でした。
気のせいか京都の秋は東京よりも星がはッきり見える。私は何も考えていないときの癖で星を仰いで歩いた。
幽霊を見る人を見る (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
その熱いせいだったのだろう、握っている掌から身内に浸み透ってゆくようなその冷たさは快いものだった。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
まだ酒に酔っていたせいか知らと、無理に理屈を附けても見たが、それも何だか覚束ないようにも思われた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
乃公は委細構わずハンケチをもやし始めたが、余り香水が沢山附いているせいか、燃えが悪い。けれども兎に角半焼ぐらいになったから、乃公は机の引出へほうり込んだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
出歩かない上に、満月の夜のあとさきは、海が明るいので昼だと思って、じっと砂にもぐっていて、餌一つとろうとしないそうですから、多分そのせいかも知れませんよ。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「妾は人一倍一刻者、厭な人は厭、好きな人は好きと、こうきめて掛かるせいか、一層紋十郎さんは嫌いでござんす」花桐は深く眉をひそめ、さも厭そうに云うのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
利平は、咽喉のどがつまりそうであった。それに熱でも出て来たせいか、ゾッと寒気さむけが背筋を走った。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
そして、それが幸子のせいだと云って、彼女は鳥渡ちょっとでも姿をかくしたりすると、旻は一層亢奮して看護婦や女中を怒鳴りつけて、幸子を呼んでくれと云い張ってきかなかった。
勝敗 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
父親が歿なくなると、男振りのよいせがれたちはじきに店をつぶしてしまった——もっともそれには御維新の瓦解がかいというものがあったせいもあろうが——二人の忰はありったけの遊びをして
ボクソウルは一応スミス船長に報告して、直ちに狼煙ロケットの打揚げ方に掛ったのだが、キャリフォルニアンからは何の応答こたえもないが、気のせいか段だん近づいて来るようにも思える。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
気のせいだか人気ひとけがないように思われる。石子刑事ははっと顔色を変えて居間に飛込んだ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
観世音がもつ、あの男でもない女でもない不思議な魅惑を、私は東洋の南方にむすびつけて考えたりした。私もまた文明の汚血よりの恢癒かいゆを祈っていたひとりだったせいもあろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼は長い間浮浪犬としてひもじい目をしたせいであろ、食物を見ると意地汚いじきたなくよだれを流した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一つには一どうがひつそりとして咳拂せきばらひをもせぬせいであらうがきはめて明瞭めいれうきとられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
従妹いとこに引とめられてしまつて、汽車に乗つたのはかれこれ晩の六時すぎでもあつたであらう、よるせいか乗客は割合に少ない、今朝けさ手紙をしていたからうちでも待つて居るであらう
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
子供が戦争いくさごッこをやッたり、飯事ままごとをやる、丁度そう云った心持だ。そりゃ私の技倆が不足なせいもあろうが、併しどんなに技倆が優れていたからって、真実ほんとの事は書ける筈がないよ。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
罪のない幼児おさなごだからと漫然と思ったり、本能的な生活が幼児時代の特色だと、すべてのことを人の本能のせいに考えたりしているようですけれど、決して全然本能のみではありません。
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
……あれも長いこと都の中で育ったせいか、どうもあの軟弱な都の悪風に染まってしまって、豪放ごうほうなところが欠けていて困る。あれだけは厳しくしつけて直さなければどうにもならんな。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
背の高い、細長い体に、厚ぼったい霜降りの外套を着て、後襟だけをツンと立てているが、うす紅色の球の大きなロイド眼鏡をかけているせいか眼の下の頬がほんのりと赤味をさしている。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
左様そうなんかねえ、年紀としせいもあろう、一ツは気分だね、お前さん、そんなに厭がるものを無理に食べさせない方が可いよ、心持を悪くすりゃ身体のたしにもなんにもならないわねえ。」
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「分らん、頭が混乱するばかりだ。——ゆうべよく眠っていないせいかも知れない」
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
八重子は今まで所謂娘役ばかりして来た。年齢としせいもあり、何時までも若い芸風のせいでもあらう。しかし、もう其処から一歩踏み出して、マダム役に入つて行く心構へが必要ではないかと思ふ。
先づ脱却すべきは (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
併し、気のせいか彼女の美しいかがやきの顔に、不安の影がさっと通った様に思えた。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
しゅうとや小姑の多勢いたうちの妻になりきれなかったのはこのせいである。屈辱とも不義とも思わず小日向こびなた水道町すいどうちょうの男の家へ誘われるがままに二度まで出掛て行ったのもまたこの性情によるのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さしもに広い法廷も立錐の余地がないくらい……普通の傍聴人や新聞社関係の人々は一人も入場を許さなかったせいか法廷内の空気は一層物々しく厳粛を極めておりましたようで……その真ん中に
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
佐々木繁氏来示には、陸中遠野地方で、草刈り誤って蛇の首を斬ると、三年経てその首槌形となり仇をなす。依ってかかる過失あった節は、われのせいじゃない、鎌の故だぞと言い聞かすべしというと。
空腹のせいだったのです。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「それは眼敏めざとくていらるるせいなんでしょうよ。元からそうでしたよ。それに年を取って来ると猶更そうなるものです。」
田原氏の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
女学生はかわるがわる茶を入れたり、菓物くだもの階下したから持運んだりした。歩いて来たせいか、三吉ばかりは額から汗が出る。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
電車道の、鋪石ペーヴメントが悪くなっているせいか、車台はしきりに動揺した。信一郎の心も、それに連れて、軽い動揺を続けている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さなきだに不思議ふしぎ妖精界ようせいかい探検たんけんに、こんな意外いがい景物けいぶつまでもえられ、こころからおどろることのみおおかったせいか、そのわたくしはいつに疲労つかれおぼ
東北の農業の振わないのは、農事の困難なため、都会へ都会へと皆の気が向いて居るせいでも有ろうと思われる。西国の農民は富んで良い結果をあげて居る。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
足した。近所から傳染病が出たせいでもあることか、其處らに人が住むでゐるとは思はれぬやうに静だ。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
苛税かぜい誅求ちゅうきゅうの結果、少しばかりの金を儲けたとて仕方なしとの、自暴自棄に陥ったせいもあろうが、要するに大体の政治その宜しきを得ず、中央政府及び地方行政官は
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)