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掌
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たなごころ
ふりがな文庫
“
掌
(
たなごころ
)” の例文
「誅戮などと云う怖ろしい世界が、御仏の
掌
(
たなごころ
)
の中にあろうとは思われませんでした。私は推摩居士が悲し気に叫ぶ声を聴いたのです」
夢殿殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
横になツて、砂についた片肱の、
掌
(
たなごころ
)
の上に頭を載せて、寄せくる浪の穂頭を、ズツト斜めに見渡すと、其起伏の様が又一段と面白い。
漂泊
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
われを
目
(
もく
)
して「
骨董
(
こつとう
)
好き」と言ふ、誰か
掌
(
たなごころ
)
を
拊
(
う
)
つて
大笑
(
たいせう
)
せざらん。唯われは古玩を愛し、古玩のわれをして
恍惚
(
くわうこつ
)
たらしむるを知る。
わが家の古玩
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
殊に幼いM子は、色白の美しい上に、明敏な質であったので、生れ落てから直ぐ鏡花夫人の愛の
掌
(
たなごころ
)
に抱れて、三つとなり五つとなった。
友人一家の死
(新字新仮名)
/
松崎天民
(著)
ここが
陥
(
おち
)
れば、蜀中はすでに玄徳の
掌
(
たなごころ
)
にあるもの。ここに敗れんか、玄徳の軍は
枯葉
(
こよう
)
と散って、空しく征地の鬼と化さねばならぬ。
三国志:09 図南の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
▼ もっと見る
それは夫人が今の返辞を聞くと等しく、河内介が捧げている品物に
掌
(
たなごころ
)
を合わせながら床にぺったり
膝
(
ひざ
)
をついてしまったのであった。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
天下を
掌
(
たなごころ
)
のうちに握る太政入道は、たとい王侯将相のお言葉はお用いなくとも、わたくしたちの願いはみんな聞いて下さいました。
大菩薩峠:36 新月の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
第一の光明はわが
掌
(
たなごころ
)
にといつた風に、いづれも骨太の腕をさし伸べてゐる。地に生れて天を望むといふのは、思ふだに痛ましい。
森の声
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
そしてかれは
掌
(
たなごころ
)
に載せた石をつくづくと見まもりながら、愛着の
籠
(
こも
)
った調子で
呟
(
つぶや
)
くように云った、「おれはこの素朴さを学びたいと思うよ」
石ころ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
掌
(
たなごころ
)
に無限を
把握
(
はあく
)
しうる人です。しかも、この今日に生きる人こそ、真に過去に生き得た人です。未来にも生き得る人です。
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
しんしんとして、
木蓮
(
もくれん
)
は
幾朶
(
いくだ
)
の
雲華
(
うんげ
)
を
空裏
(
くうり
)
に
擎
(
ささ
)
げている。
泬寥
(
けつりょう
)
たる
春夜
(
しゅんや
)
の
真中
(
まなか
)
に、和尚ははたと
掌
(
たなごころ
)
を
拍
(
う
)
つ。声は
風中
(
ふうちゅう
)
に死して一羽の鳩も下りぬ。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
自分の
掌
(
たなごころ
)
のなかに彼女の手を
把
(
にぎ
)
り
緊
(
し
)
めていると、わたくしのこの胸には、それまで想像だもしなかったほどの愉しい気持ちが
漲
(
みなぎ
)
って来るのでした。
墓
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
其上、朝令暮改、
綸旨
(
りんし
)
は
掌
(
たなごころ
)
を飜す有様である。今若し武家の
棟梁
(
とうりょう
)
たる可き者が現れたら、恨を含み、政道を
猜
(
そね
)
むの士は招かざるに応ずるであろう。
四条畷の戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
地獄も見て来たよ——極楽は、お手のものだ、とト
筮
(
うらない
)
ごときは
掌
(
たなごころ
)
である。且つ寺子屋仕込みで、本が読める。五経、
文選
(
もんぜん
)
すらすらで、書がまた
好
(
よ
)
い。
絵本の春
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
……あなたが屋敷を出られて、ここへ来られるまで、いったい、どんなことをなさったか、いわゆる、
掌
(
たなごころ
)
をさすように解きあかしてお目にかけましょう
顎十郎捕物帳:10 野伏大名
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
しかし考巧忠実な店員に接し
掌
(
たなごころ
)
をさすように求める品物に関する光明を授けられると悲観が楽観に早変わりをする。
読書の今昔
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
尼は仏壇の方に向き直って、ヒタと
掌
(
たなごころ
)
を合せました。
滂沱
(
ぼうだ
)
と頬に流れるは声のない涙、——それに合せて、どこからともなくすすり泣く声が起ります。
銭形平次捕物控:069 金の鯉
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
また
乾酪
(
チーズ
)
を一口
銜
(
ふく
)
んで吐き出すとしても、そこいらにペッと唾をするではなく、人にわからぬように、そうっと
掌
(
たなごころ
)
に受けて、人知れず棄てるところなぞ
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
ついで路地の出入口を
記
(
き
)
し、その分れて那辺に至り又那辺に合するかを説明すること、
掌
(
たなごころ
)
を
指
(
さ
)
すが如くであった。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
かつその質点の説のごとき、
粒々
(
りゅうりゅう
)
これを
掌
(
たなごころ
)
に見るがごとし。ああ化学の熟する、目また全牛を見ざらんとす。
記
(
しる
)
して同好のいまだこれを知らざる者に告ぐ。
化学改革の大略
(新字新仮名)
/
清水卯三郎
(著)
蒸気鉄槌をその
拳
(
こぶし
)
とし、起重機をその
掌
(
たなごころ
)
とし、溶鉱炉をその心臓とするところの、あらゆる過去を、あるいはその一撃をもって粉砕するであろうところの
近代美の研究
(新字新仮名)
/
中井正一
(著)
甲の方は相当に綺麗だが、
掌
(
たなごころ
)
の中に、薄赤い連銭模様があり、それが
赤棟蛇
(
やまかがし
)
の脇腹のように、腕の上にまで延びていた。彼はその手を投げ出すようにした。
指と指環
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
その靴足袋には、小さな
脛
(
はぎ
)
の形がまだかわいく残っていて、ほとんどジャン・ヴァルジャンの
掌
(
たなごころ
)
の長さほどしかなかった。それらのものは皆黒い色だった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
まさしく貴嬢を見るあたわず両の
掌
(
たなごころ
)
もて顔をおおいたるを貴嬢が
同伴者
(
つれ
)
の年若き君はいかに見たまいつらん。
おとずれ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
その右に立っている法輪寺虚空蔵は、百済観音と同じく左手に澡瓶を把り、右の
肱
(
ひじ
)
を曲げ、
掌
(
たなごころ
)
を上に向けて開いている。これも観音の
範疇
(
はんちゅう
)
に入りそうである。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
政宗の生るる前、米沢の城下に行いすまして居た念仏行者が有って満海と云った。満海が死んで、政宗が生れた。政宗は左の
掌
(
たなごころ
)
に満海の二字を握って誕生した。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
五本の指、
掌
(
たなごころ
)
、
前膊
(
ぜんはく
)
、
上膊
(
じょうはく
)
、肩胛骨、その肩胛骨から発した肉腫が頭となって、全体が
恰
(
あだか
)
も一種の生物の死体ででもあるかのように、血に
塗
(
まみ
)
れて横たわって居た。
肉腫
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
彼女の、白い手が、雪之丞のほっそりした手首をつかんで、わが胸に、
掌
(
たなごころ
)
を押し当てさせるのであった。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
その前列の
石燈籠
(
いしどうろう
)
は、さまで古いものとは思われないが、六角形の笠石だけは、奈良の
元興寺
(
がんごうじ
)
形に似たもので、
掌
(
たなごころ
)
を半開にしたように、指が浅い巻き方をしている。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
泉原は家主の婆さんからその話をきいて、すっかり気を
挫
(
くじ
)
かれて
了
(
しま
)
った。
稍
(
やや
)
明るくなりかけていた気持が大きな
掌
(
たなごころ
)
で押えつけられたように、
倏忽
(
たちまち
)
真暗になって了った。
緑衣の女
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
いながらにして乾雲を取りまく一味の助勢を
掌
(
たなごころ
)
を指すように知っているのか、それがふしぎと言えばふしぎだったが、忠相の今の口ぶりでは、誰か本所化物屋敷の者が
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
これが又一層
不便
(
ふびん
)
を増すの料となつて、孫や孫やと、その祖父祖母の寵愛は
益
(
ます/\
)
太甚
(
はなはだ
)
しく、
四歳
(
よつ
)
五歳
(
いつゝ
)
、
六歳
(
むつ
)
は、夢のやうに
掌
(
たなごころ
)
の中に過ぎて、段々その性質があらはれて来た。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
クリストフはいらだって、
爪
(
つめ
)
が
掌
(
たなごころ
)
にくい込むほど
拳
(
こぶし
)
を握りしめた。それからはもう何にも尋ねなかった。そして彼女が外出するときには、何か口実を設けて家に残っていた。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
少し明るくなっている圃には、桑が一面に黒い、大きな
掌
(
たなごころ
)
のような葉を日に輝かしている。
僧
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
一つひとつの星の象徴が、皮膚の
渦紋
(
かもん
)
となって人間の
掌
(
たなごころ
)
にありありと沈黙していたのだ。
ヤトラカン・サミ博士の椅子
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
『説苑』七に
楊朱
(
ようしゅ
)
が梁王に
見
(
まみ
)
えて、天下を治むる事
諸
(
これ
)
を
掌
(
たなごころ
)
に
運
(
めぐ
)
らすごとくすべしという。
十二支考:06 羊に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
懶
(
ものう
)
そうでもある。けれども作者はそんなことは何もいわない。ただ起きもせず
掌
(
たなごころ
)
を見る男を描き出して、
頗
(
すこぶ
)
る冷然としている。俳諧の非人情的態度の一として見るべきであろう。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
ところが
美濃守殿
(
みののかみどの
)
の一
件
(
けん
)
で、
言
(
い
)
はゞ五
萬
(
まん
)
三
千石
(
ぜんごく
)
の
家
(
いへ
)
が
立
(
た
)
つか
潰
(
つぶ
)
れるかを、
其方
(
そち
)
の
掌
(
たなごころ
)
に
握
(
にぎ
)
つたも
同樣
(
どうやう
)
、どんな
言
(
い
)
ひがかりでも
付
(
つ
)
けられるところだと、
内々
(
ない/\
)
で
注意
(
ちうい
)
してゐると、
潔白
(
けつぱく
)
の
其方
(
そち
)
は
死刑
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
今はなかなか
文
(
ふみ
)
に
便
(
たより
)
もあらじと教へられしを、筆持つは
篤
(
まめ
)
なる人なれば、長き長き
怨言
(
うらみ
)
などは
告来
(
つげこ
)
さんと、それのみは
掌
(
たなごころ
)
を指すばかりに待ちたりしも、疑ひし卜者の
言
(
ことば
)
は不幸にも
過
(
あやま
)
たで
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
と
掌
(
たなごころ
)
にて我が額を叩き、
可笑味
(
おかしみ
)
たくさんの身振にて、ずつと膝を進ませ。
誰が罪
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
献身者は全く新たな目標を向うに見つけて未知の
途
(
と
)
に
上
(
のぼ
)
る。身心を挙げてすべてに当るより外はない。肉身といえばか弱い。心といっても
掌
(
たなごころ
)
に握り得るものでもない。ただあるものは
渇仰
(
かつごう
)
である。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
それもまた人夫には、自分の
掌
(
たなごころ
)
を見るようにはっきりとわかっていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
逐
(
お
)
はむとする者も見えざりければ、虹汀今は心安しと、奪ひし小刀を
亡骸
(
なきがら
)
に返し、
掌
(
たなごころ
)
を合はせ
珠数
(
じゅず
)
を
揉
(
も
)
みつゝ、念仏両三遍
唱
(
とな
)
へけるが、やがて黒衣の雪を打ち払ひて、いざやとばかり仏像を
負
(
お
)
ひ取り
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
民の名望一たび爾の
有
(
ゆう
)
に帰せば彼らを感化する
掌
(
たなごころ
)
を
反
(
かえ
)
すより易し
基督信徒のなぐさめ
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
その働き具合は
掌
(
たなごころ
)
の中にあるようにわかって来ました。
グスコーブドリの伝記
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
そうして堅く上様の手を、
掌
(
たなごころ
)
の中で握り締めた。
血煙天明陣
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
母はときどき
掌
(
たなごころ
)
を見る
仏教人生読本
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
のっけた
掌
(
たなごころ
)
運勢
(新字新仮名)
/
波立一
(著)
「
天竺
(
てんじく
)
南蛮の
今昔
(
こんじゃく
)
を、
掌
(
たなごころ
)
にても
指
(
ゆびさ
)
すように」
指
(
さ
)
したので、「シメオン
伊留満
(
いるまん
)
はもとより、
上人
(
しょうにん
)
御自身さえ舌を捲かれたそうでござる。」
さまよえる猶太人
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
信長から、
於蘭
(
おらん
)
、ひとつ
小舞
(
こまい
)
せい、といわれればすすんで舞い、
鼓
(
つづみ
)
をせよと命じられれば、非常によい
高音
(
たかね
)
をその
掌
(
たなごころ
)
から出して聞かせた。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“掌”の意味
《名詞》
(てのひら、たなごころ)手首より先、手の物を掴むときに物と接する面。
(出典:Wiktionary)
掌
常用漢字
中学
部首:⼿
12画
“掌”を含む語句
掌中
合掌
両掌
掌上
職掌
仙人掌
掌握
手掌
鞅掌
熊掌
車掌
掌面
右掌
職掌柄
掌底
掌大
仏掌藷
掌裡
孤掌
平掌
...