挙動ふるまい)” の例文
旧字:擧動
さればこそ、嬢さんと聞くとひとしく、朝から台所で冷酒ひやざけのぐいあおり、魚屋と茶碗を合わせた、その挙動ふるまい魔のごときが、立処たちどころに影を潜めた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時十蔵室の入り口に立ちて、君らは早く逃げたまわずやというその声、その挙動ふるまい、その顔色、自己みずからは少しも恐れぬようなり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
其れから先生逝去せいきょ後の御家の挙動ふるまいは如何です? 私はしば/\叫びました、先生も先生だ、何故なぜ先生は彼様な烈しい最後さいごの手段を取らずに
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
在昔ムカシ大名の奥に奉公する婦人などが、手紙も見事に書き弁舌も爽にして、然かも其起居たちい挙動ふるまいの野鄙ならざりしは人の知る所なり。参考の価ある可し。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「その猜疑うたがいことわりなれど、やつがれすでに罪を悔い、心を翻へせしからは、などて卑怯ひきょうなる挙動ふるまいをせんや。さるにても黄金ぬしは、怎麼いかにしてかくつつがなきぞ」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
時とすると子息むすこ夫婦に対する、病的な嫉妬から起るこの老婦としよりの兇暴な挙動ふるまいをもなだめてやらなければならなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たださえおもしろからぬこのごろよけいな魔がさして下らぬ心労こころづかいを、馬鹿馬鹿しき清吉めが挙動ふるまいのためにせねばならぬ苦々しさにますます心平穏おだやかならねど
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
又は変ぽうらいな手附きを為たりなど、よろずに瘋癲きちがいじみるまで喜びは喜んだが、しかしお勢の前ではいつも四角四面に喰いしばって猥褻みだりがましい挙動ふるまいはしない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
既に本人に帰りたい意志があるのを拒絶するのは、健三から見ると無情な挙動ふるまいであった。彼は一も二もなく承知した。細君はまた子供を連れて駒込こまごめへ帰って来た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「淫楽にふけりまして、目も当てられぬ挙動ふるまいをのみ、致しおったそうでござります」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
指物師清兵衛は長二が先夜の挙動ふるまい常事たゞごとでないと勘付きましたから、恒太郎と兼松に言付けて様子を探らせると、長二が押上堤で幸兵衛夫婦を殺害せつがいしたと南の町奉行へ駈込訴訟かけこみうったえをしたので
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
口上はいよいよ狼狽して、ん方を知らざりき。見物はあきれ果てて息をおさめ、満場ひとしくこうべめぐらして太夫の挙動ふるまいを打ちまもれり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことに変わったのは梅子に対する挙動ふるまいで、時によると「馬鹿者! 死んでしまえ、貴様きさまるお蔭で乃公おれは死ぬことも出来んわ!」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
読み書きの稽古けいこをのみするものと心得、その事をさえ程能ほどよく教え込むときは立派な人間になるべしと思い、自身の挙動ふるまいにはさほど心を用いざるものの如し。
家庭習慣の教えを論ず (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
某これより諸国をぐり、あまねく強き犬とみ合ふて、まづわが牙を鍛へ。かたわら仇敵の挙動ふるまいに心をつけ、機会おりもあらば名乗りかけて、父のあだかえしてん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
それらの人の話によると、安心して世帯しょたいを譲りかねるような挙動ふるまいがお島に少くなかった。金遣いの荒いことや、気前の好過ぎることなどもその一つであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
取りあえずそのはや挙動ふるまいとどめておいて、さておおいに踏んんでもこの可憫あわれな児を危い道をませずに人にしてやりたいと思い、その娘のお浪はまたただ何と無く源三を好くのと
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
莫斯科モスクワの小店なぞに切々せっせ売溜うりだめの金勘定ばかりして居るかみさんのマシューリナ、カテーリナならいざ知らず、世界のトルストイの夫人の挙動ふるまいとしては、よく云えばあまりに謙遜けんそん
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
紋「いや容赦ようしゃは出来ん、棄置かれん、今日こんにち挙動ふるまいは容易ならんことじゃ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かえって竜之助の挙動ふるまい惨酷さんこくなのに恨みを抱くくらいでした。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第一回 アアラ怪しの人の挙動ふるまい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
父娘おやこただ、紫玉の挙動ふるまいにのみ気をられて居たらう。……此の辺を歩行ある門附かどづけ見たいなもの、と又訊けば、父親がつひぞ見掛けた事はない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
このころよりかれが挙動ふるまいに怪しき節多くなり増さりぬ、元よりかれは世の常の人にはあらざりき。今は三十五歳といえど子もなく兄弟はらからもなし。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
長く家へ留めておいた上方かみがたものの母子おやこ義太夫語ぎだゆうかたりのために、座敷に床をこしらえて、人を集めて語らせなどした時の父親の挙動ふるまいは、今思うとまるで狂気きちがいのようであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
名に負ふ金眸は年経し大虎、われ怎麼いかかりけたりとも、互角の勝負なりがたければ、虫を殺して無法なる、かれ挙動ふるまいを見過せしが。今御身が言葉を聞けば、わりふあわす互ひの胸中。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
本藩の扶持米を辞退す是れまで申した所では何だか私が潔白な男のように見えるが、中々うでない。この潔白な男が本藩の政庁に対しては不潔白とも卑劣とも名状すべからざる挙動ふるまいをして居ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
父娘おやこはただ、紫玉の挙動ふるまいにのみ気をられていたろう。……この辺を歩行あるく門附みたいなもの、とまた訊けば、父親がついぞ見掛けた事はない。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二郎がこの言葉はきわめて短くこの挙動ふるまいははなはだ単純なれど、その深きこころはたやすく貴嬢きみの知り得ざるところなり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして日頃はらっていた色々の場合のおとらの挙動ふるまいが、ねちねちした調子でなじられるのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「へええ、御串戯ごじょうだんを。」と道の前後をみまわして、苦笑いをしつつ、一寸ちょっと頭を掻いたは、さては、我が挙動ふるまいを、と思ったろう。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のちの旅人は微笑ほほえみて何事もいわざりき。家に帰らば世の人々にも告げて、君が情け深き挙動ふるまい言い広め、ふみにも書きとめて後の世の人にも君が名歌わさばやと先の旅客たびびと言いたしぬ。
詩想 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
他事よそながら、しんし、荷高似内のする事に、挙動ふるまいの似たのが、気とがめして、浅間しく恥しく、我身を馬鹿とののしって、何も知らないお京の待遇もてなしを水にした。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
偏屈の源因げんいんであるから、たちまち青筋を立てて了って、あてにしていた貴所あなた挙動ふるまいすらも疳癪かんしゃくの種となり、ついに自分で立てた目的を自分で打壊たたきこわして帰国かえって了われたものと拙者は信ずる
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかもあきらかに一片の懸念のおもかげは、美しい眉宇びうの間にあらわれたのである。お夏は神に誓って、たわむれにもかかる挙動ふるまいをすべき身ではないのであった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『これが土産みやげだ。ほかに何にもない、そら! これを君にくれる、』と投げだしたのは短刀であった。自分はその唐突とうとつに驚いた。かかる挙動ふるまいは決して以前のかれにはなかったのである。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と二ツいって二ツうなずいた、丹平の打悄うちしおれた物腰挙動ふるまい、いかにもいかにも約束事、と断念あきらめたような様子であった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以上は母が今わのきわの遺言と心得候て必ず必ず女々めめしき挙動ふるまいあるべからず候
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かかる深夜に人目をぬすみて他の門内に侵入するは賊の挙動ふるまいなり。われははからずも賊の挙動をしたるなりけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すべてその挙動ふるまいがいかにもそわそわしていた。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すべて滝太郎の立居挙動ふるまいに心を留めて、人が爪弾つまはじきをするのを、独り遮ってめちぎっていたが、滝ちゃん滝ちゃんといって可愛がること一通ひととおりでなかった処。……
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余り思切った夫人の挙動ふるまいに、呆気あっけに取られて茫然とした主税は、(貞造。)の名に鋭く耳をそばだてた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほざきそうな。これがさ、峠にただ一人で挙動ふるまいじゃ、我ながらさらわれて魔道を一人旅の異変なてい
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
端正どころか、これだと、しごきで、頽然たいぜんとしていた事になる。もっとも、おいらんの心中などを書く若造を対手あいてゆえの、心易さの姐娘あねご挙動ふるまいであったろうも知れぬ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それだけにまた娘の、世馴よなれて、人見知りをしない様子は、以下の挙動ふるまい追々おいおいに知れようと思う。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客僧は思案して、心を落着け、衣紋えもんを直して、さて、中に仏像があるので、床の間を借りて差置いた、荷物を今解き始めたが、深更のこの挙動ふるまいは、木曾街道の盗賊ものどりめく。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時に立窘たちすくみつゝ、白鞘しらさやに思はず手を掛けて、以てのほかかな、怪異けいなるものどもの挙動ふるまいた夫人が、忘れたやうに、つかをしなやかに袖にいて、するりと帯に落して
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その挙動ふるまい朦朧もうろうとして、身動みうごきをするのが、余所目よそめにはまるで寝返ねがえりをするようであった。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その挙動ふるまいを見るともなしに、此方こなた起居たちいを知ったらしく、今、報謝をしようと嬰児あかごを片手に、を差出したのを見も迎えないで、大儀らしく、かッたるそうにつむりを下に垂れたまま
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花やかともいえよう、ものに激した挙動ふるまいの、このしっとりした女房の人柄に似ないすばや仕種しぐさの思掛けなさを、辻町は怪しまず、さもありそうな事と思ったのは、お京の娘だからであった。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このあたりに類はないから、人々は総六が自讃する、怪しき鳥の挙動ふるまいにはさもなくて、湯河原の雲をじ、吉浜の朝霽あさばれや、真鶴の霜毛にして、名だたる函嶺の裏関越え、小田原の神に使した
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)