しばら)” の例文
関白が政宗に佩刀はいとうを預けて山へ上って小田原攻の手配りを見せたはなしなどは今しばらく。さて政宗は米沢三十万石に削られて帰国した。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
竜神より神仏へくういふ普通ふつうせつなれど、こゝにめづらし竜燈りうとうの談あり、少しく竜燈をげすべき説なればしばらくしるして好事家かうずか茶話ちやわきようす。
わたくしはしばらく蘭軒が一時不忍の池の辺に移住したものと看做みなして置きたい。但蘭軒は久しく此に居らずに、又本郷に還つたらしい。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その歌の巧拙はしばらいても、その声のキメの細かさ、緻密ちみつさ、匂やかさ、そうして、丁度刀を鍛える時に、地金を折り返しては打ち
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
綱曳つなひきにて駈着かけつけし紳士はしばらく休息の後内儀に導かれて入来いりきたりつ。そのうしろには、今まで居間に潜みたりしあるじ箕輪亮輔みのわりようすけも附添ひたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
吾妻橋あづまばしをわたり、広い道を左に折れて源森橋げんもりばしをわたり、真直に秋葉神社の前を過ぎて、またしばらく行くと車は線路の踏切でとまった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただ我々がこの具体的実在よりしばらく主観的活動の方面を除去して考えた時は、純客観的自然であるかのように考えられるのである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
その遺臣論はしばらさしおき、私の身の進退は、前に申す通り、維新の際に幕府の門閥制度、鎖国主義が腹の底からきらいだから佐幕の気がない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一句の主眼は春の日を集めた紅絹の眩さにあるのだから、他は各自の連想に任せていいようなものであるが、しばらく前のように解して置く。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
大伴の表へは水を打って掃除も届き、奥には稽古を仕舞って大伴蟠龍軒兄弟が酒宴さかもりをしている。しばらくして「玄関に取次とりつぎがあるよ、安兵衞やすべえ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
パウロ公義と撙節と来らんとする審判とを論ぜしかばペリクス懼れて答えけるは汝しばらく退け、我れ便時よきときを得ば再び汝を召さん
完全な比較研究が、しばらく望まれない。単に類似点を、日琉語族の間につきとめて行くと言ふ程度のものにとゞまるであらう。
日琉語族論 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
が、里見氏はしばらく問はず、事の僕に関する限り、藤森氏の言は当つてゐない。宇野氏も色目を使つたかも知れぬが、僕も又盛に色目を使つた。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
婦人の上はしばらく。男子にして修飾を為さんとする者はすべからく一箇の美的識見を以て修飾すべし。流行を追ふは愚のきわみなり。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
既往の事はしばらいて、これよりは何卒国家の為に誠実真面目になつてこの国の倒れる事を一日もおそからしめんことを御願申すのでございます。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
僕等より遅れてはひつて来た一人の女が彼方此方あちこちしばらく見廻して居たが、ついと寄つて来て僕等に会釈をしながら立つて晶子の日本服を眺めて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
何故其儘に差置たるぞと有ば九助ヘイおそれながら大方すぐに取りにまゐりませうかとぞんじまして其儘しばらく差置ましたと云に越前守殿否々いや/\其方は町役人の下を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
黄は、俺をばかにしたからかたきだが、それはしばらくおいて、村役人は朝廷の官吏で、権勢家の官吏じゃない。もし争う者があるなら双方を調べるべきだ。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
他国のことはしばらいて、間近い我邦に於て御互が預かる子弟を育てるに当りてただ口で言うだけではいけませぬ。
教育家の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
(今の写実小説が果して国民性の醜所をのみ描けるやはしばらく問はざるも)則ち今一層理想的作風を取れとの意となさんか、此の要求の当否はかく
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
姫は我歌を遮り留めて、止めよ、われは悲傷の詞を聞かんことを願はず、汝が心まことに樂しからずば、しばらく我が爲めに歌ふことをめよと宣給ひぬ。
相対的な経済的独立は、要するに悠久な人間生活の過程にしばらくその絶対独立の一つの因素となるに過ぎません。
現在各人の胸に活きているものであるからしばらくいわず、ただ、芸術院賞というようなものを制定したら
近頃の話題 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
探検時代から布教時代に進んでベッテルハイム Bettelheim やギュッツラフ Gützlaff らの宣教師連の手を着けた琉球語学のことはしばら
然れども這般の疑点にいては調査が欠如しおるが如くなるを以てしばらく疑問として保留しおくべし。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蚯蚓などの下等なものはしばらき、蝮、栗鼠ごときやや優等のもの多かった山中には、一疋殺せば数十も集まり来る事ありしを右のごとく大層に言い伝えたのかと想う。
宮川君は何か失敗してしばらく音信もしない。一番気の毒なのは種田君で長いことわづらつた。そして脊髄の疾患で立ち居が不自由になつた。小半里の路さへ歩くにも容易でない。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
思ふにコロボツクルは是等の石器せききを用ゐて草木さうもくつぶ食用しよくえうつくりしならん。石皿のけつして適切てきせつには非ざれど、き名をおもひ付かざればしばら通稱つうしやうに從ふのみ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
鳴鏑めいてきの如くとがりたる声ありて、奈落ならくに通ず、立つこと久しうして、我が五躰ごたいは、こと/″\く銀の鍼線しんせんを浴び、自らおどろくらく、水精しばらく人と仮幻かげんしたるにあらざるかと、げに呼吸器の外に人間の物
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
「活かさず殺さず、しばらくこれを置け、他日必ずこれを活用するの時あらん」と言われたので、この一言に由って、辛うじて会議を通過することが出来たということである(「江藤南白」)。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
府君が上界に奏して、罪を加えようとしておるが、彼は先世に陰徳があって、しばらく不義の富貴を享けておることになっておるから、数年の時間を貸して、滅族の禍に罹らしめることにして、今
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
周囲の人々、引いては世間に対する不面目はしばらく別にしても、彼の自尊心がこの恥辱に耐え得なかった。こうなっては、もうどんなことがあっても、賊の巣窟そうくつをつきとめないでは我慢が出来ぬ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それほどに利くか利かぬかはしばらく問題の外として、かくも江戸ッ児に調法がられるこの持薬で、三百年来事欠かなんだ吾儕の祖先をおもうと、その健康、その体力、恐らくはかれら気で気を医し
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
それは今ここに軽々に述べる事を今しばらく保留しておきたい。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
竜神より神仏へくういふ普通ふつうせつなれど、こゝにめづらし竜燈りうとうの談あり、少しく竜燈をげすべき説なればしばらくしるして好事家かうずか茶話ちやわきようす。
しばらく前人の断定した如くに、山陽は江戸にある間、始終聖堂の尾藤の家にゐたとする。そして尾藤の家から広島へ立つたとする。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
蒲田はしばらく助太刀の口をつぐみて、皺嗄声しわがれごゑ如何いかに弁ずるかを聴かんと、吃余すひさしの葉巻を火入ひいれして、威長高ゐたけだかに腕組して控へたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其処だけ切り離して考へて見れば、玉堂鉄翁はしばらく問はず、たとへば小室翠雲こむろすゐうんにも数歩を譲らざるを得ないかも知れない。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「まだいくらにもなりません。地震前は前からなんで御在ますけれど、しばらく休んで、先月からまた出始めましたんです。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このさいにおける論の当否はしばらく、平生茅堂が画におけるを観るに観察の粗なる嗜好しこうの単純なる到底とうてい一般素人の域を脱する能はざるが如し。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
巴里パリイしばらく慣れて居た者が倫敦ロンドンに来て不便を感じるのは、悠悠いういう店前テラスの卓に構へる事の出来る珈琲店キヤツフエまつたく無いのと、食物しよくもつ不味まづいのとである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かはよろこなみだむせびけりしばらくして馬士まご云樣話はうちで出來るから日のくれぬ中うまのらつせへいや伯父をぢ樣と知ては勿體もつたいない馬鹿ばか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
芸妓の事は固より人外としてしばらく之をき、事柄は別なれども、上流社会に於ても知らずして自から誤るものあり。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのエー男女なんにょ同権たる処の道を心得ずんば有るべからず、しばらく男女同権はなしと雖も、此事これは五十百把の論で、先ず之をたきゞ見做みなさんければならんよ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
桃太郎猿蟹合戦さるかにかっせんたぐいも珍らしからざるべく、また『韓非子かんぴし』『荘子そうじ』などにでたるも珍らしからざるべければ、日本支那のはしばらさしおきて印度の古話をあつつづ
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そういう下層の労役に服している婦人はしばらくとするも、明治の教育を受けたという中流婦人の多数がやはり首なし女である。何らの思想をも持たないのである。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
人事的葛藤を描く上から見ると、蕪村の句が最も力があり、活動してもいるようであるが、句の価値はしばらく第二として、自然の趣はかえってこの句にゆずるかと思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「わが立ち隠るべき、おもしろの野を焼くな。野はふる草まじり新草生ひて、寝好ネヨげに見ゆるを」と、かう説いてしばらく私の考への、更に熟するのを待ちたいのである。
風俗習慣あるいは民俗を支配する思想からしばらく脱すれば、西人東人の共鳴する所が多い。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
譬へば千尋ちひろの海底に波起りて、さかしま雲霄うんせうをかさんとする如し。我筆いかでか此聲を畫くに足らん。あはれ此聲、人の胸より出づとは思はれず。しばらく形あるものにたとへて言はんか。