うつは)” の例文
かしこに謙遜へりくだれる聖歌の作者きぬひきかゝげて亂れ舞ひつゝ恩惠めぐみうつはにさきだちゐたり、この時彼は王者わうじやに餘りて足らざりき 六四—六六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
彼は何も打ち忘れてゐるのだ。無心な帰依から信仰が出てくるやうに、自からうつはには美が湧いてくるのだ。私は厭かずその皿を眺め眺める。
雑器の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
ならんだぜんは、土地とち由緒ゆゐしよと、奧行おくゆきをものがたる。突張つツぱるとはづれさうなたなから飛出とびだした道具だうぐでない。くらからあらはれたうつはらしい。御馳走ごちそうは——
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
水はうつはにしたがふものだ。おい、おい、佐竹。今晩だけ、ふたりで仲よく遊ばう。僕がいいところへ案内してやる。日本でいちばん好いところだ。
ダス・ゲマイネ (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
仁左衞門は押とゞめ汝がうつは小細々々ちひさい/\今懷中の物を取のみにては面白からず後のたねにする工風くふうありまづ其方兩人は斯樣々々かやう/\に致せと言付萬澤の御關所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
唯継は彼のものいふ花の姿、温き玉のかたち一向ひたぶるよろこぶ余に、ひややかにむなしうつはいだくに異らざる妻を擁して、ほとんど憎むべきまでに得意のおとがひづるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
萬事に圖太くなり切れぬ小心な潔癖が結局組織者としても小さなうつはに過ぎぬことのあかしであるかも知れなかつた。
一過程 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
一尺程の大きさの伊勢海老が持ち出され、薄黄の色のソオスが白いうつはに入れられて来たので貧乏ぶるひをするやうであつた卓もいささかの花やかさが加はつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
とうの中將殿(重衡)も管絃くわんげんしらべこそたくみなれ、千軍萬馬の間に立ちて采配さいはいとらんうつはに非ず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
一日あるひ門人某は受けた物の処置に窮した。わたくしはその何のうつはであつたかを知らぬが、定て甚だ大きかつただらうと推する。又某の名を知らぬが、定て率直な人であつただらうと推する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
(たれむしろをする事堂上だうしやうにもありて古画にもあまた見えたる古風なり)勝手の方には日用のうつはあまたとりちらしたるなかに、こゝにも木鉢きばち三ツ四ツあり、囲炉裏ゐろりはれいの大きくふかきの也。
十太夫 ぢやによつて滅多に取出したことはないのぢやが、今宵は白柄組のお頭水野十郎左衞門様がお越しに相成るについて、殿様格別のお心入れで、御料理のうつはにそのお皿をおつかひなさる。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
あさには患者等くわんじやらは、中風患者ちゆうぶくわんじやと、油切あぶらぎつた農夫のうふとのほかみんな玄關げんくわんつて、一つ大盥おほだらひかほあらひ、病院服びやうゐんふくすそき、ニキタが本院ほんゐんからはこんでる、一ぱいさだめられたるちやすゞうつはすゝるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
まつたくそうだ』と帽子屋ばうしやつて、『うつは始終しゞゆう使つかはれてるやうに』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そして卓が少しぐら附いて、上に載せてあるうつはが触れ合つて鳴つた。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
火の燃ゆればあはれなること限りなしあかあかとをどる厨のうつは
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
美しさ何か及はむなみ/\と玻璃はりうつはにたゝえたる水
かろきねたみ (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しづかに帰つて来た……小さな歌のうつは
優しき歌 Ⅰ・Ⅱ (新字旧仮名) / 立原道造(著)
人見て、なほ歡樂よろこびうつはとせば
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
うつはの色も影も変らない
(新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
天下のうつはとして
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
フラーテゴミータといひ、萬の欺罔たばかりうつはなりき、その主の敵を己が手に收め、彼等の中己をめざるものなきやう彼等をあしらへり —八四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
正直の徳を守らぬものは、よきうつはとなることが出来ぬ。工芸は雑器に於て凡ての仮面を脱ぐのである。それは用の世界である。実際を離れる場合はない。
雑器の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
貴族院の椅子を占めて優に高かるべきうつはいだきながら、五年を独逸ドイツに薫染せし学者風を喜び、世事をなげうちて愚なるが如く、累代の富を控へて、無勘定の雅量をほしいままにすれども
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
されど支那商人のきたりて真鍮のうつは並べて商ふ、それはまだよし、孔雀の色に何時いつも変らぬ紺青こんじやう青竹色あおたけいろのこちたき色を交へし絹の模様物を左右より見せ附けられさふらふ苦苦にがにがしくさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
うつははたとへ、ふたなしの錻力ブリキで、石炭せきたんくささいが、車麩くるまぶたの三切みきれにして、「おいた。まだ、そつちにもか——そらた。」で、帆木綿ほもめんまくしたに、ごろ/\した連中れんぢうくばつたにせよ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其側そのそば小使こづかひや、看護婦かんごふくつ煉瓦れんぐわゆか音高おとたか踏鳴ふみならして往來わうらいし、病院服びやうゐんふくてゐるせた患者等くわんじやらとほつたり、死人しにんかつす、不潔物ふけつぶつれたうつはをもつてとほる。子供こどもさけぶ、通風とほりかぜはする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おれは古臭い前極まへぎめの心から汚れた女を排斥するのではない。併し情の上から言へば、うつはだつて人の使つたものは嫌だ。智の上から言へば、悪い病気を土産みやげに持つて来て貰ふにも及ぶまいなどと云ふ。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
芥子粒けしつぶを林檎のごとく見すといふ欺罔けれんうつは
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
知るべし蛇の破れるうつははさきにありしもいまあらず、されど罪ある者をして、神の復讐がサッピを恐れざるを信ぜしめよ 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かう腐つて了つた僕のからだは今更為方が無い。けれども、君は立派に学位も取つて、参事官の椅子にも居た人、国家の為に有用のうつはであることは、決して僕の疑はんところだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
星が浦銀のうつはのはこばれし夜食やしよくの卓にひびく浪音
はた、もろもろの調楽てうがくうつはをぞ執る。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あゝきアポルロよ、この最後いやはてわざのために願はくは我を汝の徳のうつはとし、汝の愛するアルローロをうくるにふさはしき者たらしめよ 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
されば彼に劣る一切のさがが、己をもて己を量る無窮の善を受入れんにはうつはあまりに小さき事もまたこれによりて明らかならむ 四九—五一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いよ/\清くなるに及びて、この血は人のいふを憚かる處にくだり、後又そこより自然のうつはの中なる異なる血の上にしたゝり 四三—四五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
チエファスの來るや、聖靈の大いなるうつはの來るや、身せ足にくつなく、いかなる宿やどかてをもくらへり 一二七—一二九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その後えらびうつは、救ひの道の始めなる信仰のはげみを携へかへらんためまたかしこにゆけることあり 二八—三〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
苦しむ者の聲によりて鳴き、あかがねうつはあたかも苦患なやみに貫かるゝかと疑はれし如く 一〇—一二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)