吹込ふきこ)” の例文
……すると全く不意に、ガタンと激しい音がして、歩廊プラット・ホームへ出るドアが開き、どっと吹込ふきこんで来た風にあおられて卓子テーブルの上の洋灯ランプが消えた。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ハツと呼吸いきく。目口めくち吹込ふきこ粉雪こゆきに、ばツとけて、そのたびに、かぜ反對はんたいはう眞俯向まうつむけにつてふせぐのであります。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すべてがこの世のものとは思えぬ清純な感じで、その頃の青年達の間には「松尾葉子には内臓は無い、あれは蝋人形に息を吹込ふきこんだのだ」
長吉ちやうきちはこの夕陽ゆふひの光をばなんふ事なく悲しく感じながら、折々をり/\吹込ふきこむ外のかぜが大きな波をうたせる引幕ひきまくの上をながめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おれんでゐると、ひめて、おれくちびる接吻せっぷんしていのちいき吹込ふきこんでくれたとた……んだもの思案しあんするとは不思議ふしぎゆめ!……すると、やが蘇生いきかへって帝王ていわうとなったゆめ
チベット人はもはやこういう事の話を幼い時からお伽話とぎばなしとして母の口より吹込ふきこまれて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ず頭取と支配人だけだろう。僕は田舎に育って、子供の時分植物や昆虫の興味を先生に吹込ふきこまれたが、久しぶりでこうしたところに住むと、樹や草を見るだけでも気が清々せいせいする。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
れから段々身の上話に及んで、今日吾々われわれ共の思う通りをえば、正米しょうまいを年に二百俵もらうて親玉おやだま(将軍の事)の御師匠番になって、思うように文明開国の説を吹込ふきこんで大変革をさして見たいと云うと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
カタ/\/\カタ、さーツ、さーツ、ぐわう/\とくなかに——る/\うちに障子しやうじさんがパツ/\としろります、雨戸あまどすきとり嘴程くちばしほど吹込ふきこゆきです。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三文字紋弥はなにを吹込ふきこんだかわかりませんが、それから三日経たないうちに、さしも城内に桃色の権力を揮ったお金の方が、黒板ボールドに書かれた文字を拭き消したように
が、いぢけたのでもちゞんだのでもない。吹込ふきこけむり惱亂なうらんした風情ふぜいながら、何處どこ水々みづ/\としてびやかにえる。襟許えりもと肩附かたつきつまはづれも尋常じんじやうで、見好みよげに釣合つりあふ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そしてせがれ山城守意知やましろのかみおきともを通じて、若年寄の耳に吹込ふきこまれ、翌月は早くも、秋月九十郎二百石に加増、御腰物方に登用され、その翌年の暮にはもう御使番衆、布衣ほい千石高と出世しておりました。
其處そこへ、たましひ吹込ふきこんだか、じつるうち、老槐らうゑんじゆふくろふは、はたとわすれたやうに鳴止なきやんだのである。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「第一俺は十三や十四じゃ無えんだぜ、百年越のうらみはらすように、餓鬼のうちから吹込ふきこまれて、根性曲りに育てられたから、一向身体からだは伸びないが、これでも取って十九よ、いい若い者だよ」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
突立つツたつてては出入ではひりの邪魔じやまにもなりさうだし、とばくち吹降ふきぶりのあめ吹込ふきこむから、おくはひつて、一度いちどのぞいた待合まちあひやすんだが、ひとつのに、停車場ステエシヨンときはりすゝむほど
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
吹込ふきこみますから、おまへ此方こつちへおいで、そんなにしてると衣服きものれますよ。」
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
にんをおろしたらしくると、坂上さかがみも、きふには踏出ふみだせさうもなく、あし附着くツついたが、前途さきいそむねは、はツ/\と、毒氣どくきつかんでくちから吹込ふきこまれさうにをどつて、うごかしては
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……余波なごりが、カラカラとからびたきながら、旅籠屋はたごやかまち吹込ふきこんで、おおきに、一簇ひとむら黒雲くろくもの濃く舞下まいさがつたやうにただよふ、松を焼く煙をふっと吹くと、煙はむしろの上を階子段はしごだんの下へひそんで
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山路やまみちから、あとけてたらしいあらしが、たもとをひら/\とあふつて、さつ炉傍ろばた吹込ふきこむと、ともしび下伏したぶせくらつて、なかあかるえる。これがくわつと、かべならんだ提灯ちやうちんはこうつる、と温泉いでゆかをりぷんとした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)