可笑をか)” の例文
みんな勝手にしやべつて、勝手にきめてしまふので、高一は可笑をかしくもあり、面白くもあり、だまつてニヤ/\笑つて見てゐました。
栗ひろひ週間 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
いちごいろ薔薇ばらの花、可笑をかしな罪の恥と赤面せきめんいちごの色の薔薇ばらの花、おまへの上衣うはぎを、ひとがみくちやにした、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
苦笑くせうしたので、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさをはじめ、一座いちざ面々めん/\あまりの可笑をかしさに、一時いちじにドツと笑崩わらひくづるゝあひだに、武村兵曹たけむらへいそう平氣へいきかほわたくしむか
「なんだ、そんな事ですか。あつしはまた可笑をかしくてたまらないことがあるんで。どうにも彼うにも、へツ、へツ、へツ、へツ」
花にはあらで得ならぬ匂ひ、そよ吹く風毎かぜごと素袍すはうの袖をかすむれば、末座にみ居る若侍等わかざむらひたちの亂れもせぬ衣髮をつくろふも可笑をかし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
而も初めには誰も氣附かなかつたらしいが、それが一音二音と重なつてくるにつれて、何處となく語調が可笑をかしく響くのである。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「はゝゝゝ。思切つた酷評を下したもんですね。はゝゝは。」さも可笑をかしさうに笑ひ續けたが、やがて靜に葉卷の煙を吹きながら
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
此奴、やつぱり先刻からずつと、自分の將來の再婚のことを考へてゐたのかと急に私は可笑をかしくなつて、大きな聲で笑ひ出した。
ともなふどち可笑をかしがりて、くわくらん(霍乱)の薬なるべしと嘲笑あざわらひ候まま、それがし答へ候ははくらん(博覧)やみが買ひ候はんと申しき。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やつ身體からだいたくせ親父おやぢらすまいとしてはたらいてた、れをたられはくちけなかつた、をとこくてへのは可笑をかしいではいか
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お客は可笑をかしさが一杯なのを、奥歯でじつとこらへながら、ともかくも英語で返事をした。すると、女史の機嫌が急によくなつて来た。
気味悪さに着るにもよう着ないで居た自分の姿が可笑をかしく目に浮ぶのであつたから寒いなどとはたれにも告げやうとはしなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼女は、この時、祖母からかねて聞かされてゐた可笑をかしな逸話を思ひ出した。それは、彼女が小さな時分、父に頬ずりをされて
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
小説といふものにするんだとこんな程度のものでは面白くも可笑をかしくもないんだが、自伝小説の一節としては僕はやはり記録して置きたい。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
以てぜになしに旅せしこと伊勢參宮に人違ひの騷動など細やかに話す話すに條理すぢみちあらねども其の樣子其の身振面白く可笑をかしく腹を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
可笑をかしいほど犬を恐れ乍ら、可笑しいほど一人で威張つて居た。「これは優しい犬だ、未だ子供だから人懐しがつて通る人の傍へ行くのだ」
そして可笑をかしい事には、をりをりは何のめにかうしてしやがんでゐるかといふことを、丸で忘れてしまつてゐるのである。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いつしか黄ばみかけた日の光のもとに、薄青いクローバ模様の壁にかけた玩具の木時計が可笑をかしさうにお尻の分銅を動かし乍ら今三時を点つ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いづれも肥えあぶらづいて、竹の串に突きさゝれてある。流石さすがに嗅ぎつけて来たと見え、一匹の小猫、下女の背後うしろに様子をうかゞふのも可笑をかしかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
兄さんは何時いつも自分一人が苦勞してるやうなこと云つてるから可笑をかしいわ。私にだつて云ふに云はれない苦勞があつてよ。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
すると祖母さんが、(あああゝ然うだらうともさ。)が可笑をかしいぢやありませんか。壓制的なんて祖母さんに解るもんですかねえ。ホホホヽヽ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
(牛の肉の中で一番上等がの舌だといふのは可笑をかしい。よだれで粘々ねばねばしてる。おまけに黒い斑々ぶちぶちがある。歩け。こら。)
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
可笑をかしいやうですよ。父は、みんなに面目ないのですね。さうなつても、まだ見栄張つてゐて、なあに、おれには、内緒でかくしてゐる山がある。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
まだ可笑をかしいことがある、ずツとあとで……番町ばんちやうくと、かへりがけに、錢湯せんたう亭主ていしゆが「先生々々せんせい/\ちやうひるごろだからほか一人ひとりなかつた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
木山の見え坊も可笑をかしかつたが、四年間の夢の棄て場が、是かと思ふと、矢張り来て見ない方が可かつたと思はれた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
お文伯母が目白に対しても、まるで人間のことを言ふやうに丁寧な言葉を使ふのが、それが真面目であるだけに、聞いて居るものには可笑をかしかつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
あいちやんは、さも不思議ふしぎさうに自分じぶんかた左顧右盻とみかうみしてゐました。『可笑をかしな時計とけい!』つてまた、『わかつて、それでときわからないなンて!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
姫はこれをも可笑をかしとて笑ひ給ふに、外の人々はにはかに色を正して、中にもかゝる味なき事を可笑しとするは何故ならんなどいふ人さへあり。われ。
愚助は和尚様にたれるとばかり思つてゐましたのに、打たれなかつたばかりか、さも可笑をかしさうに笑はれたので、自分も何だか可笑しくなりました。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
もつと可笑をかしいのは、張帥が装甲自動車で外出する際には、この老人が大佐の制服を着て、拳銃をげて同乗する。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
どの男をも通じて、それだけの認識力は持つてゐる。去年の秋の頃だつけ。あの士官生徒は本当に可笑をかしかつた。あんな馬鹿な小僧つてありやしない。
「金毘羅はんでも、吉備津きびつツあんでも、參る/\いうてやはつて、ちよつとも拜みやはれへんのや。可笑をかしい人。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
陰にはおのれ自ら更にはなはだしき不為をひながら、人の口といふもののかくまでに重宝なるが可笑をかし、と満枝は思ひつつも
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「お前の鶯笛はいい音がするね。ンでも今時分鶯笛を吹くのは可笑をかしいの。わしのこれと取りかへつこしよう。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
宗助そうすけこの臆斷おくだんゆるすべき餘地よちが、安井やすゐ御米およねあひだ充分じゆうぶん存在そんざいるだらうぐらゐかんがへて、ながら可笑をかしくおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
知合の女客に物を言つて、居合せた三人の官吏と一寸話をした。その官吏をソロドフニコフは馬鹿な、可笑をかしい、時代後れな男達だと思つてゐるのである。
可笑をかしいぞ。山車のやうに俺がゆる——す、ゆる——すと言はなければ、これも又動き出さないのかしら。」
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
とその晩には、きまつて作男の庄吉が酒をのんで、酔払つて、可笑をかしな唄をうたつたりして家の者を笑はした。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
一つ/\を見れば可笑をかしくも何でもない。もしそれを並べて見ると、似て居るといふので可笑しくなる。
パスカルの言葉 (旧字旧仮名) / ブレーズ・パスカル(著)
詫り證文の一件は少し可笑をかしいやうにも不必要なやうにも思ひましたが、成程然う遣つて置く方が先へ行つて或は安心かとも思ひましたので、早速書いて送りました。
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
一人だと何んて少ししか喰べないもんだらう、まるで小鳥の餌ほどだつたわ、と可笑をかしがりながら。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
其頃の着物は皆素味ぢみだつた。十三、四の頃の着物が残つてゐて、此年になつても私は時折着るが、夫れでちつとも可笑をかしいと思へない。夫れ程昔は素味なものが流行はやつた。
写生帖の思ひ出 (新字旧仮名) / 上村松園(著)
ナニ可笑をかしいことがあるものか、なんだかね、おやしきからいゝくまの皮を到来たうらいしたとかつて、其祝そのいはひだつてくだすつたのだよ、だからちよいとおれいつておいで。亭「なんてツて。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
二度目の時は可笑をかしうございましたよ。たしか十四時間眠つて、跡で十二時間吐き続けました。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
婦人問題を論ずる男の方の中に、女の体質を初から弱いものだと見て居る人のあるのは可笑をかしい。さう云ふ人に問ひたいのは、男の体質はお産ほどの苦痛に堪へられるか。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
可笑をかしいことひますね、昨年さくねんあんなに世話せわになつたひとひたいのは當然あたりまへだらうとおもふ。』
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ぢゃによって、なに可笑をか悲哀なさけなやつをばかせてくりゃ、乃公おれ怏々くさ/\してかなはぬによって。
いや、それで可笑をかしい話がある。染太夫がその雛人形をくれると、それから間もなく私が「妹脊山いもせやま」を書いて、染太夫は春太夫と掛合ひで三のきりの吉野川を語ることになつた。
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
現に二十三日の晩、最後に会つた時でも別に変つた様子は無く、常の如く快く飲んで別れたのに、あくとなぐりに十日と経たぬ昨日、唯あの新聞記事だけで絶交するとは可笑をかしい。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
其顏の如きは實に可笑をかしなものがあつて、美人とは何うしても受取れぬやうではあるが、それでも何處とはなしに美人としての傑作たるを許さぬことが出來ないやうに出來てる。
彫刻家の見たる美人 (旧字旧仮名) / 荻原守衛(著)