光沢つや)” の例文
旧字:光澤
「ヘエ——じゃないよ、相手のり好みをしているうちに、月代さかやき光沢つやがよくなってよ、せっかくのいい男が薄汚くなるじゃないか」
実際今の袈裟は、もう三年前の袈裟ではない。皮膚は一体に光沢つやを失って、目のまわりにはうす黒くかさのようなものが輪どっている。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お前のはおたなの受けがい是は光沢つやが別だと云うので手間を先へ貸して呉れるように致して万事に気をつけて呉れるから大仕合おおじあわせで
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
年の割にどこへ行っても若く見られる叔母が、こう云って水々した光沢つやのある眼をお延の方に向けた時、お延は何にも云わなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其頃もう小皺が額に寄つてゐて、持病の胃弱の所為せゐか、はだ全然まるで光沢つやがなかつた。繁忙いそがし続きの揚句は、屹度一日枕についたものである。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
楽屋へ来たのは洗い髪の中年増ちゅうどしま。色が白くて光沢つやがある。朱羅宇しゅらう煙管きせると煙草盆とをさげて、弁慶縞の大柄おおがらに男帯をグルグル巻きつけて
驚くばかり美麗な言葉が——(何といふ深く光沢つやある声であらうか!)潺湲せんかんとして湧き起り、今に終るかと思ふ度に次より次へ展開して
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ちょうどその日が日曜に当っていたのである——それから頬が本物の繻子しゅすのようにすべすべして光沢つやの出るまで丹念に顔をあた
「髪の薬に成さるとかッて——せんじて附けると、光沢つやが出るんだそうです——なんでも、伊東の方で聞いてらしったんでしょう」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
色も光沢つやもきれいな服の上に薄物の直衣のうしをありなしに重ねているのなども、源氏が着ていると人間の手で染め織りされたものとは見えない。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
家の前に柿の木があって、光沢つやのない白い花が咲いた。裏に一本の柘榴ざくろの木があって、不安な紅い花をともした。その頃から母が病気であった。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
度外視して粗悪な無造作な手数のかからない生煮なまにえの物ばかり食べるから顔の光沢つやは内部から悪くなって青いような黒いような陰気な色になり
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
妙子はあぶらの乗った光沢つやのよいほおに煖炉の火照ほてりを受けながら、じっと息を詰めるようにして燃えさかるまきを見守っていた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はじめに見たにこにこした顔は無くなって、醜い光沢つやの悪い顔を月の光に浮きあがらせていた。寡婦はしかたがないのでまた二つを執ってやった。
白い花赤い茎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
光沢つやのある真珠の歯は、愛らしい微笑のときに光りました。彼女が少しでも口唇くちびるを動かすときに、小さなえくぼが輝く薔薇ばら色の頬に現われました。
その辺からずっと向うまでなんにも植えてない広い庭の土には一面の青苔が夏よりも光沢つやよく天鵞絨ビロウドの敷物を敷いている。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
めずらしく顔に光沢つやが出て、目のうちにも美しい湿うるおいをもっていた。新吉はうっとりした目容めいろで、その顔をながめていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何時いつもながら若々として、神々しきばかりの光沢つやみなぎれど、流石さすが頭髪かしら去年こぞの春よりも又た一ときは白くなりまさりたり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
まだ十七八らしく、すべすべした肌のいろが、川魚のような光沢つやを放って、胸から腰のあたりのふくらみも、髪の花簪のように初々ういういしい小娘だった。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
頤骨あごぼねとがり、頬がこけ、無性髯ぶしょうひげがざらざらとあらく黄味を帯び、その蒼黒あおぐろ面色かおいろの、鈎鼻かぎばなが尖って、ツンとたかく、小鼻ばかり光沢つやがあって蝋色ろういろに白い。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう叫んだ刹那せつな、彼の右の手は、鉄火のごとくポケットを放れ、水平に突き出されていた。その手先には、白い光沢つやのある金属が鈍い光を放っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だが、その生活という言葉のどこかに生々しい光沢つやがあって、それが六樹園に今まで知らなかった新しい光りものを見せられたような感じを起させた。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それから再び発行を続けるが、必ず自由主義的かつ無神論的方向をとって、社会主義的な陰影、というよりは、ちょっぴり社会主義の光沢つやをつけるのだ。
その穴の所は、これまでつひぞ見たことのない、明るい、光沢つやのある藍色になつてゐまして、その又真中の所に、満月が明るく照つてゐるのでございます。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
空色よりはやや淡い光りが、例えば日向ひなた光沢つやのある貝でも見るように、二重のアウトラインが画かれておる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
自分は老年の今日までもその美しい容貌かおかたち、その優美なすずしい目、その光沢つやのある緑のびんずら、なかんずくおとなしやかな、奥ゆかしい、そのたおやかな花の姿を
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
焼岩の大きな割れ目の内部は、光沢つやうるわしい灰青色の熔岩があらわれている、三島岳つづきの俵岩たわらいわの亀裂せる熔岩塊と、すれすれによじ登ったが、ベエカア山や
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
その上に自分の顔にふりかかる髪毛かみのけを見るとどうであろう! 今まで滝の水のように白かった筈なのが、今は濃い緑色の光沢つやのある房々とした髪毛かみのけになって
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
土地の感じは京都から伏見へくのと似て居る。昔の城や王政時代の離宮の跡などがある。ふるい街だけ何処どこか落着いて光沢つや消しをした様なおもむきが漂うてる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
葉は光沢つややかな緑色で四方に切れてゐます。此のとりかぶとは大変な毒を持つてゐて、あまりその毒が強いので、犬の毒だとか、狼の毒だとか云はれてゐる程です。
そして何処どこやらに唐風からふうなところがあります。ずその御門ごもんでございますが、屋根やね両端りょうたん上方うえにしゃくれて、たいそう光沢つやのある、大型おおがた立派りっぱかわらいてあります。
各階ことごとく見事な真珠よりなり、ことに正面のきざはしを登って塔内に入らんとする所にめられているものは、大きさと云い形といい光沢つやと云い世界にも又あるまじき逸品で
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
わたしも妻も二人とも、その楓の中の一つに、今まで居たかと驚かれる。今朝はまた殊更に、紅葉の光沢つやがよう冴えて、小松のそばの楓など、明るいほどにあかく透いてる。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
老若男女を選ばず、磨けばみがくほど、いよいよその光沢つやが出てきます。「金剛石こんごうせきも磨かずば」で、実をいうと私どもは互いにその金剛石ダイヤモンドを一つずつ所有しているのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
だから、私も彼には燕麦えんばくでも玉蜀黍とうもろこしでもちっとも惜しまず、たらふく食わせてやる。からだにはうんとブラシをかけ、毛の色に桜んぼのような光沢つやが出るくらいにしてやる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
汽車は徐々に進行をゆるめていた。やや荒れ始めた三十男の皮膚の光沢つやは、神経的な青年の蒼白あおじろい膚の色となって、黒く光ったやわらかいつむりの毛がきわ立って白い額をなでている。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
とんぼの影がだんだんに薄くなると、今度は例のどんぐりに取りかかる。どんぐりの実が漸く肥えて、褐色の光沢つやが磨いたように濃くなって来ると、とかくに陰った日がつづく。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
市場又は祭礼すべて人のあつまる所へいでゝ看物みせものにせしが、ある所にても見つるに大さいぬのごとくかたちは全く熊にして、白毛雪をあざむきしかも光沢つやありて天鵞織びらうどのごとくつめくれなゐ也。
「姉やん見やいせ。良え光沢つややろが。汚点しみが惜しいことにちょっと附いてるのでな。」
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
長いことわずらっていたから、やつれた顔は看慣みなれていたが、此様こんな色になっていたのを見た事がない。厭に白けて、光沢つやがなくて、死の影に曇っているから、顔中が何処となく薄暗い。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
頬がせこけて皮膚に光沢つやがなく、一目見たとき私は別人ではないかと思いました。
印象 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
柘榴ざくろつぼみのように、謹ましく紅い唇には、思慕の艶が光り、肌理きめ細かに、蒼いまでに白い皮膚には、憧憬あこがれ光沢つやさえ付き、恋を知った処女おとめ栞の、おお何んとこの三日の間に、美しさを増し
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
せぎすであったけれども顔は丸い方で、透き徹るほど白い皮膚に紅味あかみをおんだ、誠に光沢つやの好い児であった。いつでも活々いきいきとして元気がよく、その癖気は弱くて憎気の少しもない児であった。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
茄子型なすがたをしたすばらしい大真珠であったが、その辺の宝石商などは滅多に持合せていない逸品で、光沢つやといい形状かたちと云い、一目見たら忘れられない様な宝石であったから、朱凌谿はこれを見て
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何代か封建制度の下に凝り固めた情熱を、明治、大正になつてまだ点火されず、し点火されたらうらみの色を帯びた妖艶ようえんほのおとなつて燃えさうな、全部白臘で作つたやうな脂肉のいろ光沢つやだつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
両側をかなめかなにかの生籬にしてあるのはいゝとして、狭い靴脱から、もう縁板がいやに拭き光りがしてをり、廊下を踏んでゆくと、茶黒い光沢つやを帯びたものがくつしたを吸ひとるやうにひつぱるのである。
薄暮の貌 (新字旧仮名) / 飯田蛇笏(著)
くまなくあかみわたッて、さのみ繁くもない樺のほそぼそとした幹は思いがけずも白絹めく、やさしい光沢つやを帯び、地上に散りいた、細かな、落ち葉はにわかに日に映じてまばゆきまでに金色こんじきを放ち
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
柔和な双顎ふたあごの上は、何から何まで円みをおびていて、皮膚はテカテカ蝋色に光沢つやばんでいる。また唇にはいつも微かな笑いが湛えられていて、全身になんともいえぬ高雅な感情が燃えているのだった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
光沢つやのある、長い安寿の髪が、鋭い鎌の一掻ひとかきにさっくり切れた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
米が沢山出来て日本の米と同じように非常にうまい。インド米といえば大抵まずいのが多いけれども、このヒマラヤ山中のこの辺に出来るのは光沢つやがあって、そうして粒も日本の米と同じようである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)