あたひ)” の例文
旧字:
すぎとし北国より人ありてこぶしの大さの夜光やくわうの玉あり、よく一しつてらす、よきあたひあらばうらんといひしかば、即座そくざに其人にたくしていはく、其玉もとめたし
それらの士は、俗悪なる新画に巨万の黄金わうごんなげうつて顧みない天下の富豪ふがうくらべると、少くとも趣味の独立してゐる点で尊敬にあたひする人々である。
鑑定 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
むかし我先人が文明を買ひしあたひは国をうしなふ程に高直なりき」と白皙はくせき人種に駆使せられながら我子孫のツブヤカんことを。
ああこのこわれたる指環、この指環にまことあたひの籠もつてゐるとは、恐らく百年の後ならでは、何人なんぴとにも分りますまい。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
まるで取替とりかへるあたひがないとへばそれまでだ、——あゝ、それがために、旧通もとどほりおうらかくして、木像もくざう突返つきかへしたのか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
明治初年の書画のあたひを知らむがために其一二を抄する。「探幽雲山一軸代金一両二分、常信花鳥一軸代金三分。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
得難いものの様に思つて居た子を見る喜びと云ふものと楽々目前もくぜんに近づいて居るのを思ふと、それはもう何程のあたひある事とも鏡子には思へないのであらう。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
代助は平生から物質的状況に重きを置くの結果、たゞ貧苦が愛人の満足にあたひしないと云ふ事丈を知つてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
旅行して居る際などは早く髪が出来るので便利であつたとその人が云つて居た。ついでその人の払つたあたひをも書いて置く。其れは日本貨にして八十円だつたさうである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今日までの歴史を細閲すれば、自由を買はんとて流せし血のあたひと煩悶せし苦痛の量とはいかばかりぞや。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
わたしの考では、イワンに愛国心がある以上は、自分を犠牲にして、外国人の持つてゐる鱷のあたひを二倍三倍にしたのを喜んで、それを自慢して好いではありませんか。
春挙氏は言ひ値通りにあたひを払つて石を引取つた。実をいふと、石屋の主人あるじは値切られる積りで、幾らか懸値かけねを言つたらしかつたが、画家ゑかきはそんな事に頓着しなかつた。
あたひ高い洋酒が、次ぎから次ぎへと抜かれた。料理人が、懸命の腕を振つた珍しい料理が後から後から運ばれた。低くはあるが、華やかなさゞめきが卓から卓へ流れた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
あたひたかき物は海人あまの家にふさはしからず。父の見給はばいかにつみし給はんといふ。豊雄、一三三たからつひやして買ひたるにもあらず。きのふ一三四人のさせしをここに置きしなり。
の雑誌も九号くがうまでは続きましたが、依様やはり十号からよくが出て、会員に頒布はんぷするくらゐでは面白おもしろくないから、あたひやすくしてさかん売出うりだして見やうとふので、今度こんどは四六ばい大形おほがたにして、十二ページでしたか
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
春だの夏だののあたひはもう分からない。いつだつて寒がつてゐる。さうでないことは、只稀にちよいとの間ある丈である。その暖い心持は煖炉のお蔭でも、太陽のお蔭でも、そんな事はどうでも好い。
老人 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
あたひたからといふとも一坏ひとつきにごれるさけあにまさらめや (同・三四五)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
静寂のあたひを量らなければいけない
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
古志こし長岡魚沼ながをかうをぬまの川口あたりにて漁したる一番の初鮏はつさけ漁師れふし長岡ながをかへたてまつれば、れいとしてさけひきに(一頭を一尺といふ)米七俵のあたひたまふ。
博士は貞潔といふことに就いて、かつて考へて見た事がある。貞潔なんぞといふものは、心の上には認むべきあたひもあらうが、体の上には詰まらないものだと思つた。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
今日けふ本郷ほんがう通りを歩いてゐたら、ふと托氏とし宗教小説と云う本を見つけた。あたひを尋ねれば十五銭だと云ふ。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
寂寞じやくまく罌粟花けしを散らすやしきりなり。人の記念にたいしては、永劫にあたひすると否とを問ふ事なし」といふ句がいた。先生は安心して柔術の学士と談話をつゞける。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やや広ければ特別室とせられ、あたひも其れに添ひたるもののよしにさふらへど、機関に近く窓の小さければ、特別は特別に𤍠き意なりしかなど船員を揶揄やゆしあるを見申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
察するにイワンの心では、ドイツ人に余り低いあたひを要求して貰ひたくはなかつたゞらう。兎に角己が問を発した跡で、鱷の腹の中から、豚のうなるやうな、一種特別な謦咳しはぶきが聞えた。
ひとたすけさへなく六八世にくだりしものの田畑たばたをも、あたひやすくして六九あながちにおのがものとし、今おのれは村長むらをさとうやまはれても、むかしかりたる人のものをかへさず、礼ある人のむしろを譲れば
コンマ」のあたひ二百万ドル11・28(夕)
川原かはらの底の底のあたひなき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
けもの雪をさけて他国へ去るもありさらざるもあり、うごかずして雪中に穴居けつきよするはくまのみ也。熊胆くまのいは越後を上ひんとす、雪中の熊胆はことさらにあたひたつとし。
中央なる机には美しきかもを掛けて、上には書物一二巻と写真帖とをならべ、陶瓶たうへいにはこゝに似合はしからぬあたひ高き花束を生けたり。そがかたはらに少女ははぢを帯びて立てり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さうして、ちゝあにもあらゆる点に於て神聖であるとは信じてゐなかつた。もし八釜い吟味をされたなら、両方共拘引にあたひする資格が出来はしまいかと迄疑つてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
護謨ごむあたひも一ポンド十四五円まで暴騰したが、現今ではその反動で二円に下落して居るさうだ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかし又この属性を刺戟する上には近代の日本の生んだ道徳的天才、——恐らくはその名にあたひする唯一の道徳的天才たる武者小路実篤氏の影響も決して少くはなかつたであらう。
木堂の書あたひ十円也7・4(夕)
ちゞみのみにはかぎらず織物おりものはすべてしかならんが、目前もくぜんみるところなればいふ也。かゝる縮をわづかあたひにて自在じざい着用ちやくようするはぞくにいふ安いもの也。
入場券は象牙となまりと二通りあつて、いづれも賞牌メダル見たやうな恰好で、表に模様がしてあつたり、彫刻がほどこしてあると云ふ事も聞いた。先生は其入場券のあたひ迄知つてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あたひ十匁と申を九つか十か御こし被下度候。これは人にたのまれ候。皆心やすき人也。金子は此度之便遣しがたく候。よき便の時さし上可申候。直段ねだん少々のぼも不苦候。必々奉願上候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
処が実際二度までも莫迦ばかに安いレムブラントに遭遇した。一度は一ポンドと云ふあたひの為に買はなかつたが、二度目には友人の Gogin にはかつた上、とうとうそれを手に入れる事が出来た。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たま/\一熊いちゆうるとも其儕そのともがらあたひわかつゆゑ利得りとくうすし、さればとて雪中の熊は一人ひとりちからにては得事うることかたしとぞ。
売り立ての古玩はあたひ高うして落札することあたはずといへども、古玩を愛するわが生の豪奢がうしやなるを誇るものなり。文章を作り、女人によにんを慕ひ、更に古玩をもてあそぶに至る、われあに君王くんわうの楽しみを知らざらんや。
わが家の古玩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし英国人は其根を伝へて栽培し、一盆のあたひ往々数ポンドのぼつてゐる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
寺の門内には仮店かりみせありて物を売り、ひとぐんをなす。芝居にはかりに戸板をあつめかこひたる入り口あり、こゝにまもものありて一人まへ何程とあたひとる、これ屋根普請やねふしん勧化くわんけなり。