駄賃だちん)” の例文
女房も女房なり亭主も亭主也、男女同権也どだんじようけんなり五穀豊穣也ごこくほうじようなり、三銭均一也せんきんいつなり。これで女房が車からりて、アイと駄賃だちんを亭主に渡せば完璧々々くわんぺき/\/\
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
九 菊池弥之助やのすけという老人は若きころ駄賃だちんを業とせり。笛の名人にて夜通よどおしに馬を追いて行く時などは、よく笛を吹きながら行きたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
老人は私の手を仔細しさいありげに見、そしてまた喚きたてた、「預かり賃を出せばべつだってえがね、日ぎめで駄賃だちんをやって預けておっか」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
荷物送り状の書き替え、駄賃だちん上刎うわはね——駅路時代の問屋の弊害はそんなところに潜んでいた。角十ではそれがはなはだしかったのだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「じゃ、これが駄賃だちんだ、たぶん親爺はよこしゃしないだろうからなあ……」とイワン・フョードロヴィッチは快活に笑いだした。
一つゆきがけの駄賃だちんきたしょうのようすをさぐり、それを土産みやげ都入みやこいりして、うまうまと秀吉ひでよしのふところへ飛びこむつもりで考えていたところだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「決まってらあ。お鳥係りのお坊主を使って鳥網を張ったというなこのことよ。近ごろ珍しい、ほめてつかわす。お駄賃だちんに駕籠をおごってやるよ」
殺害こそ主たる目的であって、ダイヤモンドの盗難は、ただ行きがけの駄賃だちんに過ぎないのであろうと、誰しも考えた。では、何故なにゆえの殺害であるか。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
駄賃だちんに、懐紙かいしに包んだのを白銅製のものかと思うと、銀の小粒で……宿の勘定前だから、怪しからず気前が好い。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一つは、夏休みに、仲好しになつたいとこの克巳にあへるといふこと、もう一つは、あまり、はつきりいひたくないのですが、お駄賃だちんをもらへることです。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「親分さん、お狐様か雪娘か知りませんが、どうもろくなもんじゃございませんよ。御用心なさいまし。ヘエヘエ——こんなにお駄賃だちんを頂いてはすみません」
豹一はやがて中学校にはいったのだが、しかし安二郎はふところを傷めなかった。お君は毎日どこからか仕立物を引き受けてきて、その駄賃だちんで豹一の学資をまかなった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
「帆村さん。お駄賃だちんにちょっと返事をして下さい」と風間記者は鉛筆をめ格子の間から顔をあげた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お小夜の母も、つい去年までは病躯を支えて二人の子供を介錯かいしゃくした。夫が駄賃だちんに行っておそく帰ってくる。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
往きがけの駄賃だちんに毒消し売りの煙草入れを腰に、ころんでもただは起きないつづみの兄イ、今夜のうちに二本松、八町目、若宮、根子町ねこちょうの四宿を突破して、朝には
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
目星めぼしいものはなさそうですが、「行きがけの駄賃だちんだ」という考えで、一とかせぎしようと思いました。
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
奪ひ取り行掛ゆきがけ駄賃だちんにしてくれんと獨り笑壺ゑつぼ入相いりあひかねもろともに江戸を立出たちいで品川宿の相摸屋へ上りのめうたへとざんざめきしが一寸ちよつとこに入り子刻こゝのつかね相※あひづに相摸屋を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はじめさんのお母さんからそこの番頭さんになにかことづけがあったのである。番頭さんは二人に金平糖コンペイトーのお菓子をくれて、そのうえはじめさんには拾銭白銅を一つお駄賃だちんにくれた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
そうしてその中からまた新らしい金口きんぐちを一本出してそれに火をけた。行きがけの駄賃だちんらしいこの所作しょさが、煙草たばこの箱を受け取ってたもとへ入れる津田の眼を、皮肉にくすぐったくした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やむなく高い駄賃だちんを出して他人の漁場を使わなければならなくなったのと、北海道第一と言われた鰊の群来くきが年々減って行くために、さらぬだに生活の圧迫を感じて来ていた君の家は
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ゆうべ吉原よしわらかれた捨鉢すてばちなのが、かえりの駄賃だちんに、朱羅宇しゅらう煙管きせる背筋せすじしのばせて、可愛かわいいおせんにやろうなんぞと、んだ親切しんせつなおわらぐさも、かずあるきゃくなかにもめずらしくなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼が行きがけの駄賃だちんに屍骸の鼻を斬ったのは、口惜しまぎれの腹癒はらいせであったか、せめて目的の一端を果たす気であったか、或は、大胆な少年もさすがにその時は狼狽ろうばいした結果であったか
その後も十両、二十両と盗み、やがて無常を観じて出家する時には、残っている金をそっくり行きがけの駄賃だちんとして拝借して旅立ったようなわけで、あのばばさまの生きていらっしゃる限り
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
文「これ/\舁夫かごや駄賃だちん幾許いくらでもやるから浅貝の宿しゅくまでやって呉れ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三五らう口惜くやしさをみつぶして七日十日とほどをふれば、いたみの塲處ばしよなほるとともそのうらめしさも何時いつしかわすれて、かしらいへあかぼうりをして二せん駄賃だちんをうれしがり、ねん/\よ、おころりよ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「お駄賃だちんは、ウンとはずみますけど」
本馬ほんま六十三文、軽尻からじり四十文、人足四十二文、これは馬籠から隣宿美濃みの落合おちあいまでの駄賃だちんとして、半蔵が毎日のように問屋場の前で聞く声である。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まず、いきなりいかりをザンブと投げこんで、おう薄刃うすばのだんびらを持ち出す。——凄文句すごもんくよろしくならべて、約束の駄賃だちん以上な客の懐中物をせびるのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駄賃だちんはこの翁を父親ちちおやのように思いて、したしみたり。少しく収入のあまりあれば、町にくだりきて酒を飲む。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「——他人のおめえ、夫婦の育てた蜜柑の木に生った蜜柑を食ったら、その駄賃だちんくれえ払わなきゃあしょあんめえじゃあ、蜜柑はなすびやかぼちゃたあちがうからな」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「さあ、もう日本に永くいることは、無用だ。行きがけの駄賃だちんというやつで、かねて計画しておいた帝都東京を焼きうちして、それからおさらばということにしよう」
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おばさんはたまごをみんなふろしきにうつすと、最後に小さい卵を正九郎しょうくろうの手ににぎらせていうのだった。「これは駄賃だちんだよ。いまうんだばかりだからまだぬくといだら。」
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
二三枚にさんまいものを始末しまつして、風呂敷包ふろしきづつみをこしらへると、ぐに我家わがや駈出かけださうとして、ゆきがけの駄賃だちんに、なんと、姿すがたこゝろ消々きえ/″\つていてるおつやおび一度いちどぐい、といた。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なと力身りきんで見てもびく共せず二人の雲助嘲笑あざわらひイヤ強い旅人じや雲助は旅人にかたかさねば世渡りがならず酒手さかてほしさに手を出して親にも打れぬ胸板むないたをれるばかりにかれては今日から駄賃だちん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「有難う、それでは引替へにお代を上げますよ。それからこれはお駄賃だちん
の中のかわず——おまえなんかに天下のことがわかるものか、この島をでたら、分相応ぶんそうおうに、人の荷物にもつでもかついで、その駄賃だちん焼餅やきもちでもほおばッておれよ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがに金兵衛はおちついたもので、その不安の中でも下男の一人を相手に家に残って、京都から来た飛脚に駄賃だちんを払ったり、判取り帳をつけたりしていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ひどいやつだ。いきがけの駄賃だちんとばかりに、機関銃をぶっぱなしていきおった」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
巳之助は駄賃だちんの十五銭をもらうと、人力車とも別れてしまって、お酒にでも酔ったように、波の音のたえまないこの海辺の町を、珍らしい商店をのぞき、美しく明かるいランプに見とれて
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
だが、露八が、最も感心したのは、彼の金に対する緻密ちみつさだった。馬子まご駄賃だちんの値ぎり方、旅籠代はたごだいのかけあい、鼻紙や茶代の端にでも、針ほどな、無駄もしない。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駄賃だちんなぞも御贔屓ごひいきにあずかった、半蔵さまはもっとお出入りの牛をかわいがってくだすってもいい。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
軍律ぐんりつをもって陣屋追放をうけたというから、そこで呂宋兵衛は、もちまえの盗賊化とうぞくかして、これから他国へ逐電ちくてんするゆきがけの駄賃だちんとでかけているところであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
博打ばくちはうつ、問屋で払った駄賃だちんも何も飲んでしまって、村へ帰るとお定まりの愁訴だ——やれ人を牛馬のようにこき使うの、駄賃もろくに渡さないの、なんのッて、大げさなことばかり。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
駄賃だちんもの。体は此っ方物だ。自分の体で自分が休むのに、文句を云われて堪まるものか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは当時道中するもののだれもが心得ねばならない荷物貫目のおきてである。本駄賃だちんとはこの本馬(駄荷)に支払うべき賃銭のことで、それを二つ合わせて三つに割ればすなわち軽尻駄賃となる。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一学を下ろして、駄賃だちんを受け取っていた駕籠屋は、あきれ顔をして、彼のさまを見まもっていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ駄賃だちんは貰ってないから、私の帰るまでは奥にいるでしょうということだった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不躾ぶしつけな奴だ、中を見るな、少ないが、駄賃だちんだ、駄賃だ。——はやく行け」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)