過失あやまち)” の例文
「これがどんなことになるでせう、親分。彌惣は矢張り過失あやまちで死んだのでせうか、それにしちや櫃の蓋が重過ぎると思ふんですが——」
本当を云うと、これはお前の母親の過失あやまちで、お前や、お前の女房が祟られる筋合いの無いのじゃが、そこが人間凡夫の浅ましさでナ……
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いや碁に限った訳じゃない」と云って兄さんは、自分の過失あやまちを許してくれました。私はその時兄さんから、兄さんの平生を聞きました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何人だれ物数奇ものずきに落ちたくて川へ落ちるもんか。落ちたのは如何にも乃公の過失あやまちだ。しかし其過失の原因もとは全く姉さん達にある。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ええ、名前が載っているとは申しますものの、過失あやまちと云うよりは、不幸でしたのでしょう、つい犠牲になってしまったのです。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
いいえ、商売人なんです。最初の目的は別の方面にあったのですが、若い時はちょっとした心の弛みから、飛んでもない過失あやまち
妖影 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
併し如何に素人でも夜中に船を浮べているようなものは、多少自分から頼むところがあるものが多いので、大した過失あやまちもなくて済み勝である。
夜の隅田川 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
怪我けが過失あやまちは所を定めないといふし、それぢやちっとも張合はりあいがありやしない、何か珍しいことを話してくれませんか、私はね。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
続いて黄金丸も垣を越え、家の中を走り抜けんとせし時。六才むつばかりなる稚児おさなごの、余念なく遊びゐたるを、過失あやまちて蹴倒せば、たちまわっと泣き叫ぶ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
亡父ちち過失あやまち。わしも、深くは知りとうないし、きょうまで、姉妹きょうだいの気持にけじめは持たなかったが、異母胎はらちがいじゃという事は、さる人から、聞いていた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これからそなたも早速さっそくこの精神統一せいしんとういつ修行しゅぎょうにかからねばならぬが、もちろん最初さいしょから完全まったきのぞむのは無理むりで、したがって程度ていど過失あやまち見逃みのがしもするが
あの方には、どんな者にも、この學校中で一等惡い生徒にさへも、きびしくすることが苦しいのよ。先生は、私の過失あやまちを見て、靜かにそのことを云つて下さるの。
それから丁度十年になりまして、自分としてはなんの過失あやまちもないつもりで居りますのに、夫は昨年から更に氏の娘をめとりましたので、家内に風波が絶えません。
さうです。あなたは人間です。だからあやまらなくちやなりません。あなたが過失あやまちにしろ小猫を轢き殺したのは悪いことです。自分のした悪いことを後悔してそれを
黒猫 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
不幸と思つたのは俺の過失あやまちだつた。母は矢張りあの金言を弁へてゐるのだ。孝子の心が初めて解つたのだ! 何といふ俺は親孝行者だらう。母は屹度どんなに悦んでゐるだらう。
親孝行 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「あんなに秘密を守るとお言いになりましたけれど、私たちのした過失あやまちはもう知れてしまって、私は恥ずかしい思いと苦しい思いとをしています。あなたが恨めしく思われます」
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
俺は何も、それ一つの過失あやまちで絶對に人に難癖をつけるほど、冷酷ぢやないんだがね。
人形の家 (旧字旧仮名) / ヘンリック・イプセン(著)
貴女あなたが常に気を付けて過失あやまちの無い様にせねばならない、基督キリストの御弟子の中で一番悧巧であつたものが、しゆを三十両で売り渡したイスカリヲテのユダなのだからツてネ、ほんとに先生
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それにもかかわらず、後には若気わかげ過失あやまちで後悔しているといった。自分には文学的天分がないと謙下へりくだりながらもとかくに大天才と自分自身が認める文豪をさえ茶かすような語気があった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
若き時の過失あやまち人毎ひとごとまねかれず、懺悔ざんげめきたる述懷は瀧口かへつて迷惑に存じ候ぞや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
というのは、父親はまだ、大きくなってから再発した彼の病気について、何も知らないからで、息子がどういう過失あやまちで木綿問屋をやめさせられたか、それさえ実はハッキリしない位なのだ。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてそれ以前のものは、或ひは素質的には不識裡に、よいものもあつたかも知れぬが、大体、若気わかげ過失あやまちと云ふ気がしてならない、勿論、若気わかげ過失あやまちはよい、が、それに終つてはならない。
「私」小説と「心境」小説 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
衆人ひとのいふべき事をいひ、衆人の行ひたるあとを踏んで、糸もて繰らるゝ木偶のやうに、我が心といふものなく、意氣地なくつまらなく、過失あやまちもなく誹りもなきは男の身として本意にては有るまじ
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
家内の事は一切女房に任せて置きましたのが手前の生涯の過失あやまちでございます、女房のお淺と申します者が、手前の居ります時はちやほや母に世辞をつかいます故、左程邪慳じゃけんな女とも思いませなんだが
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一番言込いひこめ閉口へいこうさせんと思ひ天下に於て御器量ごきりやう第一と云ふ御奉行樣にも弘法こうぼふも筆の過失あやまちさだめ惡口あくこうと思召すならんが罪なく死したる彦兵衞が身は如何遊ばさるゝやと口々に申故大岡殿皆々默止だまれおほせられしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
われわれは、常に過失あやまちを犯している。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「其れは過失あやまちです。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「これがどんなことになるでしょう、親分。弥惣はやはり過失あやまちで死んだのでしょうか、それにしちゃ櫃の蓋が重過ぎると思うんですが——」
……もっともお手前の今度の過失あやまちは、ほんの仮初かりそめ粗忽そこつぐらいのものじゃが、それでもお手前のためには何よりの薬じゃったぞ
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とほやまの、田舍ゐなかゆきなかで、おなじ節分せつぶんに、三年さんねんつゞけて過失あやまちをした、こゝろさびしい、ものおそろしいおぼえがある。いつも表二階おもてにかい炬燵こたつから。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
皆妙齢だから、所謂いわゆる若気わかげ過失あやまちを起さないように監督するのも僕の役目の一つだ。綺麗な人が多い。これは採用の時、容姿も算当に入れるからだろう。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
このひと一生いっしょうには随分ずいぶん過失あやまちもあったようで、したがって帰幽後きゆうご修行しゅぎょうには随分ずいぶんつらいところもありましたが、しかしもともとしっかりした、けぬ気性きしょうかただけに
かえで それじゃと言うて不意のいくさに、姉様あねさまはなんとなさりょうか。もし逃げ惑うて過失あやまちでも……。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
指を一本切つたからといつて過失あやまちを許したなら、このまた九度までは許さねばならぬ事になる。中馬はまだ九本の指を残してゐたから。和尚はそれがうるさかつたのだ。
されど禅悦ぜんえつぢやくするも亦是修道の過失あやまちと聞けば、ひとり一室に籠り居て驕慢の念を萠さんよりは、あゆみを処〻の霊地に運びて寺〻の御仏をも拝み奉り、勝縁しようえんを結びて魔縁を斥け
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼女の絹の着物を引き裂いて、滅茶々々めちや/\にすることも、珍らしくないのだ。それでもなほ、リード夫人の「大切な一人ツ子」であつた。私は、どんな過失あやまちをかさないようにした。
兄の昔の過失あやまちを今更明るみへ引き出されて、詮議だてされることは辛かったのだろう。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
くわえると、大概は山へ飛ぶから間違まちがいはないのだが、怪我けがに屋根へ落すと、草葺くさぶきが多いから過失あやまちをしでかすことがある。樹島は心得て吹消した。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だけど、これにはわけがあるワ、——あの小栗と言う奴は、そりゃ悪人よ、私の昔の過失あやまちを知って居て、それを世の中に発表しそうにしておどかして居たんだワ。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お母さんの鏡を壊したが、これほん過失あやまちである。乃公と忠公とへやの中でボールをして遊んだ。ボールがはずまないから、お春さんのゴム靴を削ってくっ付けた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「それはわしの過失あやまちじゃ。ゆるしてたもれ」と、千枝太郎は枯草の霜に身をなげ伏して泣いた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千人の生命を断たんと瞋恚じんゐの刀をひつさげし央掘魔あうくつま所行ふるまひにも似たらんことを学ばせらるゝは、一婦の毒咒どくじゆに動かされて総持の才を無にせんとせし阿難陀あなんだ過失あやまちにも同じかるべき御迷ひ
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
氣を附けて下さい、私は犯罪と云ふのではない、やつた者に法律の制裁を受けさせるやうな血を流すとか、その他そんな罪になる行爲のことを云つてるのではない、私の云つたのは過失あやまちなのです。
それがよくわからないばかりに、兎角とかく人間にんげんはわがままたり、慢心まんしんたりして、んだ過失あやまちをしでかすことにもなりますので……。これはこちらの世界せかい引越ひっこしてると、だんだんわかってまいります。
豆州づしう御勝手ごかつて不如意ふによいなるは、一朝一夕いつてういつせきのことにはあらじを、よしや目覺めざましき改革かいかく出來できずとも、たれなんぢ過失あやまちとははじ、たゞまことをだにまもらばなり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
最初の検視では単に庄五郎自身の過失あやまちで海中に転げ込んだものとして、至極手軽く済んでしまったのであるが、ここを縄張りとする伊豆屋の一家ではそのままに見過ごさないで
半七捕物帳:45 三つの声 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
時の拍子の出来事ながら畢竟つまりは我が口より出し過失あやまち、兎せん角せん何とすべきと、火鉢の縁にもたする肘のついがつくりと滑るまで、我を忘れて思案に思案凝らせしが、思ひ定めて、応左様ぢやと
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
東京とうきやうへば淺草あさくさのやうなところだと、かねいて大須おほす觀音くわんおんまうでて、表門おもてもんからかへればいのを、風俗ふうぞく視察しさつのためだ、とうらへまはつたのが過失あやまちで。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから二日ほど過ぎて、安蔵の死体は川しもで発見された。かれが片手に釣り竿を持っていたのを見ると、なにかの過失あやまちで足を踏みすべらせて、草堤くさどてから転げ落ちたのであろう。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
時の拍子の出来事ながらつまりはわが口より出し過失あやまち、兎せん角せん何とすべきと、火鉢のふちもたするひじのついがっくりとすべるまで、我を忘れて思案に思案凝らせしが、思い定めて、おおそうじゃと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)