いさ)” の例文
証人の一人(菓子製造人のモンターニ)がこれをたしなめる、またはいさめる言葉だと言っているが、それはこの場合もっともなんだ。
「勝負事もいいけれど、あの連中は腹を合わせて何をするかも知れやしないから、ここでるのは不利益ですよ。」といさめてみるが
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
これは折ふし外から来合せた成都の使い、蒋琬しょうえんの声だった。彼はちょうどこの場へ来合せ、倉皇、営中へ入って、すぐ孔明をいさめた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と親らしい注意を与えていたので、源氏を不快がらせるようなことは慎まねばならぬとおのおの思いもしいさめ合いもしているのである。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
このいさめようのよきこといにしえもさるためし多し。ふさがりたる処を知らずして、いかにちゅうをつくしていさむとも、聞き用いざれば益なし
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
平手中務なかつかさ政秀は信長のお守役であるが、前々から主信長の行状を気に病んで居た。色々といさめては見るものの一向に験目ききめがない。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
忠利がそのころ出家しようとしたのを、ひそかにいさめたことがある。のちに知行二百石の側役を勤め、算術が達者で用に立った。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
カンコこけ深しなんど申すは何事ぞ、諫鼓をばいさめの鼓と読む。たとえば唐の堯帝政を正しくせんがために、しき政あればこの鼓を
昨日、——散々おいさめ申したが、どうしても、久し振りで仲町の樣子が見たいと仰しやる。拙者と佐々見氏と、前後から守護を
嫁も起きでて泣きながらいさめたれど、つゆしたがう色もなく、やがて母がのがれ出でんとする様子ようすあるを見て、前後の戸口をことごとくとざしたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
陳の霊公が臣下の妻と通じその女の肌着を身に着けてちょうに立ち、それを見せびらかした時、泄冶せつやという臣がいさめて、殺された。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
と繰返しいさめる妹のことばもききいれず、一心に創作に精進しょうじんし、大音寺前だいおんじまえの荒物屋の店で、あの名作「たけくらべ」の着想を得たのであった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
フランチエスカは我頬を撫でゝ、我が餘りに心弱きをいさめ、かくては世に立たんをり、いと便びんなかるべしと氣づかひ給ひぬ。
武王ぶわう(二六)木主ぼくしゆせ、がうして文王ぶんわうし、ひがしのかた(二七)ちうつ。伯夷はくい叔齊しゆくせい(二八)うまひかへていさめていは
全く「心の病」である——彼はそこで、放肆ほうしいさめたり、奢侈しゃしを諫めたりするのと同じように、敢然として、修理の神経衰弱を諫めようとした。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
千束町は遂に千束町にして蠣殻町には依然として小待合多し。韓愈仏骨を論ずるの表は身命を賭して君王をいさむるもの人気取りの論文にあらず。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
此時三人の人がセルギウスにけふのお勤をお廃めになつたら宜しからうと云つていさめた。一人はセラビオンと云ふ寺番で、今一人は寺男である。
と、夫にとり縋って、いさめたが聴かれなかった。そこで、いよいよ心許なく、クリームヒルトはあえぎ喘ぎ云うのであった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ところがペテロは驚いてイエスの袖を引き、「とんでもない。先生に死なれてなるものか」と、目の色変えていさめました。
「ウーム。惜しい事で御座るのう。その与九郎の里方、西村家の者で、与九郎の不行跡をいさめる者は居りませぬかのう」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お力には何処までもなって差上げたいんですけれど、これはおいさめして今のうちに思い止まって戴く方が宜かろうと主人が申すのでございます」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
けれども閣僚達はもしものことがあっては内閣の更迭が行われぬとも限らぬので極力いさめてそれを思い止どまらせた。
怪談綺談 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
その時もおげんは家を出る決心までして、東京の方に集まっている親戚の家を訪ねに行ったこともあったが、人のいさめに思い直して国へと引返した。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母のいさめがあったればこそ出てきたのに、このわがまま家老め! 見えすいたおせじばかりならべたてている! という反感がこみあげてきました。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それは彼が財宝を捨てる勇気を持ったからである。彼がその財宝を海に沈めようとしたとき、人はいさめて言った、貧人にも与え仏事にも用いられよ。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
したゝめ吉三郎盜賊人殺しに相違さうゐなきむねうつたへんとて番頭へも其趣そのおもぶき申きけければ妻のおつたをつといさめ吉三郎は勿々なか/\然樣さやうの事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「圭一郎もそないな罰當りを言や今に掘立小屋に住ふやうにならうぞ」と父は殆ど泣いて彼の不心得をいさたしなめた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
息子むすこ嗜好すき色々いろ/\もの御馳走ごちさうして「さて、せがれや、おまへ此頃このごろはどうしておいでだえ。矢張やはりわるしわざあらためませんのかえ。」となみだながらにいさめかけると
時節ときが参らねば浮世の事はすべて思うようにはならぬものじゃ。万事気永うなさるがよい。なるほど父上をいさめられることも折につけてはなさるもよい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お君でも傍にいてなだめたりいさめたりするから江戸へ来て以来はあんまり大きな騒ぎを持ち上げませんでした。
懶惰らんだによりて罰せらるるにあらず、いさめて叱らるることもあり、諫めずして叱らるることもあり、言うも善し言わざるも善し、いつわるも悪し詐らざるも悪し
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
とひたすらにいさめしとぞ。聞きたる時の我に罪なければ思わぬ人のたれなるかは知るべくもなく打ち過ぎぬ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
磯良これをうらみて、或ひは舅姑おやおや忿いかり五六せていさめ、或ひはあだなる心をうらみかこてども、五七大虚おほぞらにのみ聞きなして、後は五八月をわたりてかへり来らず。
なにごとにもすぢなる乙女氣をとめぎには無理むりならねど、さりとはなげかはしきまよひなり、かくしたしくひてしたしくかたりて、いさむべきはいさなぐさむべきはなぐさめてやりたし
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
上皇は事の次第を糾問しようとしたが、太后が口をそへて、あの実直な諸兄にそのやうなことがあり得る筈はありませぬ、といさめたので、上皇も追求しなかつた。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
文麻呂 (凜然と)道ならぬ不義の恋路に身をやつしておられる大納言殿を、おいさめ申しに参りました!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
将平員経のみではあるまい、群衆心理に摂収されない者は、或は口に出していさめ、或は心に秘めて非としたらうが、興世王や玄茂が事を用ゐて、除目ぢもくが行はれた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しかしやがて妻に気づかれ、泣いていさめられ、今後は絶対にしないという誓いをさせられたのである。
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三斎屋敷闖入ちんにゅうを決心、がに股のちび助、吉公に打ちあけて、いさめるのを振り切って、忍び込んだのだったが、その晩、あの雪之丞に見咎みとがめられ、それがきっかけで
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
堺では私の竹馬ちくばの友である伊藤市郎氏、この方もよく慰みに網打に行かれたですが高部氏の話をしていさめたところが幸いに私のこいを容れ網を焼いて餞別にしてくれた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これは自分の心持に忠実な態度だろうかとおぬいはよく考えてみるのだった。禁酒会員である以上は、自分の力の及ぶかぎり飲酒をいさめなければならないとも思った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
父が母と違って絶壁のように保守的で頑固なために、幾度母に責めいさめられながらもついにあの姉を小学校にさえ出さなかった。女に新教育は許せないというのである。
故郷を想う (新字新仮名) / 金史良(著)
そして始めは、珠子のことを引合いに出していさめたもんだが、私がそれをやっつけて、珠子がそれを望んでいることを明らかにしてやったら、それはもういわなくなった。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さ、こゝぢやて、お前達にとつて忘れてはならないのは。もしか乃公わしに善からぬ事があつたら、遠慮なくいさめて呉れ。そしてお前達も人の諫めに会つたら、屹度その言葉を
伏姫が父をいさめて、賞罰はまつりごとの枢機なることを説き、一言は以て苟且かりそめにすべからざるを言ひ、身をてゝ父の義を立てんとするに至りては、宛然たるシバルリイの美玉なり。
お縫の話によると、外記はおととしの秋頃から吉原へかよい始めて、大菱屋おおびしや綾衣あやぎぬという遊女と深くなった。それについてはお縫も意見した。用人の堀部三左衛門さんざえもんいさめた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御主人は女性にょしょうなり、わしが一家を預りながら、飛んだ悪魔をお抱えあるをいさめなんだが不念ぶねん至極、何よりもまずこの月の入用いりようをまだ御手許おてもとから頂かぬに、かの悪魔めがくい道楽
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だからあの日、朋輩ほうばいの玉目三郎に向ってずいぶんいさめたものだ。——時期を見なければならない。たといどれほど苛烈かれつな新政権とは云え、無から有を生ずるわけはないのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
父は乳人にいさめられると、その時は素直に詫びるのであるが、その日のうちに直ぐもう正体もなく酔いしれると云う有様で、詩を吟じたり、泣きわめいたりするくらいはまだしも
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
る情史(柳の横櫛といふ者なりけん)の中の見出しにこの句を置き、その下に番頭が若旦那の不身持をいさむる事を書きしを見しより、たちまちこの句に味を生じたるが如き心地せり。
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)