行方ゆくへ)” の例文
うつつのやうに歩いて窓際によったけれども、涙は幻のやうに彼女の瞳をつゝんで、淡赤い月の行方ゆくへをお葉は見る事が出来なかった。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
錢形の平次は、首尾よく銀簪の殺人鬼を捕へましたが、銀流しのお六はそれつきり行方ゆくへがわかりません。與力笹野新三郎はさぞ苦い顏をして
我をかしこに導ける主曰ひけるは、恐るゝなかれ、何者といへども我等の行方ゆくへを奪ふをえず、彼これを我等に與へたればなり 一〇三—一〇五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
これを見てみな打ゑみつゝ炉辺ろへん座列ゐならびて酒くみかはし、やゝ時うつりてとほはせたる者ども立かへりしに、行方ゆくへなほしれざりけり。
梯子はしごといつたところで、とてもとゞきやうがないし、皆はあれあれといふばかりで、じつと火の行方ゆくへを見つめてゐました……
拂ひ外に茶代として二百疋を遣はしければ此たびは亭主もいなみ難く受納め酒肴など出して饗應もてなしけれども忠八はお花等が行方ゆくへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
左門慌忙あわてとどめんとすれば、陰風いんぷうまなこくらみて行方ゆくへをしらず。俯向うつぶしにつまづき倒れたるままに、声を放ちて大いになげく。
「ところでイワンの行方ゆくへが分からないと云ふ事になつたらどうでせう。何かあの人に用事でも出来たと云ふ場合は。」
……こゝではまちも、もりも、ほとんど一浦ひとうらのなぎさのばんにもるがごとく、全幅ぜんぷく展望てんばう自由じいうだから、も、ながれも、かぜみちも、とり行方ゆくへれるのである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼の行方ゆくへは知られずして、その身の家をづべき日はうしほの如く迫れるに、遣方やるかたも無くそぞろ惑ひては、常におぞましう思ひ下せる卜者ぼくしやにも問ひて、後には廻合めぐりあふべきも
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
メキシコか何処どこかへく途中、えうとして行方ゆくへを失つたまま、わからずしまひになつてゐるさうです。
近頃の幽霊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
行方ゆくへ無みこもれる小沼をぬ下思したもひに吾ぞもの思ふ此の頃の間」(巻十二・三〇二二)等の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その家庭教師の行方ゆくへ探索たんさくする必要が出來たときにはもう、彼女は其處にはゐないと分つたのです——何時、何處へ、どうして行つてしまつたか誰も知りませんでした。
我等を載せて出でし舟人を尋ぬるに、こも行方ゆくへ知れずとの事なりき。さて島の南岸に沿ひて、龍卷ありしを聞き給ひしより、人々は早や我等の生きて還らざるべきを思ひ給ひぬ。
この話を残して行つた男は、今どこにゐるか行方ゆくへもしれない。しる必要もない。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
或る日チエスタ孃は、お客の一人から『エイブラム師』の行方ゆくへ知れなくなつた娘の話を聞いた。彼女はすぐ驅け出して行つて、鐵鑛泉の傍の氣に入りのベンチに腰を下してゐる製粉場主を見出した。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
風になびく富士の煙の空にきえて行方ゆくへも知らぬ我が思ひかな(西行)
辰男は暫らく船の行方ゆくへを見入つてゐたが、乘客の笑ひ話は靜かな空氣を傳つて彼れの耳にも入つた。入日の海や野天の風呂場をも彼れは久し振りに見下ろした。夜はいつもよりも長く炬燵に當つて過した。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
行方ゆくへなき空にちてよかがり火のたよりにたぐふ煙とならば
源氏物語:27 篝火 (新字新仮名) / 紫式部(著)
海の中に光り輪をみをのすぢ末はわかれて行方ゆくへ知らずも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
われと燃え情火たまきに身をきぬ心はいづら行方ゆくへ知らずも
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
むなしき行方ゆくへ見やるもかひなからむ、——
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
友の行方ゆくへのいかになるらん
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いざ思へ、大海おほうみに浮ぶピエートロの船の行方ゆくへを誤らしめざるにあたりて彼のりよたるにふさはしき人のいかなる者にてありしやを 一一八—一二〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
とゞめ此處にてもなほ種々いろ/\に療治せしかば友次郎のやまひは全くこゝろよくなりければ夫よりは忠八と諸倶もろとも所々しよ/\方々はう/″\めぐり敵の行方ゆくへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「氣が揉めるのかい、——あの娘は綺麗過ぎるから、いろ/\紛糾いざこざが起るんだよ。あの顏を見たとたんに、俺は三千兩の行方ゆくへが判るやうな氣がしたよ」
まはりにかさがいことわざにもふ、そのかさがいとても、なつみづのないくさいきれ、ふゆくさ吹雪ふぶきのために、たふれたり、うもれたり、行方ゆくへれなくなつたとく。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
熱海より行方ゆくへ知れざりし人の姿を田鶴見たずみの邸内に見てしまで、彼は全く音沙汰おとさたをも聞かざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「私の主人の御嬢さんが、去年の春行方ゆくへ知れずになつた。それを一つ見て貰ひたいんだが、——」
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
結論に錯誤さくごを来すので、「もののふの八十うぢ河の網代木にいさよふ波の行方ゆくへ知らずも」(巻三・二六四)でもそうであるが、この歌も、単に仏教とか支那文学とかの影響を受け
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そのむかし仏蘭西のルツソオは漂泊の旅にのぼつて、ある疑ひが心に起きた時、孰方どちらめたものかと石を投げて占つたといふが、大観はルツソオと同じ気持で、じつと水の行方ゆくへを見た。
此の家三とせばかりさきまでは、村主すぐりの何某といふ人の、一八九にぎはしくて住みはべるが、一九〇筑紫つくしあきみてくだりし、其の船行方ゆくへなくなりて後は、家に残る人も散々ちりぢりになりぬるより
ブリッグス氏からはその後數週かつてまた、相續者の行方ゆくへが知れぬ事を僕等に心當りはないかといふことをたづねて來ました。偶然、一枚の紙片かみきれに書いてあつた名前で私はそのひとを見附けたのです。
し方も行方ゆくへも知らぬ沖にでてあはれ何処いづこに君を恋ふらん
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
赤き日に真向まつかうに飛ぶ鳥のはね遂に飛び入り行方ゆくへ知らずも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うちなるたま疾風あらし行方ゆくへいづこ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
行方ゆくへ知らぬ身をば歎かじ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
パルメニーデ、メリッソ、ブリッソ、そのほか行きつゝ行方ゆくへを知らざりし多くの人々みな世にむかひて明かにこれがあかしをなす 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
お徳の行方ゆくへを跟けて、お前を嗅ぎ當て、それから此處へ來て見張つて居たんだ。今朝鎌倉町へ行つたのを見て、あわてゝ此處へ渡りをつけに來たのさ。
此時このとき、われにかへこゝろ、しかも湯氣ゆげうち恍惚くわうこつとして、彼處かしこ鼈甲べつかふくしかうがい行方ゆくへおぼえず、此處こゝ亂箱みだればこ緋縮緬ひぢりめんにさへそでをこぼれてみだれたり。おもていろそまんぬ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
以てすくひ給はれと申ければ小猿こさるは暫く考へしからば雲切仁左衞門方へもゆきて頼み見られよと言けるに三吉其事もおもはぬにはなけれ共當時たうじ仁左衞門は何所いづれに居るや一かう行方ゆくへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
云はば日本の神隠かみかくしに、新解釈を加へたやうなものです。これはそのビイアスが、第四の空間へはひる刹那せつなまでも、簡勁かんけいに二三書いてゐる。ことに或少年が行方ゆくへ知れずになる。
近頃の幽霊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この哀韻は、「いさよふ波の行方ゆくへ知らず」にこもっていることを知るなら、上の句の形式的に過ぎない序詞は、却って下の句の効果を助長せしめたと解釈することも出来るのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
波間隠なみまがくれ推流おしながさるるは、人ならず、宮なるかとひとみを定むる折しもあれ、水勢其処そこに一段急なり、在りける影はつるを放れし箭飛やとびして、行方ゆくへも知らずと胸潰むねつぶるれば、たちまち遠く浮き出でたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
つま九七にんはてぬ此の春、かりそめのやまひに死し給ひしかば、便なき身とはなり侍る。都の乳母めのとあまになりて、行方ゆくへなき修行しゆぎやうに出でしと聞けば、九八彼方かなたも又しらぬ国とはなりぬるをあはれみ給へ。
世に知らぬここちこそすれ有明の月の行方ゆくへを空にまがへて
源氏物語:08 花宴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なじかは行方ゆくへを咀ふべしや
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
その行方ゆくへを見守る。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
鴎よ行方ゆくへ遠からむ
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
これを地に向はしむれば、その行方ゆくへを誤る(あたかも雲より火のおつることあるごとく)ことをうればなり —一三五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)