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陰風
左門
慌忙とどめんとすれば、
陰風に
眼くらみて
行方をしらず。
俯向につまづき倒れたるままに、声を放ちて大いに
哭く。
斬刑がすんで、
浜松城からきている
奉行や
検死役人などは、みな
床几を立ちはじめた。
入りみだれて立ちはたらく
下人たちの
間に、血なまぐさい
陰風が
吹く。
此のことわりを思ひ出でて、みづから
刃に
伏し、
今夜一〇二陰風に乗りてはるばる来り菊花の
約に
赴く。
一〇三この心をあはれみ給へといひをはりて、
泪わき出づるが如し。今は永きわかれなり。