トップ
>
蟇
>
ひき
ふりがな文庫
“
蟇
(
ひき
)” の例文
老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり、
蟇
(
ひき
)
のつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を云った。
羅生門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
……ふと心附いて、
蟇
(
ひき
)
のごとく
跼
(
しゃが
)
んで、手もて取って引く、女の黒髪が一筋、糸底を巻いて、耳から額へ
細
(
ほっそ
)
りと、頬にさえ
掛
(
かか
)
っている。
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と、その独楽を睨みながら、障子の外の縁側の方へ、生垣の裾から這い寄って来る、
蟇
(
ひき
)
のような男があった。三下悪党の勘兵衛であった。
仇討姉妹笠
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
ようやく登り詰めて、余の
双眼
(
そうがん
)
が今
危巌
(
きがん
)
の
頂
(
いただ
)
きに達したるとき、余は
蛇
(
へび
)
に
睨
(
にら
)
まれた
蟇
(
ひき
)
のごとく、はたりと
画筆
(
えふで
)
を取り落した。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
だから大分県の
山間
(
さんかん
)
の村などでは、これがまたよっぽどちがって、
蟇
(
ひき
)
と
蚯蚓
(
みみず
)
との
前
(
まえ
)
の
生
(
しょう
)
の話ともなっているのである。
母の手毬歌
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
▼ もっと見る
縁の下、廊下、隣の書院など、その
仄
(
ほの
)
かな灯影のゆれている一室の他は、すべて暗かった。徐々と、無数の眼が、
蟇
(
ひき
)
のようにその闇を這い寄っていた。
宮本武蔵:03 水の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
蛞蝓
(
なめくぢ
)
の匐ふ縁側に悲しい淋しい
蟇
(
ひき
)
の声が聞える暮方近く、
室
(
へや
)
の障子は湿つて寒いので一枚も開けたくはないけれど、余りの薄暗さに堪兼ね縁先に出て佇んで見ると
花より雨に
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
蟇
(
ひき
)
と
目
(
め
)
を
交換
(
とりか
)
へたとは
事實
(
まこと
)
か? ならば
何故
(
なぜ
)
聲
(
こゑ
)
までも
交換
(
とりか
)
へなんだぞ? あの
聲
(
こゑ
)
があればこそ、
抱
(
いだ
)
きあうた
腕
(
かひな
)
と
腕
(
かひな
)
を
引離
(
ひきはな
)
し、
朝彦
(
あさびこ
)
覺
(
さま
)
す
歌聲
(
うたごゑ
)
で、
可愛
(
いと
)
しいお
前
(
まへ
)
を
追立
(
おひた
)
てをる。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
何うしても動かぬので
跨
(
また
)
いで来たそうだが、吾等二人は其事を後で聞いた、暗中石坂途を
命懸
(
いのちがけ
)
で降る時には、蛇が居ようが
蟇
(
ひき
)
が居ようが、何が居ようとそんな事どころではなかった。
武甲山に登る
(新字新仮名)
/
河井酔茗
(著)
たとえば裏の
竹藪
(
たけやぶ
)
に蛇が出たとか、
蟇
(
ひき
)
が鳴いてるとか、
蟻
(
あり
)
の山が見つかったとか、
梅
(
うめ
)
の花が一輪
咲
(
さ
)
いたとか、夕焼が美しく出ているとかいうようなことを、だれか家人の一人が発見すると
小泉八雲の家庭生活:室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
インバネスを着て、薄鼠色の中折を左の手に持ツて、
螽
(
ばつた
)
の如く
蹲
(
しやが
)
んで居る男と、大分埃を吸ツた古洋服の釦は皆
脱
(
はづ
)
して、
蟇
(
ひき
)
の如く
胡坐
(
あぐら
)
をかいた男とは、少し間を隔てて、共に海に向ツて居る。
漂泊
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
筆者は、その「風邪」なるものの意味がわからないので大いに泣いて駄々を
捏
(
こ
)
ねたらしく、間もなく
許可
(
ゆる
)
されて
跣足
(
はだし
)
で庭に降りると、雨垂れ
落
(
おち
)
の水を足で
泄
(
たた
)
えたり
蟇
(
ひき
)
を蹴飛ばしたりして大いに喜んだ。
父杉山茂丸を語る
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
うちこぞり
湯
(
ゆ
)
川にとろむ
蟇
(
ひき
)
のこゑおろかながらに春ぞふけたる
夢殿
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
朝靜
(
あさしづ
)
のつゆけき道に
蟇
(
ひき
)
出でてあそびてぞをる日の出でぬとに
樹木とその葉:05 夏を愛する言葉
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
眼をつぶり
尊
(
たふ
)
とげのこといひたれど
蟇
(
ひき
)
はもいでず鼠もいでず
小熊秀雄全集-01:短歌集
(新字旧仮名)
/
小熊秀雄
(著)
長崎のしづかなるみ寺に我ぞ来し
蟇
(
ひき
)
が鳴けるかな
外
(
そと
)
の
池
(
いけ
)
にて
つゆじも
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
余が幼き時
婆々様
(
ばばさま
)
がいたく
蟇
(
ひき
)
を可愛がられて
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
御代の春
蟇
(
ひき
)
も秀歌を
仕
(
つかまつ
)
れ
鷺水
(
ろすい
)
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
蟇
(
ひき
)
ででもあるかな
雲
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
老婆は、
片手
(
かたて
)
に、まだ屍骸の頭から
奪
(
と
)
つた長い拔け毛を
持
(
も
)
つたなり、
蟇
(
ひき
)
のつぶやくやうな聲で、口ごもりながら、こんな事を云つた。
羅生門
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
獣
(
けもの
)
の
足音
(
あしおと
)
のやうで、
然
(
さ
)
まで
遠
(
とほ
)
くの
方
(
はう
)
から
歩行
(
ある
)
いて
来
(
き
)
たのではないやう、
猿
(
さる
)
も、
蟇
(
ひき
)
も
居
(
ゐ
)
る
処
(
ところ
)
と、
気休
(
きやす
)
めに
先
(
ま
)
づ
考
(
かんが
)
へたが、なかなか
何
(
ど
)
うして。
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
一通の書面を内なる主人へ手渡して後も、やや久しいあいだ
蟇
(
ひき
)
のように身うごきもせずそこにひかえていた。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
蛞蝓
(
なめくぢ
)
の匐ふ縁側に悲しい淋しい
蟇
(
ひき
)
の聲が聞える暮方近く、
室
(
へや
)
の障子は濕つて寒いので一枚も開けたくはないけれど、餘りの薄暗さに堪兼ね縁先に出て佇んで見ると
花より雨に
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
、
永井壮吉
(著)
悲劇マクベスの
妖婆
(
ようば
)
は
鍋
(
なべ
)
の中に天下の
雑物
(
ぞうもつ
)
を
攫
(
さら
)
い込んだ。石の影に
三十日
(
みそか
)
の毒を人知れず吹く
夜
(
よる
)
の
蟇
(
ひき
)
と、燃ゆる腹を黒き
背
(
せ
)
に
蔵
(
かく
)
す
蠑螈
(
いもり
)
の
胆
(
きも
)
と、蛇の
眼
(
まなこ
)
と
蝙蝠
(
かわほり
)
の爪と、——鍋はぐらぐらと煮える。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
猿轡をはめられ腕を縛られ、髪をふり乱した腰元のお八重が、桔梗の花の折れたような姿に、畳の上に横倒しになってい、それの横手に
蟇
(
ひき
)
かのような姿に、勘兵衛が
胡座
(
あぐら
)
を掻いているのであった。
仇討姉妹笠
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
紐解くる
蟇
(
ひき
)
のたまごにくろぐろと今はしみみにはずむものあり
白南風
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
そのさびしい心もちに、つまされたのであろう、丸い目がやさしくなって、
蟇
(
ひき
)
のような顔の肉が、いつのまにか、ゆるんで来る。
偸盗
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
獣
(
けもの
)
の跫音のようで、さまで遠くの方から
歩行
(
ある
)
いて来たのではないよう、猿も、
蟇
(
ひき
)
も、居る処と、気休めにまず考えたが、なかなかどうして。
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
『冬となっては、土中に眠る
蟇
(
ひき
)
も同じじゃ。からもう意気地がのうてな、無精を、ゆるされよ』
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
紐解くる
蟇
(
ひき
)
のたまごにくろぐろと今はしみみにはずむものあり
白南風
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
それから家へ帰つて来ると、寝床の前に
跪
(
ひざまづ
)
き、「神様、どうかあの
蟇
(
ひき
)
がへるをお助け下さい」と十分ほど熱心に
祈祷
(
きたう
)
をした。
素描三題
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
あはれ
其時
(
そのとき
)
那
(
あ
)
の
婦人
(
をんな
)
が、
蟇
(
ひき
)
に
絡
(
まつは
)
られたのも、
猿
(
さる
)
に
抱
(
だ
)
かれたのも、
蝙蝠
(
かうもり
)
に
吸
(
す
)
はれたのも、
夜中
(
よなか
)
に
𩳦魅魍魎
(
ちみまうりやう
)
に
魘
(
おそ
)
はれたのも、
思出
(
おもひだ
)
して、
私
(
わし
)
は
犇々
(
ひし/\
)
と
胸
(
むね
)
に
当
(
あた
)
つた
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
武士たちは人数をふた手に分けて、大地を
蟇
(
ひき
)
の群れのように這ってゆく。
宮本武蔵:02 地の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
くくみ鳴く
蟇
(
ひき
)
のこゑきけば草ごもり夜の眼光らす田の水が見ゆ
白南風
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
「今あすこを通つて来ると、踏みつぶされた
蟇
(
ひき
)
がへるが一匹向うの草の中へはひつて
行
(
ゆ
)
きましたよ。蟇がへるなどといふやつは強いものですね。」
素描三題
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
と
親仁
(
おやじ
)
がその時物語って、ご坊は、
孤家
(
ひとつや
)
の
周囲
(
ぐるり
)
で、猿を見たろう、
蟇
(
ひき
)
を見たろう、
蝙蝠
(
こうもり
)
を見たであろう、
兎
(
うさぎ
)
も蛇も皆嬢様に谷川の水を浴びせられて
畜生
(
ちくしょう
)
にされたる
輩
(
やから
)
!
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
蟇
(
ひき
)
のように、のそのそと近づいて、
沓石
(
くつぬぎ
)
へ腰をすえ、かぶっている布を
脱
(
と
)
ると、縁に
肱
(
ひじ
)
をつきこんで、ヘラヘラ笑った。あばた顔だが、その笑い癖は、市十郎の遠くない記憶を、ギクとよび醒ました。
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
くくみ鳴く
蟇
(
ひき
)
のこゑきけば草ごもり夜の眼光らす田の水が見ゆ
白南風
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
それは月の光に透かして見ると、一匹の
蟇
(
ひき
)
がへるに違ひなかつた。武さんは「
俺
(
おれ
)
は悪いことをした」と思つた。
素描三題
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
と
親仁
(
おやぢ
)
が
其時
(
そのとき
)
物語
(
ものがた
)
つて、
御坊
(
ごばう
)
は、
孤家
(
ひとつや
)
の
周囲
(
ぐるり
)
で、
猿
(
さる
)
を
見
(
み
)
たらう、
蟇
(
ひき
)
を
見
(
み
)
たらう、
蝙蝠
(
かうもり
)
を
見
(
み
)
たであらう、
兎
(
うさぎ
)
も
蛇
(
へび
)
も
皆
(
みんな
)
嬢様
(
ぢやうさま
)
に
谷川
(
たにがは
)
の
水
(
みづ
)
を
浴
(
あ
)
びせられて、
畜生
(
ちくしやう
)
にされたる
輩
(
やから
)
!
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
烏羽玉
(
ぬばたま
)
の夜のみそかごと悲しむと
密
(
ひそ
)
かに
蟇
(
ひき
)
も啼けるならじか
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
相手は、驚いて、ふり返ったが、つくも髪の、
蟇
(
ひき
)
の
面
(
つら
)
の、厚いくちびるをなめる舌を見ると、白い齒を見せて微笑しながら、黙って、小屋の中を指さした。
偸盗
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
婦人
(
おんな
)
はものに
拗
(
す
)
ねたよう、今の
悪戯
(
いたずら
)
、いや、毎々、
蟇
(
ひき
)
と
蝙蝠
(
こうもり
)
と、お猿で三度じゃ。
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
このおもひ人が見たらば
蟇
(
ひき
)
となれ雨が降つたらへら鷺となれ
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
垢
(
あか
)
じみた
檜皮色
(
ひわだいろ
)
の
帷子
(
かたびら
)
に、黄ばんだ髪の毛をたらして、
尻
(
しり
)
の切れた
藁草履
(
わらぞうり
)
をひきずりながら、長い
蛙股
(
かえるまた
)
の
杖
(
つえ
)
をついた、目の丸い、口の大きな、どこか
蟇
(
ひき
)
の顔を思わせる、卑しげな女である。
偸盗
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
へうへらと
蟇
(
ひき
)
は土より
音哭
(
ねな
)
きして春なりけりや月夜はつかに
黒檜
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
藪龜
(
やぶがめ
)
にても
蟇
(
ひき
)
にても……
蝶々
(
てふ/\
)
蜻蛉
(
とんぼ
)
の
餓鬼大將
(
がきだいしやう
)
。
山の手小景
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
この上にある
端渓
(
たんけい
)
の
硯
(
すずり
)
、
蹲螭
(
そんり
)
の
文鎮
(
ぶんちん
)
、
蟇
(
ひき
)
の形をした銅の水差し、
獅子
(
しし
)
と
牡丹
(
ぼたん
)
とを浮かせた
青磁
(
せいじ
)
の
硯屏
(
けんびょう
)
、それから
蘭
(
らん
)
を刻んだ
孟宗
(
もうそう
)
の
根竹
(
ねたけ
)
の筆立て——そういう一切の文房具は、皆彼の創作の苦しみに
戯作三昧
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
春いまだ
蟇
(
ひき
)
のたまごも田川には
水泥
(
みどろ
)
かぶりぬ搖りうごく紐
白南風
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
糸七は、
蟇
(
ひき
)
と踞み
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
蟇
漢検1級
部首:⾍
16画
“蟇”を含む語句
蝦蟇
蟇蛙
蟇六
蟇口
蝦蟇口
蟇目
蝦蟇仙人
大蝦蟇口
蟇田素藤
大蟇
蝦蟇法師
蝦蟇出
蝦蟇陵下
蟇公
蟇口型
蟇然
蟇股
蝦蟇図経
内蟇
笠懸蟇目
...