膳部ぜんぶ)” の例文
多くの膳部ぜんぶがあり、多くの従僕があり、美食を取り、金曜日には田鶴ばんを食し、前後に従者を従えて盛装の馬車を駆り、大邸宅を持ち
夕餉ゆうげ膳部ぜんぶもしりぞけて、庭のおもて漆黒しっこくの闇が満ちわたるまで、お蓮様はしょんぼり、縁の柱によりかかって考えこんでいたが——。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「酒を飲むと酔っていけない、詰らないもんだ」「へえごもっとも、ではこのまま」権八はごくっとのどを鳴らして膳部ぜんぶを下げていった。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「別間に、膳部ぜんぶをもうけさせておいた。はや、戦もんだこと、何しても、めでたいめでたい。ゆるりと、中食を喰べて戻られよ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今の三越呉服店が三井呉服店であつた其前身の越後屋時代には、十円以上買物をした人は別室で一人一人膳部ぜんぶが出たものであつたといふ。
買ひものをする女 (新字旧仮名) / 三宅やす子(著)
公用商用のためこの都会に集まるものを泊めるのが旨としてあって、家には風呂場ふろばも設けず、膳部ぜんぶも台所で出すくらいで、万事が実に質素だ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はいつひに其夜の九ツ時に感應院はあさましき最期さいごをこそとげたりける名主を始め種々しゆ/″\詮議せんぎすれば煤掃すゝはき膳部ぜんぶより外に何にもたべずとの事なりよつて膳部を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
数珠じゅずなどがさっきまで仏勤めがされていたらしく出ていた。客の饗応きょうおうに出された膳部ぜんぶにもおもしろい地方色が見えた。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それでもちながらわんはしとをつてくちうごかしてるものもあつた。膳部ぜんぶきまつたとほさらひらつぼもつけられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
女「今日のことでございます、此の十四に松平様とかのお役人様方をお連れ申すから、八九人前の膳部ぜんぶを整えて置くようにというお頼みでございます」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その一部分をたとえていえば、ひとりよがりの自慢の手料理が、それどころでなく、立派な饗宴の膳部ぜんぶ向附むこうづけにもふさわしい滋味を備えたものになるのである。
浴後の軽い疲をおぼえて、うっとりしているところへ、女がそう言いながら膳部ぜんぶを運んで来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「はい、はい——」と夫人は云った、「それではお膳部ぜんぶを早うしていただきますように」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
御厨子みずしの前は、縦に二十間がほど、五壇に組んで、くれないはかま白衣びゃくえの官女、烏帽子えぼし素袍すおうの五人囃子ばやしのないばかり、きらびやかなる調度を、黒棚よりして、膳部ぜんぶながえの車まで、金高蒔絵きんたかまきえ
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
膳部ぜんぶを引くころに、大沢侍従おおさわじじゅう永井右近進ながいうこんのしん城織部じょうおりべの三人が、大御所のお使として出向いて来て、かみの三人に具足三領、太刀三振たちみふり、白銀三百枚、次の三人金僉知きんせんちらに刀三腰とうみこし、白銀百五十枚
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
差図さしずのようなことやお手伝いのようなことをしていますと、お女中がお膳部ぜんぶを次の間まで持って行った時、そこの御主人が、まだ座敷へ出してはいかぬ、そこへ置けと女中たちに言いつけて
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だんだん聞くに六町一里にて大笑いとなりぬ。昼めし過ぎて小繋こつなぎまではもくらもくらと足引の山路いとなぐさめ難く、暮れてあやしき家にやどりぬ。きのこずくめの膳部ぜんぶにてことごとく閉口す。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
病人が人に接するのを嫌うからとて、食事は膳部ぜんぶの者が次室まで運んで置き、それを豎牛が病人の枕頭に持って来るのが慣わしであったのを、今やこの侍者が病人に食を進めなくなったのである。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
三味線しゃみせんをいれた小型のトランク提げて電車で指定の場所へ行くと、すぐ膳部ぜんぶの運びからかんの世話にかかる。三、四十人の客にヤトナ三人で一通りしゃくをして廻るだけでも大変なのに、あとがえらかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
女中が膳部ぜんぶを片づけ終わらぬうちに古藤が来たという案内があった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そしてそばには膳部ぜんぶがならび、お銚子が人待ち顔にでております。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
我国の膳部ぜんぶにおけるや食器の質とその色彩紋様もんよう如何いかんによりてその趣全く変化す。夏には夏冬には冬らしき盃盤はいばんを要す。たれまぐろの刺身を赤き九谷くたにの皿に盛り新漬しんづけ香物こうのもの蒔絵まきえの椀に盛るものあらんや。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
同時に膳部ぜんぶの仕度の音、薬鑵やかん飯櫃おひつの音。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女中は膳部ぜんぶを持って、廊下を隔てた小座敷へ案内した。今しがたまで老武士のいた部屋である、もちろんきれいに片付いて、敷物も直してあった。
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、膳部ぜんぶ吸物椀すいものわんをとって、なかのしるを、部屋の白壁にパッとかけてみると、すみのように、まっ黒に変化して染まった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒の香気においも座敷に満ちていた。岸本のために膳部ぜんぶまでが既に用意して置いてあった。元園町は客を相手に、さかんにはなしたり飲んだりしているところであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長崎奉行は二千両、御目附は千両という相場そうばが立った位で、いまこの、筆屋の幸吉が定公にかつがせて持って来ているものは、一見膳部ぜんぶのような箱だが、これは膳にして膳にあらず。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
当日亀千代の前に出る膳部ぜんぶは、例によつて鬼番衆と云ふ近臣が試食した。それが二三人即死した。米山兵左衛門、千田平蔵などと云ふものである。そこで、中間ちゆうげん一人、犬二頭に食はせて見た。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
すで獻立こんだてしてちたればたゞちに膳部ぜんぶ御前ごぜんさゝげつ。「いま一膳いちぜんはいかゞつかまつらむ」とうかゞへば、幼君えうくん「さればなりそのぜんかごなかつかはせ」との御意ぎよい役人やくにんいぶかしきことかなと御顏おんかほみまもりて猶豫ためらへり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
婚姻こんいん席上せきじやうではさけあとにはながつながるやうといふ縁起えんぎいはうて、ひとつには膳部ぜんぶ簡單かんたんなのとで饂飩うどんもてなすのである。蕎麥そばみじかれるとて何處どこでもいとうた。どんな婚姻こんいんでもそれをわかしゆもらひにく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
掃除しけるが下男げなんの善助は最早もはや膳部ぜんぶも出來たれば寶澤に申ける御膳ごぜんも出來候へばお師匠樣へ差上給へといへば寶澤は此時なりとかねたくみし事なれば今われ給仕きふじしては後々のさはりに成んと思ひければ善助にむかひ我は油手あぶらてなれば其方給仕きふじして上られよとたのむに何心なき善助は承知していまみづ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
娘たちのうたげらしく、いろどりの華やかな膳部ぜんぶに酒が出た。夫人たちほどではないが、みんな盃を手にし、この家の三人の待女が給仕をしてまわった。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かやの盤面に、白と黒が根気よく目を埋めて行った。いつか側に来ている膳部ぜんぶから芹のにおいがしきりとするのであったが、それはもう忘れ果てている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそういう寄り合いがあって忙しい思いをしたあくる朝は、膳部ぜんぶのあとで必ず
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いれかわりて、膳部ぜんぶ二調、おりく、おその二人にて運び、やがて引返す。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ときに、腹ごなしでもやるか」膳部ぜんぶをさげて茶菓を出すとまもなく、おとうさまがそう云いだされた、「すずに鼓を持ってもらって、紅葉狩もみじがりをさらおう」
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「思うていた以上、たわけな聟どの。何につけ張合いもない、馳走の膳部ぜんぶ、応対の礼など、まずまず、好い程でよかろうぞ。……どれ、わしも客殿で待とうか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三つの座敷をぶっ通した広間にはおびただしい燭台しょくだいが並び屏風びょうぶを立て、五十余人の客が膳部ぜんぶを前に、盃をあげながらこの家の羨望せんぼうすべき幸運をたたえていた。
膳部ぜんぶの馳走や人々の賑わいにはしゃいで、喰べちらしたり、姉に戯れたりしているのを見ると、死もよそに酒宴している武骨の輩も、折々、あらぬ方へ眼をやりがちであった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうぞおたいらに、されば——御監察の要はいささかもこれなく、これ膳部ぜんぶを差し上げ申せ、——ただゆるゆる御滞在あって、お心まかせに御保養ご休息を願いまする
「——では、けさの朝餉あさげが、しばらくの間の、おわかれの膳部ぜんぶでございますね」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆胴をしたたか斬放す。がらがらッ、燭台しょくだい膳部ぜんぶを踏砕きながら、悲鳴とともに顛倒てんとうするのを見て
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(——だのに、なぜこのような馳走をたくさんに、膳部ぜんぶへならべてくるか)
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
膳部ぜんぶや敷物を片づけ終ると、そこに勘太夫の莨入たばこいれがあるのをみつけた、忘れていらしったのだ、そう思って拾いあげようとしたときである、庭口でことんと戸の音がし
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
膳部ぜんぶや、銚子ちょうしを持って、幾たびとなく、帳場の前を往来する女中たちが
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「飯はいらない」彼は下僕からそむきながら膳部ぜんぶの前に坐った。「酒があったら欲しい」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから、手料理の膳部ぜんぶと、銚子ちょうしなど、楚々そそと、運んで来た。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
匁蝋燭めろうそくの燭台が輝き、蒔絵まきえ膳部ぜんぶが並び、役者や芸妓がとりもちに坐った、まばゆいほどの光と、華やかな色彩と、唄や鳴り物や嬌声きょうせいが……この座敷いっぱいにくりひろげられたものだ。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
膳部ぜんぶのしたくを。——お湯漬でも」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小房は化粧をした顔を見られるのが恥しく、面を伏せたまま膳部ぜんぶを運び始めた。……辰之助の眼は、小房の美しさを見て明かに驚きの色を表わしたが、然しすぐまぶしそうに視線を外らした。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)