残酷ざんこく)” の例文
旧字:殘酷
そして、無意識な残酷ざんこくさで自分の痛いきずにさわろうとしているのだ。二人はあらゆる好意にみちた言葉を自分になげかけるだろう。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この残酷ざんこくなじょうだんがばっせられないはずの子どもたちみんなをわらわせた。それからほかの子どもたちも一人一人勘定かんじょうをすました。
そこで執事しつじウィックスティード氏は、鉄棒の化けものの猛反撃もうはんげきをくった。ただ、残酷ざんこくとしか言いようのない、無残むざんころされようであった。
前に挙げた貧しい盲人の弟子のような残酷ざんこくな目にった者は一人や二人ではなかったというまた利太郎ほど厚かましくはないにしても佐助を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これが、であったら、あるいは、このはちをころしたかもしれません。しかし、いまは、そんな、残酷ざんこく心持こころもちにはなれなかったのです。
サーカスの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とにかく博士せんせいと来たら、きょうが乗れば、敵と味方との区別なんかもう滅茶苦茶めちゃくちゃで、科学の力を残酷ざんこくに発揮せられますからなあ。
成経 重盛しげもり懇願こんがんしたからです。しかし結果は残酷ざんこくないたずらと同じになりました。ちょうど中をへだてた一つのおりに親子のけものをつなぐように。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
まだあつ空氣くうきつめたくしつゝ豪雨がううさら幾日いくにち草木くさきいぢめてはつて/\またつた。例年れいねんごと季節きせつ洪水こうずゐ残酷ざんこく河川かせん沿岸えんがんねぶつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
盗みという事も盛んにやるが、それかといって人を殺すような残酷ざんこくな事をする野蛮人やばんじんでもない。ごく温順な野蛮人である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
啓吉は、最初その場所はずれの笑いの意味が、分らなかった。いかに好奇心のみの、群衆とは云え屍体の上るのを見て、笑うとは余りに、残酷ざんこくであった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは恋しいと云うよりも、もっと残酷ざんこくな感情だった。何故なぜ男が彼女の所へ、突然足踏みもしなくなったか、——その訳が彼女には呑みこめなかった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしそれは誘惑には違いないが、それだけの好奇心でおぬいさんの心を俺の方に眼ざめさすのは残酷ざんこくだ。……
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
母さんはそんなことしないよ、そんな残酷ざんこくないじめかたは……。(ルピック夫婦は、背中を向き合わせる)
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
この頃、二人扶持が、どんなに残酷ざんこくな、人間の生活費であるかは、草雲の生れた折の話で分るのである。しかし、伝えられる説と私の解釈とは、違うのであるが——
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぶるな。ひと生死いきしにあひだ彷徨さまよところを、玩弄おもちやにするのは残酷ざんこくだ。貴様きさまたちにもくぎをれほどなさけるなら、一思ひとおもひにころしてしまへ。さあ、引裂ひきさけ、片手かたてげ……」とはたとにらむ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
リゼットが始めて彼にとらえられてサン・ラザールのシャトウ——すなわ牢屋ろうやへ送り込まれるときには生鳥いけどりうずらのように大事にされた。真にりょうを愛する猟人かりうどものを残酷ざんこくに扱うものではない。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自分ではそれと気づかぬ何か残酷ざんこくめいた好奇心に釣られてのことかもしれません。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
主人は以上いじょうの話を総合そうごうしてみて、残酷ざんこく悲惨ひさん印象いんしょうを自分の脳裏のうりきんじえない。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
何しろ、神様の金だから、あらたかな御利益ごりやくはあるに違ひない。神は残酷ざんこくなほど公平だ……。雨樋からあふれるやうな雨音を聞いてゐると、富岡は、一晩ぢゆうでも酒を飲みたくなるのだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
海を眺めに行ったのです。あとに残ったあなたのさびしい表情が、形容のつかぬ残酷ざんこくさで黙殺もくさつできると同時に、あなたの、やるせなさそうな表情は心に残った。ぼくは自分を勝手だとおもいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その時お秀の涼しい眼のうちに残酷ざんこくな光が射した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこには全く残酷ざんこくな画が描かれてあった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
そいつは少し残酷ざんこくだよ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
子どもたちは親方の前に身動きもせずに立っていたが、かれの残酷ざんこくなじょうだんを開いて、みんな無理むりわらわされた。
ころ勘次かんじにはくりこずゑも、それへ繁殖はんしよくして残酷ざんこくあら栗毛蟲くりけむしのやうな毒々どく/\しいはなやうやしろつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あるとき、フットボールは、みんなから、残酷ざんこくなめにあわされるので、ほとんどいたたまらなくなりました。
あるまりの一生 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「今になってもまだ君の計画を知らせてくれないと云うのは、あんまり君、残酷ざんこくじゃないか。そのおかげで僕は、二重の苦しみをしなけりゃならないんだ。」
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
俊寛 (われにかえりたるごとく)清盛きよもりはどうしている? 平氏の運命は? わしに信じられないほど残酷ざんこくな運命が平氏をどう扱うか、わしはそれが知りたい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
内地の事ではあるが自分の敵を滅ぼすに足るだけの技倆ぎりょうを備えて、善にもあれ悪にもあれ残酷ざんこくな遣り方で自分の望み通り敵を滅ぼしとげた位の人物であるから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
なんだか黒い布を被っているように見えたが、見るとそれが赤い血潮ちしおだった。残酷ざんこくに頭部をやられているのだ。右肩を自分の手でおさえているが、肩もやられているらしかった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いうのは残酷ざんこくだ……僕は君みたいな神様をまだ見たことがなかったんだ……何んにも知らなかったんだ……星野って奴はひどいことをしやがる奴だな……あいつのお蔭で俺は
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
自分ももと芸者であったからには、不粋なことで人気商売の芸者にケチをつけたくないと、そんな思いやりとも虚栄心きょえいしんとも分らぬ心がかろうじて出た。自分への残酷ざんこくめいた快感もあった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
しかし、恭一の手続は、そのつぎの行では、残酷ざんこくなほどあからさまだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「ガラスの破片はへん道路どうろにまきちらすのです。透明人間とうめいにんげんは、はだかで、はだしで歩いていますから、これはきめがありますよ。すこし残酷ざんこくなやりかたですが、そんなことは言っておられませんので」
温厚なる君はこの言葉の残酷ざんこくとがめるのに違いない。が、鼻をぎ落すのはチベットの私刑の一つである。
第四の夫から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これはずいぶん残酷ざんこくなようにわたしには思われた。けれどかの女はあくまでやさしい親切な調子で言った。
つち徹宵よつぴてさういふ作用さよういとなんだばかりに、拂曉あけがたそらからよこにさうしてなゝめしもかして、西風にしかぜたゞちにそれをかわかして残酷ざんこく表土へうどほこり空中くうちうくる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
西光さいこう殿をあらゆる残酷ざんこく拷問ごうもんによって白状させたあとで、その口を引きさいて首をかけたほどの清盛です。あゝ彼らは父を殺すのにどんな恥ずべき手段を用いたことか!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかしながら一方から考えると実にチベットは残酷ざんこくな制度で、貧民ひんみんはますますひんに陥って苦しまねばならぬ。その貧民の苦しき状態は僧侶の貧学生よりなお苦しいです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
木立こだちは、なんという残酷ざんこくなことをするものだろうと、これをるのにしのびませんでした。が、じきに、くらく、くらくなって、すべての光景こうけいを、よるが、かくしてしまいました。
美しく生まれたばかりに (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あたし、それじゃあ何だか残酷ざんこくなような気がしますけれど。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
けれども辰子はそう言ったぎり、しばらく口をひらかなかった。広子は妹の沈黙を話しにくいためと解釈した。しかし妹をうながすことはちょっと残酷ざんこくな心もちがした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「だから、そういう残酷ざんこくなことをするものには、きっとばつがあたるだろう。」
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私の方から云い出すのは、余り母に残酷ざんこくですから。母も死ぬまでその事は一言いちごんも私に話しませんでした。やはり話す事は私にも、残酷だと思っていたのでしょう。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「どうせ、ころされるのだとおもいます。そして、なにになるものかわたしにはわかりせんが、人間にんげん残酷ざんこくなものだといいますから、格別かくべつようはなくてもころすのでしょう。」と、あおいちょうはこたえました。
ちょうと怒濤 (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕はなんともこたへずに、振替ふりかへの紙を出して見せた。振替の紙には残酷ざんこくにも三円六十銭と書いてあつた。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いや、ぬかるみのたまり水よりも一層あざやかな代赭色たいしゃいろをしている。彼はこの代赭色の海に予期を裏切られた寂しさを感じた。しかしまた同時に勇敢にも残酷ざんこくな現実を承認した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
莫迦ばかに、早いじゃないか。僕のような朝寝坊の所へ、今時分電話をかけるのは残酷ざんこくだよ。」
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何しろ千枝子は結婚後まだ半年はんとしと経たない内に、夫と別れてしまったのだから、その手紙を楽しみにしていた事は、遠慮のない僕さえひやかすのは、残酷ざんこくな気がするくらいだった。
妙な話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
電車の中の人々の目は云い合せたように篤介へ向った。彼女は彼女自身の上にも残酷ざんこくにその目のそそがれるのを感じた。しかし彼はじろぎもせずに悠々とパンを食いつづけるのだった。……
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)