きま)” の例文
可也かなり皮肉な出来事であつたからで、気の小さい、きまわるがり屋の彼は、うかしてうまくそれを切りぬけようと、頭脳あたまを悩ましてゐた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
かうした機会の度毎に繰り返される愚痴は、何時でもきまつてゐた。けれど、同じ事だけに逸子はそれを聞くのがたまらなく嫌やだつた。
惑ひ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
一体運動の法則を論じて見れば一点より他点までに移る最近径は前にもいッた通り直線にきまッてるのサ。ダガ物は直線に進まないよ。
ねじくり博士 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして、ある四つ辻で別れる時には、お冬はきまった様に、少し首をかしげて、多少甘ったるい口調で、この様な挨拶あいさつをしたのである。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だから、もし自分のうち女房かないから手紙を投げつけられるやうな事があつたら、大抵の亭主は、小鳥のやうにふるへあがるにきまつてゐる。
向うへ、小さなお地蔵様のお堂を建てたら、お提灯ちょうちんつたの紋、養子が出来て、その人のと、二つなら嬉しいだろう。まあきまりの悪い。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
全く落城し切って大阪の山中氏がロンドンに出している骨董舗こっとうやに奉公ときまった時予は帰朝の途に上った故その後どうなったか知らぬ。
「そんぢや、わし蜀黍もろこしかくしてとこ見出めつけあんすから、屹度きつとんにきまつてんだから」といふこゑあとにしてはたけ小徑こみちをうねりつゝつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
絶望の果てに決行されるこうした行為の裏面に、世間の人がきまって探し求めるような大きな破綻は、一つとして述べられていない。
「御免こうむろうよ。どうせ山師坊主の興行にきまっているようなものだ。行ってみるとまたとんだ殺生をすることになるかも知れねエ」
何かの思想あるいは何かの発明の起源を捜そうとする労力は、太陽の下に新しき物なしというあっけない結論に終るにきまっている。
浅草紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
世の中には、呆痴こけがいる。人へ音物いんもつをよこすに、餌を食わせたり、世話がやけたり、その上に、やがては死ぬときまっている厄介物を
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふん。むかしいまもあるもんじゃねえ。隣近所となりきんじょのこたァ、女房にょうぼうがするにきまッてらァな。って、こっぴどくやっけてねえッてことよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もしも文之丞があの諸手突もろてづきがきまったならば、竜之助の咽喉笛のどぶえを突き切られて、いま文之丞が受けた運命を自分が受けねばならぬ。
芳子さんはうれしいんでしょうけど、何だかきまりが悪そうでしたよ。私がお茶を持って行って上げると、芳子さんは机の前に坐っている。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
人と人との勝ち負けは理智にってのみきまるのではなく、そこには「気合い」と云うものがあります。云い換えれば動物電気です。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
宗助そうすけ福岡ふくをかから東京とうきやううつれるやうになつたのは、まつたこの杉原すぎはら御蔭おかげである。杉原すぎはらから手紙てがみて、いよ/\こときまつたとき、宗助そうすけはしいて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「それはしかとはきまらんがの、下谷したやに富山銀行と云ふのがある、それ、富山重平な、あれの息子の嫁に欲いと云ふ話があるので」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まだ中学に居る頃からの宿題で、寐てもめても是ばかりは忘れるひまもなかったのだが、中学を卒業してもまだきまらずに居たのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さいは一六がねぎと薩摩芋の難波煮なんばに、五十が豆腐汁とうふじる、三八が蜆汁しじみじると云うようになって居て、今日は何か出ると云うことはきまって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
事件の公判期日がきまつた頃であつた。田村と榛沢はんざはとが俺のところへやつて来た。此両人は東京でも先づ信用名望のある弁護士だ。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
丈「金は返すにはきまって居る事だから返すが、何ういう訳だか慌てゝ帰って来たが、お前が損をするとくないからそれを心配するのだ」
「いや、いつもの持病だ。気がかりなことはないさ」と言いながら、小平太はきまりの悪そうに、こそこそ自分の居間へはいった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
半時おきほどづつに、かうきまつたやうに言つて、看病人にたすけられつゝ、半身を起き上らして貰つたり、寢さして貰つたりした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
丑松の身がきまつた暁には自分の妹にして結婚めあはせるやうにしたい。う言出した。かく、後の事は弁護士も力を添へる、とある。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この我慢が一寸でも——今の限度からはづれて見給へ、僕もまた忽ち君と同じやうな奇病患者扱ひを受けるにきまつて居るのだ。
奇病患者 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
今更中間のブローカー問屋や素人しろうとの父の型のきまった意匠など必要はなくなった。父の住居きのオフィスは年々寂寥せきりょうを増した。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「うむ、今度は大いに感じたんだよ。大の男が自分で自分の成績を見に行けないなんて、醜態しゅうたいじゃないか? 豊子さんにもきまりが悪かった」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼は一月ひとつき前迄費用の掛らぬ市外の土地をえらんで六円五拾銭の家賃の家に住んで居た。彼は何等のきまつた収入も無い身の上だ。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
だから勾配は川より低いにきまつて居る。然るに洪水の時は、其の出水をきたさせまいと云ふ。これ既に六づかしい註文である。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
やがて余と秀子との間に相談がきまった、叔父に渡せば、宝を取り出すなら取り出す、遺骸を改葬するなら改葬すると、夫々処分も定まるだろう。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
私はもう、きまりがわるいの、買ってくれそうにないのと、そんな贅沢ぜいたくな考えや、弱気におしひしがれている時ではなかった。
チベット人は私の出て来た時分に来れば必ず熱病にかかるにきまって居るですから、その時分は誰も往来しない。私はその事をよく知って居った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
昔からお談義を聞かせるのは大抵老人ときまっているようで「またお談義か、うんざりするな」というようなことは、日常見聞する所であります。
登山談義 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
直ちに曹長のもとに行きて「飯の切符を下さい」と言へば曹長は仏頂面ぶっちょうづらにて「飯の切符はきまりの時間に取りに来ねばいかん」
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
野菜は時節に依っていろいろと違いますけれど、何はどこの家と大抵はきまっていたようです。時には灯が附いてから人の集まることもあります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
着付けと身体からだきまり工合を今一度見に出かけたとのちになって僕に話しておりましたが、しかし、そのお手本の正体が錦絵だったか押絵だったか。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どこの村・どこの社寺の、どの座ではどれと言ふ風に、二立て目に出す狂言はきまつて居て、狂言も其一種であつたのが、無数に殖えたのである。
とう/\暮の押し詰まった二十八日迄に四回矢継早に提出した。而もそれにはきまって細字に認めた参考書類がついている。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
仏蘭西人フランスじんきまって Servietteセルヴィエットおとがいの下から涎掛よだれかけのように広げて掛けると同じく、先生は必ずおりにした懐中の手拭を膝の上に置き
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
実際、やれば出来るにきまっていることを、誰もやらないのだから不思議だ。これと同じ不思議は至る処に一杯である。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あアそうだ外の事は一切不満足でも、只同情ある殊に予を解してくれたお繁さんに逢えたら、こんな気苦しい厭な思いに悶々もんもんしやしないにきまってる。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
部屋の一隅いちぐうには、秘密警察隊の司令官ハヤブサが、身の置きどころもないようなきまり悪そうな顔で、頭を下げていた。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
中にも西洋の誰やらの脚本をある劇場で興行するのに、木村の訳本を使った時にこのおきまりの悪口が書いてあった。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
どんなにきまり悪げにしかし幾分の誇らしさをもって、私はフロールの方へ視線を送ったことであったか! 今でもまだその時の胸の鼓動を覚えている。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
それが如何どうした? 此上五六日生延びてそれがなにになる? 味方は居ず、敵はげた、近くに往来はなしとすれば、これは如何どうでも死ぬにきまっている。
ばんになると倶楽部くらぶっては玉突たまつきをしてあそぶ、骨牌かるたあまこのまぬほう、そうして何時いつもおきまりの文句もんくをよく人間にんげん
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私もきまり惡げに退しりぞかうとした。しかしロチスター氏は私の後を追つた。そして私共が小門まで來ると彼は云つた——
見付けた者が威張れるだけ威張って、後の二人が地面に手をいてお辞儀ときまってるんだ。そこで私は、相談だ。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
内供はその短くなった鼻をでながら、弟子の僧の出してくれる鏡を、きまりが悪るそうにおずおずのぞいて見た。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)