朝飯あさめし)” の例文
食堂がいて乗客の多数が朝飯あさめしを済ましたのち、自分は母を連れて昨夜以来の空腹をたすべく細い廊下を伝わって後部の方へ行った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この頃産業的に需用の多い「朝飯あさめしの食卓で焼麺麭トウスト・卵子・珈琲コーヒーと一しょに消化してあとへ残らない程度の退屈で幸福な近代結婚生活の小説」
明くる日、男は、「私共は二食で、朝飯あさめしを十時にやります。あなた方はおかまいなく」と何方どちが主やら客やらからぬ事を云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
朝飯あさめし昼飯ひるめしもてんでんに自分で用意しなければならなかった。読書なり音楽なりの仕事は、つまりそういうもののすんだあとのことであった。
かべとなり左官夫婦さかんふうふが、朝飯あさめしぜんをはさんで、きこえよがしのいやがらせも、春重はるしげみみへは、あきはえばたきほどにも這入はいらなかったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
私はその、朝無闇に早く炊いて、私の起きる頃には、もう可い加減冷めてポロ/\になった御飯に茶をかけて流し込むようにして朝飯あさめしを済ました。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ロオランスの出るジユリヤンの画室アトリエの前にある珈琲店カフエエで皆𤍠い珈琲カフエエ麺麭パンとを取つてやす朝飯あさめしを腰も掛けずにすませた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
当日になると自分は、ろく朝飯あさめしも食わずに家をとび出した。電車でゆけば停車場まで二十分とはかからない。——そう思いながらも、何となく心がせく。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「なんだ、うるさい。朝っぱらから、そんな大きな声でさわぎたてては、朝飯あさめしがまずくなってしまうじゃないか」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第二十六 米の粉の朝飯あさめし も米の粉一合を牛乳六合でドロドロ位に長く煮て砂糖とクリームを掛けて食べます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
身うち知合いの人々のあつまってくるようなさいには、今でもかならずただの朝飯あさめし夕飯ゆうめしとちがった物を調理して、食べさせなければならぬものとなっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
南蛮寺なんばんじ台所だいどころか、それにゃ、まずすこし時刻じこくが早かろうぜ。おあまりは朝飯あさめしすぎにいかなけりゃくれやしないよ。うふふふふ……おこってるのか。ますなよ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝飯あさめし午餉ひるめしとを一つに片付けたる兼吉かねきちが、浴衣ゆかた脱捨てて引つ掛くる衣はこんにあめ入の明石あかし唐繻子とうじゅすの丸帯うるささうにおわり、何処どこかけんのある顔のまゆしかめて
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その宿直室には、校長の安藤が家族——さいと二人の小供——と共に住んでゐる。朝飯あさめし準備したくが今漸々やうやう出来たところと見えて、茶碗や皿を食卓ちやぶだいに並べる音が聞える。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私の下宿ではいつも朝飯あさめしが済んで下宿人が皆出払った跡で、ゆッくり掃除や雑巾掛ぞうきんがけをする事になっていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
姉の美佐子が、昨晩とうとう帰っては来なかったので、彼女は冷たい朝飯あさめしを食べて学校へ出て行った。併し伸子は、ひどく頭が痛むので、二時間だけで帰って来た。
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「ホーキンズは朝飯あさめしがまだだな。ホーキンズ、勝手に取って、自分の持場へ帰って食べなさい。」
寝て丁度ちょうど飯の出来上った頃起きて、そのまま湯屋にいっ朝湯あさゆに這入て、それから塾にかえっ朝飯あさめしべて又書を読むと云うのが、大抵緒方の塾に居る間ほとんど常極じょうきまりであった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私たちは朝飯あさめしの間一言も口をききませんでした。そして朝飯がすむとすぐ私は散歩に出かけました。私は朝の澄んだ空気の中で、昨夜からの事件を考え直してみようと思ったのです。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
……張合はりあひのないれい寢坊ねばう朝飯あさめしましたあとだから、午前ごぜん十時半頃じふじはんごろだとおもふ……どん/\と色氣いろけなく二階にかいあがつて、やあ、いゝお天氣てんきだ、難有ありがたい、と御禮おれいひたいほどの心持こゝろもち
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
翌日、暑くならぬうちにと思つて、朝飯あさめしをすますとすぐ、わたし横手村よこてむらに行つた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
女房と朝飯あさめしと——何方どちら人世じんせいに関係する所が大きいだらうと疑つた者がある。
朝飯あさめしべずにて、つかれたのではないか。」と、かる想像そうぞうしました。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
若衆は牛舎の仕事を終わって朝飯あさめしにはいってくる。る当歳の牛が一頭ねたきり、どうしても起きないから見て下さいというのであった。僕はまた胸を針で刺されるような思いがした。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
食べかけの朝飯あさめしをのどにつめ、あとはろくに食べずに家をとびだしました。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
母親はわが子を励ますつもりで寒そうな寝衣姿ねまきすがたのままながら、いつも長吉よりは早く起きて暖い朝飯あさめしをばちゃんと用意して置く。長吉はその親切をすまないと感じながら何分なにぶんにも眠くてならぬ。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
尋けるに權兵衞は故郷こきやう引込ひきこみたる由土地ところの者申故三吉は力なく又々安宅あたけの方へ到りしに當時は所々に切店きりみせ有て引込ける故ぶらりと是へ上り大に酒をのみ一分ばかりも遣ひ其夜は遊びて翌朝立出朝飯あさめし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼は下宿へ帰って朝飯あさめしい、学校へ出かける時おかみさんに云った。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「木村のおばさんのところで朝飯あさめしを食うんだ」
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
私は朝飯あさめしとも午飯ひるめしとも片付かない茶椀ちゃわんを手に持ったまま、どんな風に問題を切り出したものだろうかと、そればかりに屈托くったくしていたから
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしがものを学びたいというのぞみは、はしなくお父さんに、自分もむかし本を買うために毎朝朝飯あさめしのお金を二スー倹約けんやくしたむかしを思い出させた。
朝飯あさめし昼飯ひるめしをすませた後、僕は書斎の炬燵ごたつへはいり、二三種の新聞を読みはじめた。新聞の記事は諸会社のボオナスや羽子板の売れ行きで持ち切っていた。
年末の一日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
家に入ってたたみの上にすわって、おぜんを出して朝飯あさめし夕飯ゆうめしと同じに、食事をする者は上流の家、または都会に住む人のところでも、決して全部とはいわれぬのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こめ朝飯あさめし 秋付録 米料理百種「西洋料理の部」の「第二十六 米の粉の朝飯あさめし
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
親方おやかたがいったのはこいつだな、これをちとめてこいといういいつけか。なアんだ、こんなものなら朝飯あさめしまえにただ一ぱつだ。それで、おいらの出世しゅっせとなりゃ、ありがた山のほととぎすさ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝飯あさめしを済せて伯父さんの先生の出勤を見送って了うと、学校は午後だから、其迄は身体に一寸ちょっとすきが出来る。其暇そのひまに自分の勉強をするのだが、其さえ時々急ぎの謄写物とうしゃものなど吩咐いいつかって全潰まるつぶれになる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
母親はわが子をはげますつもりで寒さうな寝衣姿ねまきすがたのまゝながら、いつも長吉ちやうきちよりは早く起きてあたゝか朝飯あさめしをばちやんと用意して置く。長吉ちやうきちの親切をすまないと感じながら何分なにぶんにも眠くてならぬ。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
例の大陸朝飯あさめし——珈琲コーヒー巻麺麭まきパン・人造蜂蜜・インクのにおいの濃い新聞・女中の微笑とこれだけから構成されてる——を極度に排斥して、BEEFEXと焼林檎やきりんごと純白の食卓布に固執していることも
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
大聲おほごゑわめいてるのがよくきこえた。まだ、わたしたち朝飯あさめしまへであつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「なるほど、レストランへ行くんですね。明日の朝飯あさめしは何んだろう」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ちょうどすこしまえに、女中じょちゅう朝飯あさめしのおってきたののです。
花と人の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
朝飯あさめしとおみなすったか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
普通の食事を取らない彼の朝飯あさめしはほとんど五分とかからなかった。楊枝ようじも使わないで立ち上った彼はすぐ二階へ行こうとした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いろいろとわたしを試験しけんをしてみたすえ大将たいしょうはかわいそうになって、とにかく朝飯あさめしべさせることにする。
すなわち二つの言葉は同じで、もと朝飯あさめしを食わぬうちに、お茶の子だけで、一仕事をしていた名残なごりである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
朝飯あさめしを節するがため褥中に書を讀み、正午に近くなるを待ち階下の臺所に行き葱と人參とを煮、麥飯の粥をつくりて食ふ。食後炭火なければ再び寐床に入り西洋紙に鉛筆にて賣文の草稿をつくる。
荷風戦後日歴 第一 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
額で母をにらめて、津蟹づがにが泡を吐くように、沸々ぶつぶつ言っている。ポチは朝起だから、もう其時分にはとッくに朝飯あさめしも済んで、一切ひとッきり遊んだ所だが、私の声を聴き付けると、何処に居ても一目散に飛んで来る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「さて、この大使館では朝飯あさめしにどんな御馳走を出しよるかな」
朝飯あさめしをすまして、一本の敷島しきしまをゆたかに吹かしたるときの余の観想は以上のごとくである。日はかすみを離れて高くのぼっている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父親の朝飯あさめしをこしらえ、夜はおそくまでさらをあらったりなどをしてからでなくては、とこにはいらなかったから、かの女はまるで子どもでいるひまがなかった。