むね)” の例文
彼らを歓迎するむねを述べてくれた老中牧野備後こそかつては皇帝の師傅しふであり現に最も皇帝の信任を受けつつある人と信じたという。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうして……と思うむねを半分報知しらせてやれば母親は大悦おおよろこび、文三にはお勢という心宛こころあてが出来たことは知らぬが仏のような慈悲心から
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こふに取次出來れば越前守申さるには夜中やちうはなはだ恐入存ずれど天下の一大事に付越前ゑちぜん推參すゐさん仕つて候何卒中納言樣へ御目通おめどほりの儀願上奉るむね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
奥畑の手紙にも「夙川でお目に懸った」むねを記しているが、どう云う風にして何処で落ち合うのか、くわしい様子は語ったことがない。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
向後こうご、他家へは一切奉公いたすまじきむね、誓を立てて御暇をねがい、つづいて物頭四百五十石、荻田甚五兵衛、寄合五百石、たいら左衛門
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その中に、もう一方の、隣家の足袋屋たびやのお神さんがいて、時計屋に応援した。そして、彼女も何も物音を聞かなかったむね陳述した。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は、自分ながら感心するほど沈着な態度で、三人を迎え入れ、同居して居た女は先日ぶらりと出かけたまま帰って来ないむねを告げた。
犬神 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
やがて、東京へ行って来たむね蝶子が言うと、種吉は「そら大変や、東京は大地震や」吃驚びっくりしてしまったので、それで話の糸口はついた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
さらぬだに余がすこぶる学問の岐路きろに走るを知りて憎み思いし官長は、ついにむねを公使館に伝えて、わが官を免じ、わが職を解いたり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、彼に似気にげない謙虚で言った。——が尊氏は、多年つちかっていた沃野よくや鎌入かまいれをしたまでのこととし、すぐ、別なむねを言いだしていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「信玄公は戦好き、無名のたたかいをなされます。それに反して謙信公は、終始一貫任侠をむねとし、意義のある戦争をなされます」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「カムペン」答て曰、母なり。帝おおいにおどろきて曰く、ああ実にしかり。この一語もって教育の法則となすに足れり、と。むねあるかな、げんや。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
警察署での自白は尽く虚偽なるむね恐るゝ所なく申述べた。裁判長はうなずきながら微に入り細を穿うがって訊問を試み、一先ず閉廷を宣した。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そこで王は文答師という名匠をはるばる日本へよこすことになった。文答師は難波津なにわのつに着いて、このむねを奏上したが容易にゆるされない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
拝啓学位辞退の儀は既に発令後の申出にかかるゆえ小生しょうせいの希望通り取計らいかぬるむねの御返事をりょうし、再応さいおうの御答を致します。
博士問題の成行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私がおこってマットン博士をなぐる、摂理で善である、なぜならこれは現象で摂理の中のでき事で神のみむねは測るべからざる哉と、斯うなる
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
渡瀬は教えに行ったむねを答えて、ちょうど顔のところまで持ち上げて湯気の立つ黄金色を眺めていた、その猪口ちょこに口をつけた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
むかし快庵禅師くわいあんぜんじといふ大徳だいとこひじりおはしましけり。総角わかきより教外けいぐわいむねをあきらめ給ひて、常に身を雲水にまかせたまふ。
小説たるも随筆たるもむねとする処は男女だんじょの仲のいきさつを写すなり。客と芸者の悶着を語るなり。亭主と女房の喧嘩犬もはぬ話をするなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なお賢人のうに、「げん近くしてむね遠きものは善言ぜんげんなり。守ること約にしてほどこすことひろきものは善道なり。君子くんしげんおびよりくだらずしてみちそんす」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
実際なる此人殺しの寝室ねまの内には取散したる跡を見ず老人の日頃不自由なく暮ししかも質素をむねとして万事に注意のあまねき事はこれだけにて察せらる
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しかし材料はすべて、新しいものを使い、例によって、明日一杯ぐらいに建ててしまえという命令だった。松吉は確かに承知したむね、回答した。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
正月用の調度なり食物なりが清浄、簡素の妙を示しているのは、一歳の始に当って節倹をむねとするような、理窟を含んだ意味からだけではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
と、雪之丞が、長崎屋の、広海屋に対する反抗心を、あけすけ聴かされたむね逐一ちくいち打ち明けると、孤軒は、にこにこして
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
すなわちこの平安を目的とするところの教育のむねは、人生の働の一ヵ条をも空しゅうせずして快楽を得んとするにあり。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おうさまは、こんなことをあたまなかえがかれました。そして、そのむねをさっそく、家来けらいたちにもうしわたされたのであります。
珍しい酒もり (新字新仮名) / 小川未明(著)
お粂はすぐ、そのむねを、繼母に傳へました。それを聽くと、お春は長襦袢ながじゆばんの上に、袢纒はんてんを引つかけて飛んで來たのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
盛りと見ゆる世もいづれ衰ふる時はあり、末は濁りてもれぬ源には、流れも何時いつまんずるぞ。言葉のむねはかり得しか
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
それでそのむねを書付けた書面を間島さんに送り、その書面をあなたに送るようにしたのである。こういう理由であるからどうもやることは出来ぬ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
何方いずかたより金掘りまかり越し候とも当家へ申しことわり掘り申すべく、このむねをそむく者あるにおいてはクセ事なるべきものなりとあるんでございます。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むかし快菴禪師くわいあんぜんじ大徳だいとこひじりおはしましけり。總角わかきより教外けうぐわいむねをあきらめたまひて、つね雲水うんすゐにまかせたまふ……
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
阪井の乱暴については何人なんぴとも平素憤慨ふんがいしていることである。人々は口をそろえて阪井を退校にしょすべきむねを主張した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
行李の中には珍らしくもが四つ重ねてあります。それ故全体としてやや高めになり、形がよく仕事も丈夫をむねとしますから入念になされます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「私は、或る事件の決定するまであなたが起訴されておいでになるむね、報告に接したことをお伝えに参ったのです。」
上原はぼく達に一緒に来るかい、と聞き、ぼく達が承諾しょうだくすると、それではと、大学生に、行くむねを返事していました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
或人(同)曰く、歌は歌ふといふことをむねとして調ぶべき事、これまた吾人は万葉の歌に依て断ずる者なり云々。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
敵一万の大将たいしょうち取ったとは、あっぱれな働きである。いそぎ軍奉行いくさぶぎょう太田飛騨守おおたひだのかみへ、このむねをとどけ出せ。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
重内も作三郎も、弱りぬいたあげく、用人部屋へ引っぱってきて、伊吹大作にまでそのむねを通じたというわけ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
挙動穏やかならずと見えしが、果して十五ページ上段七行目の「右議決のむねを長崎滞在の先発者田代季吉たしろすえきち云々」
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
南人の「おもろ概説」の欲しいむねを語られたとき、それには少くとも一ヶ年の日子を要すると答えたら、では何か南島に関する研究はないかとのことであった。
「古琉球」改版に際して (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
七月八日に夫妻は同町の一弁護士を訪れて、彼のいわゆる「形式」として、ヘンリイがまず自己の所有のすべてを妻ベシイにのこむねの遺言書を作製して署名した。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
果して、一週間後に、伊太利軍司令官の命令として、エリザを銃殺に処するむねの宣告が下されました。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
言終って、叢中から慟哭どうこくの声が聞えた。袁もまた涙をうかべ、よろこんで李徴の意にいたいむねを答えた。李徴の声はしかしたちまち又先刻の自嘲的な調子にもどって、言った。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
諸臣をあつめて太子の廃否を諮問しもんする。天皇のむねならばそむかれませぬ、大臣以下諸臣の答えは、そうだった。即日太子を廃して、自宅へ帰してしまったのである。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
口頭こうとうをもって、わたしの母は力のおよぶ限りいつ何時なんどきでも奥様おくさまのお役に立ちたいと存じているむねを述べ、十二時過ぎに御光来ごこうらいをお待ちすると伝えるように言いつけた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
今般、当村内にて、切支丹きりしたん宗門の宗徒共、邪法を行ひ、人目じんもくまどはし候儀に付き、私見聞致し候次第を、逐一ちくいち公儀へ申上ぐ可きむね、御沙汰相成り候段屹度きつと承知つかまつり候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其れへ主治医の博士が既に注射をなし終へた処で、浪子を取巻いて、伯母の加藤夫人、乳母、その他五六人居て、孰れも無言、博士のむねにより加藤夫人が皆をつれて去る。
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
で、内蔵助もついに意を決して、七月二十八日、京、伏見、山科、大阪、赤穂などに散在する同志と円山重阿弥まるやまじゅうあみ別墅べっしょに会合した上、いよいよ仇討決行のむねを宣言した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
とうとうおしまいには遠方に居る自分の恋人を殺してしまったので、スッカリ悲観したらしく、そのむねを書き残して自殺した……というような話が報告されていますがね
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すでに幾篇いくへんか小説化して発表したものがあるし、これから小説化する予定のものもあり、そのむねを編集部、ならびに読者へ断わっておいたのであるが、——というのは
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)