ととの)” の例文
この爬虫たちを、元居た暖室だんしつの方へ移すのですが、それにはあの室を充分なところまで温め、湿度をととのえてやらねばならんのです
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
準備をととのえていさえすればいかに卑近ひきんな教えでも、いかに些末さまつな忠告でも、必ずこれを受け取って発芽はつがして、花咲かせて実るものと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
アナトール・フランスは、また、世界で屈指くっし名文家めいぶんかです。文章は平明へいめい微妙びみょう調子ちょうしととのっていて、その上自然な重々しさをもっています。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
絵もそういう風な調子である。見物人も綺麗な人は一人もいない。どうもその絵はそれで或程度まではチャンとととのうてはいないと思います。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隊伍をととのえて駈け出ようとした時では、たとえ駈けつけて行っても、時間として、信長を救うべき機はすでにいっしていたものといってよい。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘は少しおかめ型の顔をしてマネキン人形のような美しさにととのい過ぎているようだが、頬や顎のふくらみにはやっぱり若さのしずくしたたっていた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そんなたけやぶの大きなたけを割って、それをならべてこしらえた、八絃琴はちげんきんは、それはそれは調子がよくととのって申し分がない。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
と見ると、女は凄いほどのととのった顔立ちで、それが、巫女みこのような白い着物を着て、髪をおすべらかしみたいに背後うしろへ垂らして藁でゆわえている。
通知の文面はごく簡単なもので、ただ、藤井勝美ふじいかつみと云う御用商人の娘と縁談がととのったと云うだけでしたが、その後引続いて受取った手紙によると
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ある日同志なる石塚重平いしづかじゅうへいきたり、渡韓の準備ととのいたれば、御身おんみをも具するはずなりとて、その理由およびそれについての方法等を説き明かされぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
沖縄本島でも、昔話の豊富であった時代が、確かにあるという痕跡のみは明かになって、まだ記録のととのわぬうちに、い伝承者が急にいなくなった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
分らん事にどうとも挨拶が出来んものですから黙って居りますと「実におめでとうございます。まあ何もかもよくととのいましておめでとうございます」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そうわれたときに、わたくしなにやらすこ心細こころぼそかんじましたが、それでもすぐになおしてたび仕度じたくととのえました。わたくしのそのときたび姿すがたでございますか……。
そうして、次第に彼らの叫喚が弱まると一緒に、その下の耶馬台の宮では、着々としてたたかいの準備がととのうていった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
客はみなりも言葉もさまざまなれど、髪もけづらず、服もととのへぬは一様なり。されどあながち卑しくも見えぬは、さすが芸術世界に遊べるからにやあるらむ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
このやま獣物けものたちは、いざるの指揮しきしたがって、行列ぎょうれつととのえて、みねからみねへとってあるきました。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしはさっそく一座いちざ服装ふくそうととのえて、できるだけりっぱな行列を作りながら、村へはいって行った。
ところでこのペンギンは年に一回卵を生み、親がこれを抱いてあたためる。しかし親たちは抱きつつ行動こうどうしなければならぬ。しかもまた抱くにふさわしい腕も胸もととのっていないのだ。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
入口には料理を手伝っていたらしい少女が縦半身を見せていた。それは粗末な服装なりはしているが、十五六の顔の輪廓のととのった美しいむすめであった。南はその顔を見のがさなかった。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ラランにつづいてペンペがサッと密林みつりんうへした。やがてはねととのへて、あたまたかくあげた。だんだんと下界したはなれる。もう千メートルだ。二からすはそこではじめてくちをきいた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
それはすつきりと調子のととのつたものだつたが、今の感じはそれとも異ふ。一口に言つてしまへばそんな歎美の念に充ちたものではなくて、寧ろ衰殘そのものに對ひ合つた寂しい氣持だ。
喜光寺 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
そこで同盟はすぐにととのい、全軍五百のその中から二百人だけ選抜し、それへ英人二十人を加え、十平太とゴルドンが両大将となり、チブロン島を横断し計らずもここまでやって来たのであった。
お登和嬢らのお蔭にて御馳走の用意は荒増あらましにととのえり。大原時計を眺め
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
万物なべととのふり、折りめ正しく、ぬめらかに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
たまたまにととのはぬのピアノみだれさやげど
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「湯浴の支度はととのうておるであろうな」
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
調しらべととのへる声して来たり。
ドクトルは、応接室の中に、衣服をととのえて静かに煙草たばこを喫っていた。それを見ると、どうもこれが本当のドクトルらしく思えるのであった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
薩軍の包囲態勢はすでにととのったとみえて、着弾はかなり正確となり、今し生れた呱々ここの声する産室の附近にも、幾つか落ちて土けむりを揚げた。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後久しく消息を聞かざりしが、またも例の幻術げんじゅつをもて首尾しゅびよく農学博士の令室れいしつとなりすまし、いと安らかに、楽しく清き家庭をととのえおらるるとか。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
とこう決心を付けてその夕方寓居ぐうきょに帰りました。この頃私はサンスクリット語の書物を買うことに奔走ほんそうして三部ばかりとまた外の参考品なども余程買いととのえた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
なにか合図あいずをすると、たちまちととのった陣形じんけいは、しばしみだれて、きずついたからすをつよそうなもののあいだれて、左右さゆうから、勇気ゆうきづけるようにして、れていくのでした。
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれどもこの海戦の前の出来事は感じ易いK中尉の心にいまだにはっきり残っていた。戦闘準備をととのえた一等戦闘艦××はやはり五隻の軍艦を従え、なみの高い海を進んで行った。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
湯壺は去年まで小屋掛こやがけのようなるものにて、その側まで下駄げたはきてゆき、男女ともに入ることなりしが、今の混堂立ちて体裁ていさいも大にととのいたりという。人の浴するさまは外より見ゆ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そしてどちらかとへば面長おもながで、眼鼻立めはなだちのよくととのった、上品じょうひん面差おもざしほうでございます。
それで、皇后はすぐ軍勢をお集めになり、神々のお言葉ことばのとおりに、すべてご用意をおととのえになって、仰山ぎょうさんなお船をめしつらねて、勇ましく大海のまん中へお乗り出でになりました.
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そうなると結局は一旦いったん家にかえってきて、いろいろ支度したくととのえ居住の企画を立てて、再び渡って行くことになるので、是は或る程度の地理知識をそなえ、明らかな目標を見定めての航海だから
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は兄さんの頭が、私より判然はっきりととのっている事について、今でも少しの疑いをさしはさむ余地はないと思います。しかし人間としての今の兄さんは、もとくらべると、どこか乱れているようです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あっしの乾児こぶんのひとりが駈け込んで参りまして、富士見の馬場で大喧嘩があると申しますので、御用をうけたまわっております手前、早速に人数を集め、仕度をととのえて繰り出しましたところが——
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「不弥の女よ。酒宴の準備はととのうた。爾はわれと共に酒宴に出よ。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ととのはぬ鶯ぞしみらにも鳴きいでにける。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わしのロケットはあの第三十八階ですべての出発準備をととのえていたのだ。ただけていたのは遊星植民に大事な一対いっついの男女——男はこのわし。
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これ幸いと郷里にも告げず、旅費等はなかば友人より、その他は非常の手だてにて調ととのえ、渡韓の準備全くととのいぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
たそがれ迫るあかねの雲は、悽愴せいそうな夕空の下に、わめき合う真ッ黒なかたまりとかたまりを照らしながら、寂寞せきばくと、ひとり夜空のたたずまいをととのえるに他念がない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでとうとうわたくしから指導役しどうやくのおじいさんにおはなしすると、意外いがいにも産土うぶすな神様かみさまほうではすでにその手筈てはずととのってり、神社じんじゃ横手よこて小屋こや立派りっぱ出来できるとのことでございました。
すると、あには、だいぶいたんだつばさをくちばしでととのえながら
兄弟のやまばと (新字新仮名) / 小川未明(著)
なべてみなととのはぬ色のふし……ただにするど
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ドイツ軍を圧迫し、本土奪還ほんどだっかんくわだてようとし、そのときに役立つようにと、本土の外の重要地点において用意万端ばんたんととのえておいたというわけだ。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
以前、慶長五年の乱までは、勝野城といい、毛利壱岐守勝信いきのかみかつのぶの居城だった小倉には、その後、新城の白壁ややぐらが増築されて、城の威容は、ずっとととのって来た。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一隊又一隊と、空中では何時いつの間にか、三機、五機、七機と見事な編隊をととのえ、敵の空中目指して突入して行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)