しぼ)” の例文
おもしろそうに唄ったりはやしたりしているうちはよかったが、しまいには取組合いの喧嘩を始めた。上さんが金切声かなきりごえしぼって制する。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
それで赤貝姫がしるしぼあつめ、蛤貝姫がこれを受けて母の乳汁として塗りましたから、りつぱな男になつて出歩であるくようになりました。
金をしぼれるだけ絞っておきながら——もっとも本人は何にも知らずにいるのかも知れぬが——どこまで虫の好いことを言うと思った。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
因より正當せいたうの腕をふるつてまうけるのでは無い、惡い智惠ちえしぼツてフンだくるのだ………だから他のうらみひもする。併し金はまつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ああその時の私達の baiserベーゼ が如何に私の胸をしぼったか。然しそれは私達の最後の embrassementアンブラスマン であったのだ。
運命のままに (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
私の生命全体が涙を私の眼からしぼり出したとでもいえばいいのか知らん。その時から生活の諸相がすべて眼の前で変ってしまった。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かわやへ入って、独りでそっと憤激の熱い涙をしぼり搾りしたものだったが、それには何か自身の心に合点がてんの行く理由がなくてはならぬと考え
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして他方では「掲示」を利用し、本工に編成するかも知れないというエサで一生懸命働かせ、モットしぼろうという魂胆だったのである。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
まる淑女レディ扮装いでたちだ。就中なかんづく今日はめかしてをつたが、何処どこうまい口でもあると見える。那奴あいつしぼられちやかなはん、あれが本当の真綿で首だらう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もとよりその財貨宝玉は、すべて悪政の機関からくりからしぼりとった民の膏血こうけつにほかならぬ。……これを奪うのは天の誅罰ちゅうばつといえなくもあるまい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、このフィルムのヤマで、フィルム作者が頭をしぼって考え附いた場面で、いかにもたくみに、群衆の笑いの心理を、掴んでいたのである。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
秀吉も、その武力統一を完全にすると共に、大陸政策を実行する上に、どうしても農民をしぼらなければならなかったのですな。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかもなお死力を尽し、私からのがれるべく、すでに気死して半死半生の朦朧たる意識の中にもかかわらず、あらん限りの媚態を振りしぼった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
しぼりたての牛乳のようにかすかに温かで柔らかな空気の中に、桜の花はどこまでもおっとりと誇らかに咲いているのであった。
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
彼は小さいよしくだで、腫物の口をこじ明けて、その管から貝母のしぼり汁をそそぎ込むと、数日の後に腫物はせて癒った。
ただ労働者をしぼれるだけ搾ってきた彼安治川舟三の残酷なやり方は、自分ながらにひどいと思うことがたびたびであった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
万寿丸は同じく吉竹よしたけ船長——これはやっぱりこの船のブリッジへびついたねじくぎ以外ではなかった——によって、しぼることを監督されていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
血の出るような声をしぼり出すと、夢の中の尾田の声が、ベッドの上の尾田の耳へはっきり聞こえた。奇妙な瞬間だった。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
祗園會が了り秋もふけて線香をかわかす家、からし油をしぼる店、パラピン蝋燭を造る娘、提燈の繪を描く義太夫の師匠
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
相手の一人がそう言って土堤どてを上った。もう一人は默ってそのあとにいた。次郎は二人を見送ったあとで、裸になって一人で着物をしぼりはじめた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼女は足も動かさなければ、尻尾も振らない。が、その大きな柔らかな舌で、乳をしぼる女の背中をめて遊んでいる。
上り終れる時はわが氣息いきいたく肺よりしぼられ、我また進むあたはざれば、着くとひとしくかしこに坐れり 四三—四五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ふねを使う(諸味もろみを醤油袋に入れてしぼぶねで搾ること)時に諸味を汲む桃桶を持って来いと云われて見当違いな溜桶ためおけをさげて来て皆なに笑われたりした。
まかないの棒 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
百合ゆりちゃん、あの男とりを戻そうなんて弱気になっちゃだめよ。いっそ方針を変えて、一年や二年遊んで暮らせるだけしぼり取っておやりなさいよ」
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
男は腹の底からしぼり出すような声でそう叫びながら、呆気にとられて立って居る検事と鯉坂君との前で、暫らくの間、犬をしっかりと抱きしめました。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
これを拾い集めてそれからしぼり採った油がいわゆる椿油である。通常婦人の髪に附けて賞用するが、この油はまたテンプラ揚げに用いても上乗である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
資本主義の国が人民からしぼるものはお金だけ……ところがソビエット主義が人民からしぼり取るものは血から涙から魂のドン底までと云っていいんだからね
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ぢり/\と汗腺かんせんからしぼいづあせあとつけられたながれのみちたないで其處そこだけ蕎麥そばほこりあらつてる。かれはおつたのまへ暑相あつさうけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
牝牛の腹から出る牛乳を毎日しぼらずに牝牛の腹に貯めて置いたなら、宴会までには三十日分のものが貯って充分入用の量にはなるだろうと思ったのである。
愚かな男の話 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
仕事の適否とか、労働時間とか、栄養とか、休養とかは全然無視し、無理往生の過激の労働で、人間の労力を出来る丈多量に、出来る丈短時間にしぼり取る。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
しかし、長羅は武器庫の前まで来たときに、三人の兵士が水壺の中へ毒空木どくうつぎの汁をしぼっているのを眼にとめた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
降りて来る蟻達は丁度今其の牝牛から乳をしぼつて来た処なのだよ。ふくれたお腹をひきづつて行くのは、蟻塚殖民地に共同の食物のミルクを運んでゐるのだ。
朝早く起きて近所の牧場へ行って、牛乳をしぼったり、いろいろの用をして、それから遠い道を学校まで通って来るのだ。学校から帰れば又人の家へ働きに行く。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
これは夜光の杯ならぬギヤマンの吸いのみ、魂をとろかす力もないしぼりたての果汁にすぎないけれど、その奥ゆかしくさびた紅は千年をへだてる初唐の色である。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
おれは心底しんそこから崇拝して、まるで牛みたいにやつのために働いてきたのだ! おれはソーニャと二人で、この地所から、最後の一しずくまでしぼり上げてしまった。
印度の或る部落に住む土人が妙な草の葉をしぼり其の汁を以て痺れ薬を製するが、之を刃に附けて人を刺せば傷口は火の燃える様に熱く、爾して全身は痺れて了う
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
すると彼はあらん限りの声をしぼって叫んだ。「プティー・ジェルヴェー! プティー・ジェルヴェー!」
その日も何心なにごころなく一皿のうち少しばかり食べしがやがて二日目の暁方あけがた突然はらわたしぼらるるが如きいたみに目ざむるや、それよりは明放あけはなるるころまで幾度いくたびとなくかわやに走りき。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この男があつておきみは生きてゐるのであり、おきみが生きてゐる限り、その血と肉とをしぼり取ることが出來ることを、老婆はすつかり見拔いてしまつたのである。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
しょうの悪き牛、乳をしぼらるる時人をることあり。人これを怒つて大に鞭撻べんたつを加へたる上、足をしばり付け、無理に乳を搾らむとすれば、その牛、乳を出さぬものなり。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
レモンヱロウの繪具をチユーブからしぼり出して固めたやうなあの單純な色も、それからあのたけの詰つた紡錘形の恰好も。——結局私はそれを一つだけ買ふことにした。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
一八五六年版アメリア・モレイの『米国等よりの書翰集』で見ると、当時ルイジヤナ州に牛の乳をしぼる蛇あり、こうしのごとく鳴いて牝牛を呼び、その乳を搾ったという。
沈毅な容貌に釣合うさびのある声で、極めて重々しく一語々々を腹の底からしぼり出すように話した。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
案「ハテ山の上からしぼれて打落うちおとしてめえるだから、下にはあるが、山の上には水はありやしねえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
関西では寒の入りに油ものを食べぬとこごえるというだけだが、東北は一般にこの日を油しめといって、始めて種油をしぼらせ、それを使っていろいろの食物をこしらえる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
或る者はびしょびしょになった制服やシャツをしぼったり、裸になって体をいたりしている。或る者は服が濡れているので、腰掛に掛けるのを遠慮して突っ立っている。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
召物めしものれますとふを、いゝさまづさせててくれとて氷嚢こほりぶくろくちひらいてみづしぼ手振てぶりの無器用ぶきようさ、ゆきすこしはおわかりか、兄樣にいさんつむりひやしてくださるのですよとて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
俺をなぐって気が済むなら俺をなぐれ……だが伍長、怨むなら、あんな無恥な野蛮な習慣をいいことにして、人間をしぼって金を儲ける人非人ひとでなしを怨め……取払ったのは当然だ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「オヤ何所どこかお悪う御座いますか」と細川はしぼいだすような声でやっと言った。富岡老人一言も発しない、一間はせきとしている、細川は呼吸いきつまるべく感じた。しばらくすると
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
耳の病を祈るしるしとして幾本かの鋭いきりを編み合わせたもの、女の乳しぼるさまを小額の絵馬えまに描いたもの、あるいは長い女の髪を切って麻のに結びささげてあるもの
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)