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まく
ふりがな文庫
“
捲
(
まく
)” の例文
襤褸
(
ぼろ
)
シャツを
捲
(
まく
)
りあげた二の腕に「禍の子」「自由か死か」という物凄い入墨の文字が顔を出しているのをも、彼は見逃さなかった。
ラ・ベル・フィユ号の奇妙な航海
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
しかし今夜の彼女は、
捲
(
まく
)
し立てるには痛手を負いすぎていた。それに今の場合、葉子にとってもっとも大切なことは善後策であった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
男がこう言ったとき「瘠せたことは知っているんですが……、」と女はこたえると、袖のところを
捲
(
まく
)
って細い手をさすって見せた。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
着物を
捲
(
まく
)
って向う
脛
(
ずね
)
の古い傷あとをみせたり、四つか五つの子供のように、玩具を持って来て「いっしょに遊ぼう」とせがんだりする。
しじみ河岸
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
かの女がやや無遠慮にその布を
捲
(
まく
)
ろうとすると、規矩男は手を振って「今日は書物なんかにかかわり
度
(
た
)
くはないですよ」と止めた。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
▼ もっと見る
野槍をそこに立てかけて置いて、次郎はおずおずとビラ幕を
捲
(
まく
)
り上げました。そして、女に無関心な彼の目にも迫るような濃艶な顔が
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
黄色
(
きいろ
)
な
光
(
ひかり
)
が
快
(
こゝろ
)
よく
鮮
(
あざや
)
かに
滿
(
み
)
ちて
居
(
ゐ
)
る
晩秋
(
ばんしう
)
の
水
(
みづ
)
のやうな
淡
(
あは
)
い
霜
(
しも
)
が
竊
(
ひそか
)
におりる
以前
(
いぜん
)
から
其
(
そ
)
の
葉
(
は
)
は
悉
(
こと/″\
)
くくる/\と
其
(
そ
)
の
周圍
(
しうゐ
)
が
捲
(
まく
)
れ
始
(
はじ
)
めて
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
赤い椀を山に盛つた汁粉の出店の前から横に入ると、四十位の色の黒い女が腕
捲
(
まく
)
りをして大きな聲で人を呼んでる見世物小屋の前に出た。
木乃伊の口紅
(旧字旧仮名)
/
田村俊子
(著)
そうであったのか。……伸子は、大声あげて笑ってやりたかった。同時に佃を打ちのめしたかった。荒々しい自棄が、彼女を吹き
捲
(
まく
)
った。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
ちょいとどうぞと
店前
(
みせさき
)
から声を懸けられたので、荒物屋の
婆
(
ばば
)
は急いで蚊帳を
捲
(
まく
)
って、店へ出て、一枚着物を着換えたお雪を見た。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
精進湖
(
しょうじこ
)
の岸まで来た時にも、まだ春の夜は明けなかった。岸辺を北の方へ歩いて行った。藤丸の渓流を渡る時、彼は苦心して裾を
捲
(
まく
)
った。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「——その上この十日ばかり、張って張って張り
捲
(
まく
)
ったそうだから、三文
博奕
(
ばくち
)
にしても、五両や十両は
損
(
す
)
っているそうですよ」
銭形平次捕物控:109 二人浜路
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
床の間の掛軸が、バラ/\と吹き
捲
(
まく
)
られて、
跳
(
は
)
ね落ちると、ガタ/\と
烈
(
はげ
)
しい音がして、
鴨居
(
かもい
)
の額が落ちる、六曲の
金屏風
(
きんびょうぶ
)
が吹き倒される。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
女がクリーム色の
洋傘
(
こうもり
)
を
翳
(
さ
)
して、素足に着物の
裾
(
すそ
)
を少し
捲
(
まく
)
りながら、浅い波の中を、男と並んで行く
後姿
(
うしろすがた
)
を、僕は
羨
(
うらや
)
ましそうに
眺
(
なが
)
めたのです。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
さあ何とで御座んす、と袂を
捉
(
と
)
らへて
捲
(
まく
)
しかくる勢ひ、さこそは當り難うもあるべきを、物いはず格子のかげに小隱れて
たけくらべ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
と逃げもすれば
殴飛
(
はりとば
)
す勢いで、市四郎は拳を固めて
扣
(
ひか
)
えて居ます。松五郎お瀧の両人は多勢に云い
捲
(
まく
)
られ、何も云わず
差俯向
(
さしうつむ
)
いて居ました処へ
霧陰伊香保湯煙
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
と言って、蒲団を
捲
(
まく
)
って見ると儒者の冠をつけた秀才になっていた。彼は起きて
榻
(
ねだい
)
の前へ往ってお辞儀をして、自分を殺さなかった恩を謝した。車は
酒友
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
捲
(
まく
)
った
空臑
(
からすね
)
に痛いと感ずるほど、両脚が、太く冷たかった。男は半町ばかり先を行く。三次、
撥泥
(
はね
)
を上げて急いだ。
早耳三次捕物聞書:02 うし紅珊瑚
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
御承知の通、小諸は養蚕
地
(
どこ
)
ですから、寺の坊さんまでが衣の袖を
捲
(
まく
)
りまして、仏壇のかげに桑の葉じょきじょき、まあこれをやらない家は無いのです。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
そこで勝名は自分の尻を叩く事に
定
(
き
)
めた。ある家来の子供にしこたま御馳走をふるまつて、上機嫌になつた時、大きな尻を
捲
(
まく
)
つてその鼻先に突きつけた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
とある道の角に、三十
位
(
ぐらゐ
)
の
卑
(
いや
)
しい女が、色の
褪
(
さ
)
めた赤い腰巻を
捲
(
まく
)
つて、男と立つて話をして
居
(
ゐ
)
た。
其処
(
そこ
)
に細い
巷路
(
かうぢ
)
があつた。洗濯物が一面に干してあつた。
父の墓
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
とお互い同志で着物の
裾
(
すそ
)
を
捲
(
まく
)
り合ってキャッキャッと
悪戯
(
わるふざ
)
けを始めたがしまいには止め度がなくなってお使いにやられる通りすがりの見も知らぬ子のお尻を
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
こう言って
凄
(
すさま
)
じき
啖呵
(
たんか
)
を切ったけれども、
憐
(
あわれ
)
むべし、このとき吹き
捲
(
まく
)
った大波は、お角のせっかくの啖呵を半ばにして、船もろともに呑んでしまいました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
次に児玉さんは、病人が着ていた掛布団を
剥
(
は
)
ぎ、病人の上に被せてあった寝間着を、下腹の辺まで
捲
(
まく
)
り上げた。
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
小肥
(
こぶと
)
りに肥った、そのくせどこか神経質らしい
歌麿
(
うたまろ
)
は、
黄八丈
(
きはちじょう
)
の
袷
(
あわせ
)
の袖口を、この腕のところまで
捲
(
まく
)
り上げると、五十を越した人とは思われない
伝法
(
でんぽう
)
な調子で
歌麿懺悔:江戸名人伝
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
それでも猿は苦しまぎれに寝衣にかじり付いたから、寝衣はずるりと
捲
(
まく
)
れて、老翁の臀が全く露出したところである。そして老翁の眼は爛々とかがやいている。
ドナウ源流行
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
吉野は無雜作に下駄を脱ぎ裾を
捲
(
まく
)
つて、ヒタ/\と川原の石に口づけてゐる淺瀬にザブ/\と入つて行く。
鳥影
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
洋袴
(
ズボン
)
を
捲
(
まく
)
って水を渡ったが、これではとても届きそうにもない。マゴマゴすればせっかく近寄った函が、また長濤に乗って沖の方へと漂ってゆきそうな懸念がある。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
千代松はまだ少し早いが輕いからよいので着て來た
紺飛白
(
こんがすり
)
の
單衣
(
ひとへ
)
の裾を
捲
(
まく
)
つて、式臺に腰を下ろした。
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
紀久子は心の中に
呟
(
つぶや
)
いた。彼女は渦巻き吹き
捲
(
まく
)
る恐怖の嵐のために、胸が裂けてしまいそうだった。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
見知らぬ浪人者が、腕
捲
(
まく
)
りして、三人、益満を睨んで、三方から取巻いた。駕屋が、恐る恐る、駕を人々のところから引出して、道傍で、不安そうに、囁き合っていた。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
島へ着いた翌日から強い風が出て、後三日にわたって吹いて吹き
捲
(
まく
)
った。雨も時々まじったが、何より風の強さに驚いた。島の人に
訊
(
き
)
くと、こんな風ならしょっちゅうだと言う。
石ころ路
(新字新仮名)
/
田畑修一郎
(著)
これも何か思い当る処あるらしく、客なる少女の顔をじっと見て、又た
密
(
そっ
)
と傍の寝床を見ると、少年は
両腕
(
うで
)
を
捲
(
まく
)
り出したまま能く眠っている、其手を静に
臥被
(
ふとん
)
の内に入れてやった。
二少女
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
ふと目を覚した極めて僅かな瞬間のうちに激しい嵐の唸り声を——それは遥かに武蔵野を遠く
縹渺
(
ひょうびょう
)
と吹き
捲
(
まく
)
るもののやうに聴きとれたが——とりとめもない唯それだけの険しい唸りを
竹藪の家
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
弾圧の強襲が吹き
捲
(
まく
)
っているときに、積極性を示すものは仲々数少なかったのだ。
党生活者
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
暫くして用を
達
(
た
)
しに
行
(
い
)
こうと思って、ヒョイと私が部屋を出ると、
何時
(
いつ
)
来たのか、お糸さんがツイ其処で、着物の裾をクルッと
捲
(
まく
)
った下から、
華美
(
はで
)
な長襦袢だか腰巻だかを出し掛けて
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
母親がそれについて何かいおうとするのを、
押
(
お
)
っ
被
(
かぶ
)
せるようにして言い
捲
(
まく
)
った。
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
滔々
(
とうとう
)
と述べ立てる先生の有様は、宛も気焔を吐きたくて、誰か聞いて呉れる人を待って居たとでもいう風である、余は唯我が心の中は
旋風
(
つむじかぜ
)
の吹き
捲
(
まく
)
る様な気持で、思いも未だ定まらねば
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
取り落すにぞお花は直くと立上り樣吾助が
肩先
(
かたさき
)
五六寸
胸板
(
むないた
)
懸
(
かけ
)
て
斫込
(
きりこん
)
だり然れども吾助は
死
(
しに
)
もの狂ひ
手捕
(
てどり
)
にせんと大手を
廣
(
ひろ
)
げ追つ
捲
(
まく
)
りつ飛掛るをお花は
小太刀
(
こだち
)
を
打振々々
(
うちふり/\
)
右に
潜
(
くゞ
)
り左に拂ふを
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
まだ身を切る様な烈風が吹
捲
(
まく
)
り、底深く荒れ果てた一面の闇を透して遠く海も
時化
(
しけ
)
ているらしく、此処から三
哩
(
マイル
)
程南方にある廃港の防波堤に間断なく打揚る跳波の響が、風の悲鳴にコキ混って
気狂い機関車
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
捲
(
まく
)
り縮めたる袖を
体裁
(
きまり
)
悪げに下してこそこそと人の後ろに隠るるもあり。
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
かかる犯罪予防のため関所で少年姿の秘部を検したから「ちょいと
捲
(
まく
)
り云々」と唄うたものだ。『明月記』に天福元年十一月御法事の夜僧房の童が女の姿で堂上に昇り、大番武士に
搦
(
から
)
めらるとあり。
十二支考:10 猪に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
と赤羽君は腕
捲
(
まく
)
りをした。
恨
(
うらみ
)
骨髄
(
こつずい
)
に徹している。
凡人伝
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
に向って
熾
(
さか
)
んに
捲
(
まく
)
し立てて居るのであります。
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
と蒼くなって
捲
(
まく
)
したてた。
湖畔
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
ガルールは横っちょにペッと唾を吐きながら
起
(
た
)
ちあがって、ズボンの裾を
捲
(
まく
)
りあげて立ち去ろうとすると、男は馴々しく肩へ手をかけて
ラ・ベル・フィユ号の奇妙な航海
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
洗いざらしの
単衣
(
ひとえ
)
に三尺をしめ、藁草履をはき、片方の裾を
捲
(
まく
)
って、ひょろひょろと来たが、すれちがいさまにどんと去定に突き当った。
赤ひげ診療譚:05 徒労に賭ける
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
振袖源太は、赤地總模樣の大振袖の腕を
捲
(
まく
)
り上げて、
拳下
(
こぶしさが
)
りに一刀を構へたまゝ。三丈餘りの
高梁
(
たかはり
)
の上から、土間の平次を見下ろしました。
銭形平次捕物控:002 振袖源太
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
と
梵鐘
(
ぼんしょう
)
の如き声で末座の一人に
腭
(
あご
)
を向けると、はッと答えて
潔
(
いさぎよ
)
くそれへ出た一人の修験の門輩、柿色の袖を
捲
(
まく
)
して一礼をなし
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
さあ何とで御座んす、と袂を
捉
(
と
)
らへて
捲
(
まく
)
しかくる勢ひ、さこそは当り難うもあるべきを、物いはず格子のかげに小隠れて
たけくらべ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
捲
漢検準1級
部首:⼿
11画
“捲”を含む語句
捲毛
吹捲
捲立
捲髪
席捲
捲土重来
捲上
捲起
取捲
腕捲
引捲
捲揚機
捲付
一捲
掻捲
捲線
書捲
捲込
逆捲
渦捲
...