つか)” の例文
鮎子が右に左に通せんぼうをするのを、たくみにかいくぐって、尻尾しっぽの二郎美少年をつかまえる遊戯だ。陸上の「子を取ろ、子取ろ」である。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いや、」と彼は言った、「私は追跡されています。その室でつかまるばかりです。そうなるとかえってあの女の霊を乱すでしょう。」
このわしか。——これもその呂宋兵衛が、桑名くわなから浜松へくるとちゅうでつかまえたのを、菊池半助きくちはんすけのところへ土産みやげに持ってきたのじゃ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これまで、このやぶからたもので、いくたり人間にんげんつかまってかえってこないものがあるかしれない。しかし人間にんげんころすのではない。
春がくる前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そしてあの、おいらをつかまえたときの、騒がずあわてぬとりなし、役者をめさせて、泥棒にしても押しも押されもされぬ人間だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
れからつかまえられたとか斬られたとか、あるいは奥平屋敷の溝の中に人が斬倒きりたおされて、ソレをまた上からやりついたと云うようなおお騒動。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何ぼうはあ貧乏してても、もとあれっきとして禰宜様の家柄でからに、人に後指一本差さっちゃことのねえとっさんつかめえてよくもよくも……
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
まず第一番に神尾喬之助をつかまえて事をただし、柳営りゅうえいである元旦である、喬之助に理があれば切腹、非ならば極刑きょくけいに処さなければならない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たまや、さう/\、おまへも一しよればかつたね!空中くうちゆうにはねずみないだらうけど、蝙蝠かうもりならつかまへられる、それはねずみてゐるのよ。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私はただ無性に嬉しくなり、むやみに走り廻っては彼らを追いかけ廻した。幾らでも、全く可笑しい位幾らでも、つかまるのだ。
はとはおなかいてゐました。あさでした。羽蟲はむしを一つみつけるがはやいか、すぐ屋根やねからにはびをりて、それをつかまえました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
どうも、大変な話じゃありませんか。それから組頭がつかまえられると同時に家捜やさがしをされて、当人はそのまま伝馬町てんまちょう入牢にゅうろうさ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ま詰らん小商こあきないをするよりもこれ、一疋虫をつかめえて六百ずつになれば、子供でも出来る事だから宜かろうと頼まれましたんで
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
病夫浪之助を殺して表へ出た時の着附きつけだったか、つかまる時のだか、そんなことはもう、おぼろげになってしまっているといってたのを、はなした。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一度は一軒置いてお隣りの多宝院の納所なっしょへ這入り坊さんのお夕飯に食べる初茸はつたけの煮たのをつまんでいるところをつかまえました。
つかまへてお濱さんへの土産みやげにする気で、縁側えんがはづたひに書院へ足音を忍ばせて行つたが、戸袋とぶくろに手を掛けてかきの樹を見上げた途端はずみに蝉は逃げた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
しかしつかまえるものがないから、しだいしだいに水に近づいて来る。いくら足をちぢめても近づいて来る。水の色は黒かった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
息が切れて走れなくなりました。頭や背中には石を投げつけられて怪我けがをしました。この上つかまったら、どんな目にあわされるかわかりません。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
けっしてつかまえないという警察の保証をつけて犯人をおびき出し、その、のこのこ現われたところを子供と一緒に押えちまえばいいじゃないか、と。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「いや、ところがやつらだってなかなかそうたやすくつかまるような間抜けはしませんよ。もう心得ていますからね。」
「それは御無理と申すもので。まるっきり証拠も何もないことでおつかまえなさるのはあんまり御無理なことで……」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
最近東京を騒がした有名な強盗がつかまって語ったところによると、彼は何も見えない闇の中でも、一本の棒さえあれば何里でも走ることができるという。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
孫はきっと天国で梨の実を盗んでるところを庭師につかまって、首をられたに違いない。ああ、わしはどうして孫をあんな恐ろしい所へったんだろう。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
が、碗の壁のそばにぽっかりとあった穴の中に、僕の服はするすると入ってしまって、僕はつかまえそこなった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ところがつかまえたのさ。ちゃんと捕まえたんだからね!」とノズドゥリョフが答えた。「さあ今度は一つ、」と彼は、チチコフに向って言葉をつづけた。
そうして又、それが泥棒一つつかまえた経験のない無能な彼の、心中からの……ただ一筋の悲しい願いでなければならぬ事を、彼自身に何度、自覚したことか。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何となれば、彼は実際出懸けて行った、そして自分の着物につかまっているスクルージを一緒に連れて行った。
それがつかまると、棒杭ぼうぐいにしばりつけて置いて、馬の後足でらせたり、裏庭で土佐犬にみ殺させたりする。それを、しかも皆の目の前でやってみせるのだ。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「空巣をやるような人間は、死んでもつかまるまいというような、けなげな精神は持っておらんものです……あれは、空巣以外の、何者か、だったんでしょうな」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それをいて、ラプンツェルがんだ頭髪かみしたらすと、魔女まじょはそれにつかまって、のぼってきました。
「ええうるさい。たとえあたしがはなしても、つかまえるのはおまえ役目やくめだ。——もうおまえなんぞにようはない。いますぐここでひまをやるから、どこへでもっておしまい」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ただ笑ってるばかりならイイが、「俺をつかまえようてには一師団の兵がる」ナドト大言していた。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
こうして話をしていても、自分やあなたの一言一句を片っぱしからつかまえて、いそいで自分の手文庫のなかへほうりこむ。こりゃ使えるかも知れんぞ! というわけ。
わしは片方の翼と足とをつかまえて、地べたにおしつけて力を入れて抜いた。翼は大きくて小さい骨ほどあるのだからちょっと引っぱったぐらいでは抜けはしないからね。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
追手おってつかまって元の曲輪くるわへ送り戻されれば、煙管キセル折檻せっかんに、またしても毎夜の憂きつとめ。死ぬといい消えるというが、この世の中にこの女の望み得べき幸福の絶頂なのである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
隨分泥棒をつかまへて繩をふと云ふやうな話であるが、然も其時は事實あれ程の急劇きふげきな變化、即ち三年後に江戸が東京になる程の變化が來やうとは思はなかつたので、悲しくても
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
また忍んで折々おりおり歩いて来る人間があれば、つかまえてじきにニャートンに報知する事になって居る。そのためにここに一軒家があるのです。その家にはばあさんとほかに一人居りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
何だか、池の水の中に泳いでいる美しい金魚か何ぞのように、あまり遠くへ逃げもせず、すぐに手につかまりそうで、さて容易につかまらないというような心地のするのがその女であった。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
平次と八五郎が、土地の御用聞と連絡して、八方から見張つてゐるにも拘らず、想像も及ばぬほどの殘酷な手段で、娘のお玉を殺した曲者は、それつ切り影法師もつかませなかつたのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
……私は急に、私のそばにいる彼女の腕をとって、向うから苦手の人が来るらしいのでつかまると面倒めんどうくさいからと早口に言訣いいわけしながら、いま来たばかりの水車場の方へ引っ返していった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
強盗をつかまえたり、殺人事件ならともかく、こういう品物を下っ端探偵なぞが、いくら騒ぎ立てたからとて、出てくるわけがあるもんですか! そこは女ですよ、美しい婦人に、限るのですよ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
つかまった犯罪人のように、彼は、自分の運命が決定したことを直感した。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「今度一つ、はふり込んで行くところを、うまくつかまへようかな。」
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「追っかけてつかまえて、やはり殺してしまうです」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
押していったわ、白木屋の前に来なかったら、ただじゃ置かないと、省線に張り込んでいるからそう思えと言ったわ、あたい、下車するとバスの停留場まではしったわ、うしろ向くとつかまえられると思ってがたがた趨った。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
逃げだすパルチザンをつかまえるためだ。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
(般若の五郎は、つかまったか知らん?)
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「よし、こん畜生つかまえてやるぞ」
ねえさん、玉虫たまむしつかまえてきたよ。ぼく揮発油きはつゆをつけて、ころしてやろうか?」と、まことさんは、いいました。これをきくと、春子はるこさんは
玉虫のおばさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「耳ざとく、よく町へ弥次馬に出かける奴じゃな。捕物とは、盗人ぬすびとでもつかまったか。清洲の御城下に、盗人があったとは珍しい」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)