“扼:やく” の例文
“扼:やく”を含む作品の著者(上位)作品数
吉川英治23
泉鏡花4
中里介山4
夏目漱石3
国枝史郎2
“扼:やく”を含む作品のジャンル比率
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.6%
文学 > 日本文学 > 小説 物語(児童)0.4%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
追手おって一組ひとくみは早くも駅尽頭しゅくはずれの出口をやくして、の一組はただちに美濃屋に向った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
古老こらうまゆひそめ、壯者さうしやうでやくし、嗚呼あゝ兒等こら不祥ふしやうなり。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これを聴ける時、妾は思わず手をやくして、アアこの自由のためならば、死するもなどか惜しまんなど、無量の感にたれたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「もし葭萌関を張魯にやくされてしまったら、蜀と荊州の連絡は断たれ、退くも進むもできなくなる。誰を防ぎにやったらよかろう」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「暴力をもって、正業の人士をやくす。それ何ぞ、鬼畜に類するや。正義の徒、断乎、起つべし。最後の勝利は、吾にあり」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
摂津から、備前までの間、いま陸路の交通は、秀吉の軍にやくされている。海路芸州へ行くよりは至難中の至難といわねばならない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
垂井たるいから不破ふわの山間の通路をやくして、秀吉の精兵が長浜を出て、昨夜以来、勝家ござんなれと、待ちかまえている)
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二階にかいから突切つききるのは河川かせん彎曲わんきよく直角ちよくかくに、みなとふねやくするがごと
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雒県らくけんの山脈と、往来の咽喉のどやくしている、雒城らくじょうの要害とは、ちょうど成都と涪城ふじょうのあいだに在る。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すると前面の西国街道からも、背後の古道からも、周囲はたやすく登りうるわけ。つまり二つの街道をやくして立つ孤立の丘と言い得るな」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朗らかで軽くひきしまつた、滑らかでさつぱりした長閑さが、彼等の新しい歌の生命をやくする音律であつた。
とこうするまに、早くも曹操は山東の境をやくし、また当然下邳かひへ押しよせて、城下を大兵で取固めた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地踏韜じだんだみてたけり立つをも、夥間なかま同志が抑制して、こぶしを押え、腕をやくして
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それと、もう一つは、山を降って、渡河に移ると、対岸の小森河岸の丘に、上杉方の勇将としてたれも知る甘糟近江守が、十二ヶ瀬一帯をやくして、
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かねいましむる処やありけん、地踏韛じだんだみてたけり立つをも、夥間なかま同志が抑制して、こぶしを押へ、腕をやくして
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これ万一敵艦江戸湾をやくする時に際し、常総、両野の米を、江戸に廻送するの用に供せんがためなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ここにはもやぐいとホッ立て小屋がある。毛馬村の船着と見て、七名は、ばらばらとそこへ先廻りして降口おりぐちやくして待っていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行ったら完全に将門の致命をやくすような策でなければならないと、二人は智恵をしぼりあった。だが、完全扼殺となると、にわかに名案もうかんで来ない。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時魔の如き力はのんどやくしてその背をつ、人の死と生とはすべて彼が手中に在りて緊握せらる、欲するところとして得られざるは無し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで結城の若侍、腕をやくし、歯を噛んで、今年こそはと意気込んでいる——その仕合も近い。
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
暗黒やみの水面に栄三郎を見失って長嘆息、いたずらに腕をやくしながら三々五々散じてゆく。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
両俣とも被った滝に入口をやくされた顕著な二俣を右に入り、烏帽子状ピークのガリーを登ってピーク背後のリッジへ出た後、リッジをバットレス下へと辿る。
八ガ岳大門沢 (新字新仮名) / 松濤明(著)
果たせるかな、一歩、摂津に入ると、けわしいものが往来の者にも感じられる。兵庫あたりから花隈城の兵が道路をやくし、随所に柵を作り、関をむすび、
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、光秀が山崎の隘路をやくして秀吉の大軍をはばまんとしたのは戦略上、当然の処置であり、秀吉の方も亦山崎に於ての遭遇戦を予期していたのであろう。
山崎合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すなわ淮南わいなんの民を募り、軍士をがっして四十万と号し、殷に命じて之をべて、淮上わいじょうとどまり、燕師をやくせしむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
北原は魏の一基地である。ここの塁壕るいごうを守る郭淮は、岑威の手下が敗走してきたことによって急変を知り、兵を揃えて、蜀勢の帰る道をやくしていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の噂に味方みかた敗北はいぼくを聞くごとに、無念むねんさ、もどかしさに耐へ得ず、雙の腕をやくして法體ほつたいの今更變へ難きを恨むのみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「兵糧など捨て置いて味方の一隊は、北へ迂回し、黄河に沿って、敵の退路をやくせ、——また一隊は、逃げるが如く、南のおかへ馳けのぼれ」と、下知した。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど途中に、呉の蒋欽しょうきん、周泰の二将が、嶮路けんろやくして待っていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万難を排して、今やこの方面の赤松円心や細川定禅らの西国勢と手をむすび、そして鳥羽とば伏見から羅生門にわたる都門の動脈をやくしてしまったものである。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
即ち、東軍は只京都の北部一角に陣するに反し、西軍は南東の二方面をやくして居る訳だ。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
で、今も茅野雄を追い抜いて、その前方へ現われて、茅野雄の行く手をやくしたのである。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
北口をやくする一箇大隊の将兵は、昼間は個々の蛸壺たこつぼに身をひそめ、身体をかがめて自らの口を充たすべき籾を搗き、夜に入れば初めて地上に出て戦った。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
南口をやくする此の隊にしても、見習軍医が一名とわずかの衛生兵がいるだけに過ぎない。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
——美濃、尾張を境する木曾の大川をその上流に監視し、まぢかに鵜沼うぬまの渡しをやくして、一城よく百塁のけんにあたるものを、あたら敵へ加えてしまった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうやくしていたのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
逸作は一寸ちょっと腕をやくしてかの女を払い退けるようにして読み続けた。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「——背に、伊吹のけん、北国東海の二道をやくし、舟路しゅうろ一駆いっくすれば、京は一瞬の間にある。——しかも、平和を愛して、自適するにも、絶佳の景」
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三蔵たち、青鷺組の者は、そこから小一里さきの、庄内川しょうないがわの渡り口をやくしている大留城を、やがて宵空よいぞらの彼方に見る辺りまで、近づいて行った。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斎藤一は極端なる近藤讃美から、腕をやくして悲歌慷慨の自家昂奮に堪えやらず、滔々とうとうとしてまくし立てる。ここに至ると、眼に相手を見ざること対談者と変らない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女はその時、既に出口をやくしてるかのようにルブラン氏ととびらとの間に立って、威嚇いかくするようなまたほとんど戦わんとしてるような態度で彼を見守っていた。
一散に走り、追い詰めるとさっと前へ出て、行く手をやくしたが大音声だ。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
腕をやくし、歯がみをして、しばし見ていたが、機を計って、城門をひらくと、
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ランスロットは腕をやくして「それこそは」という。老人はなお言葉を継ぐ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ジプシー族は、それを見送って、何かしきりに言い罵っていたが、若い者のうちには、腕をやくして、そのあとをにらまえ、追っかけようとする素振そぶりを示す者がある。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何かしら必らず事件を持ちあげて、或は憲兵に腕をやくして大広間からしょびき出されるか、さもなければ、自分の友達に否応なしにつまみ出されるのがお定まりなのである。
鈴鹿口をやくし、こなたの南下を犇々ひしひし備えておるとのことでおざる
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行くみちやくすとは、そのかみ騎士の間に行われた習慣である。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たま/\北辺に寇警こうけいありしを機とし、防辺を名となし、燕藩の護衛の兵を調してさいでしめ、其の羽翼うよくを去りて、其の咽喉いんこうやくせんとし
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「その通りだ。大東京の外廓以内に、到るところ、高射砲陣地がある。ことにこの上野公園の高射砲陣地は、もっとも帝都の中心をやくする重要なる地点だ。われ等の責任は重いぞ」
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、ひそかに腕をやくし、足ずりして、曹操の寛大をもどかしがっていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子飼へ殺到してみると、敵はそこの渡し口を、もう完全に、やくしていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内神田の咽喉いんこうやくしている、ここの狭隘きょうあいに、おりおり捲き起される冷たいほこりを浴びて、影のような群集ぐんじゅせわしげにれ違っている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「なぜ白状しないか」と叫んで玄機は女ののどやくした。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「世の中は近々平和になるよ。だが今後とも小ぜりあいはあろう。幕臣たる者は油断してはならない。八郎、お前、久能山くのうざんへ行け! 函嶺かんれいけんやくしてくれ!」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
——というのは、さきに信忠に従って引揚げた軍中の一将荒木村重が、その位置する摂津せっつの要地をやくして、突然、織田家に反旗をひるがえしたという早馬がこれへあったからである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
形勢はまさに大津の咽喉いんこうやくし、京都に入り、淀川に待って、大坂石山の本願寺、その他と呼応して、信長を一挙に、その間でほふり去ってしまおうとする作戦かに見られる——
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食客連は、またおのれが屋敷に帰ったような気取りで、或いは黙々として勘考をしているものもあれば、或いは寄り集まって、腕をやくしながら当世のことを論じて夜を明かすものもありました。
こうして、祖国の領海が、白人密猟者のために、さんざ荒されるのを傍観して、僕は、おもわず、腕をやくし、義憤の涙にまぶたを濡らすのだったが、多勢に無勢、なんとも手の下しようがない。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
黄金台といふのは、湾口を東からやくしてゐる岬の名だ。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
その後間もなく市政のかれたこの町は、太平洋に突き出た牡鹿おじか半島の咽喉いんこうやくし、仙台湾に注ぐ北上河きたかみがわの河口に臨んだ物資の集散地で、鉄道輸送の開ける前は
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
兵馬は槍を上段につけて、米友の咽喉をやくしている。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、なんのために腕をやくして江戸へ押し出すのか?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「承った——」と、やおら自来也鞘じらいやざやを左にひっさげて、巨躯きょくを起こした天堂一角。九鬼弥助、森啓之助を先に立たせて、酔いざましの好場所もあらばと腕をやくして立ち上がった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「河内へ退こう。河内、和泉、摂津の兵を糾合きゅうごうし、敵の天王寺へ突いて出よう。かしこにれば、海の口をやくし、かたがた、淀をさかのぼって、京都回復の作戦に出ることもできる」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文化的には、ここは沃野よくやをかかえ、嶮山けんざんを負い、京都諸地方への交通路をやくして、天産に恵まれ、農工もさかんだし——水はうるわしく、女もきれいだが、日吉は心のうちで、
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやしくも文明の教育を受けたる紳士が婦人に対する尊敬を失しては生涯しょうがいの不面目だし、かつやこれでもかこれでもかと余が咽喉のどやくしつつある二寸五分のハイカラの手前もある事だから
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、孔秀自身、剣をやくして立ちあらわれ、
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
従って、ここをめれば、湖南一帯から美濃の平野をやくし、京都や北国路や東海道への交通をおさえることになるので、討ってもはらっても、敵たる者は、当然、すぐこの地方に充血してくる。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう彼がにわかに恐れたのは、佐々木六角や浅井長政が、背後をやくしたというだけのものではない。信長が骨髄から恐怖したのは、この地方におびただしい巣窟そうくつを持っている本願寺門徒の僧兵がみな、
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、腕をやくして、怒るもあるし、
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と正三君は腕をやくした。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼は直ちに匕首あいくちが自分の咽喉元のどもとへ突き刺さるだろうと観念していると、曲者は一方の腕で何処までも頸をやくしたまゝ、一方の手で二度も三度も顔の上を、あたかも舌で舐め廻すようにぺろり/\と撫でるのである。
一めん波が菱立ひしだって来た放水路の水面を川上へ目をさかのぼらせて行くと、中川筋と荒川筋のさかいつつみの両端をやくしている塔橋型とうきょうがたの大水門の辺に競走のような張りを見せて舟々はを上げている。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もし、武田方に、一朝、ここを奪われれば、越後軍は東進南出すべて封じられる運命におかれなければならないし、越後によってそれがやくされているかぎり、甲山の猛虎信玄も、ついに野尻湖以北——裏日本への展開は将来に望み難いものになる。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当然、ここ琵琶湖びわこを一方に、江州の連山を南にやくした街道の要地で、彼らは、かつて永禄の三年、織田信長が今川義元の上洛じょうらくの途上をついて、一挙に粉砕した時のように——こんどは信長をここに撃滅してみせると豪語して待っていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの城には、斎藤道三殿の子、新九郎義龍しんくろうよしたつがいて、この要害の地に、四隣をおさえ、京都と関東の通路をやくして、内には兵をり、新しい武器をたくわえて、織田も今川も北条も、所詮しょせん、歯が立つものじゃあない。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ笛吹川の上流子酉ねとり川の左岸に屹立した鶏冠とさか山のみが、青葉の波の上に名にし負う怪奇な峰頭をもたげて、東沢西沢の入口をやくし、それらの沢の奥深く入り込もうとする人に、暗い不安の影をちらりと投げ懸けているといえばいえよう。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
川島は満洲朝の滅亡と共に雄図蹉跎さたし、近くは直隷軍の惨敗の結果が宣統帝の尊号褫奪ちだつ宮城明渡しとなって、時事日に非なりの感に堪えないで腕をやくしているだろうが、依然信州の山河に盤踞ばんきょしてぐうを負うの虎の如くに恐れられておる。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
まれには舟を借りて沖へ出かけることもあったが、舟主との間が面白くないので、彼は大方この展望台にこもって、天候の次第に依って幾通りかの旗をかかげたり、魚群の到来を村人に知らすサイレンのスウィッチを握ったりして、遣瀬やるせなく腕をやくしていた。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
『えゝ、無責任むせきにんなる船員せんいん! 卑劣ひれつなる外人くわいじん! 海上かいじやう規則きそくなんためぞ。』と悲憤ひふんうでやくすと、夫人ふじんさびしきかほわたくしむかつた、しづんだこゑ
実際そこはこの上もない場所であって、街路の入り口は広く、奥は狭まって行き止まりになり、コラント亭はそののどやくし、モンデトゥール街は左右とも容易にふさぐことができ、攻撃することのできる口はただ、何ら掩蔽物えんぺいぶつのない正面のサン・ドゥニ街からだけだった。
いつか海洋博物館での通俗講演会でペンクが青島チンタオの話をしたとき、かの地がいかに地の利に富むかということを力説し、ここを占有しているドイツは東洋の咽喉いんこうやくしているようなものだという意味を婉曲に匂わせながら聴衆の中に交じっている日本留学生の自分の顔を見てにこにこした。
ベルリン大学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)