かた)” の例文
お節句の菖蒲しょうぶを軒から引いたくる日に江戸をたって、その晩はかたの通りに戸塚に泊って、次の日の夕方に小田原のしゅくへはいりました。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
誇るに西洋料理七皿をもってする、かたのごとき若様であるから、冷評ひやかせば真に受ける、打棄うっちゃって置けばしょげる、はぐらかしても乗出す。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葬列がすつかり寺庭じていに着くと、かたの如く読経どきやうがあつた。そして私は母と一緒に焼香した。それから長い長い悼詞たうじが幾人もの人によつて読まれた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
あたう。男は無言で坐り込み、筒湯呑つつゆのみに湯をついで一杯いっぱい飲む。夜食膳やしょくぜんと云いならわしたいやしいかたの膳が出て来る。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かたの如く頭を垂れて温和おとなしく祈祷に聞きとれてゐた憲法学者はひよいと聴耳ききみゝを立てた。
医者も来、坊さんも来て、万事ちゃんとかたどおりにいっています。どうか、あの不幸のどん底に落ちた婦人を、あまりわずらわさないでください。それでなくても肺病なんですから。
肩に手を掛けて押すように石段をあがって、書斎に引き返した甲野さんは、無言のまま、扉に似たる仏蘭西窓フランスまどを左右からどたりと立て切った。上下うえした栓釘ボールトかたのごとくす。次に入口の戸に向う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
物のかたちも筋めよく、ビザンチンかたごと
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
変死のうちでも、雷死は検視をしないことになっているので、お朝の死骸はあくる日のゆう方、今戸いまど菩提寺ぼだいじへ送られてかたのごとく葬られた。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
真黒まっくろな溝の縁に、野をいた跡の湿ったかと見える破風呂敷やぶれぶろしきを開いて、かたのごとき小灯こともしが、夏になってもこればかりは虫も寄るまい、あかり果敢はかなさ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竿を手にして、一心に魚のシメこみうかがった。魚はかたの如くにやがて喰総くいしめた。こっちは合せた。むこうは抵抗した。竿は月の如くになった。いと鉄線はりがねの如くになった。水面に小波さざなみは立った。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
明日は何もかもかたどおりにしたい、前菜ザクースカやいろんなものをそろえなくちゃ、などと子供みたいに気をもんでいるかと思うと……両手を折れるようにもんだり、血を吐いたり、泣いたりして
物のかたちも筋めよく、ビザンチンかたごと
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
他事ひとごとながらいたわしくて、記すのに筆がふるえる、遥々はるばる故郷おくにから引取られて出て来なすっても、不心得な小説孫が、かたのごとき体装ていたらくであるから
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから初七日しょなぬかの日に、親類一同がかたの如く寺参りに行くと、祖父おじいさんの墓は散々に掘り返されて、まだ生々しい死骸が椿の樹の高い枝に懸けてあった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
両三度、津山の笑いは、ここで笑うのにあらかじめ用意をしたらしいほど、かたのごとく、例の口許くちもとをおさえて、黙然だんまりを暗示しながら、目でおどけた。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたの通りに検視がすんで、死体はそれぞれに引き渡されたが、その下手人については二様の意見があらわれた。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぼく角力すまふきらひだ、といふと、……ちひさなこゑで、「示威運動じゐうんどうだから、かたばかりでくんだ。」よした、とつと
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
中島角右衛門という名札なふだをわたくしの前に出しましたから、こっちもかたのごとくに初対面の挨拶をしていますと、槇原の旦那は待ち兼ねたように云うんです。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
公園のうちにても、眺望ちょうぼう勝景しょうけい第一と呼ばれたる処に候へば、かたの如き巨大なる怪獣の腹の下、あしツある間をすかして、城のやぐら見え、森も見え、橋も見え
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
勿論、かたの通りに届けて検視をうけたのですが、その下手人は誰だか判らない。場所が場所ですから、神明の八人斬というので、忽ち江戸中の大評判になりました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この度の釣狐も、首尾よく化澄ばけすまし、師匠の外聞、女房の追善とも思詰おもいつめたに、かたのごとき恥辱を取る。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんなことを云っているうちに、噂のぬし帯剣たいけんからめかしながら入って来た。近所の人であるから、忠一ともかね相識あいしっているのである。双方の挨拶はかたの如くに終った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二丁目の我が借家の地主、江戸児えどつこにて露地を鎖さず、裏町の木戸には無用の者るべからずとかたの如く記したれど、表門には扉さへなく、夜が更けても通行勝手なり。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
町奉行所から当番の与力や同心が東山堂へ出張って、かたのごとくにおまんの死体を検視すると、かれは普通の食あたりでなく、たしかに毒薬を飲んだのであることが判った。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただあぜのような街道かいどうばたまで、福井の車夫は、笠を手にして見送りつつ、われさえ指すかたを知らぬさまながら、かたばかり日にやけた黒い手を挙げて、白雲しらくも前途ゆくてを指した。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
閩中みんちゅうの或る人の娘はまだ嫁入りをしないうちに死んだ。それを葬ることかたのごとくであった。
……そのうへかたごとく、だし昆布こんぶなべそこいたのでは、つよくしても、うもえがおそい。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その頃の旅籠屋には押入れなどを作っていないのが普通であったが、この座敷は特別の造作ぞうさくとみえて、かたばかりの床の間もあった。それに列んで一間の押入れも付いていた。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある日、ひとりの見識らぬ客が阮をたずねて来て、かたのごとく時候の挨拶が終った後に、話は鬼の問題に移ると、その客も大いに才弁のある人物で、この世に鬼ありと言う。
銚子てうしいりわるくつて、しかも高値たかいとふので、かただけあつらへたほかには、まち酒屋さかやから
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また一片ひとひら、……ここへかすりの羽織、しまの着物、膨らんだ襯衣しゃつかたのごとく、中折なかおれ阿弥陀あみだかぶって、靴を穿いた、肩に画板をかけたのは、いうまでもない、到る処、足のとどまる処
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
云いながらよく視ると、柳橋の若い芸妓は島田をかたのごとく美しく結いあげていたが、顔には白粉のあともなかった。自体がすこし腫れ眼縁まぶちのまぶたをいよいよ泣き腫らしていた。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
極めて生真面目きまじめにして、人のその笑えるをだに見しものもあらざれども、かたのごとき白痴者なれば、侮慢ぶまんは常に嘲笑ちょうしょうとなる、世に最もいやしまるる者は時としては滑稽こっけいの材となりて
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帰るときに会葬者はかたの通りの塩釜をめいめいに貰ったが、持って帰るのも邪魔になるので、半七はその菓子を山城屋の小僧にやった。そうして、そばにいた利兵衛にささやいた。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
茶店の婆さんというのが、かたのごとく古ぼけて、ごほん、とくのが聞えるから、夫人は余り気が進まぬらしかったが、二三人子守女もりっこに、きょろきょろ見られながら、ずッと入る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜のあける頃には町与力まちよりきも出張した。品川は代官の支配であったが、事件が事件だけに、町方も立ち会ってかたのごとくに検視を行なうと、お駒はやはり絞め殺されたものに相違なかった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
威張いばる事にかけては、これが本場の支那しなの官人である。従者がかたの如くしか退けた。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
大次郎という人はその足で吉原へ飛んで行って、諸越花魁に逢って、かたのごとくに雷見舞の口上をのべて帰りました。帰っただけならばいゝのですが、屋敷へ帰ってから切腹したそうです。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大したゆきさつじゃございやせんがね、根がそれ、昔の懐しさに、雲助のかたをやッつけた処でござりやすで、いきなり、曲者くせものとか、何とかいって、旦那がギックリとおいでなさりゃ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたのごとくに猪口ちょこの遣り取りをしているうちに、雨はますます強くなった。
ちょうど尾花の背景うしろもある、牛頭馬頭ごずめず眼張がんばりながら、昔のかたを遣ってみべいと
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたのごとくに女衒の判代や身付みづきの代を差引かれましたが、残った金を医者のところへ持って行って、宜しくおねがい申しますと云うと、桂斎先生は心得て、そのうちから八両とかを受取って
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
く息あたかもにじのごとしで、かッと鼬に吹掛ける。これとても、蜉蝣ぶゆを吸うような事ではござらん、かたのごとき大物をせしめるで、垂々たらたらと汗を流す。濡色が蒼黄色あおぎいろに夕日に光る。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょう役人からかたの通りに変死の届けを出して、与力同心も検視に出張した。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれは手も足も肉落ちて、赭黒あかぐろき皮のみぞ骸骨がいこつつつみたる。たけ低く、かしら禿げて、かたばかりのまげいたる十筋右衛門とすじえもんは、略画りゃくがからすひるがえるに似たり。まゆも口も鼻も取立ててうべきところあらず。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どこで借りて来たのか、小綺麗な枕屏風まくらびょうぶが北に立てまわされて、そこには徳次郎の死骸が横たえてあった。半七はかたの通りに線香をささげ、香奠を供えて、それから死骸の枕もとへ這いよった。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
往来ゆききの脚も、この前あたりがちょうど切目で、後へ一町、前へ三町、そこにもかしこにも両側の商家軒を並べ、半襟と前垂まえだれの美しい、ねえさんがたもとを連ねて、かたのごとく、お茶あがりまし
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつもの座敷へ通されて、年頭の挨拶がかたのごとくに済むと、おなじみの老婢ばあやが屠蘇の膳を運び出して来た。わたしがここの家で屠蘇を祝うのは、このときが二度目であったように記憶している。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
買いにろうかとも思ったが、かたのごとき大まかさの、のんびりさの旅館であるから、北国一の電話で、呼寄せていいつけて、買いに遣って取寄せるひまに、自分で買って来る方が手取早てっとりばやい。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)