容体ようだい)” の例文
旧字:容體
池辺いけべ君の容体ようだいが突然変ったのは、その日の十時半頃からで、一時は注射の利目ききめが見えるくらい、落ちつきかけたのだそうである。
三山居士 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其の容体ようだいすこぶ大柄おおへいですから、長二は此様こんな人に話でもしかけられては面倒だ、此の間に帰ろうと思いまして暇乞いとまごいを致しますと
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大したきずではないが容体ようだいが思わしくないから、お浜が引続き郁太郎を介抱かいほうしている間に、竜之助は一室に閉籠とじこもったまませき一つしないでいるから
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
石崎爺さんは丁髷頭ちよんまげあたまを気軽につて奈良から出て来た。そして一目病人の容体ようだいを見ると、手もなく風土病から来た湿毒症だといふ事を言ひきつた。
武器を参らす、郊外に猟などして、みずから励ましたまへ、聞くが如き其の容体ようだいは、薬も看護みとりかいあらずと医師のいへば。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
われ、おおいに驚きて云いけるは、「如何ぞ、「るしへる」なる事あらん。見れば、容体ようだいも人に異らず。蝙蝠かわほりの翼、山羊のひずめくちなわうろこは如何にしたる」と。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「板前さんからも聞いていた、何でも、太刀傷のある上に水浸みずづかりになって、随分容体ようだいも重いということじゃないか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうも取んだ事で、阿父おとつさんの様子はどんな? 今朝新聞を見るとおどろいて飛んで来たのです。容体ようだいはどうです」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二年程立って、貞松院が寂しがってよめの所へ一しょになったが、間もなく八十三歳で、病気と云う程の容体ようだいもなく死んだ。安永三年八月二十九日の事である。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
亭主も病人の容体ようだいを心配して、二階へ上つて来た。床の上の人はスヤ/\眠つて居る様子なので、成るべく眠らせるがいと言ひ合つて、皆な枕頭まくらもとで話して居た。
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
トウ/\手足もかなわぬと云う程になって、追々おいおい全快するがごとく全快せざるが如くして居るあいだに、右の手は使うことが出来ずに左の手に筆をもって書くと云うような容体ようだい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
御者ぎよしや鼻唄はなうたばし途断とぎれて、馬のに鳴る革鞭むちの響、身にみぬ、吉田行なるうしろなる車に、先きの程より対座の客のおもて、其の容体ようだいいぶかしげにながめ入りたる白髪の老翁
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
此頃よりせふ容体ようだい尋常たゞならず、日を経るに従ひ胸悪くしきりに嘔吐おうどを催しければ、さてはと心にさとる所あり、出京後しゆつきやうご重井おもゐ打明うちあけて、郷里なる両親にはからんとせしに彼は許さず
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
お君は路地の口まで送って来て、姐さんの容体ようだいがどうもよくないから、あしたもきっと来てくれとすがるように言った。その涙ぐんでいる顔が林之助にはいじらしく見えた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのうちだんだんにからだよわって、今日明日きょうあすれないようなむずかしい容体ようだいになりました。
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
容体ようだいは日一日に悪くなった。昨日は便所からはうようにしてかろうじて床にはいった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
羊羹ようかん色した紋付もんつきを羽織って、ちょっと容体ようだいぶったのがチョコンと坐っている。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
得てにわかに己の重きを増したる如く一寸ちょいと目科を尻目に掛け容体ようだいぶりて説き始む
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
と、さも容体ようだいぶつて云つた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
容体ようだいを聞くと、危険なれどごく安静にしていれば持ち直すかも知れぬという」とは、さいのこの日の朝の部に書き込んだ日記の一句である。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
甚三郎は提灯を下へ置いて、蝋燭を丁寧に抜き取って、それを手近な燭台の上に立てながら、女の容体ようだいをうかがうと
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
爪の先みたいな医刀による手術、灸治きゅうじの法、強壮剤らしい煎薬せんやくなどで、宋江の容体ようだいは、みるみるくなり、二十日もたつと、元の体になりかけていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、いくら医者が手を尽しても、茂作の病気は重くなるばかりで、ほとんど一週間と経たない内に、もう今日きょう明日あすかと云う容体ようだいになってしまいました。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もっとも、戸外そとは日当りに針が飛んでいようが、少々腹が痛もうが、我慢して、汽車に乗れないという容体ようだいではなかったので。……ただ、誰も知らない。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この頃より妾の容体ようだい尋常ただならず、日を経るに従い胸悪くしきりに嘔吐おうどを催しければ、さてはと心にさとる所あり、出京後重井に打ち明けて、郷里なる両親にはからんとせしに彼は許さず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
さて中津から箇様かよう申して参りました、母がにわかに病気になりました、平生へいぜい至極しごく丈夫なほうでしたが、実に分らぬものです、今頃は如何どう云う容体ようだいでしょうか、遠国えんごくに居て気になりますなんて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「御前、大丈夫でございます、この御容体ようだいぢや百歳までは屹度お請合うけあひが出来ます。」
あがりなさいう云う様子だ、容体ようだいを云いなさい、えゝ、何か云うとお前は下を
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
九郎右衛門は自分の貰った銭で、三人が一口ずつでもかゆすするようにしていた。四月の初に二人が本復すると、こん度は九郎右衛門が寝た。体は巌畳がんじょうでも、年を取っているので、容体ようだいが二人より悪い。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
秋風が立つにつれて、容体ようだいの悪いのが目に立った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「なるほど容体ようだいを聞くと、今が今どうという事もないようですが、病気が病気だからよほど気をつけないといけません」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それには入院おさせになった方が便利ではないかと思うんです」自分は多加志の容体ようだいはSさんの云っているよりも、ずっとあやういのではないかと思った。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
上が身を堅く花嫁の重いほど、乗せた車夫は始末のならぬ容体ようだいなり。妙な処へかじめて、曳据ひきすえるのが、がくりとなって、ぐるぐると磨骨みがきぼねの波を打つ。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
買ひて見れば、国王ベルヒの城にうつりて、容体ようだい穏なれば、侍医グッデンも護衛をゆるめさせきとなり。滊車きしゃ中には湖水のほとりにあつさ避くる人の、物買ひに府に出でし帰るさなるが多し。王のうわさいとかまびすし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
容体ようだいがドウもただの風邪でない。熱があり気分がはなはだ悪い。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「どれ/\診て上げよう、どんな容体ようだいだな。」
此の頃のうした場合の、江戸の将軍家——までもない、諸侯だいみょうの大奥とおもて容体ようだいに比較して見るがい。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すると、妻が奥から寒いでしょうと云って蕎麦湯そばゆを持って来てくれた。お政さんの容体ようだいを聞くと、ことによると盲腸炎になるかも知れないんだそうですよと云う。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際撤回しなければならないほど、容体ようだいあやしくなって来た。ただ向うに見える一点の灯火ともしびが、今夜の運命を決するひとであると覚悟して、寂寞せきばくたる原を真直まっすぐに横切った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、むらさきふじより、菖蒲あやめ杜若かきつばたより、鎌倉かまくらまちは、みづは、ひと出入ではいり起居たちゐにも、ゆかりのいろふであらう、とゆかしがるのみで、まるでもつて、したる容体ようだいとはおもひもつかないでたのに。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
項中には去る日曜日に六十九歳をもってかるとあるから、指を折って勘定かんじょうして見ると、ちょうど院長の容体ようだいがしだいに悪い方へ傾いて、はたのものが昼夜ちゅうやまゆひそめている頃である。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふッ、と言いそうなその容体ようだい。泡を払うがごとく、むくりと浮いて出た。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つるとは申せど、尻を振つて泥鰌どじょう追懸おっかける容体ようだいなどは、余り喝采やんやとは参らぬ図だ。誰も誰も、くらふためには、ひんも威も下げると思へ。までにして、手に入れる餌食だ。つつくと成れば会釈はない。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その時、食塩を注射されるくらいだから、多少危険な容体ようだいせまっているのだろうとは思ったが、それもほとんど心配にはならなかった。ただくだの先から水がれて肩の方へ流れるのがいやであった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
病症が悪阻つわりだから大丈夫という安心もあるらしく見えたが、容体ようだいが険悪になって後も、彼は依然としてその態度を改める様子がなかったので、人はそれを気に入らないつまに対する仕打とも解釈した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小児こどもはまだ口が利けないほど容体ようだいが悪かったんですな。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)