なく)” の例文
人情の花もなくさず義理の幹も確然しつかり立てゝ、普通なみのものには出来ざるべき親切の相談を、一方ならぬ実意じつの有ればこそ源太の懸けて呉れしに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「貰って置かなければ路頭に迷う人間ですって。喧嘩をして首になるたんびに食い込んで、悉皆すっかりなくしてしまった頃、漸く人生が分るんですって」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それが、震災で財産をなくしたのとあにに死なれたのと年をとって来たのとが一緒になって、誰もたずねて来なくなったのがたまらなかったらしいのです。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わたしは、いえなくしてから、もう三ねんになります。わたし主人しゅじんたちは、わたしててどこへかうつってゆきました。わたしは、その当座とうざどんなにか、きましたか。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
家主おおやさんが大変に案じておでゞ、其のお父さんが、たった一人の娘をなくし今まで知れないのは全く死んだに違いない
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そしてそういう不覚の感じは一層彼から彼女をなくささせる、変な暗示のようなものをその心にやして行った。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
なんでも台所の戸棚のなかへ入れて置くと、あしたの朝までにはみんななくなってしまうんだそうで……。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
成程凡ての物には何時までも、昔見た其時の魂が殘つて居る。其の魂が人を悲しましめ又喜ばすのだ。私はあの活溌な少年の元氣を早くも十六の時になくしてしまつた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
海に捨てる機会をなくしたので、焼かうか裂かうかと思ひながら、ついその儘になつてゐたのである。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
あざむいて道十郎へたゝつけ又小夜衣を賣代うりしろ爲し身の代金は博奕ばくちと酒と女郎買ひにつかなくし其上に又小夜衣の手紙てがみたねに伊勢屋の養子やうし千太郎をうまくもあざむき五十兩と云大金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
昨日縫子に貸して遣ったら、何所どこかへなくなしてしまったんで、探しに来たんだそうである。両手で頭を抑える様にして、櫛を束髪の根方へ押し付けて、上眼で代助を見ながら
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
コノール ファガスはネサのために王位をなくした、わしはデヤドラのために王位をなくした。美しいデヤドラは、もういない。もういない。わしは森に行き、山にも行って見よう。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
なくしたをとこが、そのなくしたといふたからをばわすれぬためし如何どん拔群ばつくん美人びじんをおせあっても、それはたゞその拔群ばつくんをも拔群ばつくん美人びじん思出おもひださす備忘帳おぼえちゃうぎぬであらう。さらば。
気が狂いそうだ! 命もられそうだ! いっそ一思ひとおもいに死んでのけたら、この苦しいのがなくなるだろうと思って、毎日ここへ来ては飛込もうかと思うけれど、さて死のうとすると
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
机の抽斗ひきだしを開けてみると、そこには小銭を少しいれておいた紙入れがなくなっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この世から消えてなくなりました。僕は全然恋の奴隷やっこであったからかの少女むすめに死なれて僕の心は掻乱かきみだされてたことは非常であった。しかし僕の悲痛は恋の相手のなくなったが為の悲痛である。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
憎いが然し、可愛いお前を、此の地上からなくしてしまった今、俺は何として生きて行こう。こうやってただ生きた屍となって何年生きて行く甲斐があろう。而も俺はお前の夫と同じ病にかかって居る。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
くすがながら口惜くちをしきなりりとてもひとこと斷念あきらめがたきはなにゆゑぞはでまんの决心けつしんなりしが親切しんせつことばきくにつけて日頃ひごろつゝしみもなくなりぬと漸々やう/\せまりくる娘氣むすめぎなみだむせびて良時やゝありしが
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
紅百合べにゆり、身の潔白をなくして赤面せきめんした花、世心よごゝろづいた花。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「治部は昨年妻をなくした」
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
転んでなくすなと
大利根八十里を溯る (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
畳を蹴立けたてゝ挨拶もせず出てき掛ると、見兼て其所そこへ出ましたのはお八重という女郎、其の時分だから検査と云うことがないから梅毒かさで鼻の障子がなくなって
鳥越とりこえの中村座など、激しい時代転歩にサッサと押流され、昔日せきじつの夢のあとはなくなってしまったが、堺町、葺屋町の江戸三座が、新吉原附近に移るにはがあった。
おあいは、やはりこの柿村屋へ来るようになってからうちなくして落ぶれてしまった一人である。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
昨日きのふ縫子ぬひこしてつたら、何所どこかへなくなして仕舞つたんで、さがしにたんださうである。両手であたまを抑へる様にして、くしを束髪の根方ねがたへ押し付けて、上眼うはめで代助を見ながら
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やはり彼方あのかたはよい人であった。いまになってもよい心をなくさずにいられるではないか。筒井は頬をぬらしながらなお一首をものし、何度もよみ返して、さて、さめざめといった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
青年から、海へ捨てるように頼まれたノートを、信一郎はまだトランクのうちに、持っていた。海に捨てる機会をなくしたので、焼こうか裂こうかと思いながら、ついそのままになっていたのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
勿体ないという事を知らない、とうとう金縁の眼鏡はなくしてしまった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
むなしくなくなす道理だうり子供を何處どこへかたくちつとは金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
田「切られべえ、命より大事な他人に預った物があるから、是えなくなしちゃアわしきてる事が出来ねえ」
けれど又何となくこの鳥をなくしてしまうのが惜かった。逃してしまえば、もう二度と帰って来ない、逃すなら、何時でも逃すことが出来るのだ。今日は逃さずに置こうと思い止った。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
京都の人は、ほんとにおしんでいます。あのお姫さまを、本願寺からなくなすということを、それは惜んでいるようです、まったくお美しい方って、京都が生んだ女性で、日本の代表の美人です。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
と三輪さんは忘れたり落したりしてなくした物を悉皆すっかり掏摸すり所為せいにした。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うしてお前のおとっさんの処へ送り届けなければならないと心配して居ますが、たった一人の娘をなくしたからなんならお前さんをうちの娘に貰いたい位で、何しろ話して下さいな
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
視力もなくしたとでもいったのか、まあね、という嘆息もまじってきこえた。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかも吹雪ふぶきの募った頃である。山に居るの鳥もなくなって、里にいる雀ですら、軒下の標縄しめなわに止って凍えかかっていた。家のうちにいては暗く、反古紙ほごがみで張った高窓に雪やあられの当る音がした。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
熊は捕ったさかななくすだけだから元々だ。僕は積極的に損をしている。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あれをやって損をしたからと云って、今度はれをやると又損をして、つい資本しほんなくすような始末で、仕方がないから店をしまって、八丁堀亀島町はっちょうぼりかめじまちょう三十番地に裏屋住うらやずまいをいたして居りますと
幾年も経たずして、その下の町はほろびて、なくなってしまいました。
赤い蝋燭と人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
重三郎と申しまするが不調法をいたしお屋敷の大切なお刀をなくしたのでお係りの稻垣様が御浪人なすったばかりでなく、左様な死にようをなさいましたのもみんな私が不調法から起った事と
曲「いえ……誰が書いたか存じませんが、大切に持ってけよ、落したりなくしたりする事があると斬っちまうと云われてびっくりしたんで、其の代り首尾好く持ってけば、金を二十両貰う約束で」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いやもうたった一人の娘をなくしてまるきり暗夜やみになったようで、お前さんを見ると思い出します、しかしまア私の娘の方は事が分って、うやって二七日ふたなぬかも済ましたが、遂々つい/\娘の事ばかり思って居て
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
國「あきれたよ、殿様の大事な品がこゝに入っているんだもの、今に殿様がお帰りの上で目張めっぱりこでみんなの物をあらためなければ、私のおあずかりの品がなくなったのだから、私が済まないよ、屹度きっと詮議せんぎを致します」