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天鵞絨
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びろうど
ふりがな文庫
“
天鵞絨
(
びろうど
)” の例文
自分は茫々たる大海原の水の色のみ大西洋とは驚く程
異
(
ちが
)
つた紺色を呈し、
天鵞絨
(
びろうど
)
のやうに
滑
(
なめらか
)
に輝いて居るのを認めるばかりであつた。
黄昏の地中海
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
この、滑かな彼女の態度から、記者達はルウスに「
天鵞絨
(
びろうど
)
の女虎」という新しい綽名を与えて、これが又新聞紙上を賑わしたものだ。
アリゾナの女虎
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
あの銀座の土蔵造の家の奥二階に、お父さんが田舎から着て来た白い毛布や
天鵞絨
(
びろうど
)
で造った大きな旅の袋を見つけたことを思出した。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
つやゝかな
天鵞絨
(
びろうど
)
のやうな芝生が、邸宅の
礎
(
いしずゑ
)
を近く圍み、公園程もある野には昔ながらの森林が點在し、
焦茶色
(
こげちやいろ
)
の、葉の落ちた森は
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
それは低い山ではあるが
蒼
(
あお
)
い
天鵞絨
(
びろうど
)
のように樹木の茂った峰であった。武士はその山の形が気にいった。武士は主翁の方を見て云った。
山寺の怪
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
▼ もっと見る
へら/\した
天鵞絨
(
びろうど
)
で、而も色が紫と来てゐるんだから、西洋の道化役者だつて被りさうもない、なんとも不思議なものであつた。
青春物語:02 青春物語
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ただ違うところは、顎に
青髭
(
あおひげ
)
があることと、
天鵞絨
(
びろうど
)
の黒い上衣のかわりに、絵具だらけの
麻
(
あさ
)
の
仕事着
(
ブルーズ
)
を着ているところだけだった。
キャラコさん:09 雁来紅の家
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
中央のホールを囲む客席のボックスも、全面が真赤な
天鵞絨
(
びろうど
)
で張り
廻
(
めぐら
)
された、一国の首都には適当な設備の完備した豪華なものだった。
罌粟の中
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
二等待合室のふツくりしたどす赤の
天鵞絨
(
びろうど
)
ベンチに腦天からふらつくからだの腰をおろし、外套の袖に引ツくるまつて目をつぶる。
泡鳴五部作:04 断橋
(旧字旧仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
とろとろと、
曇
(
くもり
)
もないのに
淀
(
よど
)
んでいて、夢を見ないかと勧めるようですわ。山の形も
柔
(
やわら
)
かな
天鵞絨
(
びろうど
)
の、ふっくりした
括枕
(
くくりまくら
)
に似ています。
春昼後刻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
彼女は信玄袋の中から
天鵞絨
(
びろうど
)
で張った四角な箱を出した。自分はその中にある真珠の指環を手に取って、ふんと云いながら眺めた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
これは純黒の毛なみ、恰も黒
天鵞絨
(
びろうど
)
のように艶々しく光り、背にまたがればつるりと辷りはせぬかと思うほど肌が磨いてある。
越後の闘牛
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
支那人の呉清輝は、部屋の入口の
天鵞絨
(
びろうど
)
のカーテンのかげから罪を犯した常習犯のように
下卑
(
げび
)
た顔を深沢にむけてのぞかした。
国境
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
身体
(
からだ
)
が
瓢箪
(
ひょうたん
)
型になって、触角がズット長くて……おまけにトテモ綺麗ですよ。
卵白
(
たまご
)
色と、黒
天鵞絨
(
びろうど
)
色のダンダラになって……ホラ……ネ……
髪切虫
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
彼女は、
貂
(
てん
)
で高い襟のついた
剣術着
(
フェンシング・ケミセット
)
のような黄色い
短衣
(
ジャケット
)
の上に、
天鵞絨
(
びろうど
)
の
袖無外套
(
クローク
)
を羽織っていて、右手に盲目のオリオンとオリヴァレス伯
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
青い
天鵞絨
(
びろうど
)
の帽子をかぶらないで、それを唯しっかりと手に握りながら。(その大好きな帽子なしには私は決して写真を撮らせなかった……)
幼年時代
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
議官
(
セナトオレ
)
は紫衣を纏ひて
天鵞絨
(
びろうど
)
の椅子に坐せり。法皇の
禁軍
(
このゑ
)
なる
瑞西
(
スイス
)
兵整列したる左翼の方には、天鵞絨の
帽
(
ベルレツタ
)
を戴ける可愛らしき
舍人
(
とねり
)
ども群居たり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
一本の細い蒼白い棒が、
天鵞絨
(
びろうど
)
を張ったような夜の闇を、一筋どこまでも延びて行くように、その泣き声は延びて行った。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
剣をつるす深紅色の帯を腰のまわりに巻いた、青
天鵞絨
(
びろうど
)
のスペイン風の外套を
纏
(
まと
)
っているのだ。黒い絹の仮面が彼の顔をすっかり
蔽
(
おお
)
いかくしていた。
ウィリアム・ウィルスン
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
『
汝
(
うな
)
ア
頬片
(
ほつぺた
)
、何時來ても
天鵞絨
(
びろうど
)
みてえだな。十四五の
娘子
(
めらしこ
)
と寢る樣だ。』と言つた。これは此若者が、殆んど來る毎にお定に言つてゆく
讃辭
(
ことば
)
なので。
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
寄
(
よせ
)
巳刻
(
よつ
)
の太鼓を相待處へ
對
(
つゐ
)
の
先箱
(
さきばこ
)
天鵞絨
(
びろうど
)
袋入
(
ふくろいり
)
の立傘等を持ち
緋網代
(
ひあじろ
)
の
乘物
(
のりもの
)
にて可睡齋城門へ
乘込
(
のりこみ
)
來るゆゑ門番人下座を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
おどろいて払いのけると、その手ざわりで
天鵞絨
(
びろうど
)
か
獣
(
けもの
)
の毛のように思われたそうで、部屋へ帰ってみると髷が無い。
半七捕物帳:62 歩兵の髪切り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
きつぱりと黒
天鵞絨
(
びろうど
)
のなかの銀糸の点のやうに、
鮮
(
あざや
)
かに
煌
(
かがや
)
いて居る……不思議なことには、立派な街の夜でありながら、どんな種類にもせよ車は勿論
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
あの焦茶色の
天鵞絨
(
びろうど
)
のような柔かな毛は削り落とされたように一本も無かった。
赤薬鑵
(
あかやかん
)
! そんな感じだった。
或る部落の五つの話
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
まっ暗な
闇
(
やみ
)
の中に広げられた
天鵞絨
(
びろうど
)
が不思議な緑色の
螢光
(
けいこう
)
を放っているように見える。ある時はそれがまた底の知れぬ深い
淵
(
ふち
)
のように思われて来る事もある。
芝刈り
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
そこで黒い
天鵞絨
(
びろうど
)
の胸に赤い椿の花をつけた、独逸人らしい若い女が二人の傍を通つた時、彼女はこの疑ひを
仄
(
ほの
)
めかせる為に、かう云ふ感歎の言葉を発明した。
舞踏会
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
天鵞絨
(
びろうど
)
に毛皮の附いた外套の下から、肉色の靴下に包まれた脚が長く伸びている。マアセルは鏡へ顔を近づけたり、離したり、曲げてみたり横から見たりした。
踊る地平線:06 ノウトルダムの妖怪
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
夜着の
襟
(
えり
)
の
天鵞絨
(
びろうど
)
の
際立
(
きわだ
)
って汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを
嗅
(
か
)
いだ。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
左には広き
開
(
ひら
)
き
戸
(
ど
)
あり。右にも同じ戸ありて
寝間
(
ねま
)
に通じ、この
分
(
ぶん
)
は緑の
天鵞絨
(
びろうど
)
の
垂布
(
たれぎぬ
)
にて覆いあり。窓にそいて左の
方
(
かた
)
に為事机あり。その手前に
肱突
(
ひじつき
)
の
椅子
(
いす
)
あり。
痴人と死と
(新字新仮名)
/
フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
(著)
……濃緑の厚い
天鵞絨
(
びろうど
)
のような苔に包まれた井戸、去年とおなじように、散りこぼれるうす紅の葩が溢れる水にくるくると舞いやがて井桁の口から流れ落ちてゆく。
日本婦道記:桃の井戸
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
三谷の椅子の真向うに、深々とした長椅子があって、派手な模様の
天鵞絨
(
びろうど
)
クッションを背に、丸い肘掛へ、グッタリと
凭
(
もた
)
れかかった倭文子の、匂わしき姿があった。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
伸子の、生れて百日目というのだの、少し大きくなって、和一郎が
天鵞絨
(
びろうど
)
の水兵帽をかぶって乳母に支えられている横に、伸子が姉らしく澄して立っているのだの。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
信長は、椅子をさして、床几と
称
(
よ
)
んだ。
美
(
うる
)
わしい
天鵞絨
(
びろうど
)
と
密陀塗
(
みつだぬり
)
のような塗料をもって造られてある。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
二三日立つて、水兵は石炭庫に
天鵞絨
(
びろうど
)
の小さいエツヰのあるのを見出した。それが石炭の中に埋めてあつたのである。誰がこんな事をしたのだらう。どうも猿らしい。
猿
(新字旧仮名)
/
ジュール・クラルテ
(著)
お雪伯母は人一倍
肌理
(
きめ
)
がこまかく、彼女はそれを誇として、いつも大切に磨きたてて居たので、指頭など白魚の様に細く綺麗で
天鵞絨
(
びろうど
)
の様に柔かかつたが、私の手は
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
私は
天鵞絨
(
びろうど
)
の小さなクッションで幾度もシルクハットのけばを撫でた。帽子舗の店さきの明るい花電燈を照り返している鏡の中で、シルクハットは
却々
(
なかなか
)
よく私に似合った。
シルクハット
(新字新仮名)
/
渡辺温
(著)
それから
續
(
つゞ
)
いて
心臟
(
ハート
)
の
軍人
(
ネーブ
)
が、
眞紅
(
しんく
)
の
天鵞絨
(
びろうど
)
の
座布團
(
ざぶとん
)
の
上
(
うへ
)
に、
王樣
(
わうさま
)
の
冠
(
かんむり
)
を
戴
(
の
)
せて
持
(
も
)
つて
來
(
き
)
ました、
此
(
こ
)
の
壯麗
(
さうれい
)
な
行列
(
ぎやうれつ
)
の
總殿
(
さうしんがり
)
には、
心臟
(
ハート
)
の
王樣
(
わうさま
)
と
女王樣
(
ぢよわうさま
)
とが
在
(
ゐ
)
らせられました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
浅葱
天鵞絨
(
びろうど
)
の鳥打帽子を被って、卵色
薄羅紗
(
うすらしゃ
)
の
猟装束
(
りょうふく
)
を着て、
弾帯
(
おび
)
をきりりとしめて、薄皮の
行膝
(
はばき
)
をはめて、
胡坐
(
あぐら
)
をかきながら、パイプを軽くつまんでマニラを吹いて居る。
漁師の娘
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
かつと
横
(
よこ
)
に
射
(
さ
)
し
掛
(
かけ
)
る
日
(
ひ
)
の
光
(
ひかり
)
が
其
(
そ
)
の
凄
(
すご
)
い
雲
(
くも
)
の
色
(
いろ
)
を
稍
(
やゝ
)
和
(
やはら
)
げて
天鵞絨
(
びろうど
)
のやうな
滑
(
なめら
)
かな
感
(
かん
)
じを
與
(
あた
)
へた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
真新しかつた時の
天鵞絨
(
びろうど
)
の輝きこそなくなつたが、それはまだ円々としたふくらみを持ち、毛並みの上にかすかにできた掛癖の痕は、それが布地のいたみを感じさせるよりも
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
ただ
上
(
うは
)
べわづか
赭
(
あか
)
みて
天鵞絨
(
びろうど
)
の焦茶いろすれ、
深
(
ふか
)
ぶかと黒くか青く、常久に古び
鎮
(
しづ
)
もる。
観相の秋
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
邸
(
やしき
)
の周囲には一本の樹木もなく、ただ美しい緑色の雑草が、
肌目
(
きめ
)
のよい
天鵞絨
(
びろうど
)
のようにむっちりと敷き詰って、それが又
玩具
(
おもちゃ
)
のような白い家々に快い夢のような調和を投げかける。
死の快走船
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
そっと玻璃窓内を
覗
(
うかご
)
うたときに、内部の深緑色(その晩は
天鵞絨
(
びろうど
)
のような黒味をおびていた。)の
窓帷
(
カーテン
)
がどうした途端であったか片絞りをされて二寸ばかり開いていたのであった。
幻影の都市
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
柔かい
天鵞絨
(
びろうど
)
のやうな声なので、小山内氏は
弾機細工
(
ばねざいく
)
のやうに机の前から
起
(
た
)
ち上つた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
天は
万物
(
ばんもつ
)
に安眠の
牀
(
とこ
)
を与へんが為めに夜テフ
天鵞絨
(
びろうど
)
の
幔幕
(
まんまく
)
を
下
(
お
)
ろし給ふぢやないか、然るに其時間に労働する、
即
(
すなは
)
ち天意を犯すのだらう、
看給
(
みたま
)
へ、夜中の労働——売淫、窃盗、賭博
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
彼にはもう自家用の二頭立てもあったし、パンテレイモンという
天鵞絨
(
びろうど
)
のチョッキを着たお抱え
馭者
(
ぎょしゃ
)
もいた。月夜だった。おだやかで暖かだったが、さすがに秋めいた暖かさであった。
イオーヌィチ
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
と見れば常さえ
艶
(
つや
)
やかな緑の黒髪は、
水気
(
すいき
)
を含んで
天鵞絨
(
びろうど
)
をも欺むくばかり、玉と透徹る
肌
(
はだえ
)
は塩引の色を帯びて、眼元にはホンノリと
紅
(
こう
)
を
潮
(
ちょう
)
した
塩梅
(
あんばい
)
、何処やらが
悪戯
(
いたずら
)
らしく見えるが
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
加奈子は、その可愛らしい頬に両手を当てて、考えこみました、木の間を漏るる真昼の陽は、お
河童
(
かっぱ
)
の髪の上に落ちて、
天鵞絨
(
びろうど
)
のような毛並と、その美しい首筋をクッキリ照して居ります。
向日葵の眼
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
この時雪の締めて置いた戸を、廊下の方からあらあらしく開けて、茶の
天鵞絨
(
びろうど
)
の服を着た、秀麿と同年位の男が、駆け込むように這入って来て、いきなり雪の肩を、太った赤い手で押えた。
かのように
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
身体には、初めは高い値段のものだったろうが、いまはヨレヨレになってむさくるしいというより外はない
天鵞絨
(
びろうど
)
の洋服をつけ、何十年か前に
流行
(
はや
)
ったような細い黒ネクタイを締めている。
地球盗難
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
天
常用漢字
小1
部首:⼤
4画
鵞
漢検1級
部首:⿃
18画
絨
漢検1級
部首:⽷
12画
“天鵞絨”で始まる語句
天鵞絨張
天鵞絨服
天鵞絨葵
天鵞絨巻網代黒