ごえ)” の例文
旧字:
こうしたひとたちのあつまるところは、いつもわらごえのたえるときがなければ、口笛くちぶえや、ジャズのひびきなどで、えくりかえっています。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところへ喬朝たかともの使いが来た。内外には、京極方の侍が、何十人となく後を慕って来たらしく、物々しい動揺どよごえが奥まで聞こえてきた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども子供こどもたちは、しゃがれたがあがあごえをしているから、おかあさんではない。山姥やまうばけてたにちがいないとおもって
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と、すぐそばでやかすようなわらごえきこえた。あくたれでとおっているドゥチコフのいやな声だ。シューラはおもいがけなさにぴくっとなった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
二月の朝早くのことで、あの人が仕事に出かけようとするとちゅうで、赤んぼうのごえを聞いて、おまえをある庭の門口かどぐちで拾って来たのだ。
警部は心の中でそう云って「ううむ」とうなごえをあげた。それを持っている人間ばかりが、どうして射殺されるのだろう。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
苦しげなうめごえから喚び起されて妻が語った夢は、彼には途轍とてつもなく美しいもののようにおもえた。その夢の極致が今むこうの空に現れている……。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それは妙に切迫した、詰問に近いしゃがごえだった。お鈴は襖側ふすまがわたたずんだなり、反射的に「ええ」と返事をした。それから、——誰も口を利かなかった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしは鵞鳥がちょうのけたたましいごえにおどろかされ、戸口に歩いて往って、かれらがわたしの家のうえ低く飛ぶ、森のなかの嵐のような羽音を聞いた。
「あの、失礼でございますが、どなた様で?」とふるごえで、その年配の婦人はたずねる。そこで、ハハアこれが当のチカマーソフ夫人だなと見当がつく。
嫁入り支度 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私達がヴェランダに出て黙ったまま煙草をふかしていると、隣りの真っ暗な部屋から低いささやごえようやくし出した。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もうきがいのないわたし、あなたが殺されなけりゃわたしが殺す……。こうさけんで母は奥座敷おくざしきへとびった。……礼子れいこ下女げじょごえあげてそとへでた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
肺炎と坐骨神経痛と風眼とが同時に起った時、彼は、眼に繃帯ほうたいを当て、絶対安静の仰臥ぎょうがのまま、ささやごえで「ダイナマイト党員」を口述して妻に筆記させた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そのうちに青ひげが、大きなけんをぬいて手にもって、ありったけのわれがねごえを出して、どなりたてました。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
よしむらさんは、二、三どふりかえって、こういうと、きゅうに、どらごえをはりあげて、うたをうたいだした。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
村に武太ぶたさんと云う終始ニヤ/\笑って居る男がある。かみさんは藪睨やぶにらみで、気が少し変である。ピイ/\ごえで言う事が、余程馴れた者でなければ聞きとれぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
駄々だだがおもちゃばこをぶちまけたように、のつけられないすねかたをしている徳太郎とくたろうみみへ、いきなり、見世先みせさきからきこたのは、まつろうわらごえだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
鳥たちはつかれきっていましたから、一刻いっこくも早く島につこうとあせっていました。さけびごえをあげるものもなければ、じょうだん一つ言うものもありません。
だが、いくらのどをふりしぼって鴎が努力しても、その叫びは、猫に似た単調なごえにしかならなかった。
朝のヨット (新字新仮名) / 山川方夫(著)
ふいをくらったいぬは、よろよろとよろめいたが、こんどは、猛然もうぜんとうなりごえをあげ、もう一度男におそいかかったとみるや、その足に、がぶりっとかみついた。
なっとう屋のおばあさんが見えなくなったと思うと、このごろでは、きんボタンの制服せいふくをきた少年が、「なっとなっとう」となれないごえをたてて歩いていました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
「あけてやらない。おかあさんじゃないから。おかあさんは、きれいな、いい声してるけれど、おまえはしゃがれっごえのがあがあ声だもの。おまえはおおかみだい。」
佐山 ち、ち、ち!……(これも低いうなごえだけになり、村子のからだの上にのしかかって行く)
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
そのうちうなごえも、どうにか、こうにかやんだようだから、また顔のむきえて、囲炉裏の中を見詰めた。ところがなんだか金さんが気に掛かってたまらないから、また横を向いた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
署長は癖のあるしわがごえで桝本を見下ろすようにして、真っ向から訊きだした。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
と云われても、亭主はおのれのそばに硯箱のあるのも眼にらず、ふるごえにて
「なぁに、ごえぐらい、きえちゃんそっくりの声を出して見せるよ。」
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
かれの蝙蝠安は松助よりももっとおとなしい、始終猫撫ねこなごえで物をいうようないやな奴であった。鶴蔵といい、伝五郎といい、こういう芸風の俳優は今はない。新蔵のことは後にあらためて書く。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
源吉は、何故なぜか、力のないわらごえを立てて、自分でグキンとした。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「夢が消えた! 美しい夢が!」笛のようなかんごえでまずいった。「夫婦ならぬ夫婦ぐらし! あッあッあッ、それさえ駄目だ!」ジリジリと前へ進み出た。「忠三!」とギリギリと歯ぎしりをした。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたしは思わずさけごえを立てようとして、あやうく自分をおさえた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ジノーヴィー・ボリースィチは、ぜいぜいごえをもらしはじめた。
恐怖と悲嘆とに気が狂った女が、きいきいごえをあげてかけ歩く。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
たぬきごえ、知らない知らない、キイ、キイ、キャッキャッ」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
今更いまさら逃げようたって逃すもんか」彼はりきごえをふりしぼった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると陳が外でおろおろごえを出しました。
山男の四月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ほんとうに、平常へいぜいは、そんな不安ふあんかんじないほど、このへやのなか平和へいわで、おじょうさんのわらごえなどもして、にぎやかであったのです。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
諸家に飼われている闘犬や、鳥合ヶ原のお犬小屋の犬どもは、ここへ来て夜も昼も、けんけんと異様なごえを世間にこだまさせていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けっして二姿すがたせまいとこころちかっていたくずも、子供こどもごえにひかれて、もう一くさむらの中に姿すがたあらわしました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かれはわずか息のつまったようなごえを立てたが、やがて手早く前足をわたしの手にあずけて、じつとおとなしくしていた。
シューラはシャツ一まいで立ったまま、おいおいいていた。と、ドアのそと騒々そうぞうしい人声ひとごえや、にぎやかなさけごえなどが聞えた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
一行は、誰もいない室内に入ったときに、なんだか低いうなごえを聞いたように思ったが、室内を探してみると、猫一匹いなかった。全くの空室あきしつだった。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
男は、言いおわってぽんとトーマスのかたをたたいた。トーマスは、きゃっと恐怖きょうふのさけびごえをあげ
すると突然とつぜん、はッはッはと、はらそこからしぼしたようなわらごえが、一どう耳許みみもとった
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そして、岸まできますと、たちまち湖のむこうから、子どものごえが聞こえてきました。
が、っとそれに近づいて見たら、その樅の中からギャッと鋭い鳥のごえがした。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「貧乏教師の癖に生意気じゃありませんか」と例の金切かなきごえを振り立てる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其れから衛生委員えいせいいいんの選挙、消防長の選挙がある。テーブルが持ち出される。茶盆ちゃぼんで集めた投票とうひょうを、咽仏のどぼとけの大きいジャ/\ごえの仁左衛門さんと、むッつり顔の敬吉けいきちさんと立って投票の結果を披露ひろうする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼の永年の病苦は勿論もちろん、彼の背中から腰へかけた床ずれの痛みもはげしかった。彼は時々うなごえを挙げ、わずかに苦しみをまぎらせていた。しかし彼を悩ませたものは必しも肉体的苦痛ばかりではなかった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「顔をお直しくださいまし!」源之丞のしわがごえ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)