かつ)” の例文
たれだっと、一かつされると、彼女のほうでもぎくとしたらしかった。ちらと、ひとみを官兵衛の方へ上げたが、すぐ両手をつかえて
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次が一かつするのと、八五郎が跳びつくのと一緒でした。首筋を掴んで物蔭からズルズルと引出したのは、留守番に來てゐた傳助。
彼をかつせしいかりに任せて、なかば起したりしたいを投倒せば、腰部ようぶ創所きずしよを強くてて、得堪えたへずうめき苦むを、不意なりければ満枝はことまどひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かつ!——と一字書いた端書はがきがあるかと思うと、蕎麦屋そばやで酒を飲んで席上で書いた熊谷の友だちの連名の手紙などもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「なんぢ、無躾なる地下鉄メトロの穴掘人夫。ふん、麑下げいかの足もとに穴をあけた猪首しゝくびの半逆者め。太陽を睨んでみろ。かつ!」
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
「いや、こりゃまさに禅師ぜんじに一かつを食ったが、いくら江戸でも、左腕の辻斬りがそう何人もいて、みな気をそろえて辻斬りを働こうとも考えられぬ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その昔、相模さがみ太郎北条時宗は、祖元禅師から「妄想するなかれ」(莫妄想まくもうぞう)という一かつを与えられて、いよいよ最後の覚悟をきめたということです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
かつ、第一の宮に善根をたねま懺悔ざんげをなすは、凡人の能はざるところにあらず、この凡人豈に大遠に通ずる生命と希望とを、いかにともするものならんや。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
素人しろうとが手出しするな、と言わぬばかりな冷笑を浴びせかけましたので、退屈男の一かつが下ったのは勿論の事です。
ぎんじたところで誰も迷惑しない。何となれば、『やかましい! 黙れ』の一かつで問題が片付く。しかし相応の地位になると否応なく聴かせる。声の遊芸を
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
宗教家の形式、禪家の一かつ、神祕家の沈默、すべてこれらは實行的自我を逸する、否、無にする所以ゆゑんだと。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
死して文人の手に葬らるるにしかず、丈草じょうそうかつて汝が先祖を引導す、我また汝をひつぎにおさめて東方十万億土花の都の俳人によするものなり、何の恨みか存ぜんかつ
那須野の殺生石が玄翁げんのう和尚の一かつによって砕かれたのは、それから百年の後であったと伝えられている。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
意味は徳川時代から茶人の間の問題となっていて、諸説紛々。今泉雄作いまいずみゆうさく氏の説では、禅のかつのような一種の間投詞で、「ええなんじゃいの」といった意味であるとのこと。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
表題ひょうだいの心の独立と体の独立ということもその一つである。僕が友人に対しておれめしを食いながら反対するのはけしからんという一かつは、たしかに僕の根性こんじょうきょく曝露ばくろする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
寄附を頼みに来た弱味があるのだからが悪い。「かつ」とも何とも云わずに帰ってしまう。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
果ては予はどういう事があろうと仕方がない、えきの無いくよくよ話はよせと一かつした。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
五倍の太さの腕を有する三上の一かつもとに、縮み上がらねばならぬという喜劇を見た。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
草の上に、うずくまったり、寝ころんだり、銘々思い思いの休息を取っていた乾児達は、忠次の一かつでみんな起き直った。数日来の烈しい疲労で、とろとろ眠りかけているものさえあった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
次郎は一かつして、つかつかと馬田に近づいた。動揺が波のように室内を流れた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
小西君一かつ衆をはげまして曰く、彼は一杯をかたむきたりて酔狂すいきやうせるものなりと。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
正成が重ねて『畢竟ひっきょうするところ如何』と問うや僧はかつと叫んだ、それで正成は大いに悟るところがあり、勇んで湊川へ出陣したという、だが考えてみたまえ、楠公は桜井駅で正行と別れるとき
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
禅師見給ひて、やがて禅杖をりなほし、一五三作麼生そもさん一五四何所為なんのしよゐぞと、一かつしてかれかうべち給へば、たちまち氷の朝日にあふがごとくきえうせて、かの青頭巾とほねのみぞ草葉にとどまりける。
我は彼等にむかひて立ち、手に持ちたる刑法の卷を開きてさし示し、見よ、分をえたる衣服のおごりは國法の許さゞるところなるぞ、我が告發せん折にほぞむ悔あらんとかつしたり。工人は拍手せり。
かつ、衣類調度のたぐい黄金きんの茶釜、蒔絵まきえたらいなどは、おッつけ故郷くにから女房が、大船で一艘いっぱい、両国橋に積込むと、こんな時は、安房上総あわかずさの住人になって饒舌しゃべるから、気のいい差配は、七輪やなべなんぞ
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかまた腹立易はらだちツぽをとこで、だれ郵便局いうびんきよくもので、反對はんたいでもするとか、同意どういでもぬとか、理屈りくつでもならべやうものなら、眞赤まつかになつて、全身ぜんしんふるはして怒立おこりたち、らいのやうなこゑで、だまれ! と一かつする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「火の玉」少尉が、流暢りゅうちょうなロシア語で一かつした。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「黙らっしゃい!」とまず一かつ
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かつ。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
平次が一かつを喰はせるのと、巨大な赤い鳥のパツと飛ぶのと、部屋の灯が消えるのと、下つ引の辰が悲鳴をあげるのと一緒でした。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
と、黄忠も階をおり、魏延も堂をおりて、すんでに、若虎老龍じゃっころうりゅうほこをとって闘おうとする様子に、玄徳は驚いて堂上から一かつに制した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ずばりとそれを一かつすると、たんまことにのごとし! 声また爽やかにわが退屈男ならでは言えぬ一語です。
「待て、こら!」とかつする声に、行く人の始て事有りとさとれるも多く、はや車夫の不情をとがむることばも聞ゆるに、たまりかねたる夫人はしひ其処そこに下車して返りきたりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そしてその最上禪とは何かと云ふに、壇上で興行師の樣に一かつして見せ、いはく云ひがたしだ。——
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
先を見ずにその場にて一時のかいむさぼる極めて短慮な者には、内容のさらにない雄弁をふるってみたり、あるいは大声たいせいかつ、相手の人には痛くもない讒謗ざんぼうや冷評をあびせかけて
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
恐怖に気も顛倒てんとうして左膳の顔を見ないように、口のなかでごもごも言ってやつぎばやに頭をさげると、左膳は、「うるせえッ! 婆あの出る幕じゃねえッ」と一かつし去って
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と私は大声たいせいかつ、追いすがって、持っていた唖鈴あれいで国分の横びんたを撲った。国分は馬から飛び下りた。直ぐにかゝって来る積りで身構えをしていたら、然うでない。かがんで頭を押えた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と太郎左衛門は一かつした。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だまれ! と一かつする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と時雄は一かつした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
寶雲齋は一かつをくれて、縁側に立ちはだかるのです。數珠を振り上げ、四股を踏んで、まさに閻魔王えんまわう牡丹ぼたんを吐かんばかりの姿。
次に、信玄は、持ち前の雷声一かつで、いきなり呶鳴ろうとしたらしい。そうらしい血色と肩の厚い肉がこぶみたいに盛り上がった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火のような主水之介の一かつも耳に入らぬのか、駕籠先につけたお胸前の葵の御紋は、陸尺たちが取り落して燃え上がっている提灯の火にあかあかと照し出されているというのに
と一かつすれば捕手とりての者も閉息へいそくする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と時雄は一かつした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
宗易は自分を殺しに来た人影をじっと見ていたが、五歩ほど前に彼らが立った途端に、師の笑嶺和尚しょうれいおしょうかつならって、肚の底から大喝した。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は度肝どぎもを拔かれました、檜木ひのき官之助の細目に開いた格子へ手をかけて、ガラリとやると、頭の上から小氣味の良い一かつはされたのです。
ぴたりそれを一かつしておくと、退屈男は自若じじゃくとしてなじりました。
かつ、朱をそそいで太くふくらませた武松ののど首から、ぱんと首カセの蝶番ちょうつがいがね、喉輪のどわの邪魔物は、二ツになって飛んでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
錢形平次は思はず一かつを食はせました。上がりかまちから這ひ込むやうに、まだ朝の膳も片付かない茶の間を覗きながら八五郎は途方もないことを訊くのです。