吃驚びつくり)” の例文
婆さんもその物音に目をさましました。そして起きて戸を開けてみますと、吃驚びつくりして、思はずアッと言つて、尻餅しりもちくところでした。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
熊のおツ母さんは、不意に猪に呶鳴られたので、吃驚びつくりして思はず、力一杯引起して居た石から手を離しました。と、同時に足の所で
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
鳥達は母親の危篤と聞いて吃驚びつくりして、あわてて川からあがるものや、化粧道具を片づけるものや、それはたいへな騒ぎとなりました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
引掻ひつかきさうな権幕けんまくをするから、吃驚びつくりして飛退とびのかうとすると、前足まへあしでつかまへた、はなさないからちかられて引張ひつぱつたはづみであつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
は、如何いかにも、こんななりをしてをるので、貴方は吃驚びつくりなすつたか、さうでせう。自分にも驚いてをるのぢやけれどどうも為方が無い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おきいちやんは、あんまりのことに吃驚びつくりして、気を失つたやうになりました。だつてこんなことは永い間に一度もなかつたんですもの。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
うかすると自分のいてゐる草履がペツタ/\いふのに、飛上るやうに吃驚びつくりして冷汗ひやあせを出しながら、足の續く限り早足にあるいた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
加野は戻つて来るなり、事務所の幸田ゆき子を見て、吃驚びつくりした表情で、顔をあからめた。富岡の紹介で加野とゆき子は挨拶しあつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「まア、長二、お前ほんとに吃驚びつくりさせて、斯様こんな嬉しいことは無い」と、山の馳走ちそうは此れ一つのみなるほだうづたかきまで運び来れる伯母は
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ところが、手紙をあけてみると、あなたに貸した百円の金を至急返してくれ、もし返してくれなければ告訴こくそすると云ふのだから吃驚びつくりした。
偽者二題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
野田は吃驚びつくりして彼を見つめた。だが野田はその和作の横顔から、番茶をあぢわつて飲む人間の表情しか観察する事が出来なかつた……
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
其三日目の日曜に、大川氏の夫人おくさんが訪ねて來たといふので吃驚びつくりして起きると、「宅に穿かせる積りで仕立さしたけれど、少し短いから。」
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「頭が白いからだ。それであんなに顔が険相に見える。」小林氏は腹の中でこんな事を思ひながら、おつかな吃驚びつくりにそつと頭へ手をやつた。
宗助そうすけ文庫ぶんこなかから、二三つう手紙てがみして御米およねせた。それにはみんな坂井さかゐ名宛なあていてあつた。御米およね吃驚びつくりして立膝たてひざまゝ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この失策を披露しては、またまた相場が下がるであろと、思ひ付きの急腹痛あいたあいたとうめかかるに旦那様も大吃驚びつくり
今様夫婦気質 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
結婚して始めて彼が怒気を含んだ音声を発したので、妻は吃驚びつくりして(どうして夫がそんなに怒つたのか解らなかつたが。)
明るく・暗く (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
連戻りとめをり是なる節は其旅人を見るより吃驚びつくり致し此が以前の恩人おんじん水呑村の九助なりと申により私しもほかならず思ひ段々だん/\うけたまはるに九助儀大金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
妹のおすぎは夕餐ゆふめしの支度に取り掛つてゐたが、何時の間にか茶の間の入口に突立つてゐる兄の顏が目につくと吃驚びつくりした。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
隣席の紳士は、吃驚びつくりしたやうな表情をして、私の顔を正面から見つめて居た。私が何事をしやべつて居るのか、意味がまるで解らなかつたのである。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
根本的に男と違ふ生物を私は始めて見出したやうに吃驚びつくりした。秋子に惹かれる一つの理由が分つたやうな思ひもした。
狼園 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
私を厭がらせた皮肉も、嘗て私を吃驚びつくりさせた苛酷かこくさも、たゞもう美味な料理についたから藥味やくみのやうなものであつた。
で、吃驚びつくり致しまして、この猫は屹度きっと化けると思ったんです。それから、捨てようと思いましたけれども、幾ら捨てても帰って来るんで御座ごぎいますって。
「ああしんど」 (新字新仮名) / 池田蕉園(著)
もなく、K夫人ふじんあひだうすまけて吃驚びつくりした。瞬間しゆんかん自殺じさつかと狼狽らうばいしたほど彼女かのぢよ多量たりやう咯血かくけつなかにのめつてゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
翌朝よくあさイワン、デミトリチはひたひ冷汗ひやあせをびつしよりといて、とこから吃驚びつくりして跳起はねおきた。もういまにも自分じぶん捕縛ほばくされるとおもはれて。さうしてみづかまたふかかんがへた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
又いくらも近い頃の人にも、死の時のほかには脇を下に着け身を横たへて臥さぬ人の有ることをも知らなかつたのだから、吃驚びつくりしたのは無理でも無かつた。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そして今度の地震のやうなものに逢つて始めてびつくりして、恐れたり、戦慄おのゝいたりしてゐる。世界も人間もおしまひになつたかといふやうに吃驚びつくりしてゐる。
自然 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
先生は事の餘りに大がかりなのに吃驚びつくりしたと同時に、愈々自分の責任の重い事と迷惑の大きい事を痛感した。
奈何どんなにか君も吃驚びつくりなすつたでせう。』と校長は忸々敷なれ/\しい調子で言つた。『学校の方は君、土屋君も居るし、勝野君も居るし、其様そんなことはもう少許すこしも御心配なく。 ...
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
独言ひとりごとを言つて吃驚びつくりした様に立上ると、書院の方の庭にあるかきの樹で大きな油蝉あぶらぜみ暑苦あつくるしく啼き出した。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
偶然ふつと此咄が嬢様のお耳に入つたから、嬢様は吃驚びつくり遊ばして飛んでもない事をしたと後悔をなすつた。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
つまらなくて、だれた国技館の中にたゞ一つ、つまつて吃驚びつくりするものがある。それは幕下二枚目、出羽ヶ嶽君の巨躯だ。彼は身長六尺五寸、体量四十二貫あるそうな。
「ほんまにえい丁稚はんや。まだそんなに経たへんのに、お父つあんが見たら吃驚びつくりしやはるやろ。」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
取り澄ました俄作りの戯奴ヂヤオカアが一時に真白な顔の造作を破裂さした、はははは、自分でも吃驚びつくりするほどの大きな声を挙げ乍ら、腹を擁えて出窓から畳の上に転げ廻つた
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私は吃驚びつくりしました。大變だと思ひました。自分の顏の眞赤になつて行くのが自分に分りました。
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
見たら吃驚びつくりでござりませう色の黒い背の高い不動さまの名代といふ、では心意気かと問はれて、こんな店で身上しんしやうはたくほどの人、人のいばかり取得とては皆無でござんす
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
或晩龍馬と二人でこツそりと小舟にのり、島へ上つて煙火はなびを挙げましたが、戻つて来ると三吉さん等が吃驚びつくりして、今方向ふの島で妙な火が出たが何だらうと不思議がつて居りました。
折から夫人が怫然ふつぜんと色を爲した私に吃驚びつくりして、仲裁を頼みに酒屋の爺さんを呼びに行つて、小腰をかゞめてチヨコチヨコ遣つて來た爺さんが玄關を上るなり、Z・K氏は、爺さん/\
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
と云つたやうなおもむきのある街で、土塀がくづれてゐたり家竝が傾きかかつてゐたり——勢ひのいいのは植物だけで時とすると吃驚びつくりさせるやうな向日葵ひまはりがあつたりカンナが咲いてゐたりする。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
それまで吃驚びつくりしたやうに立ちすくんでゐた軍治が突然大声をあげて走つて逃げた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
暑い日のことでもあるから、汗をふいて先づ一と休みして、養父の亭主がそのうなぎを生簀いけすへ移し入れようとすると、そのなかに吃驚びつくりするほどの大うなぎが二匹まじつてゐるのを発見した。
魚妖 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
エス様が裸体をお包みなされたといふ下著をみては吃驚びつくりするのでありました。
お神さんは吃驚びつくりしてぐに警察へ届けて置きましたが落した人がどうしてもわからないと云ふので一年経つとお神さんは呼び出されて「これはお前のものにしてい」と云つてそのダイヤモンドの指環を
金剛石 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
「それでも女郎と一緒になるといへば、きつと吃驚びつくりするわ。」
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
動くので、私は吃驚びつくりしちまつた。
吃驚びつくりしてるとそれは野中氏のなかしだ。
勘次かんじ吃驚びつくりしてきた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
吃驚びつくりして、つて、すつとうへくと、かれた友染いうぜんは、のまゝ、仰向あふむけに、えりしろさをおほあまるやうに、がつくりとせきた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
濡れ鼠になつて、外套も着ないで、リュックを背負つてゐる若い女を見て、寝巻きを着た男は、吃驚びつくりしたやうな様子で、ゆき子を眺めた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
一羽の鳥が「トムさんの馬鹿」と怒鳴つてトムさんのつい鼻先へ白い糞をおとしたので吃驚びつくりしてまた一鍬土をたがやしました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
で、吃驚びつくりしたやうに、きよときよとして其處らを見𢌞しながら、何か不意に一大事件にでも出會でくはしたやうに狼狽うろたへる。やたらと氣がいらツき出す。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)