兄貴あにき)” の例文
「うん、あいつも可哀相かわいそうだけれども仕方がない。つまりこんなやくざな兄貴あにきをもったのが不仕合せだと思って、あきらめて貰うんだ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでこんどはしばらくこの仲間なかま屋敷へも帰らねえから、兄貴あにきはここで冬を越すとも、まためて京都へ立つなりときにしてくれ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立去りつゝやれ/\危き目にあふものかな何さま親父殿や兄貴あにきは夜道は浮雲あぶなき故朝立にせよと言れしは今こそ思ひ當りたれと後悔こうくわいなして急ぎけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下田の金さんとこでは、去年は兄貴あにきが抽籤でのがれたが、今年は稲公があの体格たいかくで、砲兵にとられることになった。当人はいさんで居るが、阿母おふくろが今からしおれて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おいらァおめえの兄貴あにきだよ。——けた、たった一人ひとり兄貴あにきだよ。それも、百とまとまったかね入用いりようだというわけじゃねえ。四半分はんぶんの二十五りょうことむんだ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
が、林太郎がそんなにたおれてしまったのをみると、これは兄貴あにき一大事いちだいじとわかったらしく、しっかりと両耳りょうみみをたてて、林太郎のそばにきちんとすわっていました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
私もまだ山の上のわびしい暮らしをしていた時代で、かなり骨の折れる日を送っていたところへ、今の青山のめいの父親にあたる私の兄貴あにきから、電報で百円の金の無心を受けた。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「煙草ものまなければ酒ものまないなんて、……つまり兄貴あにきへ当てつけているんだね。」
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが誰にも見つからねえように放り込みたかったんで……親方や機関室ダンブロ兄貴あにき達にも申し訳ねえし、おまけに上海シャンハイで、あっしが談判に行った時に船長おやじが入歯をガチガチさして
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「正三は承知さえすれば、忠義にも孝行にもなると同時に、自分の身も立ちます。けれども親や兄貴あにき権力けんりょく圧迫あっぱくしたんじゃなんにもなりません。自発的のところに値打ねうちがあるんです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
鉄砲玉てっぽうだまのロックと四本指の兄貴あにきのパイクのふたりが、海蛇うみへびの命令で斥候せっこうに出た、そしてきみらの洞穴を発見したのだ、洞からはチラチラと火がもれ、戸をあけしめするすがたを見たので
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
兄貴あにきあによめを怨む者は、町内だけでも五人や十人ぢやありません、げんに——」
「これがぼくの兄貴あにきだ」とボブが言った。「きみたちを船に乗せて行ってくれるはずだ。そこでぼくはここでおわかれとしよう。だれもぼくがきみをここへれて来たことを知るはずがないよ」
「おまへ兄貴あにきだな、そんぢやえゝ、徒勞むだだ」といたはなたしめた。百姓ひやくしやう骨肉こつにくいたはりがさけをぎつとちからめてかせない。そんなおもひきつた手段しゆだんくははることは出來できないのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いま白痴ばかも、くだん評判ひやうばんたかかつたころ医者いしやうち病人びやうにん其頃そのころ子供こども朴訥ぼくとつ父親てゝおや附添つきそひ、かみながい、兄貴あにきがおぶつてやまからた。あし難渋なんじう腫物しゆもつがあつた、療治れうぢたのんだので。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仙太 段六、見てくれろ、……兄貴あにきはまだ生きてるか?
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「じつは兄貴あにき、うわさどころかこの龍巻たつまきも、あの伊那丸のやつと、家来の小幡民部こばたみんぶという野郎やろうには、ひどい目にあわされたことがあるんだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「えゝ物數奇ものずきぎますね、蒙古刀もうこたうは」とこたへた。「ところおとゝ野郎やらうそんな玩具おもちやつてては、兄貴あにき籠絡ろうらくするつもりだからこまりものぢやありませんか」
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何しろこの間も兄貴あにきの友だちなどは××新聞の社会部の記者に名刺を持たせてよこすんです。その名刺には口止め料金のうち半金はんきんは自腹を切って置いたから、残金を渡してくれと書いてあるんです。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
仙太 段六、見てくれろ、……兄貴あにきはまだ生きてるか?
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「おせん。おめえ、兄貴あにき見殺みごろしにするつもりか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いなたづね下され有難ありがたく其娘の事にて今度こんど出府しゆつぷ致せしなり長兵衞殿先一通り聞て下され兄貴あにきも知らるゝ通り去年きよねんあき中山崎町に居る國者の山田屋佐兵衞が仲人なかうどにて先は質屋渡世土藏もあり地面ぢめんもち相應さうおうの身上との事ゆゑ相談さうだんなし油屋五兵衞の息子むすこ五郎藏と云者へお秀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「や、これはかたじけないが、じぶんは見らるるとおり僧形そうぎょうの身、幼少ようしょうから酒のあじを知ったことがない、兄貴あにき、かわってくれ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれももう一ぺん小六ころくやうになつてたい」とつた。「此方こつちぢや、むかふおれやう運命うんめいおちいるだらうとおもつて心配しんぱいしてゐるのに、むかふぢや兄貴あにきなんざあ眼中がんちゆうにないからえらいや」
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三人よれ文珠もんじゆさへ授けぬ奸智かんち智慧袋ちゑぶくろはたいたそこやぶれかぶれ爲術せんすべつき荒仕事あらしごと娘にあはすと悦ばせて誘引おびき出すは斯々と忽ちきまる惡計にさしさゝれつ飮みながらとは云ふものゝまくは餘り感心かんしんせぬ事成れば姉御あねごと己とくじにせんと紙縷こよりひねつて差出せばお定は引て莞爾につこりわら矢張やつぱり兄貴あにきが當り鬮と云はれて三次は天窓あたま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
兄貴あにきは怒ってるんだろう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)