まさ)” の例文
重「嘘を云え、白島山平は義気正しい男で、役は下だが重役にまさる立派な男じゃ、他人の女房と不義致すような左様な不埓者でない」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そは神は人をして再び身をあぐるにふさはしからしめん爲己を與へ給ひ、たゞ自ら赦すにまさ恩惠めぐみをば現し給ひたればなり 一一五—一一七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その後白拍子しらびょうし猿楽さるがくなどあり。不全の楽にはあれど、邦人の作るところなるをもって人心に適するは、はるかに唐楽にまされりとす。
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
おかしいことに、悟空は、師の自分よりまさっているこの点を理解していない。ただなんとなく師父から離れられないのだと思っている。
倅は彫物下手でございましたが、私の彫った物に銘だけを入れて、——二代目は初代にまさる名人だ——と世間様から申されました。
私どもはバンヤンの『天路歴程てんろれきてい』や、ダンテの『神曲』に比して、まさるとも決して劣らぬ感銘を、この求道物語からうけるのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
向揚幕むこうあげまくより役者の花道に出でんとする時、大向う立見たちみの看客の掛声をなすは場内の空気を緊張せしむるに力ある事うた鳴物なりものまさる事あり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
文明の淑女は人を馬鹿にするを第一義とする。人に馬鹿にされるのを死にまさる不面目と思う。小野さんはたしかに淑女をはずかしめた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
所詮しょせんするに詩人のイデヤは、他のすべての芸術家のそれにまさって、情熱深く燃えてるところの、文字通りの「夢」の夢みるものであろう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
が、そのかわり忘れてならない物品を列挙すれば、第一に決死の覚悟と大国民の襟度きんど。つぎに、まさに十日間は支えるに足る食糧。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
いわんや後進は先進にまさるべき約束なれば、いにしえを空しゅうして比較すべき人物なきにおいてをや。今人こんじんの職分は大にして重しと言うべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
塩がなければせめて水を撒いてもまだ塵を舞い立てるよりまさります。私はこの事を一日も速く全国の鉄道へ実行させたいと思っています。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
これは寧ろ、黒人の、「いざ児ども大和へ早く白菅しらすげ真野まぬ榛原はりはら手折たをりて行かむ」(巻三・二八〇)の方がまさっているのではなかろうか。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
さづたまふ所ならん然るに久八は養父五兵衞につかふることむかしまさりて孝行をつくみせの者勝手元の下男に至る迄あはれみをかけ正直しやうぢき實義じつぎ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その点から云えば蛙より蝸牛かたつむりの方がはるかにまさっている。蛙料理は上等のバタでフライにしてトマトケチャップをかけて食べる。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「劣るどころかずっとまさっていますよ。」と明かに誰かが言わなければならないところだったので、ロリー氏がそれを言った。
其處では勇氣が證される。精力が振はれる、そして不屈ふくつの精神がきたへられる。この煖爐だんろの側では、元氣な子供が彼にまさるのだ。
ふぐの美味うまさというものは実に断然たるものだ——と、私はいい切る。これを他に比せんとしても、これにまさる何物をも発見し得ないからだ。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
だから大抵の事は黙つてゐるに越したことは無い、大抵の文は書かぬがまさつてゐる。また大抵の事は聴かぬがよい、大抵の書は読まぬがよい。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しかしその健脚はわたくしのたぐいではなかった。はるかにわたくしにまさった済勝せいしょうの具を有していた。抽斎はわたくしのためには畏敬いけいすべき人である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして自分の真価より劣ったものを書くことはあるかもしれないが、それでも他の音楽家のものより常にまさっていると、ひそかに信じていた。
知らぬ人が見たら兄弟だと思うであろう。橘はどちらを離して見ることが出来ず、どちらがまさっているとも思えなかった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
熊本籠城の兵卒が、九死一生の重囲を出でて初めて青天白日を見たるそのうれしさにもまさるべく、いと重げなる黄金の包みのそのふところに満々たるは
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
或は既に姦夫かんぷであるかの如く思はれはしまいかとさへ心配した。更にまた、其の人が自分よりは数等まさつた男であつた場合をも考へて見た。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
數多あまたの人にまさりて、君の御覺おんおぼえ殊にめでたく、一族のほまれを雙の肩にになうて、家には其子を杖なる年老いたる親御おやごもありと聞く。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
だが庄次郎の眼をひく妓はいなかった。——あれほど初手しょていまわしい女だったお蔦にまさる女が、今の眼には見当たらない。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
して見れば、勝つという語の定義ていぎを下すことは至難であるが、普通の考えでは他人にまさる、相手より超絶すぐれるの意であろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さあ、貴下あなた、あらためて、奥様おくさまつくなふための、木彫きぼりざうをおつくあそばせ、すぐれた、まさつた、生命いのちある形代かたしろをおきざみなさい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
色艶いろつやといい形といい、さてさて聞きしにまさる名品であるが、昔のものは随分重いものであるな! と、感嘆遊ばされた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
資産しんだいはむしろ実家さとにもまさりたらんか。新華族のなかにはまず屈指ゆびおりといわるるだけ、武男の父が久しく県令知事務めたるに積みしたから鉅万きょまんに上りぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
これを蛇より出て蛇にまされる者とし、あるいは蜥蜴やがくが蛇同様霊異な事多きより蛇とは別にこれを崇拝したから、竜てふ想像物を生じた例も多く
すでに人力のもっていかんともなすべからざるを知らば、むしろこれをいかんともなさざるのまされるにしかざるなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ことによったらもっとたちまさった花嫁を、どこかほかで捜し出せるに相違ないと腹の底から確信して、ちょっとの慰藉いしゃの念を感じたくらいである。
非常にまさった者のように思ってお梅さん熨斗のしを附けようとする! 残念なことだと彼は恋の失望の外の言い難き恨をまなければならぬこととなった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
このほか那須郡に小砂こいさごと呼ぶ村があって窯が立ちます。材料はむしろ益子にまさるのではないでしょうか。かくれた窯場で県の者さえも知る人が少いのです。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
第一には肌ざわり、野山に働く男女にとっては、絹は物遠ものどおく且つあまりにも滑らかでややつめたい。柔かさと摩擦の快さは、むしろ木綿の方がまさっていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
筆も紙も与えられねば書を読むさえも許されず、その悲しさは死にもまさりて、御身おんみのさぞや待ちつらんと思う心は、なかなか待つ身に幾倍の苦しさなりけん。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
神々かみがみのおこのみがあるので、ほかにもさまざまの世界せかいがあちこちに出来できてはいるが、それなかで、なんもうしても一ばんまさっているのは矢張やはりこの竜宮界りゅうぐうかいじゃ。
実力のまさったものが必ず勝つとも限らないのですが、それも一回や二回ではなく、三回も四回もおなじ失敗をくり返すというのは、どう考えても判りかねます。
白髪鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それらの樫の木のどれよりも、また私のそれまでに見たどんな木よりも、はるかにまさっているのであった。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
このまま死んでしもうても、今わが胸に充ちたものは、今までの色ももない生活にははるかまさっているに違いない。己は己の存在を死んで初めて知るのであろう。
この故に我なんじらにつげん、生命いのちのために何を食い何を飲みまた身体からだのために何をんと憂慮おもいわずらうことなかれ、生命はかてよりまさり身体はころもよりも優れる者ならずや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
彼は、こうして幾カラットのダイヤモンドにもまさるスバラシイ幸運を踏みにじって行ったのであった。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分にとっては何物にもまさる、欲しい物品であるのだと思うと、どんなにしても自分の所有ものにしたい。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そのなかでもおほきい美術博物館びじゆつはくぶつかんとしてロンドンの大英博物館だいえいはくぶつかん、パリのルーヴル博物館はくぶつかんまさるともおとらないものは、ニューヨークのメトロポリタン博物館はくぶつかんでありませう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ただ、こうして、自然しぜんうちにひたっていると、ぼくには、平時へいじの十ねんにも、二十ねんにもまさるようながするのだ。いや、それよりもながあいだ生活せいかつしてきたようにおもえる。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
丁度吾々の生命が、前代の生命にまさる様に、次代の生命は又吾々の生命より遠く優ることであろう
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
それを見いだすすべを知れ。愛のうちには、天国と同じき静観があり、天国にまさったる喜悦がある。
……日本はその国家組織の根底の堅く、かつ深い点に於て、いずれの国にもまさっている国である。
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
●(その他にもあるかも知れませんが、大たいは以上で尽きています。)そうしてそれらのうちで何物にもまさって上手なのは子供の泣き真似です。これは真に迫っています。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)